簡単にできるからといって、安易に実行してはならない
読者の皆さんの応援のおかげで、本作品が「HJ小説大賞2020後期」にて受賞し、書籍化が決定しました! 詳細は追ってお伝えしますので、続報を楽しみにお待ちいただければと思います。
試練の山……その麓の村までは、特に何の問題も無く辿り着くことができた。流石に乗合馬車が出ていたりはしないが、街道そのものはきっちりあったので楽勝だ。
村から山の麓までも、そこまで苦労はしなかった。こちらは獣道よりいくらかマシ程度の道しかなかったが、俺やティアは勿論、ゴウからしてもこの程度なら問題ない。
そうして辿り着いた山の入り口前で、俺達は遙か高く聳えるその不思議な様相に思わず上を見上げてしまう。
「へー、これが試練の山か……」
濃い森を抜けた先に、まるで線でも引いたかのように突如として現れた岩肌のみの山。その正面には誰が作ったのか石の階段が掘られており、それがずっと上まで続いている。遠くから見ても圧巻だったが、近づいてみればその迫力もひとしおだ。
「あれ? エドは……えっと、前に来たことはないの?」
「ん? ああ。ここは入るのに条件があるらしくてな」
「条件?」
軽く首を傾げるティアに、俺より先にゴウが答える。
「そうだ。先日アリト陛下が封印が解かれたと言っていただろう? どうもその封印とやらが解かれないと、この階段をいくら上っても先に進むことができないのだそうだ」
「へー。その封印の条件は?」
「知らん。俺はただ封印が解けたと教えられたから登りに来ただけだ」
「ああ、そう。何て言うか……ゴウさんらしいわね」
「ガッハッハ! 褒めても何も出ないぞ?」
「ははは……」
上機嫌に笑うゴウに、ティアが曖昧な笑みを浮かべる。ちなみに俺が一周目にここに来られなかったのは、封印が解けたのがもっとずっと後だったことと、その時に滞在していた場所が別の国で、ここに来るまでの間に条件を達成して追放されていたからだ。
興味がなかったわけじゃないし、ゴウの役に立ちたいという気持ちもありはしたが……それでもやっぱり、あの頃は「家に帰りたい」という思いが何よりも強く、それを優先した結果ってことだな。
「では、上がるか」
「了解」
ゴウを先頭に、俺達は気を引き締めて警戒を密にしながら急な階段を上っていく。そうして一〇〇段、二〇〇段と上っていくと、いつの間にか俺達の周囲に濃い霧が立ちこめ始めた。
「酷い霧だな……」
「これ、自然の霧じゃないわよね?」
「だろうな」
視界が通るのは、およそ二メートルほど。ぴっちり近づいていれば最後尾の俺から先頭のゴウの背中が何とか見えているが、ちょっとでも気を緩めると見失いそうになる。
下から見た時にこんな霧なんてなかったし、これが偶然発生したとは考えづらい。より一層警戒しながら進んでいくと、遂に階段が終わりを迎える。
「これは……っ!?」
「えぇ?」
先に上り終えた二人が驚き戸惑いの声をあげるなか、俺もまた最後の段を踏み越える。すると周囲に立ちこめていた霧がパッと晴れ、目の前には見渡す限りのだだっ広い平原と、一本の道が出現していた。
「何だこりゃ?」
「幻……じゃないわよね? となると転移させられた? ううん、ここ一帯の空間が歪んでるとか?」
「わからんな。わからんが、道があるならまっすぐに行けばいいだろう」
「まあ、そりゃそうだな」
あえて平原の方に移動してみるという考え方も無くは無いが、これはあくまで「真の勇者の証を得るための試練」なのだから、そういうのはまっすぐ進めなくなってからで十分だ。
なので俺達はそのまま道を進んだわけだが……不意に道の中に、大量の壺が置かれるようになる。
「おお、壺がこんなに! 全て割らねば!」
「えぇ、割るの!?」
「そりゃ割るだろう! 何せ俺は勇者だからな!」
五歩に一つくらいの割合で道に置いてある壺を、ゴウが嬉々として割っていく。だがその快進撃も長くは続かない。
「ぐぅぅ……」
「? どうしたの?」
「いや、あの壺が……見えているのに、あの壺が割れないのだ」
「???」
