どんなに優れた才能も、気づけなければ意味が無い
アースをパーティに加えた俺達は、昼前にはエルフの里を出発した。今は道案内兼アースの実力を見るということで先頭をアースに任せ、俺とティアはその後をついていきながら他愛の無い会話をしている。
なお、この「雑談をする」というのも立派な訓練だ。会話に意識を割いた程度で周囲の警戒ができなくなるようでは、とてもじゃないが冒険者としての日々は送れないからな。
「流石エルフだけあって、子供でも速いな」
「ありがとうございますエドさん。まあこの辺なら仲間と狩りに来たこととかもありますから」
「お、狩りの経験もあるのか……って、そりゃそうだよな。流石に全く戦闘経験のないような奴を外には出さねーか」
「ははは、ですね……っと」
話ながらも弓を構えたアースが、フッと短く息を吐いて矢を射る。それは狙い違わず近くに来ていたグレイウルフの足下に刺さり、その場にいた三匹ほどのグレイウルフがきびすを返して走り去っていく。それを確認したティアが、真面目な顔でアースに問う。
「……今のは当たらなかったの? それとも当てなかったの?」
「当てなかった方です。町までそれなりの距離がありますから、下手に仕留めて戦闘になるより、逃がしてしまった方が時間もかからず危険度も低いと思いました」
「そう。ちゃんと考えたうえで決断して、その通りに実行できたって言うのなら合格よ。何よ、出発前はあんなに気弱な感じだったのに、ちゃんとやれるじゃない!」
「あれはほら、ちょっと緊張してたっていうか……勘弁してくださいティアさん」
「フフフ、どうしようかなー?」
困り顔で懇願するアースに、ティアが楽しげにニヤニヤと笑う。元から何の心配もしていなかったが、どうやらこの二人の仲も問題なさそうだ。
「ほらティア、あんまりいじめるなって。ところでアース、ここまで見た感じだと、武器は弓を使うのか?」
「はい、そうです。弓を軸に精霊魔法で補助する感じにしようかと。使い捨て前提の簡素な矢ならその辺の枝から精霊魔法で作れますから、エルフの弓士は大抵のパーティで優遇されるって話を聞いていたので」
「なるほど、確かに矢切れがない弓士ってのは強いんだろうが……うーん」
「あの、何か?」
「いや、何でもない。そのまま警戒しつつ前進してくれ」
「? わかりました」
若干首を傾げつつもアースは前進を続け、その後も危なげなく魔獣を倒し、あるいは追い返して進んでいく。一晩の野営も問題なくこなし、次の日の昼過ぎには俺達は一番近くの町まで辿り着くことができていた。
その後はアースと、ついでに俺達の冒険者登録も一緒に済ませ、俺達は揃ってギルドでお勧めされた武具店へと足を運んだ。
「あの、エドさん? 武器も防具も里から持ってきたものがありますから、今は必要ありませんけど……?」
「ま、そう言うなって。エルフの里じゃ無いような武器もここになら色々あるだろ? 自分に何が向いてるかなんて実際に使ってみなきゃわかんねーし、そもそもいくら弓士だからって、近接武器の一つくらいは持っておいた方がいいぞ?」
「はぁ。そういうものですかね?」
「そーいうもんだ。ということで親父さん、いくつか武器を見せてもらってもいいかい?」
「ああ、構わねーぜ。初心者ってんなら、そっちの棚にある安いのにしとけ。ただし一番奥にある最安のは駄目だ。あれはちゃんと使える奴が使い捨てにする用の武器だから、初心者が知らずに使ったらあっという間に武器が壊れて死ぬぜ?」
「りょーかい! じゃ、行こうぜ。ティアはどうする?」
「そうね、私は少し剣を見てくるわ。愛剣の代わりを見つけるのは難しそうだけど」
「ははは……そっちも了解。いいのがあるといいな」
俺の言葉にパチリとウィンクをして応え、ティアが俺達から離れていく。ティアが無くした愛剣とは、当然ながら銀霊の剣のことだ。上手くすれば初期装備として登録されているんじゃないかと思っていたが、あの世界から帰還したとき、ティアの腰に銀霊の剣はなかった。
