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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第七章 聖女の勇者と終わりの道化師

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優位に立っているからといって余裕があるわけではない

 人気の無い城下町と、砕けて穴の開いた石畳。その通りの先にそびえ立つのは、黒い何かがそこかしこに付着した大きな城だ。あの黒いのが何なのかは皆目見当もつかねーが、まあ間違いなく体に悪いやつだろう。


「にしても、魔王って本当に城に住んでるんだな。ティアが戦った魔王も城に住んでたのか?」


「ええ、そうよ。ただあそこは黒い沼地に小島があって、その上に色んなところがツンツンしたお城が建ってたけど」


「ツンツンした城……?」


 沼はともかく、ツンツンした城って何だ? 屋根が尖ってるとか、あるいは茨が絡みついてるとかそういうのか? うーん、よくわからんが、まあ魔王城だしなぁ。


「以前にもお話ししたと思いますけれど、ここはかつてトゥーイック公国と呼ばれていた国の首都です。町並みにしろお城にしろ、当時のものをそのまま使っているのではないかと」


「そっか。魔王軍が必死こいて土木工事とかしてるんだったらちょっと面白い……いや、面白くねーな。建築能力があったらとてもここまで攻め込めなかっただろうし」


 魔王城の前で俺達がこんなのんきに話をしていられるのは、偏に俺が魔王軍の作戦を潰しまくったことにより、人間側の勢力がほとんど衰えていないからだ。弱体化どころか「卑劣な手段を用いた魔王軍を許すな!」と気炎をあげる諸国からの連合軍は一〇万の大軍となり、今もかつて無いほどの一体感で魔王軍を攻め続けている。


 その装備は鉱山が正常稼働していることで潤沢な資材のあるドワーフたちに支えられ、仲違いしなかったエルフによる後方支援と陰謀によって勢力を削られなかったアーレーン教の教徒達による回復魔法により、死傷者の数も驚くほど少ない。


 自重を捨てて全力で世界を救った結果、もはや魔王軍には俺達をどうにかする戦力は残っていないのだ。


「それもこれも、全てエドさんのおかげです。貴方に仲間になっていただいて、本当に助かりました」


「いやー、それを言うならリーエルが俺を信じてくれたからこそ、ここまでできたってことでもあるからなぁ。あ、勿論ティアもだぞ? 誰か一人が欠けたって、ここにこうしてはいられなかった。そしてそれももうすぐ終わる……リーエル」


「わかりました」


 その場で数歩前に出たリーエルが、その身に宿す「神の加護」の力を用いて城を覆っていた結界に人が一人通れる程度の穴を開ける。俺達が素早くそこを通り抜けると、リーエル本人もまた結界の内側に滑り込み、次の瞬間結界の穴が塞がってしまった。


「大丈夫、リーエル?」


「はぁ……はぁ……はい、ティアさん。大丈夫です」


 労るようなティアの問いに、リーエルが額にうっすらと汗を浮かべて微笑む。聖女たるリーエルですらわずかな時間小さな穴を開けることしかできないからこそ人は軍を以て魔王を討つことが敵わず……だからこそ勇者パーティ(おれたち)が存在するのだ。


「じゃ、リーエルの息が整ったら行くか。流石に中にまで誰もいないってことは無いだろうし、油断するなよ?」


「あら、それは誰に言ってるのかしら? まさか魔王討伐経験者でエドの素敵なお姉ちゃんである私にじゃないわよね?」


「フフッ。はい、気をつけますね」


 得意げに、楽しげに。笑う二人に笑顔で頷くと、改めて気を引き締めて俺達は魔王城を進んでいく。だが予想外にも城内にすら敵の姿は無く……そして辿り着いた大広間。


「待っていたぞ、勇者よ」


「そういうアンタは何者だ?」


 たった一人佇んでいたのは、全身を真っ黒な金属鎧に包まれた一人の存在。声の感じでは男っぽいが、黒い煙がゆらゆらと漏れている鎧の中身が人型をしているかどうかは甚だ怪しい。


「我は魔王軍四滅将が一人、崩地のガルガドス……だったものだ」


「だったもの……ですか?」


 ガルガドスと名乗った相手のどこか自嘲するような言葉に、リーエルが軽く首を傾げて問う。


「そうだ。今や魔王軍は崩壊寸前、もはや軍の体を為してはいない。残った四滅将も我一人となれば、大層な名など掲げられるはずもなかろう。


 既に我は敗残兵……それもこれも貴様のせいだ。時詠みの勇者エド」


「えっ、俺!? いや、俺は勇者じゃねーぞ? 勇者はこっちの――」


「黙れ!」


 誤解を解こうとする俺に、しかしガルガドスが忌々しげに声をあげる。鎧から漏れ出す黒い煙が一瞬ぶわっと噴き上がったが、それも一瞬のことだ。


「……ふぅ。そうだな、確かに魔王様に仇なす勇者は、そこの娘なのだろう。だが魔王軍をここまで壊滅に追い込んだのは、全て貴様の手腕であろう? 我らの策をことごとく潰してきた忌まわしき貴様の存在が、まさかばれていないとでも?」


