表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第九章 騎士勇者の懊悩

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

153/552

その時結ばれたのは、約束という名の願いだった

 とまあ仰々しく構えてはみたものの、ブラウン閣下に対する実力の証明は、何の問題も無くあっさりと終了した。


 まあ、うん。それはな。どれだけの警備兵を集めようと分厚い金属扉に厳重な鍵をかけようと、俺が「不可知の鏡面(ミラージュシフト)」を使っちゃえば普通にそこまで歩いていくだけなのだから、失敗などしようがない。一応魔術的な結界なんかも張られていたけれど、魔王の力たる追放スキルの前では薄皮一枚の抵抗にすらならなかった。


 そうして閣下の元に辿り着けば、その後の情報伝達も簡単だ。出入り口が正面一つしかない地下の密室でありながら突然背後に現れた俺に割と真剣に驚いていたブラウン閣下から約定の文言を聞き出すと、俺はそれを紙に書いて腰の鞄に入れる……ふりをして「彷徨い人の宝物庫ストレンジャーボックス」にしまい込む。


 そうすれば、後はもう待つだけだ。五分に一回「共有財産(シングルバンク)」で中身を調べているティアが紙片の存在に気づいた時点で取りだして中身を読み、それをアメリア経由で外部にいたアルゴ氏に伝える。


 そうしてアルゴ氏が地下室に現れた時、ブラウン閣下の驚きは頂点に達していた。侵入を許した後もこちらが情報伝達をできないように色々と妨害工作を仕込んでいたはずなのに、その全てが失敗……どころか何かを阻害したという痕跡すらなくそのままアルゴ氏に情報が伝わったことを知ったからだ。


――「なるほど、君が優秀なのは実に良くわかった。わかったが……どう優秀なのかに全く理解が及ばない。少なくとも君が他国の諜報員でなかったことに全力で感謝しておこう」


 そんな褒め言葉? をくれたときのブラウン閣下の引きつった笑みは忘れられない。ちょいと有能さを示しすぎたせいで今後の活動に制限というか、監視などがつきそうな気がするが……そこはまあ、必要経費として受け入れることにしよう。そもそもこれを乗り切らないと「今後」自体が無くなっちまうわけだからな。


 と言うことで、必要な手続きを終えた俺が最後にすべきこと。それは勿論……ティアの説得だった。


「ねえ、本当に一人で行くの?」


「ああ」


 それは「黒の森」への出発を翌日に控えた夜。何故か俺の部屋でくつろいでいるティアの問いかけに、俺は何度目かわからない苦笑いを浮かべる。


「っていうか、もう何回も説明しただろ? 俺一人ならどうとでもなるけど、俺一人じゃねーとどうにもならねーんだよ」


「そりゃわかってるわよ! わかってるけど……でも、エドだって絶対に大丈夫ってわけじゃないでしょ?」


「そりゃ絶対とは言えねーけど……ティアだって俺の追放スキルのことは知ってるだろ? あんな魔獣なんて、俺だけなら敵じゃねーよ」


 翡翠の瞳を大きく見開いてまっすぐこちらを見つめてくるティアに、俺は軽く笑いながらそう告げる。


 実際、魔獣だけなら本当にどうとでもなる。全部倒しきることこそ事実上不可能だが、「不落の城壁(インビジブル)」を使っていればどれだけの大群に襲われようとかすり傷一つ負うことはねーし、「追い風の足(ヘルメスダッシュ)」で駆け抜ければ簡単に逃げ切れる。更にいざとなれば「不可知の鏡面(ミラージュシフト)」を重ねることで完全に姿をくらますこともできるのだから、これ以上の安全などどうやったって確保できる気がしない。


「でも、エドの追放スキルはエドが起きてるときじゃないと使えないじゃない。もし一日で魔王のところにたどり着けなかったらどうするのよ?」


「そりゃあ……あれだよ。何かいい具合の場所でこっそり寝るとかするさ。俺だって新人じゃねーんだから、野営の心得くらいあるぜ?」


「なら……もしも魔王に不意打ちされたら? 魔王に触られたら、エドの追放スキルは使えなくなっちゃうんでしょ?」


「っ…………」


 痛いところを突かれて、俺は思わず言葉に詰まる。そう、今回の強行調査における最大の懸念はそれだ。


 俺を含め、この世界の魔王がどんな姿や力を持っているのか、その詳細を知っている奴はどこにもいない。「失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス)」でも黒いもやにしか映らないとなれば、現状わかっているのは魔獣を複製だか蘇生だかさせる力があるということだけで、それ以外の全てが未知数なのだ。


