マヨきゅう
「さあガリュー!作るわよ!」
「ああ。それはいいんだが。なんでそいつがいるんだ?」
今日はやっとマヨネーズ作りの材料が揃い、作ろうという日なのだが、後ろにおナスが一匹紛れ込んでいる。
「カルエルが僕のために手料理を作ってくれると言っていてね」
「そんなこと言ってないでしょうが!この変態!ついてくるな!」
ナスのアホっぷりにも突っ込みを入れたいが、それ以上にカルエルのコメントが容赦なさすぎる件について。
どれだけナスはカルエルに嫌がられているんだ?いや、そんなに嫌がられるような何をしたっていうんだ?
ちょっときになる。
まあいい。今日はそんなことはどうでもいいのだ。
今日はマヨネーズを作る日だ。
まあそうはいっても、やろうと思えば1分足らずでできてしまうようなもんだけどな。
「早く!つくりかた教えて頂戴」
カルエルが急かす。
「そう急かすなって。材料に足生えて逃げてくわけじゃないんだから」
「何言ってるの。全く。早く早く!」
俺は、用意した材料を取り出す。卵、酢、塩、胡椒、油、そして、使うかどうかは別として、マスタードや砂糖、レモン果汁などを用意した。
「これで、野菜を美味しくするものが本当に作れるの?」
「何言ってるんだい。君と一緒に食べればどんな野菜も美味しいよ」
カルエルの質問に、なぜかナスが回答。ナスはそのまま軽くパンチを食らう。
「ああ。作れるぞ。俺たちが作るのは、マヨネーズだ」
「ま、マヨネーズ?」
カルエルは聞いたことの無いであろう調味料の名前に困惑する。
「ま、マヨ姉さん?マヨ姉さんて誰だ?」
人の話を聞いていなかったのか、どこかのアホはなんかよくわからないお姉さんを想像中のようだ。
「マヨ姉さんってのは綺麗な女性で、さっき図書室にいたわよ」
カルエルがそういうと、
「何?こうしちゃいられない!今すぐ行かなければ!」
と、言って、ナスは走り去って行った。
意味不明な野郎だ。
「邪魔するものはもう誰もいない」
言ってやった!という満足げな顔でカルエルはそういった。
「……ははは。じゃあ作ろうか」
「さあ、じゃんじゃん作るわよ!」
俺は、卵を深めの皿に割り入れる。
黄身と白身を分けて、黄身に塩こしょう、酢を入れ、かき混ぜる。
そこに油を入れ、さらに混ぜ、魔法でちょっと冷やす。
すると、割と簡単にマヨネーズもどきが完成した。
「はい。完成」
「すっごい簡単そうね。で?この、黄色っぽい液体?が、野菜を美味しくするのね?」
「ん。まあ、そう捉えてもらって問題ない」
カルエルは興味津々。マヨネーズを凝視している。
「何なら今ちょっとこれ、作る前に食べてみる?」
と、提案すると、
「あ、いや。いいわ。自分で作ったものを一番最初に食べたいから」
と、返ってきた。そういうもんかと、俺はもう一人分の材料を出して、カルエルに渡す。
「そうか。じゃあ作っていこうか」
カルエルは、まずは卵を割ろうと奮闘する。
なかなかうまく割れず、数個の卵がぐちゃぐちゃになってしまったが、結果的に練習の末、なんとか綺麗に割れた。
黄身と白身を分ける段階で、何度か犠牲者が出たが(後で美味しくいただきました)、それそれも何とか終えた。
俺も途中から見るに見かねて、「手伝おうか?」と、何度か聴いたのだが、どうやら最後まで『自分だけ』の力で作りあげたいらしく、頑なに拒否された。
まあ、結果できたので文句はないが。
そのあとは、特に難しいこともなかった。
調味料を入れて、ただ混ぜたり調味料をさらに加えたりするだけの簡単なお仕事。
あっという間にマヨネーズは完成した。
調味料の配分などは、俺がしっかり計ったので、問題ない。多分。
「これが、マヨ……マヨ……なんだっけ?」
「え?ああ。マヨネーズね。もうマヨでいいよ」
「ああ。マヨネーズね。その、これがマヨなのね?」
「まあ、そうだな。試しに食べてみるか?」
俺が聞くと。
「うん!」
と、今日一番の元気のいい返事が返ってきた。
