勇者を追ってやってきた阿呆
「急な話ですが、新たに転校生がやって来ることになりました。いろいろと質問もあるよ思いますが、一先ず紹介だけ。いらっしゃい。フランさん」
朝の一番最初の先生の話。いつも他愛のないような話をして終わるところで、今回はまたいつもと違う話があった。
とは言っても、ついこの間同じような話があったが。
また転校生か。
(また賑やかになるな)
全部が全部アッシュみたいな馬鹿騒ぎするようなじゃねーよ。もしそうなら、俺も頭可笑しくなるよ。
そうでないことを願いたい。
と、願った直後だった。
教室に入ってきたのは女の子。女子なら割とおとなしいんじゃないか?
なんて考えたのがダメだった。
「ハッハッハー!私はアシュガノフさんの一番の仲間にして相棒!フラン・サララン様なのだー!学園のナンバーワンのアシュガノフさんの相棒である私こそが!い!ま!か!ら!この学園のナンバーツーなのだッ!」
(むう?やはり賑やかではないか)
意味わかんないやつがやってきたな。女子だが。元気有り余ってる感じの。マジな方でアッシュと同じ香りがする。うるさい、うざい、自己中キャラ。これはなんだ?俺になにか恨みでもあるのかよ!
同じ香りっていうか、アッシュの名前出てきた時点でやばいだろこれ。
同類だこれ。
学園のナンバーツーって、ナンバーワンはアッシュか?
アッシュの仲間ってだけで嫌な予感しかしねえ。
いや。でも、俺に絡んでくるとは限らないし……。ここは出ない杭は打たれない戦法で……。
「…………。あーっと……私は、ちょっと職員室に用があるので、みなさんで仲良く話して待っていてください」
あー!逃げた!先生が逃げた!やっぱり嫌な予感しかしねーよ!
「ハッハッハー!そう!私は君達愚民より遥か上の存在なのだ!だが安心しろ!1日3食のパンと肉を分けてくれるものには、これまで通りの生活を与えてやらんこともない!それが出来ないなら、お前達はアシュガノフさんの奴隷になればいいのだ!なんだそこのお前の面は!我々の奴隷にそんな阿呆面はいらんぞ」
なぜか転校生、俺の顔を指差して言った。何故かピンポイントで俺を馬鹿にしてきやがった。ちょっと怒っていいのかな?
いいのかな?でも、巻き込まれたくないから無視。
「あのー。フラン?もうその計画は無くなったんだけどなぁ」
「なーにを面白い冗談を!ここの愚民共も我々……いや、アシュガノフさんを恐れ、一言も発せずにいるではないですか!はっはっはっは!」
その計画?なんだそれは?まあいいか。
ちなみにどうでもいいかもしれないが、皆が恐れているのは、アッシュじゃなくて俺。ピンポイントで堂々と悪口言われて怒るなという方が無理な相談だ。
そして残念ながら、怒らせた相手は俺。この場にいる全員が、医務室へ行く覚悟を持った筈だ。
「僕は、ガリュー君の子分だ。永久的にな。僕は彼に負けたんだよ。君だって勝てやしないし、仮に勝っても、僕はもう、血の契約をしたんだ。今更つべこべ言っても何も変わりゃしないさ」
「何を言っているんですか?この阿呆面に負けた?血の契約?冗談キツイですよ」
「うるさいからさっさと座れ。そして黙れ」
俺はたまらず口を開いたが、つい本音が口から出てしまった。
(わざとだろ)
言わなくても分かるだろ。
「何よ!阿呆面のくせに生意気な!」
阿呆面好きだな、お前。そんなに俺の顔は阿保面か?そんな阿保阿保言われたら自分の顔に自信が持てなくなっちゃうよ?
「やめろ。フラン。君が僕の相棒なら、君は彼の子分だ」
何故そうなる!?阿呆が増えたら俺はもう我慢出来なくなるぞ!
つーかさっき、サラッとこいつ、永久的に子分とか言わなかったか?
誰もそんな話はしていない!なんなら今すぐやめてほしいっていうのに!
真面目に嫌だわぁ。こいつらはもう手に負えない領域に達しそうなんだけど。達しそう?達してるのか?
