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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第九章 騎士勇者の懊悩

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他人が眉をしかめる措置も、本人が望むならそれはお礼だ

「やあエド君。よく来てくれたね」


「あはははは、どうも……」


 以前にも訪れたことのある、詰め所の一室。笑顔なのに笑っていないという器用な表情を見せるブラウン閣下を前に、俺は何とか笑顔を作ってみせる。


 なお閣下の側に立つアルゴ氏はこの前より少しだけ俺に近い位置に立ち……万が一の時に閣下を守ることよりも、俺を仕留めることを優先してるんだろう……俺の背後では扉の前にガッツリとアメリアが立ち塞がっている。そこから感じられるのは「絶対に逃がさねーぞコノヤロウ」という鉄の意志だ。


 ちなみに、ティアはこの場にいない。あの後寝ぼけ眼でふらふら歩くティアを結局俺がおぶって移動したのだが、その途中で再び寝てしまったのだ。そこまで疲労しているティアを更に連れ回す気にはなれず、今は診療所にて眠らせてもらっている。単純に疲れているだけだろうという診断結果だったので心配はなさそうだ。


 そんな事を考えていた俺の前で、閣下の口元が軽く釣り上がる。おそらく笑っているのだろうが、笑っている感じはこれっぽっちも無い。


「そう緊張せずともいいだろう。そうだな、勘違いしないように、まずこれだけははっきりと言っておこう。我々はエド君の働きに対し、心から感謝している。君の情報が無ければこの町に防衛戦力を集めることが遅れ、今頃は突破されてしまっていたかも知れない。


 このドラスドンが落ちるとなれば、ここに住む一万人のみならず、その背後に控える我が国の民、ひいてはここを入り口として世界中に魔獣の群れが大挙して押し寄せていた可能性すらあるのだ。


 それを未然に防げたのは偏に君の活躍があればこそだ。この町の防衛を任された者として、重ねて感謝の言葉を述べる。ありがとう、君は英雄だ」


「あー、はい。そりゃどうも……」


 閣下からの掛け値無い賞賛の言葉も、しかし俺としては素直に受け入れることができない。こういう褒め言葉の後には絶対ろくでもない話が待っており……そしてその予想は残念ながら裏切られることはなかった。


「が、しかし。それはそれとしてだ。魔獣の腹の中で二ヶ月も生き延びられる方法にも興味があるが、我々が最も懸念しているのは先の戦いで見せてくれた君の戦闘能力だ。報告によるとただの一振りで何千もの魔獣の息の根を止め、我々が総力をあげてもかすり傷一つ負わなかった巨人を一刀のもとに斬り伏せたとか。


 あれは一体何だ? 君は一体どれほどの力を隠している? あんな力があるのに、どうして今まで使わなかったんだね?」


「いやぁ、それはその……私にも色々事情があったといいますか……」


 鋭い眼光を向けてくる閣下に、しかし俺は言葉を濁す。


 特に隠す理由は無いので、別に正直に話すのは構わない。ならば何故そうしないのかと言えば、話す内容がどうしようもなく胡散臭いからだ。自分は魔王で、何故かその中に勇者の力が湧いてきてて、両方使ったらあんなの楽勝だったぜ! なんて説明が許されるのは精々五歳までである。


 それでも再現できるならまだ何とかなるが、実のところあの力はもう使えない。追放スキルの方はおそらく一晩寝れば戻ると思うが、あそこまで過剰に圧縮された魔王の力は流石に戻らないと思う。あるいは意識してそうすればできるのかも知れないが、そうすることを想像するだけで全身から冷や汗が噴き出し、本能レベルでヤバいと警告を発してくるので試す気はこれっぽっちも無い。


 対して勇者の力の方だが、それも使い切ってしまったのであれで終わりだ。俺は勇者じゃないのでこっちは休んだら回復するとかもないだろうし、そもそもどうして俺の中に勇者の力があったのかもわからねーから、これに関しては本当にどうしようもない。


 つまり再現不能な胡散臭い能力を使いました……なんて説明しかできないわけで、これなら正直何も言わない方がいい。下手に本当のことを言ったら馬鹿にされたと思われるだろうしなぁ。


 そしてそんな俺の複雑な表情に、ブラウン閣下が小さくため息をつく。


「ふむ、言えないか。まあいいだろう。傭兵の君に手の内を明かせと言っても無理なことくらいは予想の範囲内だ。だがそうなると……君にはこの町を出て行ってもらう必要がある」


「そんな!?」


 閣下の言葉に、俺の背後から驚きの声があがる。軽く首を回して振り向いてみれば、そこには大きく目を見開いたアメリアの姿があった。


「どういうことですか閣下! 町の……いえ、国の英雄を追い出すなど!?」


「落ち着きたまえカールトン。実はここに至るまでに、エド君の経歴を調べていたのだ。すると彼にはここに来る前の足取りが何処にもなかった。また彼が故郷だと話していた場所でも、彼のことを知る者はいなかったらしい。これは何とも不思議な話ではないかね?」


