修道院にて 13
13
修道院の朝は早い。
そのなかでもとくに早いのは、院長グロリアの起床だった。
まだ夜が明ける前には目を覚まし、ひと通りの見回りや門番の報告などを聞き、ようやく朝日が上るとともに修道女たちも目を覚ます。
グロリアは、一日の最初の仕事として防具、武器の手入れを命じた。
昨日の戦闘での損害は出なかったが、だからといって気を抜いてよいというわけではなく、勝ったからこそしっかりと気を引き締め、道具も手入れしなければならない。
「いざというとき、防具が壊れていて致命傷を負うなんていやだろう」
「はい――あの、手入れならわたしたちでやりますから、院長までやらなくても」
「なに、ちょっとした暇つぶしだ」
笑いながら、グロリアは白銀に輝く槍の刃を磨いた。
マグノリア修道院の基本は棒術だが、武器庫にはそれ以外の武器や防具も収蔵されている。
鎧や剣のほか、刃のついた槍が比較的多く、それは棒と同じ間合いで戦えるために資金に余裕ができる度すこしずつ買い込んでいるものだった。
棒と槍、もちろん槍のほうが殺傷力が高く、攻撃手段としては有効である。
しかしあえて修道女に棒を使わせているのは、棒の場合は相手を殺すという意志を持って強く打たなければ死にまでは至らないが、刃のついた槍の場合、その意志がなくとも相手が死んでしまうという可能性もある。
意図しない殺人は、心のためによくない。
殺すしかないのなら、そう自覚しながら手を下さなければならない、というのがグロリアの考えだった。
「そういえば」
とグロリアは刃を磨きながら、ふと顔を上げる。
「マサコはいるか?」
「は、マサコですか」
「最近修道院にきた、いつもフードをかぶって顔を隠している女だ」
「ああ、あの――図書館にいるのでは? いつも図書館の、人気のない場所でなにか調べ物をしているようですよ」
「ふむ、そうか――すまない、ここを任せる。すこしマサコと話をしたいんだ」
「はい、わかりました」
グロリアは立ち上がり、武器庫を出た。
今日は双日一日目である。
夜のうちにあった雲も、朝にはどこかへ去っていて、白く薄いもやのような雲のほかは鮮やかな青空になっている。
風は、すこし肌寒い。北にある山から吹き下ろしてくる風で、回廊に出るまでもなくびゅうびゅうと吹いているのがわかる。
グロリアは風に揺れる髪を押さえ、なんともいえない予感のようなものを覚えた。
決していい予感ではない。
この晴れ渡った目が痛むような青空の下、なにかが起こりそうな、うなじがざわつくような予感があるのだ。
「あ、院長!」
図書館の裏手から入り口の扉へと歩くあいだに、白いローブの修道女が駆け寄ってくる。
「たったいま、見回りに出ていた部隊が戻ってきました。それで、すこし気になることが」
「気になること?」
歩きながら、修道女は声を潜める。
「昨日襲撃してきた革命軍のものと思われる血のあとが、修道院のすぐ横に、大量に残っていたのです」
「血のあと――死体は?」
「いえ。おそらく死にはせず、どこかへ行ったものと思われますが、それにしても昨日の戦闘でそれほど出血があったようには思えませんし、そもそも場所がちがいます。血のあとが見つかったのは修道院の横、馬小屋の当たりなのです。馬の血かとも思いましたが、小屋にいた馬はすべて無傷で残っておりましたから、おそらくは昨日の男どもの血と」
「ふむ――」
奇妙といえば奇妙なことだった。
棒での戦闘で、相手の腕や肩を打ちつけて骨の一本や二本は折ったかもしれないが、それは出血を伴うものではなかった。
しかし今朝になって大量の血のあとが見つかったというのは、昨日の出来事と無関係にも思われないのだ。
「もしかしたら、昨夜、あの男たちが復讐にきたのかもしれないな」
