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万象のアルカディア  作者: 藤崎悠貴
天空の魔法都市
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天空の魔法都市 12

  12


「べ、ベス姉、大丈夫かなあ」


 振り落とされたジッロは、起き上がりながら頭上に浮かんだ床を見上げた。

 シモンもどしりと座り、冷静に上へ向かう手はないかと考えたが、いまのところあの床が降りてくるのを待つしかないようだった。


「まあ、ベス姉は拳銃も持ってる。あいつらは丸腰だったから、なんとかなるだろう」

「ならいいけど――」



  *



 どちらも容易には動けない状況だった。

 五対一という数的不利はベスも認識している。

 不用意に動けば、間違いなく数で押さえこまれる。


 一方、ベスが持っている唯一の武器のせいで、大輔たちも身じろぎができない緊張にあった。

 ベスに隙が生まれるとすれば発砲直後だろうが、その一発でだれかが倒れては意味がない。


 こういうときは、魔法も役には立たない。

 大輔は跪いたような体勢のまま、状況を見守るしかなかった。


「どうやらあたしがほしい情報はないようだね」

「だったら、どうする? 諦めて帰るか」

「まさか。ここまで苦労して上ってきたんだ。それに見合ったものは手に入れないとね。あんたたち、金目のものを出しな。武器はないようだが、小銭くらいは持っているだろう。ここまできて小銭じゃ割も合わないけど、仕方ない」

