言動と実力は必ず一致するわけではない
「おお、ここもやっぱりこういう感じなんだな……魔王ってのはこういう扉を作らなきゃいけない決まりでもあるのか?」
「さあ? でもこだわりみたいなのはあるのかもね」
目の前にそびえ立つ、黒くてでかい両開きの扉。魔王城を隅々まで探索し終わった今、行っていないのはもうここだけだ。
「遂に魔王との対決か……二人とも、準備はいいか?」
「勿論!」
「行きましょ!」
笑顔で頷く俺達に、ゴウが扉に手をかける。すると明らかに人の手で動かせるとは思えない大きな扉が開いていき、その向こうには灰色の柱に赤と黒の布がかかる、これまたそれっぽい部屋が広がっている。
その部屋に、俺達は油断なく入っていく。そうしてしばらく進んでいくと、無駄に背もたれの高い椅子に座った中年の男が、威厳のある声で話しかけてきた。
「よくぞここまで来た、勇者とその一行よ。余がこの世界を統べる真なる王、魔王ザマハーゲンである!」
「……………………」
「どうした? 余の恐ろしさに声も出ないか? 無理も――」
「まさか、魔王に名前があったのか!?」
「……………………」
ゴウの沈黙からの叫びに、今度は魔王が言葉を失う。何だかコウモリっぽい印象を受ける顔のこめかみをピクピクと引きつらせ、それでも余裕たっぷりに見える動作で足を組む。
「ほ、ほぅ? 貴様勇者のくせに、余の名を知らんのか?」
「知らん。初めて聞いた」
「そ、そうか……まあ、うむ。考えてみれば余が名乗った勇者はみんな余がその場で殺しているから、名が伝わらぬのは当然だったか。
ならば貴様を殺し、今度こそ余の名を世界に知らしめてやろう!」
「? 俺が死んだらやはりお前の名を広める者はいなくなるんじゃないか?」
「ぐっ!? ええい、うるさい! ならば……あれだ! 魔王軍をザマハーゲン軍に改名し、それで人類の町を襲ってくれよう!」
「魔王軍から『自分たちは魔王軍だ』などと名乗られた記録はないはずだぞ? それとも今度は名乗ってから襲うのか? とは言え結局全滅させるのであればやはり名は伝わらぬと思うが……」
「うるさいうるさいうるさい! ああ言えばこう言う! 何とこざかしい勇者だ! 貴様のような輩は……うん?」
玉座から身を乗り出して叫んでいた魔王が、不意にゴウの背後……つまり俺の方に視線を向ける。なので軽く笑って手を振ってやると、魔王がその身をビクッと震わせて立ち上がった。
「なぁぁ!? 何で!? 何でほんた……いや、あの、お前! お前がここにいるんだ!?!?!?」
「何でって、俺はもう二年もゴウさんと一緒に勇者パーティとして活動してるぞ? まさか今まで気づいてなかったのか?」
「んがっ!? そ、そ、そんな……そんなことあるわけないだろう! 馬鹿を言うな! 気づいて、ちゃんと気づいてたさ!」
思いっきりうわずった声で、魔王ザマハーゲンがそう言って胸を張る。だがキョロキョロと動く眼球はこれ以上無いほどに動揺を表しており、子供でも分かるレベルで動揺しているのは明らかだ。
だがそんな魔王の態度に、ゴウがわずかにこちらを振り返って話しかけてくる。
「エド、お前魔王と知り合いなのか?」
「知り合いってわけじゃないですね。俺としては初対面ですし。とは言え因縁の相手ではあります。言ったでしょう? 俺がゴウさんと一緒にいるのは、魔王を討伐したいからだって」
「……なるほど、そうか」
俺の言葉に、ゴウは納得したように頷いて正面に向き直る。多分いい具合に誤解してくれていると思うが、とりあえず嘘はついていないのでこれはこれで良しとしておきたい。正直ゴウにちゃんと説明するのは難易度が高そうだしな。
「フ、フフフ……そうだ。余はちゃんと備えていた。お前や神の思惑など知ったことか! 余はこれからもこの世界の魔王として君臨し、戯れに人類を弄んだり環境破壊に精を出したり、お気に入りのサキュバスを侍らせて悦に入ったりするのだ!
