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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第一〇章 探偵勇者と不夜の町

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誰かが隣にいてくれる、それは世界一つ分の奇跡

「はー、今回も盛りだくさんだったわね!」


「まあほとんどはキャナルが巻き込まれたやつだけどな」


 無事に「白い世界」へと帰り着いた俺達は、扉の前で声を掛け合う。実際今回の世界は今まででも群を抜いて突発的な大事件に巻き込まれてきた。一周目の知識が全く役に立たないこともあって、未知の世界での大冒険は実に刺激的で楽しいものだったのだ。


 ちなみに、常に留守番というのはあまりにも辛いということで、二ヶ月ほど過ぎたところでジョンがティア用のフラグメント……手首の水晶の偽物を用意してくれたため、それ以降はティアも一緒に冒険をしている。


 というか、もしあのままティアを延々と留守番させ続けていたら、しょんぼりした表情で「頑張ってきてね」と送り出すティアに俺の罪悪感がはち切れていたことだろう。ひょっとしたら魔王エンドロールが復活していたかも知れん。そう言う意味でもジョンは本当にあの世界の救世主だな。


「とはいえ、今回は実入りも十分だ。さあティア、出してくれ!」


「はいはい、今やるわよ。どれから出すの?」


「そりゃお前、魔導炉からに決まってんだろ!」


 ワクワクする俺を前に、ティアが何故か苦笑しながら「共有財産(シングルバンク)」を発動する。そう、五〇〇億という潤沢な予算があったことで、俺はあの世界で色々と買い込んできたのだ。


 まず取り出されるのは最新式の魔導炉。と言っても流石に業務用ではなく、個人で使う趣味のものだ。それでも普通の世界で鍛冶職人が使っているのを遙かに凌駕する性能で、一瞬で高温まで上がるうえに一度単位で温度を調節でき、その状態を長時間維持できるというとんでもない代物だ。


 他にも内部の状態を魔法的に保持することでできたての料理が一ヶ月後でもそのまま食えるマギストッカーや、適当な果物なんかを入れるとあっという間に果実水ができるミキサーなどなど、便利グッズが幾つもその辺に取り出されていく。


 そういう完成した魔導具が出し終われば、次はインゴットの類いだ。他の世界では偶然の産物でしか採れない希少金属が、あの世界では金さえ出せば普通に手に入る。ミスリルにアダマント、果てはオリハルコンまで……これは流石にあの世界でも糞高かったので少量だが……目の前に並ぶ様は壮観の一言。もしここに師匠がいたら、きっと飛び上がって喜ぶことだろう。


「よしよし、こんだけありゃ遂に――」


「ねえエド。楽しいのはわかるけど、先にあっちを確認しない? 私凄く気になるんだけど」


 頭の中で何を作ろうかと考えている俺の肩をツンツンつつき、ティアがテーブルの方に目を向ける。そこにあるのは当然ながら「勇者顛末録(リザルトブック)」……ジョンとキャナルのこれまでとこれからの書かれた書物だ。


「……そうだな、ならそっちからにするか。あ、そうだ。なあティア、せっかくだしお土産にもらったケーキとコーヒーを飲み食いしながら読むか?」


「えっ!? で、でも、あれをここで食べたら……」


 ここで飲食をするとどうなるか、その答えは未だ出ずとも予想だけで尻込みをしていたティアが戸惑った表情を浮かべるが、俺はニヤリと笑ってみせる。


「フッフッフ、安心しろティア。こんなこともあろうかと、設置型のトイレを購入してある。周囲からの視線は勿論音も臭いも完全に防いでくれるし、出したものも魔法で分解して綺麗な水と塵にしたうえで勝手に蒸発させてくれるからお手入れも簡単だぞ」


 中から外も見えないので持ち歩いて野営で使うとかは無理だが、この「白い世界」に設置して使う分には十分な機能だ。ティアのためにこっそり購入したその存在に、ティアが黄色い声をあげて俺に抱きついてくる。


「やった! エド大好き! なら準備しちゃうわね」


「おう」


 実際には組み立てるまで使えないんだが、まあそこまですぐに必要にはならんだろう。俺がテーブルで座っているとすぐにティアがケーキとコーヒーを用意してくれたので、俺達はそれを楽しみながら「勇者顛末録(リザルトブック)」を読んでいく。


「うわー、キャナルって昔から元気な女の子だったのね」


「このこっそり助けた奴って、絶対ジョンだよな。まあ魂を追跡してるっていうなら生まれたときからこっそり見てるんだろうし」


「でしょうね。生まれたときから守られてるなんて、素敵」


「そうか? 俺は正直ちょっと怖い気もするが……何その顔?」


「べっつにー! 確かに『誰に見られてるか』は重要よね」


 ティアにはジョンのことをきっちり説明してあるので、俺達は好き放題にいいながら楽しく本を読んでいく。子供の頃から波瀾万丈な……ジョンがいなかったらあっさり死んでそうだが……キャナルの人生は正しく冒険活劇のようで、俺達の知らない生活様式も相まって読み物として実に面白い。