「あいにく、ぼくたちは無一文なんでね。小銭も持っちゃいないよ」

「冗談。小銭もなくて、どうやって生きてるんだい」

「ぼくたちは魔法使いだ」

「魔法使い?」


 ベスが眉をひそめ、一瞬、その指から力が抜けた。

 大輔はそれを見逃さなかった。

 ネコ科の肉食獣のようにベスへ飛びかかり、まず手首を押さえ込む。


「こいつ――」


 ベスは引き金を引いた。

 ばん、と短い破裂音が響き、燿たちは身をすくめる。

 その銃弾はだれにも当たらず、ただ、コンソールのスイッチに当たったらしく、ほかとちがって脆弱な素材でできていたのか、そのスイッチが細かく砕けて宙を待った。


 大輔はベスの身体に体当たりし、床に転ばせる。

 そして手首をねじ上げ、拳銃を離させた。


「七五三!」

「わっ――」


 燿が慌てて落ちた拳銃を拾い上げ、両手できゅっと握る。

 大輔はそのあいだにベスの両腕を押さえつけた。


「こいつ、くそ、どこを触ってる!」

「うわ、先生、この状況でセクハラしてるんですか?」

「濡れ衣も甚だしいけど! 見たらわかるだろ、いまそれどころじゃないんだって!」

「女性を押し倒してるところですもんね」

「いやそれはそうだけど言い方ってやつを――ああくそ、力強ぇ! しかしすべてにおいて他人を凌駕するこのぼくに敵うはずはないのだっ」


 大輔はベスの腕を引っ張りあげ、ごろりと身体をうつ伏せにさせて、後ろ手に手首を掴んだ。

 そして、その身体にどかりと腰を降ろす。

 そうなってしまえばいくらベスが暴れても無駄で、大輔も安堵の息をついた。


「これでなんとかなったか。一時はどうなる――」


 言い終わる前に、次の異変が訪れた。

 床が不自然にぐらりと揺れたのである。


「こ、今度はなんだ? ミラ!」

「不具合が起こっているわ。演算部の一部が物理的損傷、いくつかの誤信号が発信されているの」


 モニターに表示されていた町の見取り図が意味をなさない光の筋に分解される。

 床は傾いたまま、ゆっくりと高度を落としはじめていた。


 それまで状況の変化に立ちすくむしかなかったルネは、壁を這い、乱れて落ちる光の筋に生々しい死の気配を感じ取っていた。

 ひとつの生物が血を流し、弱り、地面に横たわろうとしているのだ。


「ミラ、ミラ――大丈夫なのか?」


 ルネはモニターに向かって言った。

 細かい光が昆虫のように集まり、それがミラの姿を作るが、ところどころが歪み、また構成するそばからばらばらと落ちていく光があって、ミラの姿は決して安定しなかった。


「ルネ、わたしはわたしを機能停止させるわ」

「どうして――機能停止って、どうなるんだ」

「わたしというものがなくなる。この町は、死んだ町になる。でも、暴走するわたしを止めるにはそうするしかないの」


 映像のミラは、そこに存在する少女は、いつかルネが見たままの顔で笑った。

 この状況には似つかわしくない、朗らかな笑みだった。


 その笑みを作る光が涙のように崩れて伝っていく。

 すぐさま別の光が失われた場所を補完するが、それが追いつかないほど光は揺らめいていた。


「ルネ、わたしが指示するとおりにここにあるスイッチを押して」

「ぼ、ぼくが?」

「わたしは自分で自分を停止させることができないの。あなたが停止させて」

「どうして――ぼくには、そんなことできないよ、ミラ。ぼくはきみが――」

「あなたはわたしにいろいろなことを教えてくれたわ。あなたは、わたしのなかで特別な情報として保管されている」


 床がぐらりと傾いた。

 危うく滑り落ちそうになるのを、コンソールにしがみついて堪える。


「早くわたしを停止させて、ルネ」

「ミラ――」


 ルネはミラの姿を見上げ、首を振った。


「だめだ、ぼくにはできないよ、ミラ。きみを消すなんて」

「下に落ちるぞ、なにかにしがみつけ!」


 大輔が叫んだ。

 浮遊していた床は、自然落下よりは緩やかだが、ごうごうと風を切って落下していた。

 傾いているせいで、落下位置が建物からすこしずれている。


 建物から出て様子を見ていたシモンとジッロがなにか叫び、逃げていった。

 床はそのまま落下し、建物の屋根の一部を崩落させながら地面へぶつかる。

 建物を構成しているものは土ではなく、白銀の鉱物のようなものだったが、さすがにそれ同士を打ち合わせるとばらばらと崩壊し、あたりに銀色の細かい破片が飛び散って雪のようにきらめいた。


