キャロルさんの正体
「好きなものを取っていいなら、私はまずこれから行こう」
キャビアン王は焼き鳥を手にした。
「私の嗅覚が捉えた香ばしく独特な香り、しかし、これまで嗅いだことがない香りだ。果たしてどんな味がするのやら」
キャビアン王は、焼き鳥の串を持ち、そのままかぶりついた。
「香ばしいだけでない、甘辛さ、そしてなんだこの味は!?このタレの元となるものが全く想像つかない。ガリュー君。これはなんのタレで作ったんだ?なぜこんなに良い香りが?」
「タレの大元は、大豆です」
俺は答える。
タレの大元は醤油、まあ今回の場合味噌の上澄みだ。
そこにいろいろなものを加えて作られたタレであるからして、結局大元は大豆なのだ。
「だ、大豆?あの豆が、タレになるのか?甘くいかと思えば、少しほろ苦くもあり、辛味を感じることもしばしば、素材の深みがより一層深くなって味が濃くなっているのに、全く嫌な味の濃さではない。豆の力をなめていたな….あとは、後味が非常に香ばしく、香り高いのもきになるが……」
「香ばしさや、独特の香りは、炭です」
炭火焼の独特な香りは、ご飯を進ませる。まさに香りの凶器だ。
「す、炭というと、あの、木炭のことか?」
「はい。そうです。炭で焼くと、香ばしく良い香りがついて、より美味しくなるのです」
俺は炭火焼について説明した。
「これは驚いた。炭なんてものは、せいぜい暖をとるためのものでしかないと思っていたが、それでものを焼くということができるのか。これはいいアイデアだ」
キャビアン王の話を聞いた上で、今度はキャロルさんが焼き鳥を食べる。
何も言葉には出さないが、目を見開いて、すぐに一本食べ終えた。
ずっとこんな調子で、すべての品目をちょいちょい食べていった二人は、最後に、唐揚げを残すのみとなった。
「実は、私はこれが一番気になるのだ。飴色にこんがりと焼けた鶏肉。少し表面から脂がにじみ出ているのがすごくうまそうだ。これ、名前なんといったかな?」
「唐揚げです」
「そうそう、唐揚げ唐揚げ。この肉の塊は、金の塊のようにも、宝石の宝物にも見えてくる」
食べ物を宝石に例えるところがもう美食家っぽい。けど、頼むから宝石箱がどうこうって話には持って行かないでほしい。
「食べるか」
キャビアン王はゴグリと喉を鳴らしながら、ひとくち、唐揚げを口に放り込んだ。
「ジュワッと広がる肉汁に、カリカリの皮(?)。香ばしい香りに肉を食べている!という感覚を久々に感じる….予想以上のうまさだ」
キャビアン王はそう言うと、皿からいくつか唐揚げを皿に取り、どんどん放り込んでいく。
「ここまで美味しいと、もう何の文句も言えないな。強いて言うなら、これを調理したての熱々で食べたかったが……まあ後回しにしてしまったのは私の責任だな。しかしなんだ。今日もまた、忘れられない日になりそうだ」
キャビアン王は満足そうに自分の腹をさすった。
キャロルさんも、唐揚げを口にしながら、大きく目を見開いて、すぐに食べ終えてしまった。この人は、結局食べている間一言も喋らなかったが、美味しそうに食べてくれたので、作った俺としても嬉しい。
と、思っていた矢先、キャロルさんが勢いよく立ち上がった。
「ど、どうかしましたか?」
「単刀直入に申し上げます。料理の見た目から食べる人を楽しませ、かつ、新しい食事の仕方や、奇抜な調理法を編み出したガリューさんは、神級に相当するほどの実力を持っていると言っても、過言ではありません」
キャロルさんがいきなり、何かわけのわからないことを言い出した。
「あ、ガリュー君よ。言い忘れていた。このキャロルは、実は、世界料理ギルドの格付け部の偉い人でね、今日は君が料理人として、どれだけ優れているのかを査定してもらっていたのだよ」
「えっと、待ってください?格付けっていうと、あれですよね?一級二級三級…ってヤツですよね?」
俺はキャビアン王に聞いた。
実際、料理にも、魔法などと同じように級による細かい格付けがなされていて、やはり21段階審査のようだ。
最高位に当たるのは、魔法の時と同じで、神級だ。
それは、どんな格付けでも変わらない。
「ということは?キャロルさん?それは一体どういう…… 」
「まあ簡単に言うと、今から料理ギルドに入って、格付けチェックを受ければ、間違いなく最高評価、神級が貰えるだろうってことだ」
キャロルさんの代わりに、キャビアン王が答えた。
キャロルさんは首を縦に振りながら、
「しかし、実際のところ、ギルドに入れるのも、査定を受けられるのも、12歳以上。今のガリューさんでは受ける資格がありません。ですが、キャビアン王がそれでも、非公式でいいから査定して欲しいと、先日連絡があったもので、飛んでやってきたということです」
と、キャビアン王子の言葉に補足を加えた。
「そうなんですか。それで、先ほどの評価が、僕の料理に対する評価、査定の結果っていうことなんですか?」
「はい。まあ私一個人の判定なので、確定で、というわけではないですが、まあそれでもほぼ、確定で神級、もしくはそれに近い位を獲得可能だと思われます」
キャロルさんは、あだ少し残っている料理を指差した。
「まず、盛り付け、そして食事システム。斬新でかつ美しく、無駄のない素晴らしいものでした。これは高評価です。さらに、料理の味も、そこらの店よりよっぽど美味しいのは言うまでもなく、かつ、料理にはそれぞれ、様々な工夫があったことが、より高評価につながりました。というよりも、私のような未熟者が審査員として上からの目線で審査していて、本当にいいのだろうか?と、真面目にそう感じました」
キャロルさんの言葉に、思わず照れる。とはいっても、この料理のレシピはみんなインターネットなんだが。
結局俺は何かレシピ作ったわけでもなく、レシピ通りに作った、ってだけだから、少し申し訳なさも感じる。
「12歳になって、料理ギルドに入るときには、私の名前を出してください。今日のことを、伝えておきますから。それなりの待遇はできるはずです」
「ハハハハハ。よかったな。ガリュー君よ。君は仮とはいえ、世界でも数人しかいない料理人の中でも最高峰の、高みに立ったのだ。12歳になったら、君はその直後から、最高の料理人だ!」
キャロルさん、キャビアン王はそう言って、席から立ち上がった。
キャビアン王が、俺の肩に手を置いた。
「君がその時を迎えたならば、もっと立派になっているだろう。その時、私の料理人になるかどうかは置いておいて、ひとまず、料理ギルドにだけは顔を出しておいたほうがいい。今回は、キャロルと君を会わせるための食事会でもあったんだ。君も一人二人、お偉いさんとのパイプは持っていたほうがいい。でないと後々面倒なことになるからね」
キャロルさんも、
「何かあれば私の名前を出してください。料理ギルド関係者ならば、何かしら対応できると思うので」
と、さっきと同じようなことを言っている。
二人はそう言って、扉の方へと向かう。
「じゃあガリューくん。ごちそうさん。また時間があったらこようと思うよ」
「ごちそうさまでした」
と、二人はそのまま部屋から出て行った。
俺は仮とはいえど、料理ギルドの偉い人からお墨付きをもらった。
その意味を、この時、しっかりと理解できていなかった。
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