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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第一〇章 探偵勇者と不夜の町

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金を使うのはいいが、金に使われるのはいただけない

 夜であってもそこかしこに照明の灯る魔導都市とは言え、光の届かぬ場所は確かにある。そんな意図された暗がりにて俺の前を歩くのは、一見すれば何の変哲も無い一組の男女だ。


「……………………」


 楽しげに睦み合い、腕を絡ませるその男女の背後を、俺は息を殺してこっそりとついていく。人通りがまばらなうえにまっすぐに続く路地は通常ならば尾行には不向きだが、俺には追放スキル「注目できない石の意志(バニシングイデア)」がある。誰に気にされることもなく追跡を続け、その男女がお目当ての建物に入ったところを手にした魔導具でしっかりと記録すると、そのまま建物の前を通り過ぎてキャナルの待つ事務所へと帰る。


「ただいまー」


「お帰りエド」


「あれ、ティア? もう帰ってたのか?」


「まあね。ほら、私って優秀だから!」


 革張りの長椅子に座り、ドヤ顔で俺を出迎えてくれたティアの膝には、黒くて小さな毛むくじゃらが横たわっている。夜中に黒猫を探すというハンデも、ティアにすればどうということはないらしい。


「あら、お帰りエド。首尾はどう?」


「フッ、当然完璧さ。ほい」


 調理場の奥から顔を出したキャナルに、俺は持っていた魔導具をひょいと放り投げて渡す。するとキャナルはその魔導具を軽くいじり、目的のものが記録されているのを確認して満足げに頷いた。


「よしよし、ちゃんと撮れてるわね……にしても、ハァ」


「ん? 何だよキャナル?」


「いや、アタシ何やってるのかなぁって思って」


「何って、仕事だろ?」


 キャナルの漏らした呟きに、俺は何を今更とそう答える。そう、キャナルの仕事は探偵……民間の諜報員のようなもので、俺達はその仕事の一部を代わりにこなしてきたのだ。


「仕事なのはわかってるわよ! ただ何で五〇〇億も持ってるのに、今更こんなしょっぱい仕事をしてるのかなって……」


「ふっふっふ、わかってねーなキャナル」


「何がよ?」


 不満げな顔をするキャナルに、俺は思いきりしたり顔で言葉を続ける。


「いいか? いきなり大金を手に入れて人生が狂う奴とそうじゃない奴の違いは、『金があるから』って理由で生活を変えるかどうかなんだよ。


 例えばキャナル、お前大金が手に入ったってことで豪邸を買おうと思ったりしてねーか?」


「うぐっ!? な、何よ! いいじゃない! お金なんて使ってなんぼでしょ!?」


「そりゃそうだが、使い方の問題さ。その豪邸を買ったとして、維持費はどうする? 使いもしねー部屋ばっかりの家を維持するのに毎月どれだけ金がかかるかちゃんと考えてたか? 豪邸買ったら無駄にパーティとか開いたり、今までなら見向きもしなかった芸術品とかを買おうかなーとか思ったりしてねーか?」


「……………………」


 俺の指摘に、キャナルが猛烈に渋い表情を見せる。それが全てを物語っているが、それでも俺は言葉を続ける。


「大金を手に入れる前に欲しかった物を買うのはいいんだよ。むしろそっちは好きなだけ金をかけて最高級品を揃えりゃいい。何故ならそれは本当に欲しい物とか、それまでに得ていた収入の中で常識的に欲しいと思えた物……つまり現状なら失敗しても大したことの無い金額の物しかねーからだ。


 でも、大金が降って湧いた後で欲しいと思ったものは大抵気の迷いだ。金があるから欲しくなった……つまり理由が後付けだから、買ったところで持て余す。それまで自分に縁の無かったものを思いつきで買うんだからな。


 だから金を使うときは、一旦落ち着いて『元の収入の時でも買ったか』を考えろ。それでも失敗はするだろうけど、まあ五〇〇億もありゃ大抵の失敗は帳消しにして有り余るだろうしな」


「くっ……何で年下の人にこんな的確なお金のアドバイスをされてるのかしら……」


 肩をすくめて言う俺に、キャナルが歯がみしながら手にしたコーヒーを口にする。その苦みに顔をしかめると、ふぅと一息ついてからティアの隣に腰を下ろした。


「でも、わかった。アドバイスはありがたく受け取っとくわ。確かに一人で舞い上がってたら、絶対失敗して路上に転がる未来しか見えないもの。


 ただそれはそれとして……結局貴方達の方はこれでいいの? 魔王を倒すなんて訳のわからないことを言われたときはどうしようかと思ったけど」


「あー、それはなぁ……」


 キャナルの問いに、今度は俺の方が渋顔になる。魔王を倒す……その方針において、この世界では今までにない大きな問題が生じていた。何と「失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス)」で魔王の居場所が特定できなかったのだ。


