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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第九章 騎士勇者の懊悩

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常識的に不可能な案件なら、非常識ですり抜けてしまえばいい

 それから三日後。その腰に「夜明けの剣(ドーンブレイカー)」を佩いたアメリアによって案内されたのは、意外にも防壁のすぐ側にあった詰め所の一室だった。質実剛健な石造りの建物のなかで俺を待っていたのは、部屋の片隅に立つ浅黒い肌をした四〇代くらいの男と、立派なテーブルの席についた五〇代くらいと思われる男だ。


 そんな二人のうち、年上で座っている方の男が値踏みするような目で俺を見ながら話しかけてくる。


「ふむ、君がカールトンの言っていた傭兵か。私はこのドラスドンの防衛を任されているチャールズ・ブラウンだ」


「初めましてブラウン閣下。私は傭兵のエドです。貴重な時間を取っていただき、ありがとうございます」


「そう思うなら手短に用件を伝えたまえ。何か私に言いたいことがあるのだろう?」


「はい。では――」


 無意味に高圧的だったりすることもなく、ごく普通に上位者としての威厳を持って対応してくれているブラウン閣下に、俺は三度目となる説明をしていく。だがそれを聞いたブラウン閣下の表情は張り付いたまま動かない。


「――ということで、他の防衛都市から兵力を移動できないかというのが私の提案となります」


「なるほど。確かに一考の余地のある意見ではあるが……それだけかね?」


 ブラウン閣下の視線が、チラリとアメリアの方へ向く。その意は「こんな馬鹿な話を聞かされるためにわざわざ自分を呼びつけたのか?」とでもいったところだろうか? だがそれを受けたアメリアは微動だにせず無言を貫いている。


「……わかった。エド君だったな。貴重な意見を――」


「お待ちください閣下。勿論私とて、こんな与太話(・・・)に閣下の貴重な時間を割いていただいたわけではありません」


 そのまま会話を打ち切ろうとしてきたブラウン閣下の機先を制し、俺は自らそう口にする。この展開は予想通り。ならこの先の流れも……俺の望む方向に引きつける!


「その与太話を、与太話では無くするような手段も勿論考えております」


「ほぅ? 一体何をどうするのかね?」


「私が単独で魔獣の群れを突っ切り、その元凶たる存在……魔王の情報を提供する準備があります」


「……何?」


 ピクリと眉を動かしたブラウン閣下の視線が、再びアメリアの方に走る。するとこんどはアメリアも驚愕の表情を浮かべて俺の方を見ており……フフフ、上手くいったな。場の空気を暖めるためにあえてアメリアにもこの先の話はしていなかったんだが、いい感じの流れになりそうだ。


「どういうことだ? まさか君はあれだけの数の魔獣を突破できるとでも?」


「条件付きではありますが、私単独ならばいけます。そしてもう一つ、特殊な手段を用いることで、私の仲間に現地から直接情報を送る手段もあります」


「その特殊な手段とやらは?」


「これ以上はお答えしかねます。が、個人の能力によるものなので他の誰にも真似できず、また確実性は極めて高いと判断しております」


「ふむ…………」


 そこで初めて、ブラウン閣下が思案顔になる。傭兵二人を使い捨てて情報を得られるなら十分だが、得られる情報の確度そのものに対する懸念をどうするか……とでも考えているんだろう。勿論それだって想定済みだ。


「閣下。私達のような流れ者の情報にどれだけの価値をつければいいのか悩まれるお気持ちはわかります。ですのでもう一つ提案させてください」


「何だね? 軍から君に同行者でもつけて欲しいということか?」


「違います。私に間違いなくその任務を遂行する能力があることを試して欲しいのです。例えば……そうですね。ガチガチに警備を固めた密室などで閣下に短時間滞在していただき、私が全ての警備をかいくぐってそちらにお伺いするのはいかがでしょう?


