でかくて硬くて大きい奴は、ただそれだけで普通に強い
天井を砕いて降ってきたのは、全長三メートルほどのずんぐりむっくりした金属のゴーレム。明らかに重そうであり、実際着地の衝撃で床にはヒビが入っており、現在進行形でビシビシと音が鳴っている。
「なあジョン、一応聞くんだけど、あれって室内で暴れさせるようなやつなのか?」
「そんなわけないでしょう! ほら、来ますよ!」
「うおっ!?」
ゴーレムの腕の先についた無数の金属の筒。そいつが高速回転し始めると同時に、俺達に向かって人が使うのとは比較にならない威力の飛礫がとてつもない勢いで射出されてくる。
「ちょっちょっちょっ!? さっきのと威力が段違いじゃねーか!? おいこれ本気で床が抜けるぞ!?」
「ビルごと破壊してこっちを生き埋めにするつもりでしょうか? 証拠隠滅が目的なら、最終的には更地にするつもりなのかも知れませんね」
「んだそりゃ!? 打開策は!?」
「最新型ではないとは言え、軍用のバトルゴーレムをどうにかする手段なんてありませんよ。私とキャナルのシールドはあと一〇秒も保ちません」
「チッ。なら……二人で先に逃げろ!」
俺はキャナルのみならず、ジョンも庇うように一歩前に出る。降り注ぐ飛礫の雨はその圧力を更に増し、もしも追放スキルを解除したら瞬きする間に俺の体は挽肉になることだろう。
「……いいのですか?」
「ああ! 三、二、一……」
振り返ることなく、俺はその場で腰だめに剣を構える。そのまままっすぐ「追い風の足」でゴーレムに突っ込むと、下から切り上げるようにゴーレムの左腕の付け根部分に「夜明けの剣」で斬りかかる。
(硬ぇ! だが――)
敵の硬度は思った以上に高く、「夜明けの剣」でもそのままじゃ切れない。が、俺の中には「円環反響」にて吸収した衝撃がこれ以上無いほどに溜まりまくっている!
「てやぁぁぁ!」
その半分を腕に加えて、無理矢理にゴーレムの腕を切り飛ばす。巨大な金属塊が宙を舞い、落ちると同時に床が砕ける。
「行けぇ!」
足場が崩れた一瞬の隙。それを逃さずジョンがキャナルを連れて撤退していく。不安定に倒れ込みながらゴーレムがそちらに残った右腕を向けたが、追撃を許すほど寝ぼけてはいない。
「させねーよ!」
残った半分の衝撃を使って、ゴーレムの右腕を蹴り飛ばす。その結果ゴーレムの巨体が倒れ本格的に床が抜け、ついでにビル全体の倒壊が始まった。
「うぉぉぉおおぉぉぉ!?!?」
自由落下する俺目がけて、それでもゴーレムが飛礫を打ち続けてくる。降り注ぐ瓦礫と飛礫に翻弄されながらも俺は必死に防御を固め……ふと俺の足が瓦礫の破片に触れた。
「勝機!」
通常ならば、固定されてもいない瓦礫を蹴ったところで大した推力は得られない。が、触れた足先で「円環反響」を発動させれば、俺の体はゴーレムの撃ち出す飛沫よりなお速く一直線に飛び出していく。
「貫けぇぇぇぇぇ!!!」
まっすぐに突き出した「夜明けの剣」が、ゴーレムの腹を見事に貫く。そのままゴーレムに組み付くと一緒に半回転し、ゴーレムが地面側になったところでとどめの「円環反響」を発動。射出されたゴーレムが轟音を立てて地面に激突し……そこに俺も落ちていく。
ゴォォォォォォォン!!!