「復讐、ですか」
「あの男たちは、女という生き物を見下している。その女にあれだけ簡単に追い払われたとあっては、あの男たちも悔しいだろう。その憂さ晴らしで闇夜に乗じて侵入する気だったのかもしれないが――だとしたら、その血はいったいなんだろうな。まさか仲間割れをして斬り合ったわけでもないだろうに。昨日の門番は、なんと」
「話を聞きましたが、門が閉まってからはだれも出入りしていないそうです。もちろん、怪しい影も見なかったと。ただ、門から馬小屋はすこし離れていますから、馬小屋のほうでなにか騒ぎがあっても気づきにくいとは思いますが」
「まったく、不思議なことがあるものだな――わかった、頭に入れておく。もしかしたらまだなにか起こるかもしれないから、普段より門番を増やし、周辺の見回りを強化するように」
「はい、わかりました」
「不審者を見たとなれば、まず報告し、仲間を連れていくことを徹底させるんだ。決してひとりやふたりでは近づかないように」
「はい」
白いローブの女はグロリアに一礼し、走り去っていく。
グロリアはその別れた場所で向きを変え、図書館の扉を開けた。
両開きの、その分厚い扉を押し開けると、なかから古い紙の匂いがふわりと流れ出てくる。
その匂いに全身を浸すようになかへ入り、グロリアはあたりを見回した。
天井が高く、奥行きがあって広々とした空間は、ほとんどすべてが本で埋め尽くされている。
そのほとんどは代々の院長が集め、この図書館に収めたものだが、グロリアの代に集まった本もかなりの数に上っていた。
収蔵されている本は、おそらく一万冊では足りないだろう。
そのうち、半分ほどは現在使われている言葉で書かれた本で、この地域だけではなく、大陸全体、果てはちいさな島々から集められている。
残りの半分は過去の院長が集めたものや遺跡から見つかったものを譲り受けたもので、様々な種類の古代文字で書かれた本や文書である。
マグノリア修道院は女たちの楽園である。
しかし廃退的であってはならない。
常に革新的でなければ、と考えたのは、グロリアよりもはるか昔、十代か二十代は前の院長で、そのころからはじまった書物や知識の収拾は、現在まで途切れることなく続いていた。
もはやマグノリア修道院は大陸一の知の宝庫といえる。
もっとも、それを閲覧できるのは修道院に出入りできる女だけなのだが。
「あ、院長さま」
図書館の整理か、または聖典でも読んでいたのか、一階にいた修道女たちが振り返り、グロリアに頭を下げた。
グロリアは軽くうなずいて答え、
「ここにマサコがいると聞いたんだが」
「マサコ?」
「あの、フードをかぶった新参者だ」
そこまで言ってようやくわかったらしい、女たちは一斉に頭上を見た。
正確には、斜め上、二階の通路の奥である。
グロリアは苦笑いし、女たちのあいだを抜け、奥にある梯子に手をかけた。
それをするすると上りながら、あの女は相変わらず周囲と打ち解けていないらしい、と考える。
いっしょに修道院へやってきた三人、燿、紫、泉は、それぞれに修道院に馴染んでいるような雰囲気がある。
燿はもともとあの性格で人見知りもないからだれとでもいっしょにいるのを見かけるし、紫は鍛錬室に出入りして棒術を習っているのを見かけ、泉は中庭で治療にも使える植物の手入れをしていた。
それなのに、三人の教師らしい女だけはだれとも馴れ合わず、ひとりで調べ物をしているようなのだ――グロリアは背中を丸めて文献にかじりついている姿を見つけ、その後ろに歩み寄っていった。
*
大輔は得も言われぬ興奮を覚え、文献を握る手にも力がこもって、そのまま破いてしまわないように手加減するのに苦労していた。
図書館二階の通路である。
