望む想いと望まれる想い、どちらがいいかは人それぞれ
『世界転送、完了』
「……っと。ふぁぁ、今回は濃い世界だったわねぇ」
「ははは、お疲れさん」
勇者パーティとしての凱旋やら何やらの一通りの仕事を終え、俺達は無事に「白い世界」へと戻ってきた。今回もちゃんと別れを告げて帰ってきたので、思い残すこともない。
ちなみに俺がもらった褒賞は、ティアのたっての頼みで「何故勇者の前に宝箱が出現するのかを教えて欲しい」というものになった。そしてその問いは「自分たちにもわからない」という何ともガッカリなものだったりする。
あの金色のメダルと同じで、勇者の前には宝箱が出現する。だがメダルと違って常に周囲に魔獣の気配があるような場所でなければならないらしく、メダルのように勇者が無自覚に宝箱に出会う機会はほぼない。宝箱が出現するような場所に子供が非武装で行ったりすれば死ぬからだ。
また宝箱自体についても一応研究はしており、勇者が蓋を開けた後の箱は勇者が生きている限りはその場に残り続けるとか、箱そのものを移動させようとしてもどういうわけか地面に張り付いたようになっていて全く動かせないなんてことはわかっているようだが、何故宝箱が出現するのかという根本的な理由に関しては依然不明なまま。
周囲の魔力濃度がーとか魔獣が誕生する時に生じる特殊な波長がーなんて理屈をこねくり回してはいるものの、結局のところ「何も無いところに何かを出現させる」というのは神の奇跡の領域のため、これといった結論は出せないのが現状とのことだった。
その答えにティアは少々不満げではあったが、俺が「なら何で朝になると太陽が昇るのか考えたことがあるか? そういうことだよ」と言ったら一応納得してくれた。どれだけ数奇な運命に弄ばれようとも、所詮人間なんてちっぽけな存在だ。分からない事なんていくらでもあるのだ。
「さあエド、それじゃ早速本を読みましょ!」
「はは、毎回ティアはやる気満々だな」
「だって、ここに帰ってくると体の時間が巻き戻ってるせいか、疲れも何も吹き飛んじゃうでしょ? それにあれって神様の視点だから、そこならひょっとしてあの世界の秘密もわかるかなーって」
「あー、そう言う考えもあるのか」
確かに「勇者顛末録」は勇者の人生を神の視点から俯瞰して書かれたものだ。であれば人が知り得ない情報が書いてあるというのはあり得なくもない。
「んじゃま、読んでみるか」
その事実に気づいてしまうと、俺としても俄然興味が湧いてくる。早速テーブルに着くと、俺はその上に出現していた本を手に取りページを開いていった。
「そんな!? 子供の頃のゴウさんは、壺を割ってないなんて……っ!?」
「そこまで驚くことか!? あれは勇者特権なんだから、勇者に認定される前に壺を割りまくってたら悪ガキじゃすまねーだろ」
「そうだけど……あ、でも、自分の箪笥からメダルを見つけたのがきっかけだったのね。うんうん、それならわかるわ」
「だな」
きっかけは些細なこと。小さな村に生まれたゴウは、ある日自分の服をしまっている箪笥から金色に輝くメダルを見つける。それを両親に見せ、両親が村長に相談して……という流れで最終的に王様に献上されたことで、ゴウが勇者に正式に任命された。
「あー、こんな感じで別れてたのか。これは仕方ねーよなぁ」
「いくら仲間だからって、その人の家の箪笥を漁ったら駄目よねぇ」
一時的に仲間になった魔術師の女性。ちょっといい感じになっていたようだが、ゴウが彼女の家の箪笥を漁ったことをきっかけに喧嘩をしてパーティを抜けてしまったらしい。
まあ、うん。ゴウに悪気はなかったんだろうけど、家の箪笥を勝手に漁られたら、そりゃあなぁ……いくら勇者の特権だって言われても、納得できるかは別問題だ。
とまあそんな感じで、勇者ゴウの様々な失敗と成功の冒険譚が綴られた話を、俺達は勝手な感想を口にしながら読み進めていく。残念ながら世界の神秘に触れる記述は無く、大抵の内容は融通の利かないゴウが呆れた目で見られたりするもので、迷いながらもそれを表に出すこと無くゴウは勇者の道を突き進み……そして最後のページ。