「っ!? そう、なのですか……?」


 眉根を寄せてこっちを見てくるアメリアから、俺は軽く目をそらす。傭兵仲間との会話で軽いカバーストーリーは語っていたが、当然それは軍が本気で調べてもわからないなんてクオリティでは全く無い。別人になりすましてるとかでもなく本当に何の痕跡も無いはずだから、むしろ簡単にわかったことだろう。


「何処の誰ともわからない人間。それ自体はまあいい、傭兵ならそんなものだからな。だがそんな人物がたった一人で城壁都市を壊滅せしめるほどの戦闘力を有しているとなれば話は別だ。そのような危険人物に対する対処など首輪をはめて飼い慣らすか、あるいは……」


「あり得ません! そこに誇りはあるのですか!?」


「無いな。ああ、誇りなどというものはない。だが私はこの国の貴族であり、軍人なのだ。優先すべきは個人の感情ではなく国益であり、はめる首輪の見当たらない、然りとて殺すことも敵わない狂犬となれば、追い出すくらいしか思いつかないのだよ」


 訴えるアメリアに、ブラウン閣下はバッサリと切って捨てる。それにアメリアが苦しげに表情を歪め……ならばと俺は閣下に切り出す。


「わかりました。ですがティア……相棒の様態が心配です。せめて三日ほどは滞在を許可していただけませんか?」


「いいだろう。では四日後の朝を以て君達二人を防壁都市ドラスドンから追放とする。話は以上だ」


「ありがとうございます。では、失礼します」


 特に食い下がるでもなく、俺は部屋を後にする。するとすぐに背後から追いかけてきたアメリアが、俺の肩を掴んで引き留めてくる。


「待ってくれ! 違う、違うのだ! 私は君達にこんな恩知らずなことをしたかったわけでは――」


「はは、落ち着いてくださいアメリアさん。俺達は別に気にしてませんよ。というか、むしろ随分と気を遣ってもらっちゃいましたし」


「……? どういうことだ?」


 意味がわからず首を傾げるアメリアに、俺は「あくまで推測ですが」と注釈を入れ、歩きながら今のやりとりを説明していく。


「ここで今のやりとりをしなかった場合、俺とティアはそのままもっとでかい町……それこそ王都なんかに呼び出されたと思うんですよ。で、そこでさっきの二択を迫られた場合、俺達には選ぶ余地がないんです。そりゃ断ったら殺されるわけですからね」


 単身で敵地に乗り込み、見える範囲で何千もの敵を一瞬で殺す技。あるいは城壁すらも易々と打ち砕くような豪撃。そんなものが使える個人を国が見逃すはずがない。敵国に利用されれば即座に脅威となるのだから、極端に自由を制限されていいように使い潰されるか、あるいは後顧の憂いを断つ為に殺されるだろう……実際そうできるかは別として。


「なので、そういう避けられないやりとりをこの場で終わらせ、かつどちらも選ばないという選択肢を残してくれたんです。ここで追放しておけば、少なくともいきなり強制招集とかはかけられないでしょうからね。


 まあその結果俺が他国に士官したりしたら、閣下の立場は一気に悪くなると思いますけど……それを覚悟してでも俺達の意志を尊重してくれたんです。それが閣下なりの感謝だったんだと思いますよ。実際スゲー助かりましたし」


「そう、なのか…………何というか、エド君はこういうやりとりになれているのか?」


「それなりに色々経験してますから」


 笑いながら言う俺に、アメリアがようやく固まっていた表情を崩す。


「自分よりずっと年下の相手に人生経験を語られるとはな……これでは形無しだ。とはいえこれで終わりにはできない。私にも何か個人的なお礼をさせてくれないか?」


「お、そうですか? ならまたティアと一緒に食事をご馳走してください。食べたら元気になるような……って、あれ? 何かスゲー腹減ってるぞ?」


 改めて意識してみると、まるで胃の中が空っぽになっているかのように猛烈な空腹感が襲ってきた。あー、そういえば客観的には俺は二ヶ月何も食ってないことになるのか? うわ、これは駄目だ。何でもいいから今すぐ食べたい。


「ははは! いいだろう。そういうことなら、カールトン家の名にかけて素晴らしい食事をご馳走しようじゃないか! では、ティア君を起こすかい?」


「いや、そっちはティアが目覚めてから改めてってことで。今は――」


「おーい、エドぉ!」


 気づけば詰め所から出ていたようで、通りの向こうから俺を呼ぶ声が聞こえる。


「お偉いさんとの話が終わったんなら、さっさとこっちに顔出しやがれ!」


「そうだぞエド! お前ばっかり女を独占とか許さねーからな!」


「トマソン……あの、隊長殿。お邪魔じゃなかったらエドを借りても……?」


「……ということなんで」


「ああ、行ってくるといい」


 苦笑するアメリアに見送られ、俺はガストル達の方へと歩いて行く。その日仲間達と飲んだ酒は、空っぽの俺の中にこれでもかと注がれ続けるのだった。

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― 新着の感想 ―
この傭兵のおっちゃんたちも愉快な人たちだったなぁ。 まあ酒の席どころか死線でも下品な話題が飛び出してくるんだけど、裏表がなくてシンプルないい奴らだった。 エドが使える奴だと知りつつ解放することを選んで…
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