その手にあるのは、いかにも古い書簡のひとつで、山積みになった文献を引っ張り出していると偶然棚の上から降ってきたものだった。
所々が破れた、黄ばんだ書簡だ。
何気なくそれを広げた大輔は、いちばん上に古代文字で「して新たな平和を獲得したのだ」と書いてあるのを読み、またありふれた戦記のひとつかとため息をついた。
中途半端な部分ではじまっているのは、この前にまだ文献があったせいにちがいない。
その文献は定かではなかったし、あえて探すほどでもないように思われた。
ただ、手癖のように指がみみずがのたくったような古代文字を這い、視線がそれに追随する。
『――して新たな平和を獲得したのだ。しかしこの平和は偽りのものであった。すぐにまた彼らが蜂起し、町を襲い、ひとを襲い、暴れまわった。また戦争かとだれもが考えたとき、不意に彼らは暴れることをやめ、その代わり、世界中へ向かってある宣言をした。その独立宣言こそ、まさに歴史的なものであり、彼らは――を用いてその宣言を実現させたのである』
「ん?」
大輔は首をかしげ、眉をひそめた。
文章にわからない部分があり、読み返してみると、どうやらそれは固有名詞らしい。
そもそも古代文字は解読できても、その発音までは定かではない。
それがなにかの固有名詞らしいということはわかるが、なにを指しているのかまではわからず、そのまま読み進めていく。
『――とは、すなわちこの世の理である。われわれは彼らの決断を狂気にしか感じなかった。自暴自棄になり、そのような戯言を言っているのだと考えたが、しかし彼らははじめから本気だった。事実、彼らにはその能力があったのだ。彼らは――を使うことでこの世界すべてを破壊し、自分たちはより住みやすい世界へ移住しようとしているのだ。われわれは阻止すべく動いたが、彼らの活動を止めることはできなかった。彼らは自分たちがやるべきことを理解していた。われわれの制止を振りきり、彼らはわれわれをこの世界へ残し、旅立った。そこでわれわれは理解したのである。われわれが争ってきたものとは、つまり決して戦うべきではなかったものなのだと』
「――なんだ、これ?」
大輔はじっと黄ばんだ紙を見下ろした。
古く、乾燥した紙の表面に灰色の薄い墨で書かれた文章は、まるで創作物のようだった。
実際、それは聖典の一種なのかもしれない。
そうだとしても、それはなにか歴史的な、世界の命運を左右するような場面を描いた聖典ということになる。
「彼ら」とはなにか。
「われわれ」とはだれのことか。発音のわからない固有名詞はなにを指しているのか。
「より住みやすい世界」とはなんのことか。
そしてそこへ旅立ったとは、いったいなんの暗喩なのか、あるいは真実そのものなのか。
この文章にはなにかある。
大輔はそれを直感する。
改めてはじめから読み返し、頭のなかで事態を再構成してみれば、「われわれ」とは当然記述者であり、「彼ら」とは記述者と敵対しているなんらかの組織ということになる。
「われわれ」と「彼ら」は戦争を起こし、一度は「われわれ」が勝利したが、その後再び「彼ら」が蜂起し、今度はなにか裏の手、つまりそれが解読できない固有名詞だが、それを使うことで事態の逆転を試みた。
そして、結果はどうなったか。
「われわれ」はこの世界に残り、「彼ら」はどこか、より住みやすい世界へ旅立った。
まるで出来の悪いSF小説でも読んでいるような気分だった。
「彼ら」というのは一種の宇宙人で、地球から別の世界へ旅立っていったようにも読める。
別の世界、という連想が、大輔の頭に炎のようにひらめいた。
この世界と、向こうの世界。
新世界と、地球。
ここは新世界で、「われわれ」はこの新世界に残され、「彼ら」はここではない世界、地球へと旅立った――?
