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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第六章 鍛冶の勇者と夢の剣

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幾多の苦難と努力の末に、世界に夜明けが生み落ちる

 その後はティアの大活躍により、五日ほどかけて必要量を大幅に上回る陽光石を採掘することに成功した。予想を遙かに超える大成功に、再び一〇日ほどかけて町まで帰り着いた俺達は笑顔のまま祝杯をあげる。


「カーッ、美味ぇ! 一仕事終えた後の酒は格別だぜ!」


「いや、まだ始めてもいないじゃないですか」


「こまけーこたぁいいんだよ!」


 今まで見たことも無いほどに上機嫌な師匠が、馴染みの酒場でジョッキを傾けグビグビとその中身を飲み干す。なお中身は相当に酒精の強い酒なので、同じ飲み方を鉱人族以外がすると普通に死ぬと思う。スゲーな鉱人族。


「ま、一段落ついたってのは間違いねーしな。ほんと、ティアのおかげで助かったぜ」


「えへへー、そう? ま、私頑張ったしね!」


 俺の褒め言葉に、耳の先をほんのり赤く染めているティアが照れくさそうに笑う。なんだかんだで疲労が溜まってるのか、いつもより酔うのが少しだけ早い気がする……よし、しらふなのは俺だけだな、気をつけよう。


「つっても、まだあるってわかってるのに掘り出せねーのは心残りだな」


「仕方ないわよ。いくら私の魔法が凄くても、流石に何十メートルなんて掘れないもの」


「だな。あれ以上はそれこそ坑道を増やすくらいの勢いで掘らないと無理だし、十分だろ。ってことで師匠……」


「ああ、わかってるよ。好きなだけもってけ」


「あざーっす!」


 道中、俺は師匠に余剰分の陽光石のいくらかを譲ってもらうことを頼み込んでいたのだが、これにて正式に許可が下りた。他の世界では見たことの無い鉱物なので、後で分けてもらう闇夜石と共に研究のし甲斐がある。一体どんなものができるのか、今から楽しみで仕方がない。


「それで師匠、肝心の剣の制作はいつからに?」


「あーん? そんなのコイツを食い終わったらすぐに……と言いてーところだが、流石に明日からだな。店は閉めたままにするから、裏から回ってこい」


「わかりました」


「それじゃ、今夜は思いっきり飲み食いして、英気を養いましょう! もう一回、かんぱーい!」


「「乾杯!」」


 ガチンとジョッキを打ち付け合い、俺達は飲んで食って笑って騒ぐ。そうしてその晩は心地よい酩酊感に身を委ねながらぐっすりと眠り……そして翌日。


「おはようございます、師匠」


「来たか」


 言われたとおり店の裏手から鍛冶場に入った俺の前には、すでに職人の顔をした師匠が炉に火を入れていた。水でもあそこまでは飲まないだろうという勢いで強い酒を飲みまくっていたというのに、今はその残り香すら微塵も感じられない。


「準備ができ次第、俺は剣の作成に入る。こいつは俺にとっても一世一代の鍛冶になるから、テメーに手取り足取り教えてやるようなことをする余裕はねぇ。


 ただし、技術を隠したりもったいつけたりもしねーから、テメーは好きなだけ見て盗め。俺の邪魔さえしなけりゃ、合金の配合具合も炉の温度も勝手に覚えろ。それでいいか?」


「わかりました。十分です」


 本来、特定の金属を合金にする配分やそれを溶かす炉の温度なんてのは門外不出の情報だ。それを余すところなく見ていいというのは破格の条件であり、俺みたいな飛び込みの弟子に許されることじゃない。


 ここでもまた、師匠からの強い信頼を感じる。無言の背中に託されたそれに応えたいと心から思えば、俺の意識も自然と引き締まる。


「じゃ、やるぞ」


「はい」


 場に満ちる熱気とは裏腹に、静かで落ち着いた声。言葉では無く腕で語る師匠の鍛冶が始まり、俺はそのすべてを目に焼き付けていく。


「ふぅ…………ふぅ…………」


 灼熱の炉の前で、全身から汗を噴き出しながら師匠がその中を注視している。どうやら陽光石を溶かすのは相当に高温が必要らしい。


 逆に闇夜石の方は、低めの温度で時間をかけて融解させる必要があるようだ。今までは俺が使っていた炉も同時に稼働して二つの金属を同時に加工し、まずは小さなプレートを作って合金の性質を確かめていく。


 それが一〇枚二〇枚と積み重なっていったところで、初日は終了。二日目からは実際に剣を打ち始め、そちらもやはり二本三本とちょっとずつ違う剣ができあがり……そして二週間後。


