必殺、アイスガトリング!
大会2日目。
今回の大会での決勝進出チームはAクラス6チーム、Bクラス2チームが進出。ココ最近では、Bクラス以下のチームが進出することなんて、なかなか無かったが、なんと今大会では2チームも出場。片方は勿論俺達のチームだが、もう片方は、ソニック、カルエル、ナスのチームだった。超意外。
いや、意外というほどでもないのかもしれない。ソニックの能力が能力だ。
ソニック一人でこういった戦闘は全部終わりそうだ。
しかし、勝ち残ったこと以前に、こいつら三人組で戦いに挑んできたということが意外だった。
「お前ら3人が仲良かったとはな」
「そんな~わけないよ~」
「そ、そうよ。人数合わせで組まされただけよ。私たちは」
結構否定してる。そんなにナスと一緒が嫌なのか?
そんなこと、じゃなくて、そんなわけって言ってるところからもナスが敬遠されていることがよくわかる。
「それにしてもよく勝ち残ったな」
「ふふ。僕の貴族パワーで勝ったのさ」
なんだよ貴族パワーって。あれか?お金と権力を存分に使って相手を買収するとかいうやつか?
「バカ言わないでよ!この変態貴族!勝ったのはソニックのお陰でしょ!あんた開始10秒で死んだじゃない」
軽く怒った感じと、馬鹿にした感じと、やれやれって感じが混ざった顔でナスを見る。顔はいろいろ入り交じった感じがあるが、目はもう軽蔑してますって感じだ。
しかし変態貴族とは……流石に言い過ぎなんじゃ……?
「ああ……僕は変態さ!もっと言ってくれ!君の言葉が心に響くんだ」
ん……前言撤回。変態でした。我々の業界ではご褒美です!と言っているようなものだ。
「きっもち悪!」
こう言ったのは、後ろにいたフランだ。アッシュも少し顔をしかめてはいたが……アッシュは最後にこう言った。
「貴族ってみんなああいう感じなんだよな……」
まじか!ナスが王都には溢れてるのか!?
そりゃあ大変だわ。でも少なくともキャビアン王はそんなことなかったな。
まあ女性の代わりに料理を愛しすぎている点においてはある意味変態的かもしれないが。
「あ~っと。もうすぐ試合だよ~」
いつもは時間にルーズなソニックが、珍しく時間に関しての発言をした。
どうやらゆっくり話して入られそうにもなさそうだ。
「ああ……行かなきゃな」
俺たちは試合へ向かう。
ーーーーーーーーーー
1試合目。
相手はAクラスの奴。例の3人組の奴らではない。あんま強そうじゃないな。そう思っていたら、観客席から、
「アイツらを終わったな」「可哀想に。来年彼らは絶望してこの大会に出なくなるな」「Bクラスのあいつらには充分楽しませてもらった」
etc..俺達を哀れむ声が絶えず聞こえてくる。そんなに強いのだろうか?こいつらが。
(強いっちゃあ強いぞ。あのチビデブよりちょい強いくらいだけど)
そうか。今日は俺が戦っていいみたいだけど、こんなやつに使うのは勿体無いな。
「やっぱり、この試合は2人のどっちかが戦っていいよ」
「いいのか!?Cクラスのやつにはあまり楽しませてもらえなくてね。僕が戦っていいか?」
お前の力じゃあAクラスでも満足出来やしねぇよ。そう突っ込みつつも、アッシュに
「行ってこい」
と、言って、戦場へ送り出した。
1人目。開始直後に相手が水龍を放つ。水属性の龍じゃなくて、水の龍な。文字通り。が、
「アイス」
アッシュの一声でその龍は固まり、割れる。
そしてアッシュは、あえて敵と同じ水龍を出して敵を撃破。あえて敵よりも格上だということをしっかりと示した。
2人目。アッシュは開始直後に周囲を炎上させて終了。3人目も、思った異常に呆気なかった。
後でわかったが、この相手チーム、Aクラス最強のチームだったとか。アッシュの前にはすべてがゴミのようだったが。
アッシュに勝つにはもっと強い奴じゃないとダメってわけか。
ここばっかりはさすが勇者末裔だわ。
1試合目は数分で終わった。
そして2戦目。ついにこの時が来た。例の3人組だ。
「よくここまで……生き残ったね……はは」
こいつらにはいつもの覇気がない。
「ぼ〜くらは……きみ~達を〜甘く見ていた~んだな」
「あの人たち……君たちを見て油断してた」
うおっ!こいつ初めて喋ったぞ!なんかヒョロいやつ。たしかヒョロンとかいう名前だったか?
