魔術トラブル
「今日からやる、魔術は、これまでの魔法とは大きく異なります。危険で、扱いが難しい。何度も言いますが、一歩間違えれば怪我、それ以上のことが起きてしまう可能性も十二分にあるのです。なので、しっかり説明を聞いて、授業に取り組んでくださいね」
先生が言うと、心なしか生徒全員の背筋が伸びる。きちっとしなくちゃ。という思いが伝わってくる。
皆が緊張した顔つきだ。
一人寝てるやつは置いといて。あいつはいつも寝てるし、もうどうでもいい。
「まず、最初に説明した通り、魔術には呪文があります。詠唱すればするほどに、威力は高まり、精度は上がります。ですが、逆にそれができていないと、暴発する恐れもあるのです。呪文には様々ありますが、ファイヤボール撃ちたければ『火の玉よ、焼き尽くすが良い』とかそんな感じで良いです。ただ、これまでの偉い魔術師の人々は、ある魔術と、一定の決まった呪文の字列によって、その魔術の力を十分に引き出す法則、『呪文最適化の法則』を見つけました」
なんか普通の科学の授業みたいだな。
〇〇の法則、には随分とお世話になったもんだ。
「呪文最適化の法則は、その魔術の属性、形状、威力、効果などのそれぞれの項目を調整可能にするものです。例を出すとして、ファイヤボールなら、火属性、球体、中威力、対象を燃やす、吹き飛ばす、という条件が欲しいですね。そういった場合には、『燃え盛る玉よ、焼き尽くせ』と、火属性に当たる燃え盛る、球体を表す玉、そして効果に当たる焼き尽くせ。を織り交ぜる形で呪文が出来上がります。要点を押さえた呪文なら、短くとも、高い威力の魔術を打つことができるのです」
今度はなんか文法みたいな感じだな。
と、思っていたら、先生が一冊の本を取り出した。
「しかし、最適化された呪文は、多くの種類があり、それぞれが、ここ数百年という歴史の中で伝承されているのです。ですから、すべてを覚えたり、瞬時に呪文を唱えることは、難しいと言えます。ですから、中等学校以上の生徒になると、このような魔道書の購入を勧められます。様々な機能があって便利ですが、まあまだ皆さんに説明するのは早いので、今はこのの話はこの辺で。とにかく今日は、呪文最適化済みの呪文を唱えて、魔術を撃ってみましょう」
そんなわけでまた、俺たちは外に連れてこられた。今日もまた外での授業だ。
暖かい日の光の下で、熱い火の玉を作り出す授業が始まる。
先生がまずはお手本を見せてくれた。
「燃え盛る玉よ、焼き尽くせ」
先生は先ほど言っていた呪文を唱えた。
いつもは焼き尽くせ以外はよく聞こえてなかったが、フルバージョンが聞けてなんかスッキリした。
どうやら、最も効率よくファイヤボールを使うには、この呪文が最もいい、ということに関しては、説明を聞いてよくわかった。
ただ、文句を言うならば、ちょいとダサいんじゃないだろうか?
いや、これまでの魔導師が頑張って見つけたんだろうけどさ。
ん。なんていうか、ダサい。
呪文なしで魔術も使えないかな?ファイヤボールって言ったらやっぱりマ◯オでしょ?
あれイメージしてやったらいけるんじゃね?
なんて軽いイメージで、ただ無言で火の玉のイメージと、発射を行った。
ーーーーボフゥッ
という音を立てて音奈緒の顔より一回り大きくらいのサイズの火の玉が出た。
火の玉は地面にぶつかって跳ねた。ゴムボールのように。
そのままどんどん進んでいく。
ん?跳ねた?火の玉が跳ねた?
さすがにそれはゲームのしすぎ、マ◯オのしすぎじゃあないですかね?
と、自分に突っ込む。
跳ねていった火の玉は、そのまま校舎に突っ込んでいった。
一瞬やばいと思ったが、火の玉は校舎に当たると同時に弾けた。
もしかすると他の人の火の玉もバウンドするのかも。と、思って他の人の火の玉も見るが、誰一人バウンドしない。
地面に当たってそのまま霧散していく。
そもそも、魔法、魔術は想像が頼り、火の玉が跳ねるなんて考えを持つ人がいないと考えるのが一番しっくりくるな。
ちょっとバウンドするとは思わなかったけれど、まあそれはそれで嬉しい(?)誤算だな。と、頭の中で割り切る。
しかし、火の玉だけでこの長い授業、なんというか暇だな。
もうちょいなんかこう、ドラゴン作るくらいの授業もやってみたいな。
俺は、誰も見ていない時を見計らって、炎の龍をイメージした。
翼が生え、全身から火を吹く(魔術で作るから、正確には炎でできている)、大きな龍を。
そうだな、名前は…
「命名!ファイヤドラゴン!なんちって」
想像すると想像するほどに破壊力の高そうな魔術になりそうだ。だがしかし、今撃っちゃうとやばいなこれ。
と、危険を察知して止めようとするが、名前をつけてしまったのがいけなかったようだ。
止めるのが遅れて、大きな火の龍は空へ飛び立とうと俺の手から出てきた。
ただただ大きい龍だ。
火の龍。大人がいくつとかそういうレベルじゃない。
もうなんていうか、トラック10は下らないんじゃないか?
こんな危ないものを放置しておくわけにはいけない。と、すぐに消そうとするが、これがなかなか消えない。
しまいには、少し龍の姿が揺らいだかと思いきや、直後に大爆発を起こし、消え去っていった。
爆発に巻き込まれた俺は、思い切り吹き飛ばされてしまった。
ーーーーーーーーーー
「ぬ…んんんん」
誰も見ていないところで、無茶苦茶大きい大爆発。
自分のファイヤボールに夢中だった他の生徒も、何人か爆風で吹き飛ばされた。
俺も後ろに吹っ飛んで腰を打った。
「いて…ててて」
立ち上がって腰についたホコリを払う。
「なんでこんな魔術を使ったんですか!みんなが危険になるような事はもう絶対しないでください!」
先生は、走ってこちに来て、俺の眼の前で止まった。
これまで見た中で最も恐ろしい顔で先生がいった。
何人かの生徒は、爆発の影響で医務室へ送られた。
爆心地に近かった俺もだ。
後でわかったことなんだが、魔術を使う際に、しっかり呪文を唱えないと、制御不能になることがあると。
なかなか消えずに爆発した理由もそれ。
さらに、複雑な魔術になるとなるほどにそういうことが起きやすくなるそうで、まさに今回の爆発にぴったりな説明だった。
怪我をさせてしまったみんなに、謝って回った。
幸い大きな怪我の人はいなかったが、以後気をつけろと先生からこっぴどく叱られた。
大爆発はしたものの、学校の地面の方はアホみたいに頑丈だったので、特に破壊してしまったりとかはなかったので安心した。
この事件はその後、大きなニュースとして取り上げられることになるが、そのことを俺は知らなかった。
それが今後の俺の人生にどう関わってくるかさえも。
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