やっていいと言われたからって、そこまでやるとは聞いてない
俺達がこの世界に降り立ち、勇者ゴウと行動を共にするようになってから二ヶ月。その日俺達は滞在中の国の王様に呼び出され、王城へとやってきていた。
王に謁見を求められ、登城する。普通の生活をしていれば一生に一度だってあるはずもない機会だが、俺やティアはガチ王族であるアレクシスのパーティに所属していた時期があるうえ、それ以外にも色々な世界で勇者パーティとして活動していたことから、こういう雰囲気には割と慣れていたりする。
が、慣れているというのは無意味に緊張して手と足が一緒に出たり、キョロキョロと城の内部を見回さないということでしかない。ちゃんと場に相応しい緊張感を持って行動してはいたのだが……
「ようこそいらっしゃいました、勇者様とそのご一行様! 国王陛下がお待ちですので、どうぞこちらに――」
「いや、ちょっと待ってくれ」
城内に入ったところで声をかけてきた兵士の男に、ゴウが手を前に突き出して待ったをかける。
「何でしょう? あ、トイレですか? でしたら……」
「そうじゃない。先に城内を回って壺を割ったり箪笥を漁ったりしておきたいのだ。悪いが陛下にはちょっと待ってもらってくれ」
「へ!? あ、ちょっと!?」
一方的にそう言うと、ゴウが兵士の横をすり抜けて勝手に歩き始める。当然俺とティアもそれに着いていくわけだが、ティアが心配そうな顔でゴウに話しかける。
「ねえゴウさん、いいの?」
「構わん。というか、城での謁見というのは終わるとそのまま帰らされてしまうことが多いからな。こうでもしないと城の壺を割れないのだ」
「それはまあ……いえ、いいわ。もうわかってるし」
この二ヶ月で大分慣れたとは言え、ティアが何とも言えない表情でそう呟く。だがゴウはそんな事を一切気にすること無く、適当に廊下にある壺をパリンパリンと割っていく。
「きゃっ!? 何ですか貴方……って、勇者様!?」
「俺の事は気にするな」
「は、はぁ……」
「……いや、気にしないのは無理じゃない?」
「言うなティア。そういうもんなんだよ」
城である以上、通路にも警備の兵士がいるし、使用人だって動き回っている。だがゴウはそんな人々を一顧だにせずひたすらに壺を割っていく。ちなみに何故城の廊下にこんなに沢山の壺が並んでいるのかは永遠の謎だ。
そうして城内を歩き回り、色んな部屋に入って割れるだけの壺を割り箪笥を漁り尽くして一周すると、俺達は最初の正面ホールに戻ってきた。
「……勇者様、もうご案内してもよろしいでしょうか?」
「ああ、頼む」
「よかった……では、こちらへどうぞ」
あからさまにホッとした表情をする兵士に引き連れられ、俺達は謁見の間へと進んでいく。実はさっきもすぐ側を通りかかったので、扉を守っている兵士の視線が若干痛い。
そんな兵士達が扉を開け放つと、俺達は真っ赤な絨毯を踏みしめて王様のところへと歩いていく。あとはほどよいところで足を止め――っ!?
