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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第一二章 最後の勇者と果ての雪

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他人の辛さを想像するなど、烏滸がましいにも程がある

「違う世界……!?」


「そうです。簡単には信じてもらえないでしょうけど――」


「いや、信じよう」


 俺の言葉に驚きを露わにしたハリスだったが、こっちが拍子抜けするくらいにあっさりとそう言って体から緊張を解く。とは言えここまで素直に反応されると、むしろこっちの方が戸惑ってしまう。


「えっと、自分で言うのもあれですけど、何でそんなにあっさりと信じてくれるんです?」


「簡単なことだ。この世界の何処かにかつての常識の残る場所があると考えるより、別の世界から来たという方が信憑性がある……それだけだよ」


「えぇ?」


 疲れたような笑みを浮かべるハリスに、しかし俺は微妙な声をあげる。そのどっちかで言うのなら、俺なら間違いなく世界の何処かに無事な場所があるんだと考えるんだが……んー?


「フフ、私がこんな風に考えるのが不思議かい?」


「そう、ですね。ちょっと……いや、本当に俺が言う立場じゃないんですけどね!」


 理不尽を体現している俺が常識的な判断を疑うという逆転現象に困った顔をすると、腰を落ち着けたハリスは一つ大きく息を吐いてから話を始めた。


「私は海辺にある小さな村の生まれでね。世界が吹雪に包まれて勇者の募集が取り消されたのをきっかけに、故郷の村に戻って漁師をやって暮らしていたんだ。


 年の近い村娘と結婚し、子供もできて……かつて夢見た英雄とはかけ離れた存在ではあったけれど、それは終わりを定められた世界で過ごすには、あまりにも平穏で幸せな日々だった。


 だが、それも長く続かない。流石の吹雪も海までは凍らせられなかったせいか、海に潜れば当時はまだ魚や貝が捕れた。だから私は連日海に潜って食料を調達し、家族のために持って帰っていたんだが……当然魚も貝も捕れば減る。少しずつその量が減っていき、飢えと寒さで一人また一人と村人が死んでいって……そして最後に私の家族だけが残った。


 もうその時点で、未来に希望などなかったんだろう。だがそれでも、私には妻と娘がいた。その二人を生かすためならどんな困難でも笑って乗り越えられる。だから必死に生き続けて……」


 顔を伏せたハリスの口が、キュッと硬く結ばれる。握る拳は震えており、その瞳はここでは無い何処かを見ているように思える。


「ある日。それは本当に唐突に……二人が死んだ。なかなか魚が捕れなくなって、それでも何とか食料を確保するために家を三日ほど空けて……帰ってきたら、妻と娘が抱き合いながら床に倒れていたんだ。


 理由は今もわからない。空腹で倒れたのか、それとも寒さで凍えたのか。何かの病を抱えていたのか、ひょっとしたら吹雪の呪いなのか……医者でも何でも無い私には何もわからず、ただ事実として……腐ることを忘れた世界で、二人の体は美しいままに横たわっていたんだ」


「……………………」


 絞り出すようなハリスの声に、俺達は何も口にできない。勝手に悲しみを想像してわかったような慰めを口にするのは、たとえ神でも傲慢が過ぎる。


「私は世の理不尽を呪った。そしてその時、それをもたらした魔王を殺そうと誓った。幸か不幸か私は子供の頃から特殊な体質をしていてね。妙に体が頑丈で体力があったり、いくらでも食べられる反面少ししか食べなくても問題なく活動できる。


 だから私は一〇年かけて準備をした。光も届かぬ海の底まで潜り、凍り付いた雪を掘り返し、ありとあらゆる場所からありとあらゆる手段で食料をかき集めて、長旅ができるだけの保存食を作り上げた。


 そして一〇年かけてここまで旅をしてきた。その途中幾つもの町や村を通り過ぎたが……そこに一人として生きた人間はいなかった。


 わかるかい? 一〇年だ。海からこの内地まで、大陸を横断するように移動してきたのに、何処にも、誰一人として生きた人間はいなかったんだ! 故に私は思うようになった。ひょっとしたら私が、この世界で最後の人間なんじゃないだろうかとね」