「ま、本気を出した僕らにかなうわけが無い。聞いた所では君。そう。ガリュー君。君は一回も戦わず、偉そうなことを言っているらしいね。もしかして君はお飾りなんじゃないか?勇者君の力ばかり使って、君は高みの見物。君は戦わないのか?いや、失礼。戦えないのではないのか?弱すぎて」
ニヤニヤとしながらそう言い放った三人組のリーダー的男子。
それに対してフランが激怒する。
「主君に何を言う!貴様!いますぐこの場で吹き飛ばしてっやってもいいのだぞ!」
「落ち着けフラン」
「まあ……僕達はヒョロンを一番手に出すつもりだけど、君はやっぱり高みの見物をするのかい?勇者君ならヒョロンを倒してしまうかもしれないが、君はどうなのかな?」
「ガリュー君はお飾りじゃない。これまでの戦いでガリュー君が戦っていたら、手の内を明かしてしまうことになるからね。何より、ガリュー君は僕なんかより何倍も強い。ついでに言うと、もう君たちさえ倒してしまえば当初の目的は達成される。だからもうガリュー君が黙って見物するなんてことはない」
「じゃあ~そこの~がりゅうとか~言う奴と戦うのか~」
「どうせお前が全員倒すんだ。最終的にはヒョロン。お前が戦うことに変わりない」
チビデブにリーダーが言った。
え?このチビデブがヒョロン!?じゃあっちのヒョロいのがチビッタ!?まじか。逆だろ!名前的に。
「主君。試合始まります」
「ああ。いくよ」
1戦目。相手はチビデブ。やっぱりこいつがヒョロンで間違いないようだ。
もう少し名前に配慮した体型をしていただきたいものだ。
ヒョロンの口が開く。
「へへっ!やっとこいつと戦えると思うだけで気分がアゲアゲだぜ!すぐ死ぬなよ!僕を楽しませろ!」
うおっ!なんだこいつ。戦闘始まると急にスイッチ入るやつだこれ。ソニックな喋り方からいきなり変わったぞ。
こいつもフラン的な戦闘狂なのか?
試合開始のゴング。
ヒョロンが火の玉を飛ばす。その数30ほど。
「ははっ!中級魔法だぞ!それも30発!このレベルの攻撃はAクラスでも守りきれない!」
自信たっぷりの満面の笑みを浮かべながら、火の玉を大量生産したヒョロンは、そう言い放った。
だがしかし。そんなものは効かない。残念でした。とだけ言っておこう。
「障壁張っちゃえば問題ないんだなこれが」
目の前に展開した半透明なガラス板に似た障壁が、火の玉とぶつかる。
火の玉は俺の前で弾ける。
「なんだとっ!」
「獄炎」
俺の中でも結構上位種の魔術。獄炎。目には目を歯にはを火には火をだ。火の玉とは比べ物にもならない炎が全体を焼き尽くす。
その炎、ドラゴンのブレス攻撃のごとく。この魔術で医務室へ送られた生徒は数知らず。
たまたま授業中にドラゴンのことを考えてたら出来ちゃった魔術の一つだ。
氷ガトリングは使わない。なんとなく。ではなく、リーダーにだけ使えばいい。と思ったからだ。
「ふぅ」
ヒョロンはその場で倒れた。
2人目。チビッタだ。
試合開始。
「…………死ね」
お……おお。口が悪いな。
チビッタが走る。走りながら呪文を唱える。呪文を唱えるという事はつまり、大規模な魔術か、特殊な魔術である可能性が高い。
走る速度もなかなかなもので、普通に戦えば面倒な相手となったかもしれない。
だがあくまで、普通に戦えばの話。
いくら逃げたって呪文を最後まで詠唱させたりはしないさ。
「させるか!」
すかさず氷の柱を飛ばす。速度重視。相手には視覚強化でもしないと見えないであろう超高速弾。腕に着弾。ヒョロンの腕に刺さる。
意志の力だろうか?貫通はしない。
「ぬう……?」
何が起こったのか。それは俺とアッシュとフランしか理解出来ていないだろう。すかさずもう1発。
「んぐ…………」
ヒョロンは倒れた。アイススピアを使うつもりはなかったが、まあ今回ばかりは仕方がなかった。
倒れたヒョロンを背に、俺はリーダーの方を向いた。
「さあ。残りはお前だけだぜ。降伏したっていいんだぞ」
「な……ヒョロンまで……」
3人目。残ったのは最後のリーダーだけ。
「そういえばお前のな名前は?」
「名乗る必要は無い。お前はここで死ぬのだから」
あーあ。作っちゃいましたね。死亡フラグ。まあ、何にせよここに入れば死なないんですけどね。
試合開始。
「イケぇぇぇええええ!」
奴は叫んだ。空から無数の氷の弾。ヒョウだ。が。
「効かないな」
俺の上でヒョウは砕け散る。
「なぜだ!」
目を凝らさないとそこにバリアがあるのかどうかさえ気がつかないほどに透き通った色をした結界だ。
他の人がぱっと見ただけでは、頭上のヒョウが勝手に砕け散ったようにしか見えないだろう。
さあ。俺の本気だ。
氷の柱を生成。
「ガトリング!」
手。足。膝。肘。肩。正確に打ち抜く。
「あ……あが……」
「トドメだ」
腹。奴は倒れた倒れた。
ざわつく会場。
決まったな。俺の勝ちだな。
(もし本当の対人戦でこれ使ったら残酷すぎる件について)
それは置いておいてくれ。こういう大会だからできたことなんだから。