「アシュガノフさん……。そうですよね…………。そうだよ……」
「分かってくれたか」
「アシュガノフさんは幻覚魔法にかけられたんですね!アシュガノフさんが負けるわけないですもの!きっと卑怯な手を使ってアシュガノフさんを……」
お前ら幻覚魔法に何の恨みがあるんだよ。
主がアホなら仲間もアホってか。幻覚幻覚って……。そろそろ現実を受け止めろよ。
「許さない……許さない……愚民の癖にィィィィイ!」
お前らほんとに愚民好きだな。フランが腰の剣を抜く。両手剣だ。重そうだが、その分威力も高いのだろう。
それ以上に、魔術師の学校で剣?と思ったが、それは置いておこう。
「ダメだフラン!」
アッシュが叫ぶが、もう遅い。
彼女の剣は俺の顔面へ……そのまま俺の顔を一刀両断した。とはいかず、俺は剣を手で弾き、音速のパンチを繰り出す。これは音速ダッシュのパンチバージョンだ。威力は、それなりにある。
「ガァッ!!!」
フランは泡を吹いてその場に崩れ落ちる。
ガラガラという音がして、先生が帰ってくる。
「……ガリュー君?説明してくださいね」
狙った?狙ったよね?こんな絶妙なタイミングで来るとかマジ狙ったよね?違うんなら怖いんだけど。
なんで?なんでこういう時に限ってなの?
「うえぁ!ああ、、、そのーあのー……」
「話は向こうで聞きます」
こうして俺は、またしても怒られたのだ。
ーーー20分後ーーー
やっと終わった。マジでさ。目が怖い。アレはやばいわ。蛇のような鋭い目。恐ろしいわぁ。
「ぐみ……いや、主君。先程までの無礼をお許しください」
「はい?」
フランが謝ってきた。夢だろうか?いや。謝ってきたのはどうでもいい。主とはなんだ主君とは。まさかとは思うが、子分になるとかなんとかいうんじゃないか?
デジャブがデジャブを読んでいるような気がするんだが。
「何もタダで許してもらおうとは思っていません。なのでこれからは、主君の子分として、アシュガノフさんと共に、一生仕える所存です。どうか命だけは……」
命とる気は無いけどね。でもね、永久的に子分……こいつはよく見ると相当な美人……この年なら可愛いかな?将来は相当な美人になると思うが、問題はそこではなく、こいつはアッシュの相棒(自称)だ。アッシュに似ているにちがいない。アッシュが2人……邪魔はもう通り越して行きそうだ。
もはや子分という名の一種の敵だ。
手に負えないほど強大な力を手に入れた、とんでもない敵だよこれ。
と、焦りと不安が入り混じっている中、フランは俺の方へ歩み寄る。
「お荷物お持ちします」
「っいいから。つうか何も持ってないし。子分とかいいから。許して欲しいなら関わるな!絶対!ダメ!絶対!」
「そうは行きません。やることをやることが、主人に仕え、主人のため戦うのがサララン家の決まり。そこに女子供などはなく、ただただ主人がいたら使えるのみ!肩は凝っていないですか?お昼の学食は何が?何でも言ってください」
「いいって言っているだろ!」
「無駄だよガリュー君。彼女はあの、サラランの家の人間だ。戦いに負ければ服従する。それが彼等のやり方だ」
あのとか言われても、知らねーんだけど。しかも、ゼノハルト家と言い、サララン家と言い、なんでまあこんなにも服従だの子分だのどうのこうのっていうんだ?そういう世界なのか?
やれやれ。みたいな顔をしているお前もお前だからな?アッシュ?
マジで本当に。
どんな世界だよ。
(そういう世界なのが、剣と魔法の世界ってやつだぜ)
マジで、なんでも剣と魔法の世界で済ませようとしないで。
割と俺にとっては新奥な問題なんだから。
マジで俺のプライベートを返して!
と、心の中で願っていたが、そんな願いは誰の耳にも届かない(当たり前だが)。
アッシュたちは俺にどんどん寄ってくる。
「何でも言ってくださいよ!」
「まあ、少しは僕のことも頼ってくれ。そう言えば、昼の学食はなにが....」
「マジでやめてくれ!!!」
俺は心の叫びを全力で外へ出した。
パシリが増えた。




