自分たちは有限だが、敵はいつでも無尽蔵
真の勇者の証たる腕輪を手に入れたことで、勇者ゴウの活躍にはより一層拍車がかかるようになった。別に能力が上がったとかではないのに何故そうなったのかは永遠の謎だが、とにかく以前よりも生き生きとしたゴウの冒険はトントン拍子に進んでいき、俺達は勇者パーティとして世界を巡り問題を解決していく。
何となく中途半端な印象を受ける王子を色んなところを探し回った挙げ句に町で見つけて連れ帰ったり、やたら筋肉ムキムキな盗賊から盗まれた王冠を取り戻したり、親を魔獣に殺された姉妹の復讐を手伝ったり、三人の嫁候補から誰を選ぶか迷ってる男の悩み相談に乗ったりと、とにもかくにも様々な事を体験しながら過ごすこと二年。俺達は遂に魔王城の前に立っていた。
「遂にここまで来たか……」
周囲を断崖絶壁に囲まれた、やたらと尖った外観が目立つ暗黒の城。そこに通じる細い一本道を前に、ゴウが感慨深げにそう呟く。
「俺達がゴウさんと仲間になってから、大体二年くらいですか。割とかかっちゃいましたね」
「いや、十分に早いと思うぞ? 正直一〇年はかかると思っていたからな」
「それは流石に気が長すぎるんじゃない?」
ゴウの言葉に、ティアが茶化したように笑いながら言う。だがゴウの方は至って真面目な顔で首を横に振る。
「そんなことはない。流石にここまで来るとなれば、固定パーティじゃないと無理だからな。二人に出会えなければ、きっと俺は今も何処かで仲間を探していたと思う。それにお前達二人だったからこそ、最後の一人を諦めることもできたのだしな」
「あー、それは……」
勇者に許されるのは四人パーティ。そして今のパーティのバランスを考えると、どうしても最後の一人に回復職が欲しかった。だがこの世界には冒険者という職業がなく、回復魔法を使えるのは教会や診療所などの町中の安全な場所に勤務する人物ばかりで、過酷な魔王討伐の旅に耐えられるような人材はいなかったのだ。
だが、俺とティアは事実上無限に回復薬なんかを持ち運べるため、それを力業でどうにかすることができた。もしこれがなければ何年もかけて優秀な人材を探すか、下手をしたら一から育てる必要すらあったかも知れない。
「今思うと、ゴンゾやリーエルは凄かったのね」
「リーエルは本人が勇者だからともかく、ゴンゾのおっさんはそうだな。回復魔法も凄かったし、戦いだって割と強かったし」
「む? ゴンゾにリーエルというのは誰だ? 戦える回復魔法使いに心当たりでもあったのか?」
「ええ、まあ。ただ二人とも……とても遠いところに置いてきてしまったので……」
「……ああ、そうか。悪いことを聞いてしまったな、すまない」
「はは、気にしないでください」
スッと頭を下げてくれたゴウに、俺は苦笑して答える。別に死別したわけではないが、時間の流れすら違う別世界に存在するとなれば似たようなものだしな。
「ねえ、そろそろ行かない? 私達まだここに着いただけなんだし」
「フッ、そうだな。では魔王城へと突入し、見事魔王を討ち果たしてやろう! 行くぞ二人とも!」
「おう!」
「ええ!」
ゴウのかけ声に答えて、俺達は魔王城へと続く道を歩き出す。だがそこは魔王城。すんなりと中に入らせてはくれない。
「クェェーッ!」
「ガルーダ! 右二、左三!」
「右は俺がやる! 左はゴウさんとティアで!」
細い崖から突き落とすべく、谷底から二メートルほどの巨鳥の魔獣が飛来してくる。だが今更この程度の相手に後れを取る俺達じゃない。こっちを掴みあげようと襲ってきたガルーダの足を俺の「夜明けの剣」が切り飛ばし、寄ってこないもう一匹の顔面には素早く投げたミスリル製の短刀がその顔面に突き刺さる。
「クェェェェーッ!?」
「ハッ、楽勝! そっちは!?」