「そいつはまた、随分と高評価だな。正直過大評価だと思うが……」


 俺にあった一周目の知識は、二月ほど前には既に打ち止めになっている。なのでもしここで撤退を余儀なくされ、魔王軍が再起したりすれば、もう今までのようにその陰謀を未然に食い止めるなんてことはできない。そうなれば一度は防いだはずの悲劇が改めて日常としてこの世界に降り注ぐことになるだろう。


 つまるところ、俺達は追い詰めたのと同時に追い詰められてもいるのだ。圧倒的に有利でありながら、後が無いのは俺達もまた同じなのだから。


「戯れ言を。貴様の時を詠む力さえなければ、こんなことには……何故貴様のような者が勇者とは別に現れるのだ!?」


「そう言われてもなぁ。間が悪かったとか運が悪かったとか、そんなところじゃねーの? ほら、日頃の行いってやつだよ」


「クッ、ハッハッハ! 魔王軍の我に、日頃の行いを説くか! 忌々しき神の先兵が、自分のご機嫌を伺わなかった我らに罰を与えたと!


 いいだろう、その侮辱の罪、その身で購え!」


「そいつはごめんだ!」


 剣を抜いたガルガドスに、俺は自身の剣を合わせる。師匠の打った「夜明けの剣(ドーンブレイカー)」はガルガドスの剣を完璧に受け止め、それどころか刀身を切り飛ばす。


「水を集めて広げるは白く凍てつく蒼月の夜、鈍の光を映して瞬く金剛氷石精霊の吐息! 広がり固まり凍えて滑れ! ルナリーティアの名の下に、顕現せよ『フリージングエリア』!」


「氷結系? 我にこんなものが効くか!」


 その隙に詠唱を終えたティアの精霊魔法が発動し、俺とガルガドスの周囲に白く輝く氷の世界が広がっていく。だが黒い鎧に白い氷が付着しようとガルガドスには痛手を負った様子はなく、むしろ冷気に晒された俺の体の動きの方が悪くなる。


「はははっ、仲間の魔法のせいで死ぬか! 食らえっ!」


「いいぜ?」


 振り下ろされた剣を、俺はあえてその身で受け止める。するとガルガドスの剣が俺に振れる直前に白銀の光がほとばしり、奴の剣は俺の体どころか服にすらかすらない。


「なっ!?」


「させません!」


 それはリーエルの持つ「神の加護」と同じもの。ごく短時間とはいえ「神の加護」を信徒でも何でも無い別の誰かに貸すことができる……それがリーエルの修行の成果であり、それを信じたからこそ俺は死地にて死を恐れずに剣を振れる。


「ってことで……終わりだ!」


 横一線。俺の振るった「夜明けの剣(ドーンブレイカー)」がガルガドスの鎧を真っ二つに切り分ける。だが相手は謎の存在。そのくらいじゃ死なない可能性も考慮して俺は構えを解くことなく警戒を続けるが……


「…………見事だ。やはり我は敗残兵だったか」


 切り飛ばした鎧の中から、急速に黒いもやが吹き出していく。響く声にもそれまでの力強さがなく、その命が終わろうとしているのが伝わってくる。


「だが忘れるな。魔王様は我らとは全く別の存在だ。貴様等がどれだけ知恵を巡らそうが、ただ圧倒的な力の前では無力。敗者の落ちる彼の地にて、先に待っているぞ……………………」


 立ち上るもやが消え、ガランと音を立てて鎧が崩れる。そしてその鎧すらもあっという間に塵となり、後には何も残らない。


「…………ふぅ。悪いがそっちには行ってやれねーと思うぜ?」


「ええ、私達は負けません。必ず魔王を倒し……そして生き残ります」


「そうよ! まだまだ長生きして、やりたいことがたっくさんあるんだから!」


「だな……じゃ、行くか」


 名と言葉だけを残した敵に背を向け、俺達は広間の奥にある扉に目をやる。豪奢な模様を覆い隠すように黒いツタのようなものが張っているあたり……いるんだろうな、この先に。


 一〇〇年以上の歳月をかけ、一〇〇回以上も世界を渡り歩く。そんな俺が初めて魔王と対面する時は、もうすぐそこだ。

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― 新着の感想 ―
順調過ぎて、不安しかない
師匠ぉー!! 見てますかー!! ついに運命の下にあの剣が輝く時ですよー!! 研鑽の時間を考えると、黄昏の方が師匠の集大成たる剣で、魔王討伐の方の勇者が現れた300年後まで残すことができた。そしてその…
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