「……完成だ」


 師匠の手が、一本の剣を高く掲げる。それは珍しい片刃の剣であり、背の部分は夜の闇のように暗く、それが徐々に色を変えていって刃の部分までたどり着くと、そこは登ってきた朝日のように明るい白黄色に輝いている。


 その美しさに、俺は思わず目を奪われる。芸術品と言われても納得できる見た目だが、この剣はあくまで実戦を想定した武器だ。


「おいエド、これでそいつを切ってみろ」


「わかりました」


 手渡された剣を受け取り、俺は師匠が示した鋼のインゴットに狙いをつける。背の部分が重い調整になっており、振り上げるのにやや力が必要な反面、振り下ろすときはまるで大地に吸い寄せられるような手応えを感じ……


「……………………」


 ストンと、何の抵抗も感じられないままに目の前のインゴットを刃が通り抜けた。俺が剣をどかしてテーブルの上に置くと、師匠は切れたインゴットを手にし、その断面を見てニヤリと笑う。


「上出来だ。見ろ」


「うわっ、こりゃ凄いですね」


 満面の笑みで切断面を見せつけられれば、まるで鏡のように美しい。手応えを感じなかった時点でわかっていたが、こりゃとてつもない業物だ。


「こいつは外側にいくほど重くて粘りのある闇夜石の性質が強くなり、芯に近いほど硬くて鋭い陽光石の性質が強まるようになってる。鋭く研げば研ぐほどもろくなる刃の部分をできるだけ保護しつつ、研ぎ方を変えることで比較的簡単に鋭さと強度のバランスを変えられるようにってな。


 その分、ちょっとした研ぎ方の違いで切れ味が変わるし、刃が欠けやすくなる。素人にゃ安定した手入れすら難しい代物だが、超一流の剣の腕とそれなりの鍛冶の腕があるテメーなら使いこなせるだろ」


「それなりって……まあ、そうですけど」


 思わず苦笑いを浮かべる俺に、しかし師匠は嬉しそうに肩を叩いてくる。


「ガッハッハ! いいじゃねーか。どっちの鍛錬も疎かにしたら使えなくなる。すぐ調子に乗るテメーにゃぴったりだぜ!」


「え、俺調子に乗ったことなんてないですよ?」


「そういうとこだよ!」


 バシンと思い切り尻を叩かれ、俺の目から火花が飛び散る。


「いった!? 何するんですか師匠!?」


「景気づけだよ。さて、それじゃ早速試し切りだな」


「あ、それは明日にしてもらえます? そういうことならティアも一緒に行きたいんで」


「ん? ああ、そうか。そうだな。なら今日のところはもう帰っていいぜ」


「そうですか? わかりました……って、そうだ師匠」


「あーん? 何だ?」


「その剣、名前とかってあるんですか?」


「は? そんなの見りゃわかんだろーが!」


 俺の問いかけに、師匠が信じられないものを見る目で俺を見てくる。まあ確かに一目見た瞬間に浮かんだ名前はあるわけだが、まさか師匠の答えを聞く前に俺がそれを口にするわけにもいかないわけで。


「……俺が言ってもいいんですか?」


「構わねーぜ」


「なら……夜明けの剣」


 暗い夜から朝へと変わるようなグラデーションの刀身を持つ剣なんて、これ以外には名付けようがない。むしろこれじゃなかったらどんな名前になるんだろうかと師匠の方を見てみると、髭に隠れた師匠の口が大きくつり上がって笑顔になる。


「わかってるじゃねーか! そうさ、こいつは魔王を倒し、世界に朝をもたらす希望の剣。この俺の渾身が生み出した最高傑作、『夜明けの剣(ドーンブレイカー)』だ!」


 銘を与えられた「夜明けの剣(ドーンブレイカー)」が、師匠の手の中でキラリと光る。これが鍛冶の勇者がこの世界に勇者の剣を生み出した、まさにその瞬間だった。

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― 新着の感想 ―
夜明けの剣とか薄明の剣なんて名称は昭和の小説にも出てくる、ありふれた名称じゃよ
名前の被りが偶然な事に驚き。 いやー、スカイリムはドラウグルが怖いから墓に潜る時はドーンブレイカーとアイアン墓地の火炎の魂縛エンチャ武器を構えないと潜りたくないんだよなぁ。 お守り的に。一人称だとあい…
ドーンブレイカーは草。TESのメリディア様の至宝じゃないかw スカイリムのドーンブレイカーのクエストは燃えたなぁ。 、、、、え、これ本家的に大丈夫なのか、、。 まぁ、カッコいいからいいか、、。
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