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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第六章 鍛冶の勇者と夢の剣

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高い理想と厳しい現実、どちらにどちらを合わせるか?

「師匠の剣を、俺が……ですか?」


「オウよ。ああ、テメーが自分の剣を打つために修行してるってのはちゃんと覚えてるぜ? その剣を見りゃ、ちゃんと目指してる方向があるってのも理解できる。


 だからこそ、あえて問うぞ。それは本当にテメーの目指してる理想の完成形か?」


「っ…………」


 真剣な目でまっすぐに俺を見てくる師匠に、俺は思わず言葉を詰まらせる。


 現状俺が目標としている剣は、当然ながら「薄命の剣」だ。だが究極の切れ味を追求するあまりに刀身にこれっぽっちも耐久力を持たせることができず、常時使用どころか一振りごとに刀身そのものを使い捨てにするような剣が果たして最高の剣と言えるだろうか?


 無論、答えは否だ。あれは切れ味以外のすべてを妥協した剣に他ならない。しかも使用に俺の血液と追放スキル「見様見真似の熟練工(マスタースミス)」が必要なため、本当の窮地では使えない可能性もある。ならばこそ俺はそれを超える剣を作りたくて師匠に再弟子入りをしているのだ。


「その様子なら、自分でもわかってるみてーだな。なら俺の剣を使ってみるのも悪くねーと思わねーか? 別に無理に使い続ける必要はねーし、自分より腕のいい奴の作品を見れば自分の作る剣の役にも立つはずだ。どうだ? テメーにとっても悪い話じゃねーだろ?」


「確かにその通りですけど……でも、何でまた急にそんな話を?」


「……俺の夢のためだ」


「師匠の?」


 金床の前の小さな椅子に腰を落とした師匠に、俺も自分が使ってる椅子を引っ張ってきて正面に座る。金床を挟んで向かい合う俺達の間にわずかに沈黙が流れ……やがて師匠がゆっくりと口を開いていく。


「こいつは剣に限った話じゃねーが、何かを作るには指針がいる。武器の場合、絶対に必要な指針は大きく二つだ。すなわち『誰が使うか』と『何を倒すためか』だな。


 この二つの指針をできるだけ広く大きく作ることこそが、名剣の条件だ。つまり最高の剣ってのは『誰が使っても』『どんな敵でも切れる』ってことになる。これはいいか?」


「あ、はい。そうですね」


 確かに子供が使ってもドラゴンを倒せる剣みたいなのが作れるなら、それは間違いなく名剣だろう。とはいえ……


「あー、そんな顔すんな。んなのが無理だってのは当然わかってる。で、これがさっきの続きなんだが……俺の夢は『魔王を倒せる剣』を作ることだ。俺だけじゃねぇ、この夢は俺の親父も祖父さんも……俺達一族全員の夢だ。どうしてもこれを成し遂げたくて、俺はガキの頃から金槌を振り、鍛冶の腕を磨いてきた。


 だが、ここで問題がある。俺だけじゃなく、世界中の誰に聞いても魔王がどんな存在なのかを知ってる奴がいねーんだよ。


 雲よりでかいのか、砂粒より小さいのか? ドラゴンの鱗より硬いのか、それともスライムみてーにプヨプヨなのか? 何の情報もねーから、結局のところ魔王を倒せる剣ってのは『何でも切れる』剣じゃないといけねーわけだ」


「まあ、そうなりますね」


 正体不明の敵を倒すなら、どんな正体であろうとも通じる剣が必要。極めて乱暴な意見だが、理屈としては正しいだろう……それが実現可能かを別とすれば、だが。


「だからそういう顔すんなって。魔王の正体がわかんねーんだから仕方ねーだろ! で、こっちの条件をそこまで拡大するとなると、もう一つの条件……つまり『誰が使うか』が厳しくなる。


 例えば詰め所でテメーに渡した剣は、『一流の剣士が使えば』『大抵のものは切れる』剣だった。その片方を『何でも切れる』剣にするなら、もう片方は『超一流』とか『世界最高の剣士』にするしかねーだろ?


