精霊?いや。魔王ですが?
今日は一段と眠い。
朝起きるのが辛い。
休んだ気になれない。俺本当は二重人格かなんかで、俺が寝てる間に、もう一人の俺が活動してるんじゃねえか?なんて考えにまで至ってくるところを見ると、相当重症のようだ。
まあいくら眠かろうと、生活リズムは崩したくないので、普通に起きる。
今では完全に日課となっている、ソニックの耳元で大声で叫ぶというミッションを敢行。
ソニックがタラタラと起きてくる間に、俺は顔を洗いに洗面所へ。
眠い時にはさっぱりしなくちゃ。
と、魔法でできる限り冷たくした水を顔面にぶっかける。
タオルで顔を拭き、パッと鏡を見た瞬間、俺は目を疑った。
鏡に映った自分が、明らかにおかしかったのだ。
ツノが生え、短い牙が口から出ていた。
さすがに驚き、すぐに口と頭に手を持って行ったが、特にそれらしいものは触れなかった。
「ついに眠すぎて幻覚まで見えるようになったのかよ……?」
もう一種の病気だなこれは。と、思いながら、自分の頬をペチペチと叩く。
もう一度鏡を見直すが、鏡に映る自分には、ないはずのものがある。
「嘘だろ?本当におかしくなっちまったのかよ?」
俺がそろそろ精神科に受診しに行かなくてはならないかと思ったその時。
ソニックが洗面所にやってきた。
「一体どうした……のおお!?」
いつものゆっくりな喋り方はどこかへ吹っ飛んだ。
ソニックが鏡を見た瞬間に、ソニックは驚愕の表情を浮かべ、俺本体と鏡に映った俺を交互に見始めた。
「ソニック?見えるのか?」
「み、見えるよ〜……?ツノとか〜、牙とか〜……?」
ソニックは明らかに動揺していた。
それと同時に、俺も動揺していた。
これ、俺だけが見えてるわけじゃないのか?
「よう。初めまして。とでも言っときゃいいのか?」
俺がもう一度鏡の自分と目を合わせた時、その鏡の自分は喋り出した。
「……は、初めまして?」
「ああ。初めましてだろ?こうやって顔合わせするの。いや、まあ顔はお前のなんだが」
そう言って鏡の俺は自身のツノを撫でた。
「まあ、一から説明してやんねーとダメか?」
鏡の中の俺は、俺にそう言った。
「だ、誰なんだ?お前は?」
恐る恐る、俺は鏡の俺に聴いた。
「お前でもあり、お前でもない。お前の中に住んでいる精霊さんだ。ひとまず敬え」
顔面が俺なのに、なぜか中身は上から目線である。
さらに言うと、言っている意味が不明すぎて、少しイラっときた。
「まあほら、あれだ。守護精霊とかいうやつ。精霊力とか習っただろ?あれの精霊だ」
あれか。俺に一切の精霊力を分け与えてくださらなかった精霊さんか。
「な、なんで精霊が鏡に映ってるんだ?」
俺は更に質問をする。
本来精霊なんてものは、本当にいるかどうか置いておいて、人間に見えるようなものじゃあないのだ。
案外エルフぐらいなら見れそうな気もしなくもないが。
「え?なんつうか、それなりに魔力消費してるから?」
疑問に対して、疑問で返された。
「まあ俺は、精霊の中でも特別な存在だから、こうやって人間の前に姿を表せるのだ。今は魔力足りないから、鏡に映る程度しかできないが、いずれはお前自身を乗っ取ることもできるだろう」
その後に付け加えた文章に、さらっと怖いことが入っていて、少し引いた。
乗っ取るって。どういうことだよ?
俺は、ソニックの方を向く。
ソニックも驚いている様子だ。
ソニックにも、しっかりとこの(自称)精霊の声が聞こえているようだ。
「ちなみに、お前が精霊力ないのは、間違いなく俺のせいだ」
その(自称)精霊は、俺が気にしていた、精霊力のことについてさらっと語った。
「俺は、精霊だが、精霊力を持っていない。代わりに、強大な魔力を蓄えるだけの器と、それに見合った魔力がある。今は充填中だが」
確かに、筋は通っている。この、(自称)精霊が、仮に本当のことを言っているのなら、ある程度つじつまが合う。
俺が治療系魔法を使用できないのは、精霊力がないから。
俺が精霊力のない理由は、俺についてる精霊(仮にコイツと仮定)が、精霊力を持っていないから。
そう考えるのが妥当。
「なんでお前が特別なんだ?それに、精霊力の代わりに魔力の補正が付いていた覚えなんてないぞ?」
「俺が特別なのは、まあ置いておいて、最近、魔法の制御がおかしくなったりしただろ?あれ、俺のせい」
さらっと最近気にしていたことの原因について語った(自称)精霊。
それを聞いてしまうと、俺は鏡を無性に殴りたくなった。
そのせいで俺もものすごく迷惑被ってたわけで。
「俺がこうして、鏡に姿を充分な時間写すことができる分の魔力を、短時間で貯められるように、調整していた結果、お前の魔法やら魔術やらの制御が不安定になったというわけだ。これから、あそこまで暴発することはなくなると思うぞ」
確かに最近、魔法関係の制御はきいていなかった。
暴発に次ぐ暴発で、医務室が何日も立て続けにいっぱいになる時もあったくらいだ。
そう考えると、この(自称)精霊の言っていることは筋が通っていて、ますます信用せざるをえない。
「さらに言うと、お前がさっき言ってた、二重人格のことも、俺が関係しているわけだ」
考えてみる。
時折、聞こえてくる幻聴。
たまに「情けない」とか、「だらしない」といった声が聞こえた時があった。
夜に見た変な夢も、よく考えてみるとこんな声だった気がする。
「そ。それが俺」
「まだ何も言ってないけど?」
「そりゃあお前。お前の中にいるんだから、お前の考えてることは全部俺に聞こえるだろうに。アンダスタンド?」
なんでそんなこともわからないんだ?とでも言いたいのだろうか?
(自称)精霊はそう言って鏡から消えた。
(まあ、こうやって話したほうが楽だから、普段はこうやって話すがな)
今度は直接、俺の心の中に語りかけてきたようだ。
ソニックが、いきなり鏡から消えた(自称)精霊を探し始めてる間に、俺たちの会話は続く。
(今回は、安定して会話ができるようになるために、魔力を一気に集める方法を使ったわけだ。まあ、お前はさっき言ってたように、迷惑していたみたいだが、そこに関してはまあ、悪かった)
今度は(自称)精霊が真面目に謝ってきた。
謎展開に俺も首をかしげる。
どうやら俺には、変な精霊が取り付いていたようだ
今後どうなるのだろうか?
意味不明な点が多すぎて、俺は一瞬くらっときた。
魔王登場☆
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