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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第九章 騎士勇者の懊悩

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全てのものはいずれ終わる。でもそれが今日とは聞いてない

(……何だここ?)


 気づけば、俺は真っ暗な空間に漂っていた。いや、暗いというより黒い? とにかく辺り一面に黒しかなく、地面なんてものはないので上も下もわからない。浮いているのか落ちているのか、あるいは横にすっ飛んでいるのか? 風も匂いも何もないので、本当に何もわからない。


(俺は……んっ)


 自己の存在を自覚した瞬間、俺の体に感覚が戻ってくる。どれだけ力を込めてもピクリとも動かない指先から、何かがジンワリと染みこんでくる感じだ。


 それと同時に、全身になんとも言えない不快感がまとわりついてくる。これはあれだ、ぐっしょりと雨に濡れた服が肌に張り付いてる感じだ。ものすごく鬱陶しいが、それをどうすることもできない。


(何だこりゃ? どういう状況……って、そうか。そういや何か食われてた気がするな。そうか、魔王に食われるとこんな感じになる……のか?)


 頭から丸呑みにされた結果がこれというのが、控えめに言って意味がわからん。ひょっとして既に肉体がなくなってて、精神のみの状態で魔王に取り込まれてるとかだろうか?


(ハァ、下手打っちまったなぁ。くっそ、相性悪すぎだろ。ああいう特性がある奴は、絶対魔法を使うと楽に勝てたりするんだぜ? これなら最初からティアと一緒に来てりゃ……いや、それだと魔獣の群れを突破できなかっただろうけど)


 割と絶望的な状況のはずなのに、どういうわけか俺の中に焦燥感のようなものはない。黒い世界に抱かれながら、自分の内に必死に入ってこようとする魔王の力を意識して……その時ふと、俺の頭に声が響く。


――何故


(この感じからしても、魔王の目的ってやっぱり俺と一つになることだよな? いや、正確には元に戻ること、か?)


――何故


(なら勝った負けたは主導権の問題か? 結果としては全部が同じになるわけで……)


――何故


(でもよく考えりゃ、全部の大本は魔王の魂である俺だろ? それに加えて俺はもう二つの魔王の力を回収してる。ただの人間の視点で考えてたから魔王はスゲー強くて対抗手段が無いみたいに思ってたけど、こいつは単に一〇〇分の一の俺の力でしかないわけで……)


――何故


(そうだよな。何で……)


――何故、俺はこの程度(・・・・)の相手から怯えて逃げていたのか?


 ガクンと、その時確かに世界が揺れた気がした。濃淡などあるはずもない一面の黒が、しかし激しく脈打って暴れる。


 スッと、まるで何の抵抗もなく俺の腕が前に突き出される。そのまま意識を込めると、ジワジワ浸食しようとしていた力がすさまじい勢いで俺の中に吸い込まれていく。


「おー、こいつはスゲーや!」


 何のことは無い。抵抗する意味なんてない。俺の元に戻りたがっている俺の力なんだから、積極的に受け入れてやればいい。


 ただし、主導権は俺だ。突然足の親指が「今日から俺が頭だぜ!」とか主張したってそんなの聞いてやる義理も無い。ギュッと拳に力を込めれば、幼子が虫を殺すくらいの無邪気さで増やして追いかけて遊んでいたこの世界の魔王の意識が砂糖菓子よりたやすく砕ける。


 なら、後は力を回収しきれば終わりだ。俺の肉体が物理的にどうなってるのかはわからねーが、まあ「包帯いらずの無免許医(リジェネレート)」でどうにかなるだろう。ってかならないと困る……なるよな? ね、念のためにちょっと早めに気合いを入れて能力を発動しておこう……よし、これでいい。


「ハッハー! 吸っとけ吸っとけ!」


 世界を埋め尽くしていたはずの黒に、白い水玉模様が生まれる。それは徐々に増えて大きさを増していき、既に世界の半分ほどが白く染まって……何も無くなったところが白くなってるっぽいから、染まるってのも変なのか? まあとにかくそんな感じに変化していく。


