転校生は
新しい朝が来た。新学年という名の大きな区切り目だ。
人生全体として考えると、大した区切りではないが、今の俺からしてみると相当な区切り目だ。
一年生の時と異なり、二年生では、より実践的な授業が増える。
実用性に特化した魔法や、攻撃、自衛に特化した魔術を学ぶことができるようになる。
まだまだ魔法全体で見れば、初等学校で学ぶことは基礎基本にあたるわけだが、俺からしてみれば大事な情報の源だ。
まあ、新しい学年が始まっても、クラスメイトは変わらないし、先生も変わりもしない。
見知らぬ顔が増える予定はなかった。
だがしかし、俺の予定を大きく狂わせる存在が一人、このクラスにやってきた。
「ふん。なんだ君たち。この僕のことをジロジロ見ないでくれ。いくら僕が優秀で、容姿が良くて、かのゼノハルト家の人間だからといって、そんなに僕の事を見つめ続けるのは無礼。無礼無礼無礼!ゼノハルトの人間を相手に少し態度が悪いんじゃないか?名家ゼノハルトだぞ!?」
偉そうなやつ登場。他校からの転校生。赤髪のイケメン。
ゼノハルトと連呼するそれの名を、アシュガノフ・ゼノハルト。あの有名なゼノハルト家の出身ということのようだ。
ちなみに俺は「あの有名なゼノハルト家」に該当する家計に関する知識をまったく持ち合わせていない。
おまえ誰やねん?という感じである。
(ゼノハルト家は、歴代勇者、そしてその勇者のお供を多く輩出してきた名家だ。勇者の末裔と捉えて構わない。まあ、勇者なんて何人も何人もいるし、みんな同じ血筋から生まれてくるわけでもないけどな。たまたま、ゼノハルト家から複数人勇者が出たというだけの話だ)
ゆ、勇者の末裔?って、それお前がやばいんじゃないか?光の力的な何かよくわからない勇者特有の力で浄化されるんじゃないのか?
(第一に、この子供は勇者じゃない。二つ目に、こいつから殺気は感じられない。感じるのは、このクラスの奴らの勇者末裔に対する殺意だけだ)
俺は、アザゼルの言葉に、とっさに振り向き、皆の様子を伺う。
明らかにウザそうな顔をしているやつも何人かいる。今すぐにでも教室から放り出してやろうかといった感じである。
まあとにかく、どういう経緯でかは知らないが、この学校、それもこのクラスに編入してきた。
何かしら理由(アザゼル関係の筋が有力)があっておかしくない、むしろない方が不自然。
そんな状況だ。警戒の一つや二つはしておいた方がいいだろう。
そう心に決めた時だ。
「だいたいなぜ、僕がこんな庶民的学校のBクラスなどという、社会的に用いの低いとされるクラスへ入らねばならないのか?全く理解に苦しむね。まあ、強者には強者なりの苦労もあるってもんだよ。本当に。いや、しかしまあ、いくら言っても君たちにはわからないだろうよ!はははははは!」
ゼノハルト家のお坊ちゃんは自己紹介からとどまることを知らず、口を開けば皆を見下し、自身の素晴らしさをアピールするような口だ。
ここまでバカ野郎に育ったことに関しての方が理解に苦しんでしまう。
「本当に、しけた奴らだ。これだから庶民はきらいなんだ」
自身の話に対しての反応がなかったことを不服に感じたのか、ゼノハルトのお坊ちゃんは庶民をディスり始める。
これには、貴族出身のおナスが反応した。
「僕も君のような人を見下すような人間は嫌いだ!」
ナスのセリフが初めてカッコよく聞こえた瞬間だった。
いつも口を開けば女子のことを口説くばかりだったが、今日ばかりは、といったところか。
「世の中には、庶民でも美しい女の人が溢れている。庶民を否定するようなお前なんて大っ嫌いだ!」
前言撤回。ナス野郎が絡むのは、やはり女性関係のことオンリーのようだ。
ロクデモナイ貴族出身者が増えただけのようだ。
こうして、自己中心的庶民毛嫌い派勇者末裔がクラスの仲間に入った。
が、クラスの仲間として融けこむには、なかなかの時間がかかりそうだった。
ーーーーーーーーーー
二年生最初の授業。
それは、みんなが大好きな復習の授業だ。
めんどくさすぎてみんなの目はスリープモードだ。
ソニックはもう夢の国へと旅立ってしまった。
まあいつものことだけど。
まあ俺は、適当に出された課題を終わらせて、他の人の魔術を見ていた。
意外だったのは、アシュガノフ(呼びづらいのでアッシュで)が、思っていた以上に出来る奴だったことについてだ。
さすが勇者末裔といったところか。口先だけではなかった様子だ。
見ていて面白いのは、なかなかいい魔術をみんなに見せびらかし、いい反応を得ようと頑張っているところだ。
