ド派手な強化も魅力的だが、地味な利便性の向上は素晴らしい
賑やかな仲間が立ち去り、俺の日常も少しだけ静かになる……かと思えばそんなことはない。これがイキりちらした新人が入ったからなんて理由なら平和なもんだが、残念ながらやかましいのは魔獣の襲撃を告げる鐘の音ばかりだ。
カーンカーンカーン
「チッ、もうかよ! ちょっと前に襲撃があったばっかりだろ!」
「何か最近、襲撃の間隔が短くねーか? 魔獣の数も増えてる気がするし……」
「気のせいだろ? つーか差がわかるほど暇だったことなんてねーし。ほら、無駄口叩いてねーでさっさと持ち場につけ!」
そんな軽口を交わす同僚を横目に見ながら、俺も町の門をくぐって自分の持ち場に立つ。そうして剣を抜いて構えれば、程なくして前方の森からおびただしい量の魔獣が溢れてきた。
そこから先は、いつもの流れだ。弓の雨が降り攻撃魔法の華が咲き、残った魔獣をひたすらに斬り殺す。師匠の鍛えた「夜明けの剣」は相変わらずの切れ味と頑丈さを発揮してくれて、俺の周囲には魔獣の屍が山と積み上がっていく。
カーンカーンカーンカーンカーン……
「ふぅ、やっと終わり……ん?」
戦闘終了を告げる鐘は五回だ。だが五回鳴り終わったというのに、またすぐに鐘が鳴り出す。
カーンカーンカーンカーン
「まだだ! 後続の魔獣が来たぞ! 皆持ち場に戻れ!」
「うっそだろ!?」
壁の上から聞こえたアメリアの声に、俺は慌てて剣を構えつつ前方を注視する。すると確かに森の木々の隙間からうごめく何かが近づいてくるのが見える。
「隊長さんよぉ、交代要員はどうなってんだよ!?」
「急ぎ手配しているが、すぐには無理だ! もうしばらく持ちこたえてくれ!」
「チッ、仕方ねーなぁ!」
誰かの問いにアメリアが答え、別の誰かがそう愚痴をこぼす。一見自由に見える傭兵だろうと、その実は契約に縛られている。正規兵と違って逃げたからって罪に問われたりはしないから死にそうならば逃げることもあるが、好き好んでこの場に立っているような奴らにとって、莫大な違約金を支払ってまで逃走するほど現状はまだ追い込まれていない。
「むしろ稼ぎ時だろうが! 気合い入れろ!」
「うぉー! エミリーちゃん、待っててくれー!」
「待ってんのはテメーの持ってく金貨の袋だけだってーの!」
どいつもこいつも適当な事を言って、疲れた体に気合いを入れている。それを耳にしながら俺も改めて腕に力を入れると、先ほどよりもこっちに到着する魔獣の数が多い。弓はともかく攻撃魔法の威力と数が明らかにさっきより減っているからだ。まあ魔力はそんな簡単に回復しねーしな。
それでも何とか俺達は魔獣を撃退し、懸念されていた三度目の鐘が鳴り響くこともなく、俺は無事交代要員と入れ替わりで町の中に戻ることができた。この後はいつもなら適当な奴らと酒場に繰り出すところだが……
「何だエド、飲まねーのか?」
「悪いなジョナサン。今日の戦闘はヤバかったから、ちょっと気合いを入れて装備の手入れをしときてーんだよ」
「なら仕方ねーな。お前の分まで俺が飲んできてやるよ!」
「ああ、頼んだ」
装備の手入れを怠るような傭兵が、こんな過酷な戦場で生き延びられるはずもない。特に何かを追求されることもなく別れ、俺は宿の自室に戻ってきたが、そこでやるのは装備の手入れでは無い。徐に「旅の足跡」を表示させると、近隣の地図と集まった情報を頭の中で整理して顔をしかめる。
「…………こりゃマズいな」
「何がマズいの?」
「うおっ!? ティア!?」
突然背後から声をかけられ、俺は思わず驚きの声をあげてしまう。むぅ、何でかわかんねーけど、最近はティアの気配がわかりづれーんだよなぁ。
「どうしたんだよ?」
