学校へ行こう!
「まあなんだ。達者でな。ケガと病気に気をつけるんだぞ」
馬車を前にして父さんは言った。
今日は俺が学校に行く日である。
時が流れるのは早いものだ。ついこの間魔術を見せてもらっとことがまだ昨日のことのように感じる。
俺は父さんの魔術を見て、すごい衝撃を受けた。
凶暴なイノシシを何匹も何匹も瞬時に焼肉へと変えた父さんの魔術。
俺も早く使いたい。と、好奇心が俺の中で破裂するほどに膨張し続けた。魔術っていうのは、日本にいた頃は、厨二病の考えるようなことだと、思っていたが、今になって、魔術への憧れ的なものがわかったと、俺は思う。
だが、問題があった。早く使いたいが、使えない。学校に行って、結晶に触れるまでは。
やる気があれば、とか、本人の努力次第とかではないのだ。絶対に、なにがあっても結晶に触れない限り魔法は使えないのだ。
使えないならせめて、勉強するくらいは、と、あの後、俺はひたすら魔術について調べた。
が、どんな本にも、詳しいことは載っていなかった。
どの本も決め台詞は同じだった。
「魔術とは集中とイメージである。」
もしかして魔術っていうのは、理屈的なものよりかは、感覚的なものかもしれない。
やっていくうちに、だんだん体が勝手にわかってくるんじゃないだろうか?
そう思い、この言葉の意味は父さんにも聞いたが、はっきりとした答えは返ってこなかった。
「やればわかる」
そう言われて終わり。
なんだよそれ?やればわかるってなんだよ?滅茶苦茶気になるじゃん。
このなんとも言えない好奇心の高まりを本気でぶつけるには、学校へ行く必要があった。
学校へ行って、結晶に触って、早いとこ授業受けるしかないのだ。
もどかしくて仕方がない一ヶ月。
そしてその後も、もやもやする気持ちに耐えること一ヶ月。
そう。一ヶ月乗り切ったのだ。
ついに今、その時がやってこようとしている。
「うん。父さんも、元気でね」
「ああ。もちろん。俺はこう見えて中堅冒険者。身の回りのことも大抵は一人でできるんだ。お前がいないと寂しくなるが、絶対に帰ってくるんじゃないぞ」
「帰ってくるな?って…?」
驚きの発言に俺の表情筋が固まる。
父親が帰ってくるななんて言うなんて、正気かこの人は?
「何そんな顔してんだよ。帰ってくるなってのは、魔力なしって判定されて帰ってくるんじゃないんぞって話だ」
「そういうことか。大丈夫。安心して。むしろ魔力なしだったら、俺発狂して死ぬかもしれないし」
どうやら顔に出ていたようだ。俺は父さんの言葉に安心し、少し冗談を交わす。
「おいおい。そんな物騒なこと言わないでくれないか?」
と、言いながらも父さんは笑っている。
ガリューに限ってそれはないだろう。といったようなことでも考えているようだ。
と言うよりも、互いに冗談を交わし合っているといった感じ。
どちらかというと、父さんというより、息の合う友達だ。
何か親子という壁を抜けた感じがする。
まあそれは、俺がこの人のことを真の父親だと思っていないからなのかもしれないが。
間違いない。紛れもなく、二人の間には何か切っても切れない何かがここ数年で生まれたことは間違い無いだろう。
「冗談だって。その時は諦めて父さんの冒険者業を手伝うよ」
俺は父さんにそう言って、少しでも安心させようと考えた。
「ああ。そのことなんだが。まあ仮にそれで帰ってきたようなら、お前を騎士養成学校に入れようかと思う」
「ああ、そんな学校もあったね」
騎士育成学校。魔法使いとしての適性がなかった人や、幼い頃から身体能力が良い子供が入る学校。
名前の通り、剣と魔法の世界のうちの、剣に当たる人々を育成する学校。
それはそれで嫌なルートではないが、まあできれば魔法が使いたい。
と、思っていると、倒産は更に後に言葉を続けた。
「まあお前が嫌なら絶対入れとは言わないけどな。あくまで一つのルートとしてな。まあ、これだけ魔術師に憧れ、多くのことをこの歳にして学んでいるんだ。神様も力を分け与えてくれるだろう」
そう言って父さんは空を見上げた。
「ほら、そろそろ出発だ。早く馬車に乗らないと、帰ってくるどころか、行くこともできないぞ」
急に視線を馬車の方向へと向けた父さんはそう言って、俺の背中を押した。
「じゃあ行くよ。元気でね」
「お前に言われなくても俺は元気だ!お前こそ元気でな!」
俺は馬車に乗った。
同い年と思われる子供たちが10人ほど乗っていた。全て同じ学校に行こうとしている子供達だ。
空いていた席に座り、窓から顔を出し、父さんに手を振る。
少しすると馬車は動き出し、街の外に向かっていった。
俺は父さんが見えなくなるまで手を振り続け、街を出たあたりで顔を戻し、静かに座った。
さて、もう新しい生活は目前にまで迫っている。
第4大陸第2初等魔術師学校。俺が通う(予定の)学校だ。
完全寮制。
魔法、魔術の基礎を教える学校。
魔法に関わることだけでなく、一般常識、いわゆる算学、語学、などにあたるもの、体力作りの授業もある。
普通の小学校に魔法学科を加えたようなものだ。
加えたというより、それがメインなわけなんだが。
ちなみに、中等、高等、と、レベルが高くなるにつれて、内容も濃くなっていく。
それは魔法関係だけではない。
まあ結局魔術の才能があれば入れるが、一応の知識は持ち合わせていた方がいいらしい。
まあそれ以前に、初等学校さえも卒業できるかどうか?
これは父さんから聞いた話だが、入学はできても、あまりに三年間で成長しなかった場合、卒業できずに帰されることもあるとかなんとか。
魔術師の学校は、卒業しているだけで社会的に優遇されることがあるらしい。
それは高等や中等だけでなく、初等もだ。
まあもちろん、高等の方がそりゃあいい対応が受けられるはずではあるけれども。
そういったこともあって、下手に卒業させるわけにもいかないというのが、この世界での学校側の考えらしい。
ただまあ、今からそんなこと考えても、どうにかなるものではない。
正直なところ、入学さえもできない可能性があるっていうのに、そんな中で卒業、中等高等って言ってられないよな。
俺はそうんなことを考えながら、ガタガタ揺れる馬車の中から、比較的速い速度で流れていく景色を見つめた。
学校まであと数時間馬車の旅は続く。とにかく道は長いのだ。
俺は学校に着いた時に疲れないように、一眠りすることにした。
最初のうちこそ揺れに揺れまくって眠れなかったが、そのうちまぶたが重くなり、俺は眠りについていた。
次回、学校篇。始まる?
そもそも入学できるのか?
さあ、話が動き始めます!
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