 楽しく明るいページではふんわり甘いシフォンケーキを、挫折と苦難のページでは苦いコーヒーを。共に過ごした一年の記憶を味と一緒に振り返りながら、次へ次へとページをめくる手はドンドン進み……だが遂に、物語の終わりの時がやってくる。





――第〇一〇世界『勇者顛末録(リザルトブック)』 終章 去り逝くは終わりに非ず


 こうして本人の意思とは無関係に幾度も世界の危機を救った勇者キャナルだったが、その身が人である以上、寿命に打ち勝つことはできなかった。病床に伏せ生命維持装置を繋がれたキャナルの傍らに、この一〇年姿を現すことの無かった懐かしい存在が立つ。


 自分がどれだけ年を取っても、何故か姿が変わることのなかった相棒。だがその顔はいつも曖昧で、どういうわけだか思い出そうとしても思い出せなかった。


 だが今はその顔がわかる。無貌であった相棒は自分が若い頃にほんの少しだけ関わった不思議な友人の一人にそっくりで、老いさらばえたキャナルの脳裏にかつての想いが蘇る。


 無数の管が繋がれた枯れ木のようなキャナルの手に相棒の手が重なると、シュワシュワと泡立つような音と共に光が溢れ、男の手が人のものとは違う様相を見せた。そのまま相棒が、己の首にキャナルの手を添えようとする。だがキャナルは最後の力を振り絞って腕を伸ばすと、相棒の頭をそっと抱きしめた。


 類い希なる分析力と推理力、それをもたらす勇者の力を宿すキャナルは、相棒が人で無いことにずっと以前から気づいていた。だがそんな些細なことは、楽しかった日々に比べれば何の意味もない。


 残された時を惜しむように、あるいは楽しかった日々に別れを告げるように。倒すべき魔王を慈しみ、勇者キャナルの最後の時が燃え尽きる。


 翌日、眠るように息を引き取ったキャナルの顔はこれ以上無いほどに安らかで、その傍らにはキャナルが好きだったコーヒーとケーキの皿がいつの間にか置かれていた。


 魔王討伐、未だ成らず。されどその脅威から世界の希望を継いだのは次代の勇者ではなく、ごく平凡に生まれ落ちた盲目の赤子であったという。





「そっか……ねえエド、キャナルは幸せだったと思う?」


 読み終えた「勇者顛末録(リザルトブック)」を静かに閉じると、ティアが俺に問うてくる。


「さあな。誰かが幸せだったかどうかを他人が語るなんておこがましいだろ。だがまあ、これを読む限りじゃ楽しかったのは間違いねーんじゃねーか?」


「そう? ならジョンは? 幸せだったと思う?」


「だから……って、そうか」


 繰り返し問われて、俺は思わず苦笑する。キャナルは赤の他人だが、ジョンは俺の一部だ。であれば確かに俺になら、ジョンがどうだったかを言う資格があるのかも知れないが……


「いや、わかんねーよ。ジョンはジョンだからな」


「フフッ、そうね……よかった」


「……………………」


 俺の答えに、ティアは「よかった」と言った。俺から分かたれたジョンが俺では無くジョンという個人であったことを、よかったと言ってくれたのだ。それは俺が魔王エンドロールのおまけじゃなく、エドという存在であることを認めてくれているかのようで、何となく俺の中身がむず痒くなる。


 そしてふと、俺は思う。俺にティアがいたように、ジョンにはキャナルがいたからこそ、俺達は自分という魂を得られたんじゃないだろうか? どんな力を持っていようと、自分一人じゃ駄目なのだ。誰かが自分を自分だと認めてくれる、それこそが「魂」の正体なんじゃないか。


(こりゃ再会は当分先だろうな)


 こんな相棒がいたんじゃ、自我を捨てて誰かの中に戻ってこようなんて思うはずがない。何なら眠ろうとしたって頭をひっぱたかれてたたき起こされるはずだ。


 幾星霜の時の果て、いつか訪れるその日。俺はジョンから聞かされるであろう相棒の自慢話に負けないよう、ティアとの思い出も積み重ねていこうとそっと胸に誓うのだった。

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― 新着の感想 ―
連投失礼します いえあの・・・前周回のスキルで調子ぶっこいてるエドではなくて、ティアをルナリーティア呼びしなければならなかった頃のヘラヘラ笑ってるだけの無力なエドはこんなだったのかなと・・・
これもしかして無力エド時代って エド(´・ω・`)勇者見つけたけど街に入れない・・・ キャナル(´・ω・`)何か変なの見つけてほっとけないけど街に入れる手段ない・・・ ジョン( ゜д゜)・・・え…
なんて素敵な結び!
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