「マサコ」
「ひゃああいっ」
興奮がいちばん高まったところで後ろから声をかけられ、大輔は文字通り飛び上がった。
声をかけたほう、グロリアも驚いたように後ずさって、
「ど、どうした? なにか悪いことでもしたか」
「い、いや、そんなことはない――ざ、ざます。な、なにかご用ざますか?」
「用というほどではないが、すこし話をしようと思ってな」
グロリアは大輔の手元にある文献を覗き込みながら、男のような仕草でそこにあぐらを組んだ。
「これは、なんの書簡だ? 古代文字だが、読めるのか」
「ま、まあ、その、すこしくらいは」
「ほう、それはすごい。古代文字まで読めるとは――異世界人というのはみなそうなのか?」
「いや、あの、そういうわけじゃない――ざますが」
大輔がしどろもどろなのも仕方なかった。
大輔はいまもその書簡が気になって仕方ないのだ。
なにか重要なことに気づきかけたような気がしたのだが、グロリアがいたのでは続きが調べられないし、落ち着いて考えることもできない。
かといっていま忙しいからと追い払うのも不自然で、ここはしばらくグロリアの話に付き合うしかないようだった。
「マサコ」
「――あ、ぼくのことか。な、なんざます?」
「地球について教えてほしい。地球から見て、この世界はどうだ?」
「どうと言われても、その」
「文化は未発達か。ひとびとはどうだ? なにか決定的にちがうことはあるか」
「それは――文化的には、地球よりは未発達に思えるざます。ひとびとは地球でも変わりません――ざます。細かく見れば地球とこの世界はちがいも多いざますが、広く見れば、ふたつの世界はさほどちがいはないざます」
「ふむ、なるほど。では、この世界の行く先は正しいと思うか?」
「行く先?」
「国やひとびとが向かうとしている先だ。たとえば、王国が倒れ、革命軍が幅を利かせている。こうした流れは正しいと思うか」
大輔はわずかに考え込む。
それから、フードのなかに手を入れ、頭を掻いた。
「正しいかどうかはわかりません――ざます。そもそもなにをもって正しいとするかが問題になるざます。正しいとはなんなのか」
「正しいとは――そうか、正しいとはなにか、という問いもあるわけか」
グロリアは眉根を寄せ、その白い肌に苦悶を浮かべる。
「いままでとくに意識せず信じていたものがつまり『正しい』というものだが、それは万人によってちがうだろう。つまりわたしにとって『正しい』か否かと聞いているわけだな、わたしは。わたしが信じる『正しい』とは、ひとびとがより平和に、安心して暮らせるかどうかだ。強きものが安心して暮らせる世界ではない。弱きものが安心して暮らせる世界を、わたしは『正しい』と信ずる。果たしていまは、その正しい世界へ向けて進んでいるのか? それとも誤った方向へ進んでいるのだろうか」
「それもやはり、答えようがない問題ざます。王制に苦しんでいる人間たちはたしかにいる。彼らは革命軍の到来によって救われる。しかし反対に、革命軍によって苦しみを味わわされるひとびともいるざます。ぼく――ごほん、わたしといっしょにこの修道院へやってきた女たちは、まさにそうしたひとびとざます。では、革命軍が世界の仕組みを変えることで利益を得る人間とそうでない人間の数で比べればよいのか? 利益を得る人間が五〇〇、そうでない人間が五〇一なら、その試みは誤りか」
グロリアは腕を組み、いよいよ苦しそうに眉をひそめて、最後には降参だというように手を上げた。
「わかった、すまなかった。なんだか説教をされているような気になってきたよ」
「む、そんなつもりはなかったざますが」
「いや、たしかに、きみの言うとおりだ。正義は決して数の問題ではない。しかし、どこかではその数の問題で決着をつけなければならない。だれもが同時に利益を得られる世界というものがない以上は。しかしそれなら、たとえば山賊はどうだ。ひとりの山賊が、ひとりの商人を襲う。あるいは、殺してしまうとする。このとき、利益を得る山賊はひとりで、損害を被った商人もまたひとり、つまり一対一だ。数の上では、正義でも悪でもないということになってしまうぞ」
