キャビアン王の心情
キャビアン王は、視察を終え、満足な表情で馬車に乗り込んだ。
これから城に戻るのだ。
馬車に乗り込むと同時に、キャビアン王は今日のことを振り返った。
私が知らない料理なんて、ほとんどない。
ある時はものすごい辺境に行き、ゲテモノを食べ、ある時は灼熱の砂漠で、高級な食用サソリを追い求めた。
春、夏、秋、冬、季節がどうであれ、嵐が来ても、地割れが起きても、仮に戦争が起きたって、世界のどこかに珍味があると言われればすぐに向かうだろう。
そんな私が、今日1日で本当に度肝を抜かれた。
見た目は奇天烈、味は一級品、香りや料理を出す順番などは、食事をする側の気分や、食欲をあげるように工夫が施されている。
ただ、肉が乗った皿が出てくるのとはわけが違う。
いつもなら酸味が強く、あまり好んで食べることのない酢や、独特な鼻に来るツンとした辛さから敬遠しがちな山葵、匂いが強烈であまり城では食べることの少ないにんにく。
一般的に『美味しい』というイメージが強くない食材を多く用いて、一級品の味に仕上げられていた。
高い食材を使えば間違いなくうまい。が、食材にかかわらず、調味料というものが料理にとって大事なひとつの要素なのだと気が付かされた。
それに、料理の名前も奇天烈。そして、耳にしたことのない名前ばかりだった。
最初の『かるぱっちょ』というものから始まり、最後は『フルーツぽんち』なる甘いデザートで終わった。
最初にかるぱっちょがでたときは驚きを隠せなかった。
量は少ない。ひとつひとつは薄く、味気なさそう。酢の香りが強く、酸味が高そう。魚臭さを酢で強引に消しているのか?
と、悪いイメージばかりがポンポンと出てきた。
だが、いざ食べてみると、そこに魚臭さや強すぎる酸味はなく、バランスがとてもいい料理だった。
それ以上に驚いたのは、このかるぱっちょを、ガリュー君が、『飾りの品』と、言ったことだった。
この味で飾り。では、メインディッシュはどれだけ美味いのだろうかと、高揚感が隠せなかった。
しばらくして、今度やってきたのは、生野菜。
正直これには、怒りを隠せなかった。
生野菜といえば、動物の餌である。
人間が、野菜を生で食べるなどという行為は、ほとんどしない。
炒める、煮込む、スープに入れるなど、調理法は様々だが、生野菜そのものを食べるなど、ありえないと言ってもいい。
せいぜい生で食べるといえば、赤茄子や胡瓜のようなものくらいだ。
だが、その生野菜は、葉物が中心。
間違いなく、生で食べるものではない。
期待させておいて…
と、怒りが紅葉を上回ったその時、ほのかに香った酢の香り。
よく見ると、生野菜の上には、少し黄色がかった液体がかかっている。
これは、何の液体だろうか?
かるぱっちょを食べた後だったので、不思議と酢の香りが魅力的に感じる。
もしかすると、すごく上手いのかもしれない。
一度そう思ってしまうと、フォークが止まらなかった。
口に放り込んで思った。
みずみずしい。そして、シャキシャキとした歯ごたえがいい。
いつもは、炒めた後のしなしなとした野菜ばかりを食べているため、とても斬新な感覚だった。
それと同時に、酸味と甘みが口いっぱいに広がる。
これが先ほどのソースの正体か。
これほどまでに野菜に合うとは。このソースが、野菜の旨味を引き出している。
このソースは、非常に素晴らしい。
気がついた時には皿は真っ白。
ソースも、残っていた野菜でかき集め、一滴も残すことなく食べきった。
そして次の料理がやってきた。
もうこれ以上美味いと昇天してしまう。真面目にそう思った。本当に美味すぎる。
次にやってきた魚は、奇妙な白いペースト状の何かを上に乗せて登場した。
そのペーストからは、又しても酢の香りがする。
さらに、茶色い魚の周囲は、色とりどりの野菜に囲まれ、質素な魚を華やかに彩っている。
一口食べると、もう止まらない。
魚の旨味はそのままに、臭みだけをペースト『大根おろし』なるものが抑えている。
魚自身も、旨味が凝縮され、いつも以上に味が濃厚だ。
周りの野菜は、素材そのものの甘みが出ていて、その甘みも魚と良くあった。
組み合わせを考えられていた素晴らしい料理であると、そう感じた。
そして皿がカラになった後、次に又しても料理が、しかも二品続いてやってきた。
二つとも独特な香りと、うまそうな見た目が、私の興奮をさらに後押しする。
名前はもちろん聞いたことがない。
どんな味か想像がつかないのに、『絶対に美味い』と、なぜだか確信していた。
何より驚いたのは、これがメインのものであるということだ。
てっきり、先ほどのサバがメインの料理だと思っていたので、それは予想外だった。
ひとまず、先にがーりっくらいすというものを食べようと、手を伸ばした。
ニンニクはたいして美味くないことを知っているし、米を炒めるという行為も、聞いたことがなく、何もかもが未知数だった。
そもそも、米というものは炊いて食べる物。炊いた上で炒めるなど、常人には思いつかないアイデアだ。
どんな味がするのか?
私は楽しみで仕方がない。
口に放り込む。
……ああ。美味い。
心の奥からそんな声が溢れ出た。
肉の旨みに、ニンニクの独特な香りが非常に素晴らしい。
散りばめられた野菜も、いい仕事をしている。
全てをまとめて、美味いとしか言いようがなかった。
もう一品。
『スシ』と呼ばれた料理。これは、米を炒めるのではなく、握ったもののようで、俗に言う握りめしのようんなものかと思ったが、ここでもう一度、酢が香った。
もう間違いない、絶対に美味い。酢の香りは、もうなんでも美味しくしてくれそうだ。と、私の鼻が、頭が、心からそう思っているようだった。
そして食べると、やはり期待を裏切ることなく、美味しかった。文句のつけどころが見当たらなかった。。
肉の旨みと、酢飯のほのかな酸味、そこに、山葵の少しツンとした辛さが重なり、なんとも言えないうまさだった。
そして最後に出た『ふるーつぽんち』なるものもまた、非常に美味しかった。
いつも食べている果実の何倍も甘いのに、果実の旨みはしっかりと残されていた。
どの料理も最高。どの料理も非のうちどころがない。
そんな料理だった。
ーーーーーふふふ。ガリュー君。また君の料理が食べられることを、楽しみに待っているよ。
キャビアン王子の乗った馬車は、もう学校からは見えないほど遠くを走ったいた。
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