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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第一〇章 探偵勇者と不夜の町

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嘘より嘘くさい真実は存在するが、それを信じてもらえるかは別の話だ

「まったく、何でアタシが買ってくるのよ。これじゃアタシが使いっ走りみたいじゃない……」


 ブツブツと文句を言いながら、キャナルが手にしたフォークで皿の上に乗せた茶色い焼き菓子をつつく。なんだかんだ言いつつもきっちり俺達の分まで買ってきている辺りがキャナルの人柄を表しているところだ。


「あ、これ美味しい! コーヒーはすっっっっっっごく苦かったけど、これと一緒に飲むとそっちも美味しい気がするわ」


「でしょ! そうなのよ、コーヒーは砂糖やミルクを入れるんじゃなく、シフォンケーキと一緒に飲むべきなのよ! そうすることでコーヒー本来の香りと味を楽しむ余地が生まれ、同時にクリームの甘みとスポンジの柔らかさが……って違うわ!」


 ティアの言葉に途端に上機嫌になったキャナルだったが、不意にまた眉を釣り上げてズビシッと俺にフォークの先を突きつけてくる。


「おい、行儀が悪いぞ?」


「知らないわよ! それより町に入る協力をしたんだから、いい加減貴方達のことを教えなさい!」


「あー、そうだったな。じゃ、とりあえず自己紹介からしとくか。俺はエド。で、こっちは……」


「私はルナリーティアよ。ティアでいいわ」


 もぐもぐとケーキを食べながら、俺とティアが名乗りをあげる。するとキャナルもまたクリームをたっぷり乗せたシフォンケーキを一切れパクリと食べてから、微妙に胡散臭そうな表情で答える。


「エドにティアねぇ……あからさまに偽名っぽいけど、まあいいわ。知ってるみたいだったけど、こっちも一応名乗っておくわ。アタシはキャナル。キャナル・B・キャロラインよ」


「家名があるってことは、キャナルは貴族なの?」


 純粋な疑問を口にしたティアに、しかしキャナルは思い切り眉根を寄せる。


「貴族ぅ? 何よそれ、ホームネームなんて誰でもあるじゃない。ま、そっちのは教えてくれないみたいだけど?」


「えぇ? そんなこと言われても……エド?」


「ははは、この世界ではそういうもんなんだろ。で、キャナル。勘違いしているようだが、俺達は本当にエドとティア……いやまあティアはルナリーティアだが……が本名なんだよ」


「? 意味がわからないわ。生まれが孤児で本当のホームネームがわからないとか、そういうこと?」


「違うって。なら最初の質問と一緒に答えよう。俺達に家名が無く、手首の水晶……フラグメントだったか? そいつが埋め込まれていない理由。それは俺達がこことは違う世界から来た人間だからだ」


「……………………えぇ?」


 真っ正面からそう告げた俺に、しかしキャナルは困惑の表情で口元を引きつらせる。


「何その……何? そんな子供でも言わないような与太話を本気にしろって言ってるわけ? アタシを馬鹿にしてるとかじゃなく?」


「おう。本気も本気だ」


「……………………」


 俺の言葉に、キャナルが天を仰いで頭を抱える。


「うわぁ、変な格好した奴らだとは思ったけど、そっち系の人かぁ……これどうすればいいかしら。病院の前に放り出しとけば回収してくれるかな?」


「何だ、信じてくれねーのか?」


「何で信じてもらえると思ったのよ! 何? それとも次元穿孔船ノアブレインにでも乗ってきたって言いたいの?」


「何それ!? そんな船があるの!?」


 キャナルの呟きにティアが食いつき、そのキラキラした翡翠の瞳に迫られてキャナルがタジタジになる。


「ふぁっ!? え、えーっと……それはまあ、政府が秘密裏に開発してるって噂があるようなないような……」


「へー、そうなのね。私が世界の壁を越えようとしたらとんでもない量の魔力が必要になるのに、それができる船があるなんてこの世界は本当に発達してるのねぇ」


「…………えぇ? マジなの?」


「さっきから言ってるだろ? マジなのだよ。思い込んでるとかじゃなくてな」


 本気で感心しているティアにキャナルが戸惑いながら視線をこちらに向けてきたため、俺はそう言いつつ腰の鞄から金貨を一枚取りだしてテーブルに置く。


「ってことで、まずはこいつだ。ケーキとコーヒーの代金としちゃ十分だろ?」


「これって……金貨? 見たことない意匠だけど……って、金貨!? まさかこれ、純金なの!?」


「多分な。それを発行してる国が落ち目じゃないなら、相応の純度があるとは思うぜ。どうだ、そいつにどのくらいの価値がある?」


「そう、ね……もし純金なんだとしたら、ここの家賃一ヶ月分くらいかしら?」


 つまみ上げた金貨を手に、重さを調べたり裏表をひっくり返してしげしげと見つめたりしつつキャナルが答える。家賃一ヶ月分となると思ったよりも安い気がするが、この世界では純粋に金としての価値しかないと考えればおそらくは妥当なんだろう。