 これはいい。実にいい。全身に力がみなぎり、えも言われぬ万能感が満ちてくる。今ならどんな敵でも倒せるだろうし、死ぬほど辛いと噂の火鍋を食っても翌日に尻から火を噴かずにすむ気がする……その方向性のパワーアップはいるか? 傭兵仲間と馬鹿騒ぎするには有効だろ。ふっふっふ、あの馬鹿野郎共を片っ端から厠送りにしてやるぜ。


「……いや、待て。何か思考がとっちらかってる? もっと優先して考えることが……ぐあっ!?」


 突如、ふらりと意識が歪む。喉なんか渇いてないのに無理矢理水を飲まされ続けているような苦しさが急速にこみ上げてきて、俺は思わず左手で口を押さえる。


 が、苦しみは止まらない。というか、加速度的に増している。その原因はどう考えても、今も「黒」を吸い込み続けている右手だろう。


「ぐぇぇ……くそっ、止まれ! もういらねーんだよ! 後で! 後でゆっくり吸い込むから! うぐぅぅぅ……っ!」


 苦しい。苦しい! 猛烈な吐き気に襲われているのに、後から後から詰め込まれてきて雫一滴吐き出すことができない。ヤバい、これは……本当にヤバい。


ピシッ


「えぁ?」


 不意に、目の前の世界が二つに割れた。……いや、違う。世界じゃなく、俺の顔にヒビが入っている。ヒビで分断されたせいで、右目と左目で見えている世界が少しだけずれているのだ。


「ぐっ、がっ!? おい、おいおい、これは洒落に……っ!?」


ピシッ


 体の至る所から、ひび割れる音が聞こえてくる。その隙間からは黒いもやが吹き出していて、その勢いが徐々に増していっている。


(まさか、そういうことか!?)


 まるで押しつけられるように増えていく知識と経験、そこから導き出される答えに気づいて、俺は驚愕と戦慄にその心を震わせる。


 終焉の魔王エンドロール。(エド)という存在は、その魂の表面を覆う卵の殻のようなものだ。そしてリーエルの世界で初めて魔王と邂逅した時、奴は俺という殻に穴を穿った。


 その穴を介して、魔王の力は行き来する。魔王に触れられると俺が追放スキルを使えなくなるのは、その穴で力と魂が繋がってしまうと、表面の殻でしかない俺の干渉能力を上回られてしまうからのようだ。


 また、一〇〇分の一に分かたれた魔王達にとって、(エド)の部分はどうでもいいらしい。穿たれた小さな穴から無理矢理入り込もうとするも、一応神の作成物なので外側からはそう簡単には壊せない。やむなく時間をかけて砕かれるか溶かされるか……まあ何かそういう感じの手段で(エド)を除去し、その内にある魂と融合しようとしているんだろう。


 対して俺が勝った場合は、魔王を倒して主導権を奪ったら、後はその穴から少しずつ魔王の力を吸収していけば問題なかった。穴が小さいせいで大したパワーアップはできなかったが、時間をかけてゆっくり殻の中身を満たしていけば、いずれ完全な状態になった終焉の魔王エンドロールが、その殻を破って完全復活したことだろう。


 が、そういう理屈を自分で理解していなかったせいで、今回俺は一気に力を吸収しようとしてしまった。外からは壊せない殻も、内側からなら話は別。殻の限界を無視して力を吸収してしまったため、今俺の体は内側から爆ぜる寸前にある。


 そして、それはもうどうしようもない。「包帯いらずの無免許医(リジェネレート)」は肉体の再生はできても、その存在をどうにかするような能力じゃない。割れ始めた(からだ)をどうこうする力などなく、俺の全身には既に数え切れないほどのヒビがはいっている。もはや砕けるのは時間の問題だ。


 卵が孵る時、殻は割れるものだ。ならいつかは消える運命だったのだろう。そうして生まれてくるモノこそ本来の自分なのだから、何も怖がる必要はないのかも知れない。だが――


(悪い、ティア。約束は……………………)





 その日、神の生み出した道化人形たるエドの存在は、死ぬのでも消えるのでもなく、ただバラバラに砕け散った。

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― 新着の感想 ―
エドの存在ってそんなに脆かったのか…というのは違うか、魔王の魂だけを収納する想定の体なんだもんな。 魂どころか魔王のパワーというデカブツまで入れるにはキャパオーバーになるのが当たり前だった。これまでは…
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