「最後の、人間……………………」


 その言葉の重さに、ティアが小さな唇を震わせる。いつの間にか繋がれていた手にギュッと力が入り、まるで俺の存在を確かめているかのようだ。


「昨日君達と会ったとき、私は本当に驚いた。まだこの世界に自分以外に生きている人が、しかもこんな若者が真っ当に成長できる場所があるのだと驚喜した。


 だが……だが、そうなんだ。内地に、魔王に近づけば近づくほど吹雪の力は強くなる。なのにここで君達が生活できていたと考えるより、別の世界からここにやってきたと言われる方が納得できてしまう。


 やはりこの世界に、もう私以外の生き残りはいないのだろうか……」


「ハリスさん……ねえエド、本当にそうなの?」


 問いかけてくるティアに、俺はどうすべきか迷う。そう、俺はハリスが最後の人間かどうかを調べる手段がある。


 だが、ここで現実を突きつけるべきなのか? 勿論その結果が希望に繋がっている可能性もあるわけだが、おそらくは……


「エド。何か知っているなら教えてくれ。私は幻の希望に縋るより……真実を知りたい」


「……わかりました。現れろ、『失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス)』。探すのは……ここから最も近い場所にいる、ハリスさん以外で生きているこの世界の人間だ」


 まっすぐ目を見て頼まれたことで、俺は「失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス)」を起動する。だがその問いかけに、金属枠の中には何も表示されない。それはつまり、対象が存在しないということだ。


「……どうなんだい、エド?」


「……………………」


 その結果を、俺はとても言葉にできなかった。だからせめて首を横に振ると、何かを悟ったように表情の抜け落ちたハリスが天を仰ぐ。


「そうか。本当に……本当に私が最後の一人なのか。はは、ははは…………」


 乾ききった笑い声が部屋の中に響く。だがそれもすぐに収まると、ハリスが改めて俺達の方に顔を向け直した。


「ありがとうエド。だがおかげで決心がついた。いや、元々ついてはいたんだが……より踏ん切りがついたとでも言うべきか?」


「決心というと……」


「ああ、私は魔王を倒す。たとえその先にもう未来がなかったとしても、過去をここで終わらせるために、この命を賭けて必ず倒す。どんな手を使っても、どんな犠牲を払っても。必ず……必ずだ」


「……俺達も」


 俺の言葉を遮るように、ハリスが手を前に突き出してくる。その目はギラギラと輝いており、全身からは殺気にも似た何かが溢れだしている。


「駄目だ……と言いたいけれど、君達には君達なりの都合があるんだろう。昨日了承してしまったことだし、付いてくることに文句は言わない。


 だが、これも昨日話した通り、魔王へのとどめだけは絶対に譲れない。それはこの世界に生きる私が為すべきことだ。それでいいんだね?」


「ええ、大丈夫です。ただ俺達も単なる部外者ってわけじゃありません。同情とかそういうのではなく、目的を持ってここに来ているんです。それだけは誤解せずにわかってください」


「いいだろう。私の邪魔をしないなら、君達の事情も考慮するさ。私はハリス。この世界に生きる最後の人間、最後の戦士。改めてよろしく頼む」


 そう言って手を差し出してきたハリスの顔は、一見すると微笑んでいるように見える。だがその裏にはドロリとした感情がありありと見えていて、今にも壊れそう……というより、既に壊れているのに気づいていないという感じだ。


「俺はエドです。よろしくお願いします」


「私はルナリーティアよ」


 そんなハリスと俺は握手を交わし、次にティアが握手をしたが……何故かティアがハリスの手を離さない。


「? ルナリーティア?」


「……ごめんなさい、何でも無いわ」


 首を傾げたハリスに、ティアが謝罪して手を離す。そこに浮かんだぎこちない笑みは、俺でなくてもティアが苦悩していることが丸わかりだ。きっとハリスの在り方で心を痛めているのだろうが……だからこそこの場ではこれ以上話はできない。


「では、行こうか。魔王が住むという地まで、あと少しだ」


「はい。行こうぜティア」


「……うん、そうね」


 立ち上がり、ハリスが小屋を出て行く。俺はティアの手を引いて立ち上がると、その背を追いかけて吹雪の中に足を踏み出した。

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― 新着の感想 ―
勇者だからこそひとり生き残ったのならその血を受け継ぐ娘だけでもどうにかならなかったものか
文字通り、この世界最後の生命なのかもしれない… 魔王も生命ではないしな…
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