真っ暗闇のなか、全身に激しい衝撃を感じながら待つ。ほんの数分で静かになったのを確認すると、俺は瓦礫の中で改めて「円環反響」を発動し、上に積もっていた瓦礫を吹き飛ばして地上へと這い出した。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ……あー、乗り切った!」
夜の闇の中なれど、大量の瓦礫の所々からバチバチという音が鳴って火が出たりしているため、思ったよりも周囲は明るい。だからこそ見たくないものもはっきりと見えてしまう。
「ははっ、大惨事だなこりゃ……」
俺が潜入したビルは跡形もなく、それどころか周囲の他のビルもかなりの被害を受けて壊れている。地面は大きく陥没しており、その中にはこれでもかと瓦礫が詰め込まれている。
うーん、これは酷い。ドラゴンが暴れたってここまではならねー気がする。確かにこれに俺以外の人間が巻き込まれたら、間違いなく死ぬだろう。
ガシャン
「ん? って、おいおいおい!?」
音がして振り向いてみれば、そこには何と腹に穴を開けたゴーレムが立っている。全身ボロボロで関節各所からバチバチと電撃を放っており、とても戦えるような状態には思えないが……
「お前ひょっとして……爆発とかするやつか!?」
艶めく青黒だったゴーレムの体が、妙に赤熱した上にふっくらと膨らんで見える。その瞬間俺の脳裏に浮かんだのは、ジョンの言っていた「証拠隠滅」という言葉。
「ヤバッ!?」
いかなる躊躇もなく、俺は全力で地面を蹴った。「追い風の足」に「不可知の鏡面」を重ね、更に「不落の城壁」「吸魔の帳」「円環反響」の全部盛りだ。だがそんな状態であるにも関わらず、俺は背中越しに死を感じた。
バチバチバチバチィ!!!
「ぐへっ!」
無様に地面に転がる俺が見たのは、俺の足先寸前まで届いた白い光。太陽の如き輝きがあらゆるものの存在を許さぬとばかりに空間を灼いていき、ツンとする臭いの後に、そこにあったはずの瓦礫だのなんだのが一切合切消失する。
そこにビルがあった痕跡はもう無い。すり鉢状にへこんだ地面は表面が硝子のように融解しており、だというのに残った熱を一切感じない。というか、あんな光を発していたのに効果範囲の外には何の影響も出ていない辺り、何か特殊な魔導具とかそういうやつなんだろう。
果たしてこれに巻き込まれた時、俺の追放スキルはどの程度の効果を発揮するのか? 意外と無傷で乗り切れたりするのかも知れねーが、試してみたいとはこれっぽっちも思えない。
「ははは……未来の魔導具半端ねーな……」
引きつった笑みを浮かべながら、俺はその場に立ち上がる。とりあえず今夜のところは乗り切ったようだが、実のところ問題はまだ何も解決していない。
「あいつらに顔見られちまってるんだよなぁ。俺はともかくキャナルは……どうすっかな」
どうやら俺達が目をつけられたのは、この世界の有名人らしい。そういう組織を相手にするのは正直言ってかなり骨だ。ゴースト……クーロンだったか? そいつだけを潰すなら「失せ物狂いの羅針盤」で居場所を特定して「不可知の鏡面」で潜入して暗殺……みたいな手段も使えなくはないが、野盗集団じゃねーんだから頭を潰しておしまいってことはないだろう。
「……はぁ、まあその辺はあとで考えるか。それよりキャナルと合流……いや、一旦事務所に帰るか?」
考えてみればジョンとの合流方法を指定していなかったことに気づき、俺は軽く考え込む。「失せ物狂いの羅針盤」で追跡することは可能だが、曲がりなりにもキャナルを助けてもらった相手を不用意につけ回すのはあまり良くない。
追っ手も……まあジョンなら平気だろ。逃げ場の無い室内に追い込まれた状態だったから苦労しただけで、外で逃げ回るなら同じゴーレムがいてもどうにでもなるだろうしな。
「となると、やっぱ事務所だな。朝まで待って戻ってこなかったら改めて探しに行くことにするか」
ポンポンと服についたほこりを払ってから、俺は事務所へ向かって歩き出す。本当なら手土産の一つも買っていきたいところだが、この世界では手首の水晶に金の情報が入っているため、現金というのがほぼ出回っていない。行きがけに会ったような奴ならともかく、普通の店でガラクタを商品と交換してもらうのは無理だろう。
「んじゃ、帰って一眠りしますかね。ふぁぁ……」
俺は軽くあくびをしつつ、これだけ騒ぎがあったにも関わらず不自然に人通りの無い道をゆっくりと帰っていくのだった。