 故に、最低限魔王の攻撃だけは絶対に食らうわけにはいかない。だというのにそうするためには正体不明の魔王をこちらが先に発見し、可能であれば気づかれないように調査して逃げ帰らなければならない。


「その辺は……上手くやるさ」


「一人で?」


「……ああ、一人で、だ」


 二人いれば、失敗してもカバーしあえる。だが一人ならそこで終わり。ティアの言いたいことはわかるし、その気持ちだって理解できる。もしも逆の立場なら、俺だってティアを一人で死地に送り出すことにすんなり納得できるはずがない。


「なら、最後に一つだけ教えて。エドが一人で魔王を調べに行くのは、それが一番成功率が高いから? それとも……私のため?」


「…………成功率が高いからだ」


「嘘じゃないわね?」


「嘘じゃない」


 ティアの問いに、オウム返しのように答えていく。そうだ、冷えた頭で考えてもこれが一番成功率が高い。というか、ティアと二人で魔獣の群れを突破するすべがあるなら、そもそも最初からそうして魔王を倒しに行ってるはずだしな。


 だから、これが正しい。正しい……はずだ。正しいことが正解だとは限らないが、それを先読みした未来は、残念ながら一周目には存在しなかった。


「……………………」


「……………………」


 俺達は、無言で見つめ合う。正解がわからないなら、どちらの意志が強いかだ。俺もティアを目をそらすこと無くまっすぐに相手の目を覗き込み、そこに映る自分の顔の真剣さに己の気持ちを再確認して……そうして最初に動いたのは、ティアの方だった。


「わかったわ。なら、はい!」


「ん? 何だそれ?」


「約束よ! ほら、エドも小指を出して、私の指に絡めて?」


「? こうか?」


 突然小指だけを立てた右手を出してきたティアに、俺は戸惑いつつも自分の小指を重ねる。するとティアの小指がキュッと折れ曲がり、思いのほかかっちりと結びつき合った。


「約束! エドは必ず無事で私のところに帰ってくること! ほら、エドも!」


「お、おぅ……ちゃんとティアのところに帰ってくる。約束する」


 ティアに促され、俺がそう口にした瞬間、俺の小指にパチリと衝撃が走る。驚いて思わず指を離すと、俺とティアの小指を繋ぐように半透明の赤い糸が存在していることに気づいた。


「おいティア、何だこれ!?」


「フフーン! これは『小指の誓い(プロミスリンク)』って能力で、相手との約束が見えるようになるのよ。もし破ったら……」


「ど、どうなるんだ?」


 ゴクリと喉を鳴らして問う俺に、ティアが楽しげにニヤリと笑う。


「ふふ、秘密! でもとってもひどーい目に遭うと思うから、約束を破っちゃ駄目よ?」


「えぇ? まあ破る気はねーからいいけど……でも気になる……」


「あ、一応言うけど、どうなるか知りたいから破るっていうのは絶対に駄目だからね! もしそれをやったりしたら、エドのこと一生許さないんだから!」


「わ、わかった。気をつける」


 どうやら好奇心から試してみるというのは駄目らしい。まあさっき交わした約束を破るってのは事実上俺が死んだりした場合ってことになるから、そんなつもりはこれっぽっちも無いわけだが。


「それじゃ、そろそろ部屋に戻るわね。おやすみなさいエド」


「ああ、おやすみティア」


 やるべき事をやり遂げたようなスッキリした顔でティアが部屋を出て行き、一人になった俺はそのままごろんとベッドに横になる。そのまま右手を頭上に掲げてみれば、小指から伸びた糸がゆっくりと移動していて……あ、消えた? いや出た?


「……意識的に出したり消したりできるのか?」


 どうやら物理的に干渉できる存在ではないようだし、おそらく俺とティア以外には見えないと思うが……うん、基本的には不可視状態にしておくのがいいだろう。見えてると咄嗟に引っかかるのを避けようとしたりしそうだし。


「……寝よう」


 まるで……というかそのまま紐をつけられたような感じだというのに、不思議と悪い気はしない。俺は二、三度小指を曲げたり伸ばしたりしてから、明日に備えて英気を養うべく、しっかりとその目を閉じて眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