光と闇が備わると、割と本気で最強になる
今回からエド視点に戻ります。
「エ、エ、エ、エドぉぉぉぉぉぉ!? 巨人の腹の中から、エドが出てきやがっただとぉ!?」
こっちの世界に帰還早々、近くから聞こえた素っ頓狂な声に俺が顔を向けると、そこには驚愕に目を見開くガストルの姿がある。
「ん? おお、ガストルじゃねーか。何でお前がここにいるんだ?」
「そりゃこっちの台詞だろ!? どういうこった!? 巨人の腹から出てきたと思えば……ホントに生きてんのか!?」
「そりゃ生きてるさ。って、おっと!?」
ガストルの間抜け面にニヤリと笑って見せたところで、俺を抱えたティアが不意によろける。慌てて腕の中から飛び降りると、俺はティアの体を素早く支えた。
「大丈夫かティア? つーか、どんだけ無茶したんだよ」
俺の意識がはっきりしているのは、あの日魔王に食われたところまでだ。故にどうして今俺が俺としてここに存在しているのかはわからねーが、それを為してくれたティアがどれだけ大変だったかは想像に難くない。
「へへへ……ちょっと頑張り過ぎちゃったみたい」
「まったく……」
くったりとその場に座り込んで笑うティアに、俺は苦笑しながらその頭を撫でる。ああ、この顔を見られただけで終わりのない地獄に戻ってきた価値は十分にある。
「おいエド! 無事ならお前も戦ってくれよ! 逃げたいのに逃げる隙すらねーんだよ!」
「そうだそうだ! せめて俺達がティアちゃんを抱えて逃げる時間くらい作れや!」
「トマソンにジョナサンか! あー、確かに割と大変な状況みてーだな」
端から上がる抗議の声に、俺は改めて周囲を見回す。何故かここだけちょっとした空白地帯になっているようだが、周囲にはとんでもない数の魔獣がひしめいている。それをガストル達三人が必死に食い止めてくれているようだが……
「てか、この調子でよく保たせてるな」
「何だか知らねーけど、町の方から時々攻撃魔法が飛んでくるんだよ! それよりマジで限界だ! 早く――」
「わかったわかった。まあ任せろ」
本気で焦るガストル達に、俺は腰に手を回し……スカッと空を握ったところで、ティアが俺に剣を差し出してきた。
「はい、これ。アメリアから返してもらっておいたわよ」
「おお、サンキュー! こいつがありゃ完璧だ!」
「ねえ、エド。悪いけど私もちょっと限界かも。少しだけ休んでも平気?」
「勿論。安心して寝とけ」
「うん。じゃ、お願いね」
そう言うと、座ったままティアの目が閉じられる。そこから感じられるのは全幅の信頼。数え切れない魔獣のただ中であろうとも、俺がティアを守り切れないなんて微塵も感じていない証拠。これに応えないのは男じゃない。
俺はティアから受け取った「夜明けの剣」を構える。返ってきた確かな手応えは俺の全力を受け止めるに十分。
「随分とはしゃいでるが、お前達の出番はここまでだ。今の俺は――」
「ヤバッ!? エド、そっちに抜けた!」
腰を落とす俺の眼前に、ガストルの脇を抜けた魔獣が飛びかかってくる。だがもはやそんなもの、何の脅威でもありはしない。
「ちょっと強いぜ?」
一閃。水平に「夜明けの剣」を振り抜けば、宙空に黒い線が走る。するとその線の軌跡に在った魔獣の命が、瞬きの間に終わりを告げる。
「……………………は?」
バタバタと音を立てて、暴れていた魔獣の体がその場で地面に倒れ伏していく。かがんでいたりジャンプしていたりでタイミングの合わなかったいくらかの取りこぼしはあれど、ただの一振りにてこの場に蠢く魔獣のほぼ全ての生命活動が停止した。
「…………お、おいおいおい。何だこりゃ? エド、お前何を――」
「エド、後ろだ!」
「ん?」
驚く声とは別に警告を叫ばれ振り向いてみれば、俺の背後では黒い破片が集まって人っぽい形になっていた。破片同士の隙間からは黒いもやが吹き出しており、いかにも無理矢理動いてますって感じだ。
「こいつはまた……事情はよくわかんねーけど、随分不格好になったな魔王様?」
「ウォォォォォォォォ!」
「もう言葉すらしゃべれなくなったか? まあいいさ」
「ウォォォォォォォォ!」
全身ひび割れた魔王の拳が、俺に向かって振り下ろされる。その大きさやリーチの関係上どう考えても避けられないが、そもそも避ける必要などない。
バチィィン!