まずはスプーンで微量をすくいあげ、舐めてもらう。
「しょっぱい…….これで野菜が美味しくなるの?」
「まあ見てなって」
次に俺は、ストッカーから胡瓜を取り出した。
俺はマヨネーズと胡瓜の組み合わせが一番だと思っている。強いて言うと、マヨネーズに味噌を加えた、マヨ味噌と胡瓜が美味しいと思う。
さしずめ、マヨきゅうと言ったところか。
この胡瓜を、スティック状に切り、カルエルに渡す。
「これって、生の野菜?」
「そうだけど?」
「食べられるの?」
毎度おなじみ、生野菜絡みでこの固定概念が働く。
『野菜は生で食べるものではない』という概念だ。
なぜ生で食べないか?っていうと、炒めれば軽く塩の味つくから、生よりは美味しいでしょ?っていうところからきているんだと思う。
何もつけずに生野菜は、俺もあんまり好きじゃない。この胡瓜も、生で何もかけずに食べるくらいなら、焼いたほうがうまいのかもしれない。
まあ胡瓜の場合、生の時のみずみずしさが一番の売りなんだと思うんだけどね。
俺は自分の分のスティックを手に取り、マヨネーズをつけてかじる。
懐かしい味だ。完璧とは言えないが、近い味だ。
ちなみに俺がマヨネーズ食べたのも今が初めてだ。
「普通に美味しいと思うよ」
俺が食べたのを見て、カルエルも胡瓜スティックにマヨネーズをつけ、かじる。
「あっ。美味しい。シャキシャキしてるこの胡瓜も、すごくいい。このマヨネーズも、そのままだとすごいしょっぱかったけど、野菜と一緒だといい感じの塩っぱさ……」
「だろ?これなら生の野菜でも食べれる。炒めた後の野菜でも、味が足らないと思ったら少しかければいい。かけすぎると体に良くないから、そこらへんは注意な?」
「わかった。注意する。ありがとうガリュー。なんか野菜たべれそうなきがするよ」
カルエルはニコニコである。
まあ確かに、どんなに野菜を食べない子供も、ドレッシングを変えるだけで野菜好きになるってのも珍しいことじゃあない。
もし、この世界にマヨネーズを普及させれば、マヨネーズ一つで野菜嫌いの子供が減るかもしれないな。
と、思った時、部屋の扉が開け放たれ、厄介な奴が帰ってきた。
「マヨ姉さんなんていなかったぞ!」
おナス野郎が図書室から帰還してきやがった。
マヨ姉さん探しから帰ってきたようだ。
そもそもマヨ姉さんなんていないので、探しても無駄なことだが。
「お!これがカルエルが作ってくれたマヨなんとかってやつか?どれどれ。僕も頂こう」
マヨが食べ物だとわかっていてなぜ、こいつは図書室に向かって行ったのだろう。
と、純粋に疑問に思ったが、突っ込まないでおいた。
ナスは、そこに置いてあったスプーンで、豪快にマヨネーズをすくい上げ、口に入れた。
ちなみにだが、すくい上げたマヨネーズは、カルエルでなく、俺の作ったものだ。
「しょっぱ!塩辛いなこれ。まあでも、カルエルが作ってくれたと思えば、なんでも美味しいよ」
そんなに一気に食べるとまずい、と、言おうと思ったが、一足遅かった。
「それ、私じゃなくてガリューが作ったマヨよ」
さらに、カルエルからその言葉が発されると、ナスはプチ発狂した。
「ふざっけるな!なんで僕が男の作った料理に美味しいなんて!」
誰に起こるというよりかは、自分自身を怒っているようだ。
「なんでこんなしょっぱいものを作ったんだ!ガリュー君!」
「お前がそんな一気に食べるからだろ?こうやって、野菜にチョコっとつけて食べるものなんだよ」
俺が手本を見せる。
「ん?そうなのか、先に言ってくれ」
そう言って、ナスは胡瓜スティックを手に取り、ちゃっかりカルエルの作ったマヨネーズをつけて、かじった。
「本当だ。美味い。さすがカルエル」
ナスは胡瓜をリスのように食べ、そして、カルエルに、
「美味しかったよ」
といった。
「変態。」
カルエルの目線は鋭かった。
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