さあ、かかってこい勇者とその仲間共! 余が直々にその息の根を止めてくれるわ!」
「死ぬのはお前だ魔王! 行くぞ二人とも!」
立ち上がって戦闘態勢を取る魔王に、ゴウが斬りかかっていく。当然俺達もその援護に回るわけだが、途中でティアがチラリとこちらに視線を向けてくる。
「何だよティア?」
「別に? ただほら、あれもエドの一部なわけでしょ? ならエドも綺麗な女の子を侍らせたりしたいのかなーって」
「ジョンの時に、俺達は皆元を同じくしても違う存在だってことで綺麗にまとまったんじゃなかったですかね?」
「そうなんだけど、それはそれとしてよ……ひょっとしてあの紐みたいな鎧を着てあげた方がよかった?」
「よし、今すぐ魔王をぶち殺そう」
こいつもジョンと同じく長い年月を経たことで知能と自我を手に入れているようだが、その存在はジョンとは対極、百害あって一利無しだ。少なくともこの魔王と同じ性癖を持っていると思われるのは絶対に避けなければならない。
「ゴウさん、加勢します!」
声をかけつつ、俺は正面から切り結ぶ二人に割って入る。それに反応した魔王は左手を振るい、直後に長剣ほどの長さに伸びた黒い爪が俺の剣を受け止める。
「おおっ!?」
「ハッ! 伊達に五〇〇年も魔王は名乗っておらんぞほんた……いや、仲間その一よ!」
「誰がその一だよ! 俺はエドだ!」
「エド? それはまた……愉快な名前をつけられたものだな。ならばそのまま道化として死ぬがいい!」
魔王の両手が素早く震われ、俺とゴウは防戦一方に追い込まれる。見た目や言動はともかく、流石は魔王だけあってその攻撃は鋭く速い。
「くっ、これは……想像以上だな」
「チッ。やっぱり強いのか」
「ほれほれどうした! そんなものか!?」
「まさか……ティア!」
「――顕現せよ、『スターハストゥール』!」
俺とゴウが飛び退いた瞬間、射線の空いたティアから嵐を纏う恒星が打ち出される。それはまっすぐに魔王へと向かい……だがしかし。
「ぬっ、ぐぐぐ……がぁっ!」
「嘘でしょ!?」
魔王は両手の爪を交差させてティアの魔法を正面から受け止め、横に弾き飛ばした。これにはティアも驚きの声をあげたが、逆に魔王は余裕たっぷりにほくそ笑む。
「ククク、この程度で余を倒せると思ったか? 魔王の二つ名、決して伊達ではないのだぞ!」
「ぬぅ、だが我らとてまだまだこれからだ!」
そんな魔王に、ゴウが改めて斬りかかっていく。だが俺はその場に残り、魔王の動きをじっくりと観察していく。
残念な雰囲気を漂わせるも、その実力は本物。三つの欠片を吸収して強くなり、その後ジョンと繋がったことで弱体化した結果、俺の今の実力は力を回収する前の初期状態とほぼ同じ。
ならば俺はこのまま無様を晒すのか? ハッ、そんなわけがない。心を静かに、魂を研ぎ澄ませ、その冷たきを刃に宿す。狙うは一瞬。振るうは一閃。見切る刹那は……今ここだっ!
「フッ!」
魔王がゴウの剣を左手の爪で受け止め、カウンター気味に右の爪を突き出す。それに力が乗り切る前に、俺の「夜明けの剣」がその爪に完璧な角度で切りつける。
「なっ!?」
自慢の爪が切り飛ばされ、魔王の顔に驚愕が浮かぶ。そのまま右手を突き出すも、短くなった爪は当然ゴウに届かない。
「終わりだ魔王! ルナリーティア!」
「――顕現せよ、『ヴォルカニック・ランサー』!」
ゴウの振り上げた剣に、ティアの魔法が飛んでいく。それを受けてゴウの剣が燃えさかり、本来ならば致死の間合いであった魔王の懐に飛び込むと、その剣が魔王の胸に深々と突き立てられる。
「燃えっ、尽きろぉ!」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
外だけでなく体の内側まで焼き尽くされた魔王が、断末魔の叫び声をあげた。