「ウォォォォォォォォ!」
「ハッハー! どうしたデカブツ? その程度かよ?」
夜明けの如き黄金の輝きを宿す「夜明けの剣」が、魔王の拳を派手な音と光を立てつつはじき返す。当然だ。この刃の部分に宿っているのは魔王にとって天敵となる力。万全の状態ならまだしも、こんな壊れかけの拳でどうにかできるはずもない。
「せめてもの情けだ。一撃で終わらせてやる」
大上段に剣を構え、俺は己の全てを「夜明けの剣」に注ぎ込む。闇よりなお深い夜の黒と、光よりなお眩い朝の黄金が寄り添って伸びた刀身は見上げるほどに高く伸び、その輝きに壊れかけの魔王は怯えたように咆哮をあげる。
「ウォォォォォォォォ!」
「終わらぬ夜にて終わりを告げて、登る朝日で始まりを分かつ! 見よ、これぞ無双の一撃!」
力強く一歩を踏み出し、新たな時代を切り開く剣を渾身を込めて振り下ろす。その刃は時空すら切り裂き、たかだか三〇メートル程度しかない魔王の体を真っ二つに分かつ。
「ォォ……ォォォォォ…………」
分かたれた破片同士が、再び黒いもやを介して繋がろうとする。が、どれだけ互いに身を寄せても、それは二度と繋がらない。
「わかってんだろ? 勇者の力で切り離し、魔王の力で終わらせた。もうこの世界には、過去にも未来にもお前の居場所は存在しない。真なる夜明けに目覚めた我が剣に……」
「ォ……ォ……ォォォ…………」
サラサラと黒く輝く砂になって、魔王の体が空へと消えていく。それはいずれ世界に開いた小さな穴から「白い世界」へと抜けていき、この世界から完全に消え去ることだろう。
それはこの世界の根幹に刻まれた歴史となり、以後たとえ世界が繰り返そうとも、二度とここに彼の魔王は戻らない。即ち――
「万象一切、断てぬ物無し!」
決め台詞と共に「夜明けの剣」を鞘に収めれば、この場に存在する全ての脅威が消え去った。フゥと短く息を吐けば、俺の元にガストル達が駆け寄ってくる。
「うぉぉい! エド、テメー何だ今の!?」
「ってか、そもそも何で生きてるんだよ!? 生きてる……よな?」
「よしエド。お前疲れてるだろ? 寝てるティアちゃんは俺に任せて……イテェ!?」
「馬鹿言ってんじゃねぇ! ティアを運ぶのは俺の役目に決まってんだろ! てかティア……ティア?」
「……くぅ」
「嘘だろ? この状況で熟睡!?」
軽く休んでいるだけかと思ったのに、ティアの口から安らかな寝息が漏れている。軽く肩を揺すっても起きないあたり、かなり本気で寝ているようだ。
え、これ冗談じゃなく背負っていかないと駄目なやつか? いやそのくらいならいくらでもしてやるけど……
「やあエド君!」
「うひっ!?」
意識の無い人間を背負うというのは、それはそれで難しい。どうしたものかと考えている俺の背を、とても朗らかな……それでいて冷ややかな声が貫いてくる。
「あ、アメリアさん!?」
「ああ、そうだ。急いで町から走ってきたのだが……無事だったようでまずは安心した。君の生還を心から祝福しよう」
「あ、ありがとうございます……」
ニッコリと笑う……だが目が全く笑っていないアメリアの賛辞に、俺は引きつった笑顔で答える。
「で、だ。ちょっとエド君の話を聞きたいんだが、いいかい?」
「お、俺の話ですか!? 面白い話だったら、そこにいるガストルとかの失敗談の方が鉄板だと思いますけど……」
「いやいや、是非とも君の話が聞きたいんだ。色々と……そう、色々とね」
そう言うアメリアの視線が、ゆっくりと左右に動く。あ、はい。そうですよね。何千もの魔獣を一撃で仕留めたり、魔王……アメリア的には多分でかい魔獣……を光る剣でぶった切ったりとかしましたもんね。そりゃー事情は聞きたいだろう。わかるけれども……
「あ、あはははは……えーっと、あ、ほら! 俺ティアを連れていかないといけないんで……」
「むにゃむにゃ……あ、エド。おはよう?」
「何で今起きるの!?」
完璧なタイミングで目覚めたティアを見て、アメリアの笑みが一層深まる。
「どうやらティア君も起きたようだし、二人一緒に話を聞かせてもらうってことでいいかな?」
「……………………」
「いいかな?」
「……あ、はい」
凄むアメリアに、俺は最高に胡散臭い笑みを浮かべてそう答える。どうやら俺の必殺の一撃も、世のしがらみまでは断てなかったようだ……ぐぬ。