 で、その部屋から一歩も出ること無く閣下の伝言を外にいるどなたかにお伝えすることができれば、私の能力を証明できるのでは?」


「それは…………アルゴ、どう思う?」


 ずっと無言で部屋の隅に立っていた男……おそらく副官とかそういう立場の人物だろう……に、ブラウン閣下が初めて話しかけると、アルゴと呼ばれた男が固く結ばれていた口を開いて話し始める。


「ハッ。確かにそれであればこの男の実力の証明にはなるでしょうが……その場合閣下に滞在していただくのは本当に侵入困難な軍事拠点ではなく、地下倉庫などの侵入制限をしてはいても重要度の低い場所が良いかと思います」


「ふむ。エド君が実は敵国のスパイだった……などという可能性を鑑みるなら、当然の処置だな。だがそれでは彼の実力の証明には足りなくなってしまうのではないか?」


「でしたら、警備に当たる兵に対しての交戦を禁止とされてはどうでしょう? 魔獣の群れを想定しているなら『見つかった場合に相手を無力化する』のが前提だと思いますが、それを封じて完全な隠密行動を要求するのであれば、差し引きで相応の難易度になるのではないかと」


「そうだな……ということだが、どうだねエド君? こちらが警備する拠点に、誰にも発見されることなく、また警備に当たる兵を傷つけること無く侵入して私に会いに来る。君にはそれが可能だと?」


「できます」


 一瞬の迷いすらなく、俺は正面から断言する。普通に考えればかなり厳しい条件だろうが、厳しければ厳しいほどそれを突破した俺への信頼度が上がるのだからむしろ願ったりだ。


「即答か。カールトン、君はどう思う?」


「わ、私ですか!? えっと……」


 ブラウン閣下に話を振られ、アメリアが微妙に動揺してみせる。だが俺を見て、そして自分の腰に佩かれている剣に触れて……その表情から迷いが消える。


「彼ができると言っているなら、可能であると判断します。そして能力の証明が為されれば、彼が命がけで提供してくれる情報の価値は計り知れないものになるかと愚考致します」


「そうか……わかった。では君の力を見せてもらうことにしよう。詳細は追ってカールトンから連絡させる。今日はもう退室したまえ」


「ありがとうございます閣下。では失礼致します」


 心の中でグッとガッツポーズを決めつつ、俺は一礼して部屋を後にする。それに少し遅れてアメリアも出てくると、俺に向かって抗議と心配の入り交じった声で話しかけてくる。


「一体どういうことだいエド君!? 本当にあんな無茶な条件を達成できると?」


「さっきはできるって同意してくれたじゃないですか」


「それはそうだが……」


「大丈夫、できますから。っていうか余裕ですから」



「余裕だと!? ブラウン閣下もアルゴ殿も、決して甘い御仁ではないぞ? あのような申し出をした以上、どれだけ厳重な警備を敷かれるか……」


「ふふ、その方が俺の実力がよりはっきりと証明されるんで、むしろ望むところです」


「……なあ、もし差し支えなければ、その自信の根拠を私にだけでも説明してもらえないだろうか? 勿論それを事前に報告したりはしないと約束する」


 真剣な表情でそう頼んでくるアメリアに、俺は顎に手を当て軽く考える。


「そう、ですね。人数を増やすことでより強く閣下に驚きを共感してもらおうってのはもう終わったんで、いいですよ。報告は……仮にしたとしても信じてもらえないでしょうし、知っていても対処できないとは思いますが」


「そこまでか……わかった。聞かせてくれ」


「では……」


 神妙に頷いてから俺を見てくるアメリアに、俺はどうやって閣下の元へ辿り着くつもりかを説明していく。それを聞いたアメリアはまず驚き、胡散臭そうな表情を浮かべ、そして大いに悩んでから最後は疲れたようにため息をつく。


「……ハァ、そうか。私は今初めて君を信じたのが失敗だったんじゃないかと軽く後悔しているのだが……それすらも君は笑って吹き飛ばしてしまうのだろうな」


「フフフ、その辺は当日を楽しみにしておいてください」


「わかった。まあほどほどに期待しておこう」


 ニヤリと笑う俺に、アメリアが苦笑いを返してくれる。さあ最初の舞台は整った。後は実力を示すだけだ。

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