「数にはもちろん、行為そのものにも正義や悪はない――ざます。それを見た人間が、あれは正義、あれは悪、と決めるだけのことざます」
「それがすべてだと? 正義や悪というものは、この地上には絶対に存在しないというのか」
「要は心の問題ざます。すべての現象は光にすぎない。その光を心が反射し、ようやく理解できる。ひとは生物学的に心が反射した風景しか理解することはできないわけだから、正義や悪どころか、この世界すべてが心のなかにあるといってもいいわけ――ざます」
「ふむ――そう簡単に理解はできないが、きみの言いたいことはわかる」
「それに、数でいうなら、たしかに直接被害を加えた人間と被った人間は一対一だけど、その向こうにはもっと大きな数がある。その街道を通る商人は、襲われた商人ひとりじゃない。その商人が襲われることによってほかの商人たちは恐怖を覚えるざます。山賊もひとりじゃないけど、商人の数に比べればすくなくなる。結果的に、数で見れば山賊のほうが迷惑をかけてる、悪いってことになる――ざます」
グロリアはじっと大輔を見つめた。
大輔はうっとうめき、さらにフードを目深にして顔を隠す。
しかし声だけはどうしようもないから、できることなら会話したくはなかったのだが、こうなってしまってはどうしようもなかった。
ついにばれたか、いっそこのまま走り去ってやろうか、と大輔は内心冷や汗をかいたが、グロリアはとくになにか考えたふうでもなく、
「それは地球の知識か」
「そう――知識というなら、そういうことになるざますが」
「きみは、人間はこの世界も向こうの世界も大差ないと言ったが、どうやらそういうわけではなさそうだ。わたしが見るかぎり、やはり地球人のほうが優れているようだよ。もちろん、人間そのものが優れているというよりは、歴史があり、その分長い蓄積があるせいだろうが」
大輔も思わずうなずく。
人間の進歩というのは、蓄積していくことでしか得られないものなのだ。
そのことをしっかり自覚している時点で、グロリアも決して愚かではない。
むしろ、地球でも聡明な部類に入るにちがいない。
これだけ大きな修道院をまとめあげているのは、伊達ではないのだ。
「しかし、なぜわれわれは地球へ行けないんだろう?」
不意にグロリアが言った。
「地球人は、こちらの世界へこられる。しかしわれわれは、向こう側へは行けない。この違いはなんなのだろう」
「それは――」
と答えかけて、大輔は自分がその答えを知らないことに気づいた。
そんな基本的な疑問さえ持たなかったことに驚いたが、地球人は世界を移動できて当たり前であり、新世界人はそうではないと気づく機会がいままでなかったのだ。
考えてみれば、たしかにそれはおかしい。
なぜ地球人は新世界へやってくることができるのか。
同じように扉をくぐっても新世界人が地球へ行けないのはなぜなのか。
大輔が答えに詰まり、頭を働かせていると、不意に外で叫び声とも悲鳴ともつかないような声が響いた。
グロリアは顔を上げ、立ち上がる。
図書館の一階でもその声に気づき、すぐさま何人かが入り口へ走って外の覗いていた。
声は、一度聞こえてしばらくなにも聞こえなくなったが、またすぐに響いてきた。
同じように悲鳴のような声だったが、声色がすこしちがう。
別の人間が発しているのだ。
「どうした、なにがあった?」
手すりから身を乗り出してグロリアが叫ぶ。
一階から、すぐに同じように叫ぶ声が返ってきた。
「何者かが修道院内で暴れているようです! けが人が――あっ」
再び絶叫が響いた。
その腹の底からの声に、だれもが背筋をばしりと叩かれたように身をすくめる。
余韻が図書館のなかに吸収される前に、グロリアは駆け出していた。
大輔も顔を隠すことを忘れ、手すりに捕まって一階を眺める――なにかが起こっている。




