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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第九章 騎士勇者の懊悩

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私は目を背けない。ただ貴方と同じモノを見つめ続ける

「……………………」


 気づけば、ルナリーティアは元の黒い世界……魔王の精神世界へと戻ってきていた。目の前の破片には今さっき自分が見てきた光景が繰り返し映し出されており、触れている指先は少しだけ温かい。


「……………………」


 その破片をそっと拾い上げると、ルナリーティアは万感の思いを込めてその胸に押し抱く。


 エドを追放した勇者を責める気にはなれなかった。最初は優しく諭すように、徐々に厳しく、最後には暴力的に追放したとはいえ、事情を知らない側であればあの対応はむしろよく我慢したと言えるようなものだ。


 最後の悲劇だって、エドが必死で魔獣から逃げればきっと勇者の助けが間に合ったことだろう。それをしなかったのは「これで帰れる」とエドが無駄な抵抗をしなかったからであり、そもそもエドは小さな子供というわけではなく、この世界基準ではとっくに成人したいい大人だ。勝手に着いてきた相手の生死まで勇者に背負わせるのはそれこそ傲慢というものだ。


 対してエドの方はそんな勇者の優しさにつけ込み強引に同行したとして、非難されてしかるべきだと思える。もし自分が出会ったエドがこんな態度を取っていたなら、一緒に旅をするどころかエドを探そうとすらしなかったかも知れない。


 だが、自分はエドの事情を、真意を知っている。そう在れと神に生み出されたエドが「家に帰りたい」と願うことをどうして否定できるだろうか。


 ならば誰が悪いのか? エドにこんな運命を与えた神こそが元凶と言えるかも知れないが、そもそも神がどうしてエドにこんなことをしているのかがわからない。自分が蟻を踏み殺さないように注意して歩くことなどないように、もしエドが無意識に人や、それこそ世界を壊してしまうような魔王だったりすれば、この処置が当然と言う意見だってあるかも知れない。


 知らないことも、わからないことも沢山ある。だから安易に「悪」を決めつけたりしない。それでもエドが、自分の大事な仲間が辛く悲しい目に遭っていたという事実だけは曲げようがなくて……故にルナリーティアはギュッと破片を抱きしめ続ける。


「…………いかなきゃ」


 短いような長いような、心を込めた抱擁を終えると、ルナリーティアは再び歩き出した。破片からは自分の他にもう一本赤い糸が伸びており、おそらくそれは別の破片に繋がっているのだろう。


 そう思ったルナリーティアは再び黒い世界を歩き始め、程なくして新たな破片を見つけた。それもまた触れた瞬間に新たな世界の記憶が流れ込んできて、その全てを体験したルナリーティアは二つ目の破片も大事に大事に胸に抱える。


 それを一〇回ほど繰り返すと、やがて全ての破片を持ち歩くのが難しくなってきた。そこで一端拾った破片を地面に広げてみると、何となく組み立てられそうな気がしてくる。試しに破片同士を合わせてみると、それがピタリとくっついて人の足の形になった。


「なるほど、こうすればいいのね」


 方向性を見いだしたことで、ルナリーティアは更に破片を集めていく。不思議なことに組み立てたエドの破片はどれだけ進んでも振り返るとすぐそこにあり、ならばとズンズンと糸を辿って進み、心が壊れそうになるほど辛い記憶を大事に胸に抱いては一つ一つを丁寧に組み立てていく。


 三〇個、五〇個、七〇、八〇と破片を組み立てていく中で、そのほとんどは見たことの無い景色ではあったが、時には自分が知っている人物の別の顔を見ることもある。


 あれほどエドを尊敬していたミゲルが、「お前のせいで別の精霊と契約できないんだ! 今すぐ僕の前から消えろ!」とエドを罵っている。


 一緒になって大冒険をしたレベッカが、船から追い出されるエドをどうでもいい存在として一瞥している。


 エドが尊敬する師であったドルトンは諦めの混じった苦笑いでエドが工房から消えてくれたことにほっと胸を撫で下ろし、仲の良かったワッフルはまとわりつく弱者がいなくなったことにむしろ喜びすら表していた。


 その光景の全てが、ルナリーティアの胸に刺さる。今の関係があるからこそ、そうなってしまった彼らと、そうさせてしまったエドの在り方があまりにもやるせない。


「うっ……」


 何処にもやり場の無い気持ちがあふれ出そうで、ルナリーティアは思わず口を押さえてうずくまる。


 それでも、足は止めない。これこそがエドの生きてきた世界なのだと、それを知ることができたことに喜びすら感じる。口先だけでは無く、一緒に背負えているのだというその実感があるからこそ、ルナリーティアは前に進み、破片を集め続けることができる。