「よくぞ来た……って、おぉ!?」
「ちょっ、ちょっ!? ゴウさん!?」
本来なら足を止めて跪くべき場所まで辿り着いても、ゴウの足は止まらない。そのまま謁見の間を歩き進み王様の横をすり抜けると、その奥にあった廊下へと進んで行ってしまう。
「え、あ、ど、どうも? ちょっとすみません」
「ごめんなさい! ごめんなさい! 本当にごめんなさい! 待ってよエド、ゴウさん!」
流石の俺も軽くビビりながらゴウの後に続き、ティアが必死に謝罪しながら数歩遅れて追いついてくると、ゴウが踏み込んだのはひときわ立派な誰かの寝室。
誰かって言うか……まあ、うん。王様の寝室だな、多分。
「やはりここにも箪笥があったか。早速漁らねば」
「えぇぇ……ここ王様の寝室よね? 勝手に入ってもいいの?」
「絶対よくねーと思うけど、まあ止められなかったし……いや、でもよくはねーと思うけども」
入ってもいいのか、あるいはこんなところに余人が入ってくることを想定していないのか、とりあえず警備の兵士とかもいなかったので俺達は入れてしまった。そうしてゴウが立派な箪笥を漁り、中から膝くらいまでの長さのある男性用の下着を取り出す。
「ステテコパンツか……一応もらっておこう。よし、次だ」
「ゴウさん? 次って?」
「勿論、隣の部屋だ。おそらくは王妃様の部屋だろう」
部屋を出たゴウが、隣の部屋に入り込む。ひときわ豪華な鏡台や、細かな金細工のあしらわれた立派な衣装箪笥があったりする辺り、確かにここは王妃様の部屋だろう。
「ほほぅ、紫絹のネグリジェか! これはいい値がつくぞ!」
「も、もういいわよね? 私いつ衛兵がやってきて捕まるか気が気じゃ無いんだけど」
「いや、まだだ。もう一部屋ある」
「もう一部屋……っ!?」
「そうだ。この国には年頃の王女がいたからな」
「いやー! やめて! やめてあげて!」
思わず叫び声をあげたティアがゴウにすがりつく。だがゴウはティアを引きずりながら王妃様の部屋を出ると、その正面にあった部屋に問答無用で侵入し、可愛らしいピンクの箪笥を漁る。
「これは……憧れの背伸びパンツ!? フッフッフ、今回は大収穫だな! 流石は王城だ」
「うぅ、ごめんね名前も知らないお姫様……私は無力だわ……」
「泣くなティア。ティアは頑張ったって」
己の無力をさめざめと泣くティアを俺が宥めている前で、ゴウは嬉しそうにパンツを鞄に入れていく。そうしてようやく王族の寝室を漁り終えたところで、俺達は来た道を戻って謁見の間に再び入り、王様の前に行って片膝をついた。
「勇者ゴウ、お呼びにより参上いたしました」
「……あー、うむ。もう良いのか?」
「はい。おかげで城の中の壺と箪笥は全て調査し終えたかと」
「そ、そうか……ゴホン。よく来てくれた勇者ゴウとその仲間よ! 余はこの国の王、アリト・カブールである」
四〇代中盤くらいと思われる王様が、それなりに威厳のある声で名乗る。その横には妖艶な雰囲気の漂うスタイルのいい美女が控えており、更にその横には一四歳くらいと思われる可愛らしい少女がいる。
ふむ、あれがあの下着の持ち主か……痛ぇっ!?
「……………………」
不意に尻をつねられ、俺はギリギリで声を抑えつつも隣に抗議の視線を向ける。が、ティアはベッと小さく舌を出してからそっぽを向く。
むぅ、理不尽な。脇腹でもつついてやろうか? でも上手くいったらそれはそれで困るしな……「二人だけの秘密」を使わせて爆笑ギャグを畳みかけるのはどうだろうか? それなら笑い声は漏れないだろう。まあ体がピクピク動くかも知れねーけど、そのくらいなら誤魔化せるはず……
「――と言うわけでな。遂に試練の山の封印が解けたのだ」
「おお、それは素晴らしい。ではすぐにでも行って、見事真なる勇者の証を手にして参ります」
と、俺がそんなくだらない事を考えている間にも、ゴウと王様の話は進んでいたようだ。完全に聞き流していたわけだが、まあ一周目に聞いているので問題ない。ゴウが立ち上がるのに合わせて俺達も立ち上がり、揃って一礼をして謁見の間を……ひいては城を後にする。帰りは壺を割ったりする必要がないのであっという間だ。
「話は聞いていたと思うが、次の目的地は『試練の山』だ。出発は明日の早朝にしようと思うが、何か問題はあるか?」
「んー、今日はもう夕方だし、明日の朝だと流石にちょっと早くないかしら? その試練の山とやらの近くに別の町があるならいいんだけど、そうじゃないなら少し消耗品を買い足しておきたいかも」
「ああ、それなら平気だ。確か麓に町があったはず……ですよね?」
「そうだ。ここからなら歩いて一週間といったところだな」
「そのくらいなら今の装備で大丈夫よ。なら出発は……」
「予定通り明日の早朝ということにする。二人とも俺に力を貸してくれるか?」
「勿論。っていうか、ここで放り出されたらその方が困っちゃいますよ」
「そうね。ここまで来たんだから、一緒に魔王を倒したいわよね」
「ははは、頼もしいな。ではよろしく頼む」
軽く会話を交わし、俺達は宿へと向かって歩いていく。さあ、次の目的地は試練の山……色々あって一周目には立ち寄れなかった場所だ。何があるか楽しみだぜ。