言ってみればかまちょである。
しかし、うちのクラスの奴らは、ちょっとやそっとのの魔術では驚きはしない。
なんてったって、うちのクラスには医務室送りの天才として崇め、讃えられてきた天才的魔術師(不名誉)がいるのだから。
まあそうして、「あれ?思っていたほどみんな驚いてくれないな?あれあれ?」と、不思議そうに皆の様子をうかがっているアッシュを見るのはなかなか面白かった。
あいつの予定では、強めの魔法撃ってみんなにすごいすごいって言われて、ちやほやされるはずだったんだろう。
残念ながらその予定はうちのクラスの強靭なメンタル(誰のせいかは言わない)のおかげで打ち砕かれた。
そのうち、アッシュの元へナスが歩み寄り、やれやれ、と、首を振りながら話し始めた。
何の話をしているのかはわからないが、少しするとアッシュは激怒し、ものすごい形相でこっちを向いた。
そのままアッシュが近づいてくる。
「お前が、お前がガリューというやつか!?」
「あ?そうだが?」
「お前のせいで僕の完璧な魔術が……どうしてくれるんだ!」
どうやらナスから、医務室送りの天才についての話を聞いたらしい。
明らかに俺に対して敵意むき出しである。
「いったいぜんたい、何でこんな、お前は一体何なんだ!僕の計画をすべて踏みにじりやがって!」
「え、いや、7歳前後の少年(と魔王)だけど」
なんなんだ?という質問に対して、少しボケながらも答える。
「いい加減にするな!これでも僕は、前いた貴族御用達の貴族専用魔道学校の首席だったんだぞ!こんな辺鄙なところにあるごくごく一般的一般庶民、一般愚民が利用する学校とはわけが違う!そんな学校で最高の成績を収めた僕の力が、こんなちっぽけなお前という存在に否定されるわけがない!」
何かを語りはじめたアッシュ。
前の学校のハードルが低かったんじゃね?なんて思いながら、俺はこう返答した。
「いや。知らねえし。アシュガノフがどうなろうと、どう思おうと俺には関係ないことだし」
そうすると、アッシュが本格的にキレはじめた。
「ふざっけるな!口を開けばタメ口、僕を呼ぶ時は呼び捨て、挙げ句の果てには侮辱行為にまで及ぶ。僕が誰だかわかっているのか!?」
口を開けば見下し、呼ぶ時はお前、もしくは愚民ども、挙げ句の果てには人を侮辱し周囲の雰囲気を悪くさせることしかできない勇者の末裔であるということだけはもう確認済みだ。
勇者もこんな感じだったのかな?と、俺の中の勇者がイメージダウンしてしまう。
「俺はお前に対して何もしていないし、何かするつもりもない。面倒だから絡まないで欲しいんだが」
こういう奴には正直に本音を伝えるのが一番と、誰かに教わった気がする。
アッシュに対して本音をぶつけ、これで話が終わってくれればなあ。と、淡い期待を寄せていたら、
「なにもしていない?嘘をまあぬけぬけと。どうせあれだろう?幻覚魔法というやつだろう?皆に偽の魔法、魔術を見せて騙しているんだ!」
と、意味も不明な返答が返ってきた。
頭の作りが相当なまでにおめでたいようだ。
会話のキャッチボールなんて出来そうになさそうだな。なんて思っていると、
「なんだ、黙るのか?やはり図星か!やはり、やはりな!ははははははは!どうだ?痛い目にあいたくないだろう。今すぐひれ伏し、僕の靴を舐めて懇願すれば、許さなくもないぞ!」
アッシュが片足を半歩前に出した。
さすがの俺も怒りがこみ上げてきた。
「馬鹿かお前は?いや、聞くまでもなく馬鹿か。いったいどんな凄技を持ってすれば幻覚一つで医務室送りの天才になるっていうんだ(不本意)。幻覚じゃ人を傷つけることなんてできやしないぞ(心ならなんとか)」
「馬鹿?僕に、この僕に向かって馬鹿とはいい度胸をしているじゃあないか!今すぐ反省し、ひれ伏せば怪我なく終わったものを……」
アッシュは首を回し、コキコキと回す。
いや、仮に三億円もらってもこいつに頭下げたいとは現状思わないし、頭を下げる理由が今のところ全くないし。
と、反論しようかと思っているうちに、アッシュはもう一度口を開いた。
「決闘だ!僕と決闘をしろ!お前が負けたら……そうだな。僕の奴隷にでもなってもらおうか!」
「「「は?」」」
アッシュのセリフに反応したのは、俺だけじゃなかった。
中にはその言葉を聞いた瞬間に俺の付近から離れていくやつも何人かいた。
皆の頭の中はこうである。
『あの転校生、確実に医務室行きだな』
宣戦☆布告!
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