 そうして九九個の破片を組み立て、残りは最後の一つ。ぽっかりと空いた胸の部分の隙間を埋める破片は、今まで自分が見ていなかった世界の記憶。


 今すぐに逃げ出したい。恐ろしくてたまらない。それでもルナリーティアは最後の破片に手を伸ばし……その先にあった世界では、もう一人の自分がエドと対峙していた。





「ねえ、貴方まだ付いてくるつもり? アレクシスだって何度も言ってるけど、貴方の実力じゃ一緒に旅はできないの! いい加減わかりなさい!」


「いやいや、わかってはいるんです! わかってるんですけど、どうしても一緒に旅をする理由がありまして……」


「だから、その理由って何なの?」


「それは……ちょっと言えないですけど」


 眉をつり上げ毅然とした態度で言うかつてのルナリーティアに、エドは困り切った表情でそう告げる。当時の縛りは今よりもずっときつく、事情を知られてしまうと本気で「追放」してもらえない……つまり元の世界に帰れなくなってしまうからだ。


 が、それはあくまでエドの事情。ルナリーティアからすればエドがどうしてもその「理由」を話さない以上会話は常に平行線であり、そんな二人の背後では、アレクシスが頭を抱えてつかれた表情を見せている。


「ハァ。どうするつもりだいティア? 君が彼を拾ったんだ。責任は取ってくれるんだろうね?」


「うっ……だって、いい年した人間なのに世間の常識すらよくわからないって言うから、少しくらいは面倒みてあげようかなって思っただけで……」


「ガッハッハ! そうだなぁ。なあ小僧。いい加減にワシ等から離れて独立してみる気はないのか?」


「それは……で、でもほら、俺荷物とか持ってますし! それに料理とか宿の手配とか、雑用だって全部――」


 なおも食い下がるエドに、しかしアレクシスは厳しい表情で言葉を続ける。


「荷物持ちが必要なら、きちんと報酬を出して優秀な人物を雇う。料理や宿の手配なんて誰でもできる。


 いいかい? 君は何かに秀でた専門職でもなければ、全てを一定水準以上でこなせる万能職でもない。単に誰でもできることができるだけの無能な雑用なんだ。そんなものを僕たちは必要としていないし、いつまでも面倒を見ていられない。


 これ以上着いてくると言うのなら……命の保証はできないよ」


 鋭い視線で睨むアレクシスに、エドがゴクリと喉を鳴らして問う。


「そ、それは……厄介払いに俺を殺すってことでしょうか?」


「ハッ! 勇者である僕がそんなことするわけないだろう! ただ勝手に着いてくる君が魔獣に襲われたりしても助けない、それだけのことさ。君が身の程をわきまえて自分に倒せる魔獣のいる場所でだけ活動するなら、何の問題も無い提案のはずだ。違うかい?」


「……………………」


「……警告はした。後は好きにすればいい」


 そう言うと、アレクシスはエドに背を向け歩き出した。しかめっ面をしたルナリーティアと飄々とした態度を崩さないゴンゾがその後に続き……そしてエドは当然彼らの後をついていく。


 却って不興を買うだけだと知らされ、雑用や荷物持ちもしなくなった。本当にただアレクシス達の後を少し遅れてついていくだけ。それでも険しい道行きは当時のエドの体力では厳しくて、ハァハァと肩で息をしながら必死に食らいついていく。


 ならばこそ、それは必然の事故だった。なんだかんだでアレクシス達が魔獣を全て倒してから進んでいるため、久しく襲われることのなかったエドだったが……ある日背後から飛礫(つぶて)虫と呼ばれる魔獣が高速で飛来した。


「えっ!?」


「危ないっ!」


 疲労困憊で……仮に元気であっても当時のエドには反応できない速度だったが……襲われたエドの脳天に飛礫虫が命中する直前、その体を突き飛ばしたルナリーティアにより、エドは地面に転がる。


「いっ、つつつ…………っ!?」


 強かに体を打ち付けたエドが顔を上げて見たのは、肩から血を流して地面に倒れ伏すルナリーティアの姿だった。

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― 新着の感想 ―
この場面が、前にエドがちらと言っていたアレクシスに冷たく当たられたって話か… 確かにアレクシスは悪くないし、かといってエドのことを糾弾できる奴はここまでの話を読んでこなかったか101の扉を通ってまたこ…
[一言] いやーこれあれだよね。 わが人生のバイブル「狂戦士」のあの場面だよね。 あの方が亡くなった時は…思い出すと鬱になりますわ。
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