――第〇一一世界『勇者顛末録』 終章 そこに始まり、そこに終わる
見事魔王討伐を果たした勇者ゴウは、慣例通り王族の姫と結ばれる権利を与えられた。だがこれまで勇者として全ての使命に従ってきたゴウは、ここで初めて否を返す。
――「俺の仲間が教えてくれた。真に望むならば、俺は自分で道を切り開くことができる」――そう言ってゴウが向かったのは勇者として旅立ってから初めて帰る生まれ故郷の村。そこでかつて思いを寄せていた幼なじみの女性に告白しようとするも、ゴウと同い年の女性は既に三〇を超えており、当然結婚していて子供もいたためあえなく玉砕。
悲嘆に暮れたゴウは王都へと戻ると、悲しみを忘れるように壺作りに没頭し始めた。数え切れないほど壺を割ってきたゴウが作り上げる壺は不慮の事故では割れにくいのに意識すると綺麗にパリンと割れるという素晴らしいできばえで、以後世界中の壺はゴウの作った壺を元にした物に徐々に置き換わっていくことになる。
魔王討伐のみならず、「パリン焼き」と呼ばれる新たな壺を開発したことでも名を残した勇者ゴウ。その傍らにはかつて旅をした仲間が寄り添い、勇者時代の癖で壺を割ったり箪笥を漁ろうとする度にその頭をひっぱたいて止めたという。
「何て言うか……本当に最後までゴウさんだったのね」
「別に『壺の勇者』とかじゃ無かったはずなんだがなぁ」
最後の最後まで壺にこだわり続けたゴウの生き様に、俺はティアと顔を見合わせ苦笑する。とは言え最終的にはいい具合に丸く収まったようなので、ひとまずは安心と言ったところだろう。
「さて、それじゃ次の世界ね……っと、その前に」
今回も光っている水晶玉に、ティアがそっと手を触れる。すると光がティアの中に流れ込んでいき、今回もまた無事に力を得られたようだ。
「そう言えば、少し前からティアがどんな能力をもらってるのか全然聞いてねーんだけど、その辺どうなってんだ?」
「ああ、それ? うーん、教えてもいいんだけど……怒らない?」
「は? 何で俺が怒るんだよ?」
上目遣いに見てくるティアに、俺は思わず首を傾げる。ティアがどんな能力を得ていたとしても、それで俺が怒る理由がこれっぽっちも思い当たらない。
「あのね、あんまり役に立たなそうな能力が多くて……たとえば、手を繋いでスキップすると移動速度が一割増しになる『弾む足取り』とか……」
「あー、そういう……プッ」
「あ、笑った!?」
「ははは、ごめんごめん。怒ってはいないからいいだろ?」
「よくない! もーっ、だから言いたくなかったのに!」
プンプンと頬を膨らませるティアに、俺は笑いながらその頭を撫でる。
「悪かったって。いいじゃねーかスキップ。平和でさ」
ティアの中に宿るのは、俺の……終焉の魔王エンドロールの力の一端だ。神が恐れバラバラにして封印するほどの力から、しかしティアは何かを壊したり終わらせたりする力じゃなく、ただスキップするだけの能力を得た。
それができるのは、きっとティアだからだ。終わらせることしかできない俺の力を、終わりとは関係ない能力にできるティアの存在がどれだけ尊いか、俺こそが世界で一番それを理解している。
「やっぱりティアはいいな」
「何よ、馬鹿にして! フンだ! ほら、次の世界に行きましょ!」
「そんな拗ねるなって! わかったよ」
次の扉に向かうティアの背を追って、俺もまた席を立つ。この背中を見続ける為なら、俺だって世界中の壺を割ってまわるくらい楽勝だ。
「次で……えっと、幾つ目の世界だっけ?」
「あー、確か一二番目だったか? てか『勇者顛末録』に毎回番号振ってあったろ?」
「うぐっ!? ちょ、ちょっとど忘れしただけよ! さあさあ、一二番目の世界にレッツゴー!」
「おう!」
手を繋いで、俺達は次の世界に向かう。だがそこに待っていたのは……遂に俺の変化を捉えた、剥き出しの神の悪意だった。