途中いくつかあった分かれ道を直進してきた俺達だったが、その道はもうほんの数メートルで途切れている。まあ途切れているといっても普通に平原が広がっているし、直接繋がっていないだけで向こう側にも道が見えるので、進もうと思えばそのまま進むのは簡単なのだが。
そして道の終点部分には壺が一つ置かれているのだが、その手前に遮るように膝より少し高いくらいの木製の柵が二つ置かれている。
「まさかこんなところに木の柵があるとは……これでは進めん」
「えっと、またいで越えたらいいんじゃない? それか横をすり抜けたっていいし……」
「馬鹿を言うな! 道を塞ぐように柵があるんだぞ!? それを無理矢理越えたりしたら駄目じゃないか!」
「えぇぇ……? えっと、エド?」
「いや、言ってることそのものは間違ってねーとは思うけど……」
困惑するティアの呼びかけに、俺もまたどうしたものかと考え込む。普通に考えればティアの意見をそのまま採用するところだが、ここが勇者に試練を与える場所だということを加味すると、ゴウの意見を尊重すべきとも考えられる。
「あー、石とか投げてここから割るのは?」
「それこそ駄目だろう! 壺は俺の手で割らなければならん。それが勇者の特権だからな……むぅ、仕方ない。一旦引き返して脇道を進もう。何かこの木の柵をどかす手段があるかも知れないからな」
「普通に持ち上げてどかせばいいと思うけどなぁ」
道を引き返し始めたゴウの背中に、ティアがぼそっとそう呟く。その気持ちはよくわかるが、それを受け止めてやることはできない。
「なあティア。これはゴウさんの試練なんだし、ゴウさんの思うようにさせてやろうぜ」
「……そうね。じゃ、気を取り直して行きましょ!」
俺の言葉に笑顔を取り戻したティアを引き連れ、俺達はゴウの後を追って道を戻り、脇道へと入っていく。するとそこに広がっていたのは、ぐねぐねと複雑に曲がりくねった迷路だ。
「うわぁ……ねえゴウさん、やっぱり……?」
「無論道なりに進む」
「そうよねぇ……」
うんざり顔を浮かべるティアを余所に、ゴウが道を進み始める。幸いにしてゴールと思われる場所は見えているし、壁がないのだから道自体も丸見えだ。広すぎて全体を把握することはできないが、それでも難易度は壁で視界が遮られている場合に比べればグッと低い。
「うぅ、ぴょいっと道を飛び越えちゃえば、あっという間なのに……」
「そりゃそうだろうけど、ここまであからさまに道を通らせようとするってことは、逆に道以外を通っちゃ駄目ってのがわかりやすくていいじゃねーか。大丈夫だとは思うけど、絶対道から出るなよ?」
「わかってるわよ!」
からかうような俺の言葉に、ティアがぷくっと頬を膨らませる。道幅は一メートルくらいあるし、魔獣や罠の類いも今のところ気配がないので何の問題もないが、不意に襲われて思わず飛び退いた先が道の外でした……となった場合、どうなるのかがわからない。
階段を上りきったところや山の麓に戻されるくらいならまだいいが……うん、試す気にはこれっぽっちもならねーな。ならねーけども……
「まあ、そう深読みさせておいて実は平原を歩いても何ともなくて、馬鹿みたいに道を歩いてる俺達をからかってるだけなんて可能性もあったりしてな」
「もーっ! エドったらそう言うこと言わないの!」
「ははは、ごめんごめん。あ、ゴウさん。そこを右に曲がってください」
「む? 何故だ?」
「そっちがゴールに続いてるんですよ。なんで……」
俺の視界の片隅には、俺にしか見えない地図が表示されている。追放スキル「旅の足跡」……こういうときには最高に頼りになるやつだ。
そしてそんな俺の助言に、ゴウが満面の笑みで答える。
「そうなのか! よし、では右以外から進んでいこう」
「……えっと、何でですか?」
「行ってない場所に壺や宝箱があるかも知れないだろう? ゴールがわかるというのなら、効率よくそれ以外の道を踏破できる! 頼りにしてるぞエド!」
「あ、はい……」
「うへぇ……」
予想外の答えを口にして張り切るゴウを前に、俺は少々間の抜けた声を、ティアは気の抜けるようなうんざりした声をあげるのだった。
内容は前書きとほぼ同じですが、一応活動報告もあげております(笑) 良ければそちらも読んでいただけると嬉しいです。