 ちなみにだが、一周目の時は当然「俺は異世界人だ」なんて名乗ってはいないので、手持ちの品を換金したことはない。ちょっとくらいやっておけばここで何か言えたんだが……まあやってないものは仕方ない。


「ならケーキの代金としては十分だな。どうだ? ちょっとくらいは信じる気になったか?」


「まさか。流石にこの一枚はメッキじゃないでしょうけど、オーブラ……連邦通貨じゃないんだから、これを鋳造したって罪には問われないわ。なら極論金持ち向けのお土産品って可能性すらあるじゃない。そんなもので異世界人の証明になんてなるはずないでしょ」


「ふむ、それもまあ道理だな。ならもう一つ札を切ろう。俺がキャナルを知ってた理由なんだが……実は俺は未来から来たんだ。いや、正確には色々な世界を渡り歩いて一〇〇年くらい過ごしたんだが、とある理由で最初に戻ってもう一回やり直してるってところか。


 で、俺にはこの世界であんたと一緒に過ごした半年ちょっとの記憶がある。どうだ?」


 ニヤリと笑って言う俺に、キャナルはあからさまに顔をしかめる。


「うっわぁ……異世界人で未来人で、過去に戻ってもう一回やってきた? いくら何でも設定盛りすぎでしょ。むしろ絶対貴方のことは信じないと固く心に誓いたくなったわ」


「だろうな。だから証拠を見せる」


 俺の言葉に、キャナルが大げさに肩をすくめて息を吐く。


「ハァ、今度は何? お土産の次は当たり障りのないどうとでも取れる未来予知をしてみせるとか? 今時そんなの詐欺師どころか場末の占い師だってやらないわよ?」


「そんなことしねーって。確か……正確な日時はわかんねーけど、近々こう、数字を当てるような賭博があったと思うんだが……」


「賭博? あー、ダイスレインのこと?」


「ダイスレイン?」


 話に入ってきたティアの方に視線を動かし、キャナルが問いに答えてくれる。


「二三一個のダイスを振って、どんな目が出るかを賭ける公営のギャンブルよ。ルーレットみたいに偶数、奇数だったりハイアンドロー、変わったところだと素数なんかにも賭けられるし、例えば一のダイスは幾つ出るかとか、合計が幾つになるかとかの細かい賭け方もできるわ。


 抽選の様子はマナビジョンで中継されるし、子供のお小遣いみたいな少額から賭けられるから運試しにやる人も結構いるわね」


「そうそう、それだ! で、俺はそいつの『答え』を知ってる」


 言いながら、俺は追加で一枚金貨を取り出し、テーブルの上に置く。


「こいつを換金して、俺の指定した番号に賭けてくれ。俺の言うことが本当なら俺達は大金持ちになれるし、失敗しても元手は俺の出した金貨なんだからあんたに損はない。


 もっとしょぼい場だったらどうしようかと思ったが、公営ならイカサマもできねーだろうし、うってつけだろ?」


 俺の提案に、キャナルが腕組みをして考え込む。正体不明の俺達を数日とはいえ抱え込むリスクと、その正体を知りたいという好奇心の狭間でせめぎ合っているんだろう。だが俺の知るキャナルなら……


「うーん、さっきもらった金貨だけでも貴方達を数日泊めるくらいのお金には十分だし……いいわ、乗ってあげる。ただし貴方達を訪ねて警察なり何なりがきたら厄介ごとになる前に突き出すし、アタシは無関係を主張して一切庇わないわ。それでもいい?」


「勿論。そいつの結果が出れば、二度と俺達を粗雑には扱えなくなるだろうしな」


「なら交渉成立よ。期待を裏切らないでね?」


 予想通りの決断をして外向きの笑顔を見せるキャナルの手をガッシリと掴み、俺達はひとまずこの世界でのねぐらを確保することに成功した。

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