 大輔は床からむくりと起き上がり、あたりを見回す。

 こういうときはさすが盗賊らしく、ベスはすでに体勢を直して建物の外へ逃げ出していた。


「七五三、神小路、岡久保、大丈夫か」

「な、なんとか大丈夫ー」


 コンソールにしがみついていたらしい三人はよろよろと手を上げる。

 大輔はほっと息をついて、


「ルネ、きみも無事だな」

「――ルネ、早くわたしを停止させて」


 すでに映像を描写させる能力も失い、声さえ途切れ途切れになっていた。

 それでもミラは、この町を維持するために自らの停止を要請していた。


 ルネは身じろぎもせず、コンソールを見下ろしている。

 ミラを停止させるということは、ミラを殺すことにも等しいとわかっていた。


 ミラは人間ではない。

 幻のようなものなのかもしれない。

 では、いま自分に語りかけているのは、いったいだれなのか。


「ルネ、お願い」


 ルネは無数に並ぶスイッチを見下ろした。

 それでミラの機能を停止させることができる。

 しかしその行為で助けられるのは、だれもいないこの町の風景だけだ。

 そう気づいた瞬間、ルネは、自分にはミラを止められないだろうと確信した。


 なんの愛着もない町の代わりに友だちを殺すなんて、できるはずがないのだ。


 不意に地面が大きく振動した。

 どん、どん、と真下から突き上げるような衝撃が何度もやってくる。


「なんだ、今度はなにが起こってる? ああまったく次から次へと」

「警備兵が暴走しているわ」


 雑音混じりのミラの声が言った。


「警備兵が暴れている。気をつけて――」

「わわっ――」


 ぐらり、と地面が傾く。

 それはいままでにない大きな傾きで、瞬間的にこの町の崩落を予感させた。


「に、逃げるぞ、走れ!」


 大輔はルネの腕を引き、浮遊する足場に乗り込んだ。

 ルネは中央監視室を振り返る。


「ミラ! ミラも連れていかなきゃ――」

「ミラはこの町そのものなんだ。たぶん、もうだめだ」

「そんな――ミラ、ミラ!」


 暴れるルネをほとんど抱きかかえるようにして足場から足場へと飛び移り、神殿まで駆け下りた。

 燿たち三人もそれに続き、立ち止まらず「空を渡る船」が置かれている広場まで戻ろうとするが、それよりも早く、螺旋状の通路を走っている途中に、また地面が大きく揺れる。


 ただ地面が傾斜しているのではない。

 町を心棒として支えている山そのものが、細かい崩落を繰り返しながら傾いているのだ。


 暴走した警備兵、体長四メートルはある巨大な人型の物体は、それがなにかもわからず、山に向かって体当たりを繰り返していた。

 二体の巨人の攻撃に耐えきれず、山がそこからぽきりと折れようとしているのである。


 燿たちはたたらを踏んで立ち止まる。

 その後ろからルネと大輔が駆け寄り、立ち止まるなと叫んで先へ進んだ。

 しかしそれよりも早く、そのときが訪れた。


 ずん、と重たい衝撃が走ったかと思うと、まず燿が大きく傾いた床から、なにもない空中へ投げ出された。


「燿!」


 紫の叫びは、さらなる崩落にかき消された。

 耳をつんざくような、雷のような轟音を立てて山が傾き、勢いをつけて垂直に折れ曲がる。

 町のあちこちが山とともに崩れ落ち、かつて栄華を誇った銀色の魔法都市は、ばらばらの破片となって青い空を舞った。


 その瓦礫には、大輔やルネ、燿、紫、泉に加え、当然アレグロ盗賊団三人も含まれている。

 彼らは全員宙に投げ出され、為す術もなく自然落下をはじめていた。


 魔法都市インドラは、数千年のときを経て、この日、その役割を終えたのである。



  *



 細かく砕かれた銀色の欠片が雨のように降っていた。

 風が全身に強く打ち当たる。

 しかし同じように自由落下する町の残骸はぴたりと止まって見えて、岡久保泉はしばらくまるで夢を見ているかのような気持ちでぼんやりしていた。


 ごうごうと風が鳴る。

 それでふと、これは夢ではないのだと気づいた。


 泉は空中であたりを見回す。

 大小様々な瓦礫といっしょになっているはずの仲間を探し、十メートルほど離れたところに、紫と泉が固まって落下していることに気づいた。

 泉は叫んだが、声は風音に消されて届かない。

 それにふたりとも意識もないようで、頭を下にしてぐんぐんと落下していく。


 ここは雲の上だ。

 このまま地面に落ちれば、怪我では済まない。


「――やだ、そんなの!」


 泉は必死に思考を巡らせた。

 どうすれば仲間たちを助けられるのか必死に考えたが、この状況では魔法も使えないし、ほかにできることはなにもなかった。


 ただ祈ることしか、泉にはできなかった。

 だから泉は両手を合わせ、一心に祈った。


 ――だれか仲間たちを助けてください。


 組み合わせた両手の感覚がなくなるほど強く祈る泉は、自分のポケットに入れていた白い三角形の「お守り」がうすく発光していることに気づいていなかった。



  *



 ベスは頭を下にし、ぐんぐんと落下を続けながらも意識だけは保ち続けていた。

 自分の金髪が風に流れるのが見える。

 そして周囲の瓦礫ごと落下するという未来も、はっきりと見えていた。


 ベスはあたりを見回したが、シモンやジッロを見つけることはできなかった。

 しかしこの瓦礫のどこかにはいるだろう。

 山ごと崩落して、助かるはずがない。


「――あたしの人生もここまで、か」


 不思議と、悔しい気持ちにはならなかった。

 むしろ充実感がこみ上げてきて、ベスは自然と笑みを浮かべる。

 いままでの人生で気に食わないこと、つらい思い出など数えきれないが、ベスは自分の人生を振り返り、一度として気に食わないことに隷属したことはないし、つらい出来事に甘んじたりはしなかったと確信できた。


