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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第一章 二度目のはじまり

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鍛冶師の歌に耳が揺れ、オッサンの頭は光る

前半はティア視点となります。ご注意ください。

 カン、カン、カンと音が響く。その強く高い音に最初は思わず耳をギュッと掴んでしまったけれど、慣れた今となっては楽しげな音楽のように私の耳をくすぐってくる。


 強く、弱く、高く、低く。同じような音なのに一つとして同じものはなく、その一つ一つが産声のように世界に響き、そしてすぐに溶けて消えてしまう。それが何だか楽しくて、私はうっとりとその演奏に聞き入ってしまう。


 カン、カン、カンと音が響く。一心不乱にそれを奏でるのは、私よりずっと年下の人間の男の子だ。勇者アレクシスと互角に戦い、私でも見たことも聞いたこともない不思議な道具を持っていて、今は鍛冶に熱中している。


 一体どうして、二〇年しか生きていない人がこれほどの技術を、道具を持っているのだろうか? 不思議不思議、とっても不思議。どれだけ見つめても興味が尽きなくて、私はじーっとその男の子の事を見つめ続ける。


 カン、カン、カンと音が響く。初めて私を見た時、何故か突然泣き出した男の子。初めて私が見た時、何故か胸が締め付けられるような懐かしさを覚えた男の子。


 わからない。わからない。わからないけど、嫌じゃない。いつも私を驚かせて、楽しませて、笑わせてくれる。だからこうして一緒にいるだけで、じんわりと心が温かくなる。鎚を打つ音に合わせて、私の心も躍っている。


 カン、カン、カンと音が響く。それに合わせて、私も踊る。故郷の父さんには「お前の耳は口よりも多弁だな」なんて笑われたことがあるけれど、こういう時は便利だと思う。音に合わせて優しく揺らせば、座ったままでも楽しくダンスができるから。


 カン、カン、カンと音が響く。ずっと年下の男の子は、今度はどんな風に私を驚かせてくれるんだろう? キュッと上がってしまう口元を隠しながら、私はじっとその時を待つ。


 カン、カン、カンと音が響く。幸せを告げる鐘の音のように。

 カン、カン、カンと音が響く。まどろむ子供を目覚めさせるように。

 カン、カン、カン……カン、カン、カン……生まれておいで、鋼の子供。エド(ちち)の想いがタップリ籠もったいたずらっ子のお目見えは……きっともうすぐだ。





「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ…………」


 一つ大きく息を吐いて、俺はようやく肩から力を抜く。工房に籠もって、六日目の朝。俺は遂に全ての武器を鍛え終えた。今日がここを借りられる最終日だったので、割とギリギリだったと言える。


「終わったの?」


「ああ、何とかな」


 体中の気が抜けたのを感じたのだろう。結局ずっと俺の事を見ていたティアの声に、俺はニヤリと笑って答える。


「ってか、まさか本気でずっと見てるとはな……一体何が面白かったんだ?」


「何って言われると言葉にしづらいけど、少なくとも退屈はしなかったわよ? 私からしたらむしろあっという間だったかも」


「えぇ……?」


 食事や睡眠はきっちり取ってたとは言え、それ以外の時間はずーっと鎚を振るってただけだぞ? そんなのが六日続いてあっという間って……長命種の時間感覚は本当に理解できん。雨の日に窓の外をボーッと眺めてるだけで一日終わるみたいな感じだろうか……ちょっとだけわかった気がする。


「で、エド。何ができたの?」


「何って、見てたんだからわかるだろ?」


「んーん。私が見てたのはエドだけで、作ってるものは見てないわよ? だって見ちゃったら完成品と対面した時に驚けないじゃない」


「えぇぇ……???」


 時間と共に形が変わっていくミスリルを見ていたならまだわかるが、特に何も変わらない俺を見てたって……本当に何が楽しかったんだ? もし逆の立場でずっとティアを見つめているとしたら……あれ? 飽きないかも知れん。いやでもティアは美少女だけど、俺はその辺の兄ちゃんだぜ? ぬぅ、解せぬ。


「ま、まあいいや。そういうことならここを片付けて、それからアレクシス達の所に行こうぜ。そしたらお披露目だ」


「わーい、楽しみ! じゃ、私も片付け手伝うわね」


「おう!」


 はしゃぐティアの手も借りて、俺は手早く道具を片付けていく。炉の火を落とし、きちんと冷えていくのを確認したら、扉を閉めて鍵を返し、そうしてやってきたのは今回もまたアレクシスの部屋。まあ奴の部屋が毎回一番広くていい部屋なんだからこればっかりは仕方がないだろう。


「やぁ、エド。僕の前に顔を出したということは……出来たのかい?」


「ああ。最高の品が完成したぜ」


 ファサッと金髪をかき上げて言うアレクシスに、俺は自信たっぷりで頷く。そうして最初に取りだしたのは、艶のない鈍色をしたゴツい籠手(ガントレット)だ。


「まずはこれを、ゴンゾのオッ……様に」


「む? 籠手か? 随分と変わった形だが……?」


「そうね。こんなに手が露出してたら防具としては駄目じゃない?」


「ははは、そうだなティア。でもこれでいいんだ」


 ゴンゾのオッサンが身につけた籠手は、手首から肘の近くまでを覆っているのは普通である反面、手の部分は殆ど存在せず、指は完全に剥き出しで金属部分は手の甲だけだ。これでは肝心の指が守れず防具としては失格だが……ゴンゾのオッサンが身につける分にはこれが最適解となる。


