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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第一二章 最後の勇者と果ての雪

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当たり前の常識が、当たり前とは限らない

「……んっ」


 清涼な空気……と言うにはいささか以上に寒い感覚に、俺はプルりと身を震わせて目を覚ます。木戸の隙間から差し込む光は眩しく、気づけば朝を迎えているようだ。


「すぅ……すぴー……」


「……………………」


 俺の隣には、妙に分厚く外套にくるまったティアが寝息を立てている。おそらくその半分は俺にかけてくれたものなんだろうが、その全てがティアの体に巻き付いていることに優しさよりも不条理さを感じてしまう。


「ティア、起きろ。朝だぞ?」


「ふにゃ?」


 警戒心の欠片も無い頬をプニッとつつくと、ティアが寝ぼけ眼で目を開ける。なおここまで警戒心無く休めるのは、この世界には寝込みを襲うような魔獣も野盗も存在しないからだ。


 不謹慎ではあるが、どんな場所でも宿屋と同じ程度には安心できる……ただし糞寒い……というのは、この世界の数少ない利点と言えるかも知れない。


「……ああ、エド。おはよう」


「おはようティア。それにハリスさんも、おはようございます」


「……気づいてたのか」


 俺が目を覚ました時には、ハリスは既に目覚めていた。それが何かを警戒したものか、あるいは単に眠りが浅かっただけかまでは昨日会ったばかりの俺には察することはできないが、顔を上げたハリスは伺うようにこちらを見てくる。


「随分スッキリした顔をしているな」


「ええ、おかげさまで。なんで昼まで待たずとも出発して大丈夫ですよ」


「無理はしてないか? 寒さをしのげる場所はそこまで多くない。途中で足を止められる方が困るぞ?」


「ははは、大丈夫です。ほらティア、朝の準備するぞ」


「ふぁーい」


 大あくびをするティアを引き連れ、俺達は家の外に出る。いつもならばそのまま雪を手ですくってゴシゴシ顔を洗ったりするわけだが、何故かティアがその動きを止めている。


「ん? どうしたティア?」


「んー。ほら、この雪って触れば触るほど呪いがかかるんでしょ? それで顔を洗うのはどうかなって思って……」


「気持ちはわかるけど、今更だろ? 今日まででどれだけ吹雪を浴びてると思ってんだよ」


「まあそうなんだけど」


 この世界に来て以来、一日だってこの吹雪はやんでいない。昼でも夜でも関係なく吹き付ける吹雪のなかを散々歩いて移動したのだから、もう一生分くらい吹雪によって全身をビチョビチョにされている。ここから顔を洗うか否かなんて、それこそ今更だろう。


「どうしてもって言うなら自分の魔法で水を出せばいいんじゃねーか? それとも水生成の魔導具を使うか?」


「むー……ううん、いいや」


 観念して、ティアがゴシゴシと雪で顔をこすり始める。その後はほんの少しだけ離れた場所で……家の外壁に手をつけたままほんの数歩回り込んだだけだが……用を足したりしてから戻ると、ハリスが部屋の隅に置いていた背嚢から食料を採りだしていた。


「戻ったか。では飯にしよう……自分の分はあるんだな?」


「はい」


 俺は腰の鞄に手を入れ、その状態で「彷徨い人の宝物庫ストレンジャーボックス」を起動して例の保存食を二つ取り出す。そのうち一つをティアに渡して封を切ると、ハリスが物珍しそうに話しかけてきた。


「……それは何だ? まさか土を食っているのか?」


「いやいや、流石に土は食えないですよ。何かと言われるとよくわかんないですけど……土じゃねーよな?」


「流石に土ではないんじゃない? 知らないけど」


 念のためティアに聞いてみたが、ティアは素知らぬ顔でそう答えながら保存食を囓っている。うーん、何でできてるかなんて気にしなかったけど、あの世界でならスゲー美味い土が作られている可能性もある、のか?


 いやでも、わざわざ土を美味しく食えるようにするか? でもあの世界ならそういう変わったものがある可能性も……いやでも土は……いやぁ?