「勿論余裕よ! でも……」
「今のうちに走るんだ!」
今倒した奴らが落ちていく反面、谷底からは続々とガルーダを含む飛行型の魔獣が上がってくるのが見える。足場の悪い場所でこんなのを律儀に相手にしてやる理由はこれっぽっちもない。
寄ってくる魔獣だけを撃退しつつ、俺達は一目散に魔王城へと走って行く。すると目の前の大きな扉がギギギッと音を立てて開いていき、俺達がそこに飛び込んだ瞬間、勢いよくその扉が閉まってしまった。
「ふぅ、どうやら中に入ることはできたようだな。だが……」
「すっかり閉じ込められちゃったわね」
「どうせ魔王を倒すまで帰るつもりなんてねーんだから、問題ねーだろ。それより……」
ホッと気を抜く間もなく、俺は周囲を警戒する。事ここに至れば今更追放スキルの出し惜しみなんてのもないので、「旅の足跡」と「失せ物狂いの羅針盤」の組み合わせによる完全探査だ。
だが、それを絶対だと過信はしない。アメリアの世界でやらかした失態を、俺はきっちりと覚えている。
「とりあえず見た感じだと、道は三つ。正面の大階段を上った先と、左右の扉……どこから行きます?」
「左からだな。まずは一階をくまなく回り、それから二階にしよう」
「ま、ゴウさんならそうするわよね。でもここの探索は結構大変なんじゃない?」
ここは魔王城。当然敵が山ほど詰め込まれてるだろうし、こっちが出られないからといって敵が増援を呼び込めないとは思えない。そうなると一直線に魔王に向かって邪魔が入る前に魔王を倒してしまうというのが定石に思えるが……
「確かに大変だろう。だが……俺には見えるんだ」
ゴウの目が鋭く場内を見回す。そしてその腕には、手に入れてから一度として外したことのない腕輪が輝いている。
「……え、嘘でしょ!? ひょっとして……?」
「ああ、ある。この城の中にも、壺と箪笥が!」
「へ、へー。そうなんだ……ねえエド、何で魔王城の中に壺と箪笥があるのかしら? ここって別に以前は人が住んでいた城じゃないのよね?」
「そのはずだけど……まあ人型の魔獣だっているし、生活してれば服くらい着るんじゃねーか? 壺は……何か入れるとか?」
「魔王城って、そんな生活の臭いがするような場所なの……?」
俺の予想に、ティアがどうにも腑に落ちないという顔をする。勿論俺だってその理由が絶対に正しいとは言えないわけだが、とりあえずそれはどうでもいいことだ。
「ま、気にするなって。どんな理由だったとしても、俺達のやることは変わらねーさ」
「そうね。ゴウさんが壺と箪笥を見逃すはずないものね」
「ガッハッハ! そういうことだ! さあエドにルナリーティア! 早速壺を割って箪笥を漁りに行くぞ! フッフッフ、魔王城の箪笥には一体何が入っているんだろうなぁ?」
「……それはちょっと興味があるかも」
魔王を倒すと決意表明したときよりも張り切って見えるゴウに、ティアも軽く口元を釣り上げる。そうとも、深刻になったって仕方が無い。どんな危機的状況であろうとも、それを楽しめる奴は強いんだ。
「んじゃ、魔王城壺割り、箪笥漁りツアーと行きますか。内部構造は俺が案内しますんで、ゴウさんは先導を、ティアは周囲の警戒を頼む。魔法を使ってもいいけど、休める場所があるかわからねーからほどほどにな」
「了解。今更ペース配分をミスったりしないから平気よ」
「任せろ! さあまだ見ぬ壺よ! 今俺が割ってやるからな!」
「……ゴウさん? 主目的は魔王討伐ですからね?」
「わかっている! うぉぉ、新たなる箪笥が俺を呼んでいるぞーっ!」
「……本当にわかってるのかしら?」
「わかってるだろ、多分……」
にわかに寄ってきた魔獣を妙な気合いで蹴散らしていくゴウの背中を眺めつつ、俺達は曖昧な笑みを浮かべてその後に続いていった。




