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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第一二章 最後の勇者と果ての雪

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誰に聞いてもすぐ分かることは、聞く相手がいないと途端にわからなくなる

 冒険者ギルドに限らず、特定の職種の集まる場所には大抵の場合資料室がある。本というのはそれなりに高価であり、また保存に手間も場所も必要なため、有用な知識があるとわかっていても個人では滅多に購入しないからだ。


 それはこの場所もご多分に漏れず、階段を上がった二階には小さなテーブルと椅子のセットがいくつかと、大きめの本棚が三つほど据え付けてあった。ただし保存状態は良好とはいえず、ここもまた多量の埃にまみれている。


「うわぁ、結構ボロボロね。紙もよれちゃってるし……でも読めないってほどじゃないから、放置されて何十年って感じかしら?」


「何十年か。そいつは何とも微妙なところだな」


 棚から一冊本を取り出して見聞したティアの意見に、俺は微妙に顔をしかめる。


 人がいなくなって数年というのなら、まだこの近辺にここから逃げた人達がいる可能性が高い。逆に数百年とかならとっくにここは見捨てられていて、もう遙か彼方に行ってしまっていることだろう。


 だが数十年というのは微妙だ。留まるには長いが諦めるには短い。少なくともこの町で暮らしていた人物が存命の間は、ここに未練を残す者はいくらでもいるだろう。そしてそういう人達が年長者として意見をとりまとめているのであれば、多少の無理を押してでも近くにいる可能性は残る。


「……まあいいか。とりあえず歴史書辺りを探してくれ。あ、無いと思うけど地図があったら最高だ」


「了解」


 考えてもわからないことはとりあえず放置して、俺はティアに指示を出しつつ自分でも本を探していく。と言っても、実際にはそれほど調べる本はない。そもそも本棚は割とスカスカだし、定番の魔獣図鑑や薬草図鑑なんかが版違いで何冊もあったりするので、見た目よりずっと種類は少ないのだ。


「これは……よくわかる薬草学入門? こっちは解体のすすめ、か。やっぱどんな世界でも似たような本が多いんだな」


「こういうところにあるのは初心者が必要になる技術や知識でしょ? そういうのは特殊な世界でもなかったらみんな同じになるんじゃない?」


「そりゃそうなんだけどさ。お? こいつは……?」


 次に手に取った一冊には、『パーレル王国史』との表題が書かれていた。開いて中を見てみれば、簡単な絵図と一緒に国の歴史が綴られている」


「ほほぅ。ここはパーレル王国なのか……パーレル、パーレルかぁ」


「聞き覚えのある名前なの?」


「あー…………すまん、微妙だ」


 今まで通り過ぎた国の名前なんて何百とあるので、アレクシスのようにそこの王族と密接に関わったりでもしていなければ、むしろ町の名前より印象が薄い。かといって王国の歴史書にこの町の名前なんてのは書かれていないので、そっちは結局わからない。


「今更だけど、町の名前ってこんなにわからないものなのね」


「はは、そういうもんだよ。ほら、古代遺跡とかだって国の名前はわかっても町の名前ってわからねーだろ?」


「言われてみれば!」


 俺の指摘に、ティアがハッとした表情を見せる。そう、国ならこうして記録に残るが、王都でも何でもない地方都市の名前なんてのは何処にも記載されていないのだ。


 精々がその地を治める領主が税金の徴収に使う台帳に書き記されているくらいで、国の歴史として厳重に保存されるほどでもなければ一般に広く交付されるほど軽い書類でもないため、絶妙に残りづらい。


 そして当然、周辺の地図も無い。冒険者ギルドであればかなり精密な地図が存在していたはずだが、地図は軍事機密なのであの金庫の中身として運び出されたと考えるのが妥当だ。


 それでも簡易地図くらいならあったかも知れないが、そういうのは質の悪い紙に雑に書き記されているものなので……おそらくその辺に散っている紙くずもどきが、年月に耐えきれず崩壊したそういう雑書類のなれの果てだと予想される。