 とはいえ、そっちもまた問題だ。スゲー腕の剣士がいるかどうかなんて俺の鍛冶の腕とは関係ねーし、そもそも有力な存在は大抵勇者として国に囲われて、魔王を倒さねーように管理されちまうからな」


 そこで一旦言葉を切ると、師匠は近くのテーブルに置いてあったコップを手にし、一息に中身を呷る。中身はただの水なので酔うことなどあり得ないのだが、どういうわけか俺を見る師匠の目には熱く滾る情熱が宿っている。


「そんなときに現れたのが、テメーだ。国の紐付き(ゆうしゃ)でもねーくせに、俺が出会ったどんな奴よりも強い。お前が使うって前提でなら、何でも切れる……魔王を倒せる剣を打つことができる!


 どうだ? 俺の夢を叶えさせちゃくれねーか?」


「師匠……」


 がしっと手を握られて、師匠の分厚い手のひらを感じる。ああ、そうか。こんな手になるまで修行を重ねたのに、今までそれを発揮する機会がなかったのか。それがどれほど無念であったかなんて、俺程度にはとても推し量れない。


 できるならば叶えてあげたい。とはいえ、これだけは聞いておかなければならない。


「一応確認ですけど、その剣を打ってもらったとしても、俺は魔王とは戦いませんよ? だからその剣が本当に魔王を倒せるかどうかは証明できませんけど、それでもいいんですか?」


「ハッ! 構わねーさ。勿論実際に魔王をぶった切ってくれりゃ最高だが、国境警備をぶっちぎって指名手配犯になりながらたった一人で魔王と戦ってくれなんて言うほど図々しくはねーさ」


「あ、やっぱりそういう感じなんですか?」


「そりゃそうだろ。一応の名目は『不用意に魔王を刺激することで世界各地の魔獣が活性化した場合、国内に多大な不利益を生じさせる可能性が高いから』ってことになってるが、要は腕自慢の馬鹿が万が一にも魔王を倒さないように国境を封鎖してんだ。


 申請したって許可なんざ一生下りねーし、無断で通ったらその場で首をはねられるぜ?」


「怖っ!? それもう全力で魔王を守りにいってるじゃないですか!?」


「おいおい、滅多なことを言うんじゃねーぞ? あそこはあくまで我ら人類を守る最初にして最後の防壁だ。守ってるものが何かってのは、人によって解釈が違うだろうけどな」


 ニヤリと笑う凶悪な師匠の顔に、俺は苦笑いを浮かべて答える。


 人類を魔王から守る防壁は、今や利権のために魔王を閉じ込める檻になったってことか。何とも世知辛い話だが、それで世の中が上手く回っているのなら、余計なことをするべきじゃないという考え方も理解できる。


「とにかく、俺の答えはこれで終わりだ。後はテメーが受けてくれるかどうかなんだが……」


「うーん、そうですね……」


 期待に満ちた目で俺を見てくる師匠の問いかけに、俺は軽く考え込む。


 こうして全部の事情を聞いた今でも、基本的に俺に損のある話じゃない。俺が目指す理想の剣の参考になるうえに、超一流の職人である師匠の打った剣をもらえるっていうのなら、むしろ得ばっかりだ。


 唯一気になるとすれば勇者すらもらえなかった専用の剣を俺が手にすることで何らかの嫌がらせとかが発生するんじゃないかってことだが、俺やティアには弱みになるような家族だの友人だのはこの世界にいないし、そもそもそう遠くないうちに出て行ってしまう場所なので、権力者の不興を買う際の中長期的な不利益はまるごと全部無視できる。


「わかりました。ならその話、お受けします。って言っても俺がするのは剣を受け取って試し切りするくらいですけど」


「おう、そうか! いや、それでいい。テメーは自分がそうだから自覚がねーんだろうが、腕のいい剣士に実際に剣を使ってもらってその感想を聞くってのは十分に貴重な機会なんだぜ? いやー良かった!」


 珍しくはしゃぐ師匠の言葉に、俺はなるほどと納得する。確かに自分で鍛えて自分で使ってたから気にしたこともなかったが、例えばアレクシスみたいな奴を探してそいつに剣を振ってもらうとか、よく考えれば大変なことだな。


「よーしよしよし、なら早速準備に取りかかるか! うぉぉ、久々にやる気が溢れるぜぇ!」


 天に向かって雄叫びを上げる師匠を前に、俺もまた師匠の作る「理想の剣」に思いを馳せてみるのだった。

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