「ゴンゾ様の拳は下手な金属よりもずっと頑丈ですから、ミスリルではそれを補強する効果は期待できません。なのでこれはその拳の力を最大限に発揮できるように調整したものです。ゴンゾ様、試しに魔力を込めてみてくださいますか?」


「こうか? おぉぉぉぉ!?」


 俺の言葉に従ってゴンゾのオッサンが籠手に魔力を込めると、鈍色だった籠手が白く輝き、その拳が淡い光に包まれる。これはよく鍛えた鋼の中に純ミスリルを神経のように張り巡らせることで武具としての強度と魔力による強化を両立させた結果だ。


 ちなみに、普通のミスリルだとこうはいかない。同じ効果を発揮させるためにはミスリルの比率を大きく上げねばならず、そうなると武具というより装飾品の類いになってしまうため、ゴンゾのオッサンには使いづらい物になっていたことだろう。


「ワシの拳が光っておるぞ!? 遂に我が筋肉は光る領域へと至ったのか!?」


「……その領域はわからないですけど、腕全体から効率よく魔力を収束させることで、拳打の威力を倍……とまでは言いませんが、それに近いくらいまで上昇させることができるはずです。後で試してみてください」


「何と!? よしわかった、では早速試してくるとしよう!」


「えっ!? いや後で……」


 俺が止める間もなく、ゴンゾのオッサンが部屋から飛びだして行く。メッチャいい笑顔で頭をテカらせていたので、これは追いかけても無駄だろう。


「……ハァ。ゴンゾの事はいい。で、エド。あれで終わりって事はないんだろう?」


「あ、はい。じゃあ次はこれを」


 そう言って取りだしたのは、眩しい程の白い鞘に収められた細剣(レイピア)。実用品なので煌びやかな装飾などはないが、ただ素材の美しさだけでどんな芸術品よりも目を引く逸品だ。


「細剣? 意外、エドは普通の剣を使うと思ってたけど」


「何言ってんだ? これはティアのだよ。ほい」


「えっ!?」


 何故か驚いているティアに、俺は細剣を渡す。だが受け取ったティアは手の中のそれをまじまじと見つめるだけで、なかなか抜いてみてはくれない。


「あー、ティア? その、抜いてみてもらえるか?」


「あっ!? そ、そうよね。じゃあ失礼して……………………」


 油を垂らしているわけでもないのに、僅かな音すら立てずにティアが細剣を抜き放つ。そうして現れた刀身は静かな銀色を湛えており、それを持つティアはまるで絵画の英雄のようだ……ポカンと間抜けに口を開けっぱなしにしていなければ、だが。


「綺麗……」


「だろ? それも勿論、ただの細剣じゃねーぜ? 何か簡単な精霊魔法を使ってみな?」


「う、うん……うわっ!?」


 おそらくは無詠唱の風系統魔法を使ったんだろう。細剣の刀身が淡い緑色に包まれ、刀身の周りに渦巻く風がうっすらと視える(・・・)


「えっ? えっ!? 嘘!? こんなに弱い魔法なのに、風がちゃんと視える……!?」


「へっへっへ、どーよ?」


 純ミスリル塊を材料として使ったからこその圧倒的な魔法との親和性と魔力の保持力により、基本的に飛ばして使うしかない精霊魔法をそのまま付与魔術の如く剣に留め、攻撃に使うことができるようにしたのだ。


「一般的な魔法剣なら最初に付与された属性でしか攻撃できねーけど、それとティアの精霊魔法を組み合わせれば、その時に必要な属性で攻撃できる。


 ただし剣自体は割と脆いから、攻撃するときは弱くてもいいから必ず何らかの精霊魔法を宿らせてからにしてくれ。それと本格使用する前に、どっか適当な町に寄ったら耐久増加の付与魔術(エンチャント)をつけるのも忘れずにな」


「えっ!? 耐久増加の魔法を付与しても、この状態で使えるの!?」


「そういう風に作ったからな。属性系の付与以外なら何でも一つつけられるぞ」


 精霊魔法と組み合わせるのはあくまでも剣の能力なので、剣本体に対する付与とはまた別枠ってわけだ。ただそのために完全にミスリルのみで造っているため、刀身の強度は相当に低い。実戦で使うなら耐久増加か、次点で切れ味増加のどっちかが無いとあっさり折れたり曲がったりすることだろう。


 そんな感じのことを俺が説明していくと、話を聞き終わったティアが丁寧に鞘へと収めていく。


「ありがとうエド。これ、大切にするわね」


「おう」


 まるで赤子を抱くようにギュッと細剣を抱きしめるティアに、俺もまたやり遂げた満足感に浸りながら笑顔を返した。

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[一言] 直前までのうんこいうてたから抱きしめてるふむ
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