「……………………」


 無言のまま、俺は右手の上に「失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス)」を出現させる。そうして再び魔王の位置を問いかけたが、金属枠の中には黒いもやが浮かぶのみで、羅針はぐるぐると回転し続けて一向に場所が定まらない。


「それ、今までのとは反応が違うのよね?」


「ああ、そうだ。前は『黒いもやに包まれた魔王』の姿が映ってたけど、今回は『黒いもやに阻害されて何も映らない』って感じだと思う。反応そのものはしてるから存在してるのは間違いねーはずだけど」


「問いかけるだけで対象の場所がわかるなんてとんでもない魔導具だと思ったけど、思ったほど万能でもないのね」


 ティアの問いに俺が答え、俺の答えにキャナルが反応する。俺は「失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス)」を消すと、ティア達と向かいの長椅子に座ってテーブルの上に用意されていたコーヒーを一口飲んだ。


「というわけで、現状手詰まりだから、何か動きがあるまではキャナルの仕事を手伝おうと思ってる」


 最初からいなかったのかあるいは何処かの段階で根絶に成功したのかは知らないが、この世界には魔獣はいない。町を囲む防壁は、魔獣ではなく人の不法侵入を防ぐためのものだ。


 なので当然魔王の手がかりなんてものも一つもないわけで、俺としては動きようがない。


 が、俺達がここにいる以上魔王は確実に存在しているはずだし、何よりキャナルは勇者だ。ならばその生き様には必ずこの世界の今後を左右する何かが含まれているはずなので、キャナルと一緒に活動することこそが魔王に近づく一番の道だと俺は考えている。


 それに、前回のように俺の存在に魔王の方が気づいて近づいてくる可能性もある。手首の水晶がないので派手に動き回るのは無理だが、活動を続けていれば何らかの反応があるかも知れない。


「ま、アタシは別にいいけどね。夜だけとはいえ無給で二人も手伝ってくれる人が増えるなら随分仕事が楽になるし……生活費をアタシが負担してるんだから、正確には無給じゃないけど」


「それでも格安だろ? ってか、一応言っとくけどあの五〇〇億は俺の金で俺が当てたもんだから、キャナルの懐にあったとしても俺の金だぞ?」


「……はっ!? あ、そうよ! 言われてみたらそうじゃない! あのー、エドさん? できればちょっとくらいおこぼれというか、手数料的なものをいただいてもよろしいでございますでしょうか?」


 驚愕の表情を浮かべたキャナルがいきなり揉み手を初めて、俺は思わず苦笑してしまう。


「急に卑屈になったな……どうせ使い切りゃしねーだろうし、この世界を出て行けば使えない金だからな。余った分はやるから、その間の協力を頼むよ」


「ホント!? やったー! じゃ、じゃあ手始めにマギコンを最新のやつに買い換えたりしても? あと椅子もいいやつにしたい! コーヒーもお高くて買えなかったこだわりの豆を……」


「ははは、手付けってわけじゃねーけど、とりあえず一〇〇〇万くらいまでなら好きに使っていいぜ。さっきも言ったけど、そのくらいの範囲で賄えるのは最初から欲しかったものだろうしな」


「うっわ、エドさん太っ腹! エドさん最高! 大好き!」


 長椅子から飛び上がったキャナルが、俺に正面から抱きついてくる。


「あら、エドったらモテモテね?」


「これをモテてるとは言わねーだろ」


 男なら喜びたいシチュエーションだが、瞳の中に金しか映ってない女に抱きつかれても素直には喜べない。穏やかな顔で膝の上の猫を撫でているティアに、俺は曖昧な笑みを浮かべておく。


「よーし、レンジも新調しちゃいましょ! あとカーテン!  気になってたクルリカンのお取り寄せグルメも買っちゃおうかしら? 最新コスメでバッチリお化粧して、服とか下着も……いやん、えっち!」


「知らねーよ! いいから降りろ! で仕事しろ!」


「きゃふん!」


 はしゃぐキャナルの頭をパコッとひっぱたくと、俺はもう一口コーヒーを飲んでから今後の活動に思考を巡らせていった。

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― 新着の感想 ―
モテてるとは言わないけど嬉しいだろうとも思う〜笑
超文明世界で活動している魔王って聞くと… 世界を股にかける大企業の社長で、経済界を牛耳る魔王やってそう……
[良い点] キャナルがなんか懐かしい感じがするキャラ
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