ガリューの30分クッキング
3分じゃないですよ!
厨房へ駆けていった俺。
『なんの食材が』『どれだけ』『どういう状態で』あるのかどうかに関しては全くわからないけれど、ひとまず走る。
ただ、料理人でもなんでもない、脳内はまだ高校生な俺でも、ひとつ分かりきっていることがある。
たかが三十分で、王様、それも美食家の腹を満たせる料理を作りきれるかどうか?
そんなのは絶対無理だ。
俺が日常的に作っていた卵料理でも、卵焼きひとつ作るのに十分弱かかるだろう。
いろいろ用意も含めて。
そう考えると、はっきり言って無理!
というのが、俺の現在の見解だ。
とか考えているうちに、厨房になんとかたどり着いた。
先ほど先生が言っていた通りだ。
誰もいない。
なぜこんな光の速さを凌駕する超速で料理人たちは帰って行ったのだ?
なんだ?時間外労働にあたるとでも言いたいか?帰ってゲームでもしていたいってか?
冗談はさておき。
俺は食材が入ってあるであろうストッカーを開けた。
当然のことながら、冷蔵庫なんて都合がいい便利すぎる現代的製品はあるわけがなく、冷蔵庫の代わりに、大きな氷をぶち込んだ、保冷機能なんてあるのかないのかもわからないストッカーだけだ。
昔は、日本でもそういった冷蔵庫があったのは知っているが、電気で動く冷蔵庫を知っている俺にとって、こういったものは過去の遺物である。遺産だ遺産。
ストッカーの中には、魚、野菜、肉、その他いろいろ、結構何でも揃っていた。
店のにおいてあったものとりあえず全種類買ってみた。みたいな感じだ。
これらの食材を見て、俺はある料理を思いついた。
ーーーーこれなら……時間がなくてもいけるか?
俺は早速鯛に似た魚を取り出し、そばにあった包丁を軽くすすいでから、魚をさばき始めた。
こんなものは朝飯前だ。
さて、次は……
と、調味料を探したが、あることに気づいてしまった。
調味料が全然ありません!
醤油、味噌、マヨネーズ、その他スパイスなどが全くと言っていいほどない。
パッとすぐ見て見つかったのは、塩と胡椒、穀物系調味料(お酢)、蜂蜜に唐辛子や西洋ワサビくらい。
どうもこの世界の料理は、味付けという概念に疎いようだ。
これまでは、健康に気を使って薄味減塩なのか?なんて思っていたりしたが、そんなことはなさそうだ。
ちなみに、俺が家で朝飯を作っていた時は、自分で買ってもらった昆布のだしや、なぜか庭に生えてた幾つかのスパイスを使っていた。
なんで都合よくそこにスパイスが生えていたのかは知らない。そこにあったから使った。それだけだ。
閑話休題。
これだけの調味料じゃあ作れるものも限られてるな…。
と、思った時、元考えていたある料理に、少し手を加えることで、良い感じになることに気がついた。
魚をさばくのを再開。
俺は急いであるものを作り始める。
鯛っぽい魚を薄く切り、塩胡椒を軽く振るう。
パプリカ、ピーマン、玉ねぎをみじん切りにして、水気を切って鯛の上に。
さらに、オリーブオイルとレモン果汁それにお酢を加えたタレをかけてさらにキレイに盛り付ける。
周りにトマトを並べて完成。
お手軽。(魚さえ捌けていれば)五分くらいでできるカルパッチョだ。
簡単なレシピだが、非常に味がいい。
インターネットのレシピサイトを侮るな。と、言いたい。
実際、料理のレシピはだいたいそこで覚えた。
パンがそばにあったので、カゴに入れてカルパッチョの皿とセットで置いておく。
俺が何をしたいのか?
三十分で作れなくとも、少し時間があれば料理は作れる。
だから、お客(王様)が食べている間に料理を作ってしまえばいい。そうすれば十分に間に合う。
俺は、コース料理のように、何度かに分けて料理を持っていくことで、並行して作業を進められる状況を創り出そうと考えたのだ。
ちなみにコース料理は、色鮮やかな前菜で始まり、サラダ、スープ、パン、魚料理という順番で出していく。その後は、ソルベで魚の青臭さなどをリセット。
やっと、メインの肉料理が来る。
そうして、チーズ、デザート、果物を出して、終了だ。
カルパッチョは、コース料理でいう前菜。
あいにく、時間の都合でスープなどは無理があるが、魚料理や肉料理、サラダなどは、食材が揃っているのですぐにできる。
さあ。止まっている暇はない。
二つ目はサラダだ。
この世界には、マヨネーズがない(前述)上に、ドレッシングもあるわけがない。が、ないなら作ればいいじゃない。
俺は、野菜をひたすら洗って、キレイに切って、さらにキレイに盛る。
そこに、自作フレンチドレッシング(作り方は割愛)を添えて完成。
お手軽超速サラダだ。
サラダ完成と同時に、先生がやってきた。さっきぶつかってしまった先生と、ヴァイア先生の二人だ。
「ガリュー君!?そこで何を?」
ヴァイア先生が言った。
「僕の責任でこうなったんです。せめて僕に償わせてください!」
俺は手を止めずにそう言い放った。
「そんなガリュー君。あなたみたいな子供が料理なんて….あら、綺麗」
先生は俺を止めようとしたのか、こちらに歩み寄ってきたが、近くに置いあったカルパッチョとサラダに目がいってしまったようだ。
思わず綺麗。と、言った先生の言葉に、少し照れた。盛り付けは得意な方なので、褒められると少し嬉しい。
っと、そんな状況ではなかった。
スープを抜いて、さらにパンの代わりにご飯で一品作ろうかと思う。
ちょうどよく炊いてあった米に、お酢、砂糖、塩をふり、酢飯を。
残りの米は、トマト、玉ねぎ、人参、ニンニク、そこに塩胡椒、を入れて炒めた、簡単ガーリックライスを作った。仕上げにバジルとレモン果汁を少し。
肉は数分前に鍋に、ワイン、蜂蜜、りんご、砂糖etc……と一緒に突っ込み、じっくり煮込んでいる。数分でじっくりと言うかどうかは別として。
その肉を、半分は薄く切って酢飯と一緒に握り、肉寿司に。西洋ワサビを添えて皿に盛る。
もう半分はサイコロ状にカット。
少し焼き目がつくまで焼いて、ガーリックライスに乗せる。
どちらの肉も、ソース的なものがかかっているわけではないのだが、割と美味しくできていた。良い言い方をすれば、素材の味がよく出ていた。
「にしても……こっちの世界の食材の方が、素材の味が濃いな」
自分で改めて料理を作り、味見をしていくと、そんなことに気がついた。
なんというか、食材自体の味が濃厚だ。
肉も、牛肉以上の香りや深みがあるように感じる。
生育環境がいいのだろうか?
「あの……ガリュー君?もう時間が……?」
ヴァイア先生が言った。
もう三十分が経ってしまったようだ。
いや、むしろここまで作ることができた。
やっと三十分といってもいいくらいだ。
鍋をいくつか同時に使って、並行して料理を勧められたことが大きかったと思う。
「わかりました。料理を持っていかないと、ですね」
俺は料理を持って行こうと皿を持って動き出した。
「あ、ちょ、ガリュー君?料理は私たちが運ぶから大丈夫よ?王様には料理の説明とかもしないといけないから…」
「じゃあ余計に僕が行ったほうがいいですね。この料理は、僕のオリジナル(違うけど)なので、僕以外に説明できる人は多分いないでしょう。僕が行きます」
俺は料理をそのまま、王様がいるという部屋へ持って行った。
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