それが魔王相手に使ったからか、あるいは単純に装備としてのランクが高すぎて駄目だったのかはわからねーが、とにかく今ティアが使っているのは予備の予備みたいな剣だ。この世界でいい感じの素材が補充できれば、向こうに戻った時にまた剣を打ってやりたいところだが……それはあくまでも副目標ってことにしておこう。
と、そんなことを考えている間にも、俺とアースは初心者向けの多数の武器が飾られた棚の前にやってくる。一般的な長剣は勿論、大剣や短剣、槍に手甲に、変わり種としては鎌や鎖つき鉄球、トゲのついた鉄の棒なんてものまである。
「うわぁ、色んな武器がありますね。確かに見たことが無いものもあります」
「こりゃいい意味で予想外だったな。ここまで色々あるとは……」
初心者に鎖つき鉄球なんてものが使いこなせるのかという疑問はあるが、品揃えは実に素晴らしい。アースが色々と目移りしているなか、しかし俺は目当てのものを見つけて棚から手に取る。
「エドさん、それは?」
「こいつは双剣だ。完全な近接用武器でありつつ、筋力があれば投擲武器としても使える。使い方を覚えれば両手それぞれを攻撃と防御のどちらにでもその場の判断で割り振れるから、固い防御と高い攻撃力を両立したいいとこ取りの武器って感じだな」
「おお、何か強そうですね!」
「ああ、俺のお勧めだぞ。ちょっと持ってみるか?」
「はい!」
俺が渡した双剣を手に持ち、アースがブンブンと振り回し始める。店の奥から親父さんが呆れた顔でこっちを見てくるが、それは一切気にしない。
まあ、親父さんの言いたいことはわかる。この棚に置いてあったという皮肉を除けば、双剣はどう考えても初心者に勧める武器じゃない。刃渡りが短いから敵に近づかなければ攻撃できず、遠心力が乗らないので威力も出しづらい。
使いこなすには高い身体能力の他に素早く高度な判断力も必要とされる玄人好みの武器。そんなことは勿論わかっているわけだが、俺はあえてそれをアースに勧めた。何故なら――
「うわ、これすっごく使いやすいですね! 見てください!」
「おお、なかなか様になってんな」
「へへー、でしょ?」
アースの剣裁きは、今初めて双剣を手にした奴のそれではない。そう、俺の追放スキル「七光りの眼鏡」で見たところ、アースにはちょっと引くレベルで双剣の才能があったのだ。
というか、アースの弓士の才能は正直普通だ。精霊魔法の方も同じで、エルフだという点を生かして長期間訓練を積めばいずれは一流にくらいは届くだろうが、逆に言えばそれが限界。無難に冒険者をやっていくのに不足はなくても、魔王と戦う勇者の技としては全く以て物足りないと言わざるを得ない。
だが双剣なら違う。俺の持つ剣技の伝えられるところを伝えつつ独自の訓練を重ねていけば、平凡な才能を努力で伸ばしてきただけの俺なんかあっという間に乗り越えられてしまうだろう。
「いいなぁこれ! これに精霊魔法を乗せられればもっと……でも、流石にミスリル製の武器を買うほどのお金は……」
「ははは、その辺はこれから頑張って稼げばいいさ。じゃ、どうする? そいつでいいか?」
「はい! おじさん、この双剣をください!」
「お、おぅ……おい兄ちゃん、コイツ本当に初心者なのか? いや、エルフだから見た目と歳は違うだろうけどよぉ」
「間違いなく初心者さ。今日冒険者登録したばっかりなんだぜ? 若い奴の才能ってのはスゲーよなぁ」
「いや、兄ちゃんだって十分若いだろ……ん、確かに。じゃあそれに合う鞘を見繕ってやるから、こっちにこい」
「はい! エドさん、僕ちょっと行ってきますね」
「ああ、俺はここで待ってるから、しっかり体に合わせてもらえよ」
「はーい!」
憮然とした表情を浮かべる親父さんと、踊るような足取りをしたアースが店の奥へと消えていく。ふふふ、未来の勇者強化計画、滑り出しは完璧だぜ。