「それはこっちの台詞よ! エドが一人で帰ってるのが見えたから、私も後を追いかけてきたの。で、何がマズいの?」
「ああ、それは……って、そうか。ティアには見えねーんだよな」
「何か力を使ってるの? だったら……………………はい!」
俺の横を通り過ぎたティアが、俺のベッドに寝っ転がるとこっちに向かって手を伸ばしてくる。
「……?」
「だから、『心は一つ』を使ってエドの中に入れば、私にもエドの見てるものが見えるでしょ?」
「ああ! なるほど、そう言う使い方もあるのか」
俺の中では「白い世界」で追放スキルを使うための能力になっていたが、確かにティアの意識が俺の中にあるのなら、俺が見てるものを共有できるんだろう。ティアの白い手を取ればすぐにそこから力が抜け、代わりに俺の中に暖かく懐かしい、不思議な何かが入り込んでくる。
『おおー! エドの中に入るのも久しぶりね。それで、どうしたの?』
「ああ。これを見てくれ」
自分の中からティアの声が聞こえるという感覚には未だ慣れないが、俺は「旅の足跡」で表示されている地図を指でなぞる。
『うわ、随分と広い範囲が表示されるのね?』
「ふふふ、休みの日にこっそり遠征してマップ埋めしといたからな」
追放スキル「不可知の鏡面」を使えば、魔獣の群れがいようと関係なく移動できる。制限時間は一時間なので余裕を見て片道二〇分ほどの距離までしかいけていないが、それでも「追い風の足」を併用したのでそれなりの範囲の地図が完成している。
「んじゃいくぜ。まずこれが俺達がここに来たばっかりの頃の魔獣の動きだ」
『凄い! 赤い点が動いてる! へー、こんな感じだったのね』
「で、次が二ヶ月前。で、これが一ヶ月前で……これが今日だ」
『うーん……ちょっとずつ敵の数が増えてる?』
「いや、違うぞ。色分けしてみりゃわかるか?」
魔王の力をいくつか回収したおかげで増えたであろう能力を使って、俺は襲撃してくる魔獣のなかからウルフ系の魔獣だけを黄色い点に変更してみせる。
『そんなことまでできるんだ! 私もこういう能力が欲しかったなぁ……って、あれ? こうしてみると増えてない?』
「そうだ。魔獣の数は増えてない。なのに増えてるように感じるのは、襲撃の頻度があがってるからだ」
『……数が増えてないのに頻度だけ増える? そんなことあるの?』
「あるさ。こうなる原因が一つだけ思いつく」
一度に襲ってくる魔獣の数を半分にすれば、襲撃頻度を倍にすることはできる。あるいは魔獣の数そのものが倍になれば、当然同じ戦力で倍の襲撃をすることもできる。
では襲ってくる戦力を減らさず、かつ魔獣の総数を増加することもなく襲撃頻度を高めるにはどうすればいいか?
答えは簡単。魔獣が復活する場所がこっちに近づいてくれば、移動時間が減った分だけ襲撃頻度をあげることができる。つまり――
「魔獣を復活させてる存在……魔王がこっちに近づいてきてる」
『っ!? 何よそれ、大変じゃない!』
「ああ、だからヤバいって言ったんだよ」
どうやって魔王のところに辿り着けばいいかをずっと悩んでいたわけだが、どうやら向こうからこっちに来てくれているらしい。確かに手間は省けたが、それはこの町のすぐ側が激戦区になるということなので、決して手放しで歓迎できるような状況じゃない。
『どうするの? 魔王だけならともかく、流石にこんな数の魔獣を相手に私達だけじゃどうしようもないわよ?』
「わかってるって。いきなり魔王が全力疾走でもしないならまだ時間的余裕はあるだろうし、さしあたってすべきことは……アメリアに相談だな」
個人でできることに限界があるなら、組織の力を借りればいい。予期せず手にしたお貴族様のコネ、今回は存分に活用させてもらうぜ。