「私としては、ハリスさんが食べてるやつの方が気になるわね。それって何なんですか?」


 妙な事に悩み始めてしまった俺を余所に、ティアがそう問いかける。ハリスが食べているのは親指の爪ほどの大きさをした黒くて四角い何かであり、確かにそれが何かはわからない。


「これか? これは肉やら魚やらをすりつぶして押し固め、乾燥させたものだ。このままでも食えるし、熱源があるなら湯を沸かして入れればちょっとしたスープにもなる」


「へー。あ、良かったら一つ交換しませんか? もうずっと同じものばっかり食べてるんで、たまには違う味も欲しいかも」


「はは、いいとも」


 ティアが自分の保存食を少し割って差し出すと、ハリスもまた小さな四角を一つティアに渡してくる。互いにそれを口にした瞬間、双方の顔が驚愕に歪む。


「むがっ!?」


 思い切り表情を歪めたティアが、泣きそうな顔でこちらを見てくる。うっすらと目に涙を浮かべているあたり、どうやら相当に不味かったようだ。


「……頑張れティア」


「むふぅぅぅぅぅぅぅ……」


 それでも食料が極めて貴重であろうこの世界で、不味いからと吐き出すことなどできない。ティアは何とかそれを飲み込むと、自分の鞄からコップを取り出して魔法で水を出し、それをがぶがぶと飲み干していった。


「……………………これは!?」


 そんなティアと同じように、ハリスもまたティアが渡した保存食を食べて固まっている。ゆっくりと咀嚼し終えると、ハリスが身を乗り出して俺達に話しかけてきた。


「甘い保存食だと!? どういうことだ! これを一体何処で!?」


「落ち着いてくださいハリスさん! 何処と言われても『とても遠い何処か』としか言いようがないんです。何せ俺達が今どこにいるのかすらわからないので」


「そ、そうか……ちなみに、これはまだ数があるのか?」


「ありますよ。よければ幾つかお分けしましょうか?」


「いいのか!? あ、いや、しかしこれほどの物に対して、支払える対価が……」


「いやいや、そんなのいいですよ。旅に同行させてくれるってだけでもありがたいですし、何より大量にあるんで、食べなかったらそのうち腐っちゃうでしょうから」


「……………………何?」


 何気ない俺の台詞に、しかしハリスの表情が一気に険しくなる。何だ? 今の俺の言葉でどうしてこの反応になる?


「……言っておきますけど、全部よこせとかは無しですよ? それは流石に抵抗させてもらいます」


 相手が勇者だと知っているが故に貴重な食料、しかも美味いものを大量に持っていると宣言した。その迂闊さを反省しつつ警戒する俺に、しかしハリスは大声でそれを否定する。


「違う! そんな恥知らずな事を言うはずがないだろう! そうではなく、腐る? 君達は物が腐るということを知っているのか!?」


「? ええっと……?」


 言葉の意味がわからず、俺は戸惑いの声をあげてしまう。するとハリスは鋭い視線をそのままに一つため息をついて言葉を続けてくる。


「……確かに肉だろうが何だろうが、食えるものというのは放置すると腐る。だがそれは吹雪が発生する前の常識だ。今のこの世界において、外にどれだけ放置しようと物は決して腐らない。例外は人の身長の倍ほども穴を掘り、土の中に埋めた場合のみだ。


 なのに、何故君達は物が腐ることを知っていた? 仮にそれを教えられていたとして、ならば何故持ち歩いている保存食が腐ると思った?


 ……おかしい。全てがおかしい。吹雪の後の世に生まれた若さで、吹雪の前の世界の常識を持ち、吹雪の吹き荒れる今では手に入れることなどできないであろう大量の食料を持つという君達は……何者だ?」


 俺達の事を慮ってくれていたハリスの顔に、ハッキリと警戒が浮かんでいる。今はまだ座っているが、それでもすぐに立ち上がり腰の剣を抜けるように、その体に力が入っているのがわかる。


 チッ、これは俺が間抜けを晒しちまったか……とは言えちょうどいいきっかけであるとも言える。この世界で隠し事をする意味は、俺達には無いのだから。


「わかりました。お話しします。俺達は……こことは違う世界から来たんです」


 努めて冷静に、何でもないことであるかのように。俺は両手を挙げて敵意が無いことを示しつつ、平坦な声色でそう伝えた。

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あー、これ、カ○リーメイト?
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