「いい感じの情報は無さそうね。どうするエド? もっと探す?」


「うーん……いや、もういいや」


 問うてくるティアに、俺は少し考えてから情報収集に見切りをつけた。


 そもそも俺達がすべきことは勇者と合流することであり、たまたま立ち寄った町に人影がなかったからその原因を調べてみただけだ。そして勇者の位置は方角だけなら判明しているのだから、それを無視して町の住人を探す必要性は無い。


「食料品とか補給したかったけど、この様子じゃ望み薄だろうしな。とりあえず一晩適当な建物の中で寝て、明日の朝出発しようぜ」


「ここの人達はいいの?」


「いいも何も、何でここから逃げたのかすらわかんねーしなぁ。避難してるって言うなら俺達に物品を融通する余裕も無いだろうし、勇者と合流する途中で誰かに会ったら話を聞く……くらいでいいと思う。


 それともティアは気になるか?」


「気にはなるけど、確かにわざわざ探し出してまでとは言えないわね。こんな吹雪じゃ移動するのも楽じゃないし」


「だよな。あー、キャナルのところの乗り物が使えればなぁ」


 あの世界には様々な乗り物があったが、中でも宙空を滑るように飛ぶ金属製の箱、魔導車は素晴らしかった。買う金は十分にあったんだが、残念ながらあれを動かす燃料があの世界以外では調達できそうもなかったので、泣く泣く諦めた逸品だ。


「フフッ、確かにあれがあれば……吹雪の中で飛んだらすぐに何かにぶつかりそうだけど」


「あれ確か防御魔法で覆われてるから、石壁に正面から突っ込んでも壁の方が砕けるんだろ? その分魔力消費がとんでもなくて専用の魔石以外じゃどうやっても動かせなかったけど」


「そうね。あんな大量の魔力をあんなちっちゃい石に閉じ込めて運用できるとか、これっぽっちも仕組みがわからなかったわ。まあわかったところであんな量の魔力を込めたら一瞬で干からびちゃうけど」


 方針が決まったことで、俺達は気楽に雑談を交わしながら冒険者ギルドらしき建物を後にし、適当な宿っぽい場所で一夜を過ごす。その後は町を出ると改めて吹雪の中を勇者に向かって進んでいったが、一週間経っても追いつけなかった時点で方針を再度修正。多少ずれてでも町や村などの休めそうな場所に立ち寄りながら勇者に追いつこうということになったのだが……


「…………ねえエド、これどういうことだと思う?」


「わからん」


 この世界に降り立ち、勇者を追いかけ始めてから一ヶ月。既に幾つもの町や村に立ち寄ったというのに、その何処にも人の姿を確認できない。


「ひょっとしたら、この辺一体が完全に放棄されてるのかも知れねーな。こんな吹雪じゃ生活できねーだろうし」


「だとすると、ちょっとマズくない? もうそんなに食料も残ってないわよ?」


 俺には追放スキル「彷徨い人の宝物庫ストレンジャーボックス」という、ほとんど無限に物資を持ち運べる力がある。が、いくらでも入るとはいえ、入れた物の時間は普通に流れて劣化する。それを防ぐ「マギストッカー」と言われる道具をキャナルの世界で調達しているが、そっちの容量は精々ちょっとした箪笥くらいでしかない。


「っていうか、ここ本当におかしいわよ? 魔獣どころか普通の動物も、草も木も虫すらいない。これだけ歩き回ったのに、私達以外に生きている何かに一度も出会ってないなんてあり得ないわ」


「……………………」


 ティアの言葉に、俺は無言で考え込む。あらゆる命の存在しない極寒の地。これは確かにかなりの異常事態だ。そしてこんな状況を作り出した原因となれば、この世界の魔王の仕業というのが一番有力な説となる。が……


(こんな強い魔王がいたなら、それが印象に残ってねーはずねーんだけどなぁ。本当にここは何処なんだ?)


 自問したところで答えは出ない。その答えを得るためにも、俺達はひたすら進み続けるしかなかった。

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