予兆
魔術師育成学校。魔導師学校。魔法学校。正式名称は魔術師学校だが、この学校、様々な呼び名がある。魔術師育成学校。魔導師学校。魔法学校etc……
だが、いくら魔法がどう、魔術がどうとは言っても、魔法だけが授業の全てではない。
体育系の授業もある。
この世の中物騒で、いつ何が起きるかわからない。
いつでもとっさの対応が取れるよう、最低限の格闘技術を覚えろ。ということで、格闘の授業もある。
もちろん、少林寺拳法だとか、空手だとか、柔道みたいに、決まった型があるわけでもなく、相手がどういう風に出たら、このような対策を取るといいよ。みたいな感じである。
ちなみに俺は前世、空手の有段者であった。ちょっとした自慢だ。
そのため、こういった近接戦闘系のスキルは、習うまでもなく備わっていたのだった。
こういった近接戦闘においてもやはり、魔術や精霊力、料理などと同様に、細かいランク分けがされていて、武道大会なんかに出たりするのに必要になるとかならないとか。
まあ俺はあんまり興味ないけど。
まあ、そんなこんなで、格闘系の戦闘訓練の授業は、いつも好成績を収めているのだ。
大人気ない?
いや。俺子供だし(中身大人だけど)。
ちなみにだが、いつも近接戦闘で一位を取っているのは、ソニックである。
彼には、生まれた時から備わっている、ある能力がある。
精霊の力に似ているそうだが、実態はよくわかってい、そんな力。
一説では、前世の人物が持っていた精霊の力が、死んで、生まれ変わってもなお体に染みついて離れなかったとかなんとか。百人から五百人に一人くらい、そういった特異体質の人間が生まれるそうだ。ソニックがその一人というわけ。
その力が、周囲の時間の進みを遅くする能力。だ。
指定した自分の周囲数メートルのものの動きを、超遅くする。それがソニックの特殊能力だ。
アクティブスキルみたいなものだ。
この力、近接戦闘で大位に役立つ。そもそも、間合いに入れば動きを止められてしまうので、手の出しようがない。
結局そのままリング外に運ばれて、場外で試合は終了する。
やろうと思えば、相手を止めた後、思う存分フルボッコにできるので、考えただけでも卑怯、かつ恐ろしい能力だ。
流石の俺も、これには勝てない。こんなもの、技術云々の問題ではい。
もし勝ちたいなら、ソニックの間合いに入らずに倒すか、ソニックに気がつかれない(認識されない)方向からの奇襲、もしくは認識される前に超高速でダメージを入れるかだが、どれも無理だ。
認識されないように、と言っても、一対一で、顔を合わせた状態で戦いが始まる。その状態から、指定されるまでに、一瞬の隙を見計らって消えるなんて、流石の忍者にもできまいよ。
ランキング的には、無敗のソニック。
それに続くようにして俺が二番手。
三番手は、カルエルである。
カルエルも、なめてかかると恐ろしい相手だ。体の柔らかさ、頭の柔軟さで、柔よく剛を制す。的な戦い方をする。
合気道に近いのかもしれない。
それに加えて、ワンパク少女である彼女は、単純なパンチ力も高いので、柔から剛にタイプチェンジする時もあり、動きが読めない。
決まった型がないからこそできる戦い方だ。
最近は苦手な野菜が食べられるようになったせいか、いつも以上に上機嫌で、技のキレが上がっている。
彼女はまさにモンクである。
モンクというのは、現代日本ではゲームのせいで、拳闘士と間違えられることもあるが、本来は修道士のことだ。
カルエルは、修道士のように回復魔法特化の性能で、かつ、体術に優れている。
ゲーム認識のモンクの要素もがっちりと型にはまるわけだ。
修道士としても、拳闘士として考えても、カルエルは生粋のモンクだと思う。
ちなみにここ最近は、ナスから愛の告白をされることが多くなったようで、その度にナスはカルエルから変態呼ばわりをされ続けている。
というかナスの奴、一日一善でもするかのごとく、1日最低一告白をノルマとしているようだ。
どんなに失敗し、罵声を浴びせられても、バカと言われようが変態と言われようが、やりきった後は、何か大きなプロジェクトが無事成功したのかのように、超やりきった!という爽快感溢れる顔になる。
ベースがイケメンなので、憎めないのと、完全に頭のネジがぶっとんでいるのではないかという心配が、そのシーンを毎日見るたびに交錯する。
そんなナスは、この格闘の授業ではダントツの最下位という素晴らしい記録を残している。
本人曰く、「僕は腕力でなんでも解決しようとするのは良くないと思うんだ」だそうな。
単純に負け惜しみ&見苦しい言い訳だ。
今日もナスを授業で一捻りしたのちに、自身の部屋に戻り、シャワーを浴びた。
格闘の授業の時は、まあまあ汗を掻くので、シャワーが心地よい。
不安の種は、いつ魔法が暴走してしまうかだ。
もし今ここで魔法が暴走したら、シャワーとして使っているこの魔法で生成したお湯が、大洪水を起こすかもしれない。
場合によっては、ものすごい熱湯になったり、逆にむちゃくちゃ冷たくなるかもしれない。
冷たくなるならいいが、ものすごい熱湯となって、大洪水でも起こした暁には、生徒の寮が大大大パニックだ。
沸騰したお湯が、波のように襲ってくるシーンは、あまり想像したくない。
そう思いながら、水を止め、タオルで体を拭き、着替えた。
なんとか今日も暴発は抑えられた。
ここ数日は健闘している方だ。周りに被害が及ぶほどの暴発はない。
せいぜい、魔法で温度管理していた味噌の熟成室が、一瞬だけ五十度超えてしまったぐらいだ。
少し焦ったが、ほんの一瞬だったので、麹菌も死んではいなさそうだ。
しかし、ここまで毎日のように神経をすり減らしていくような思いで、魔法を使っていくのは、辛くて仕方がない。
早いうちになんとかしなくては。
そう決意して、俺は眠りについた。
ーーーーーそして事件は翌朝に起こった。
物語、動く?
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