 エリザベス・ベスティは常に反抗してきた。

 自分を取り込もうとするもの、自分を支配しようとするものと常に戦い、いままで自由に生きてきたのだ。

 そんな人生なら、悔やむことはなにもない。


 ベスは目を閉じた。

 あとは安らかな気持ちで落下の瞬間を待つばかりだったが、そのとき、ふと声が聞こえた。


 だれかがベスを呼んでいた。


「ベス姉、ベス姉!」

「手を伸ばしてください、ベス姉!」


 いつも聞いている、出来の悪い子分の声。

 ベスはうすく目を開けて、ぎょっと驚いて全身を硬直させた。


 目の前に、なにか巨大なものがあった。

 岩のようなごつごつとした表面はエメラルド色に輝き、漆黒の翼が瓦礫を弾き飛ばしている。


「ど、どら、どら――」


 赤く輝く瞳と目が合った瞬間、ベスは意識を失っていた。



  *



 はっと目を開けたとき、空はもう星明りに照らされていた。

 むくりと身体を起こしたベスを、シモンとジッロがわっと囲む。


「よかった、ベス姉、目を覚まさないかと」

「そんなわけあるかい、ちょっと眠っていただけだよ。状況はどうなってる? あたしたちは生きてるのか?」

「一応、生きてます」


 シモンの言葉に、ジッロもなんとなく実感は沸かないような顔をしながらもうなずいた。


「どうやって助かったんだ?」


 言いながら、ベスはあたりを見回した。

 どうやらどこかの畑の隅らしい。

 夜風に、青々とした葉が揺れている。


「それが、なにがどうなったのかはよくわからないんですけど、町といっしょに落ちてたら、どこからともなくドラゴンが現れて」

「――あれはやっぱり夢じゃなかったのか」

「で、そのドラゴンにあいつらが乗ってやがったんです」

「あいつら?」

「あの五人です、上の町で会った」

「ああ――それじゃあ、あいつらからドラゴンを奪ったのか?」


 ジッロはちょっと視線を逸らし、シモンも言いにくそうに口を濁す。


「それがその、おれたちも落ちたときに頭でも打ったのか意識がなくてですね、気づいたら連中といっしょにドラゴンの背中に乗ってたってわけでして」


 つまり、要はあの連中に助けられたらしい。


「ベス姉だけはなかなか見つからなくて、ぎりぎりだったんですよ。もう地面すれすれで」

「ふうん――それで、連中は?」

「さあ。ドラゴンもどっかに帰って行きましたし」


 ベスはため息をついた。

 つまり、何日もかけて崖を登り続けた挙句、手に入れたのは見知らぬだれかに対しての借りだけということだ。

 これほどの無駄骨はない、と首を振ると、シモンは慌てて、


「ベス姉、でも、見てください、これ!」


 腕に抱えるほどの大きさのなにかをベスの前に突き出した。


「なんだい、これ」


 ベスはひとまず受け取って、星明りにかざしてみる。

 それは、きらりと黄金の光を反射させた。


「こ、これは!」

「そうですよ、おれたちが探していた黄金の瓶です。どうも町といっしょに落ちてきたみたいで、そこらへんに転がってたのをおれとジッロで見つけたんです」

「え、見つけたのはおれですよシモン兄!」

「うるせえ、おまえは黙ってろ。ね、ベス姉、あの町を見ちまったいまはちっぽけに見えるかもしれねえけど、これもお宝ですよ」


 ベスは子分ふたりをじっと見つめた。

 シモンとジッロは緊張した面持ちでベスの視線を受け止める。

 そしてベスは、にっと笑った。


「よし、こいつでぱーっとやるか」

「そうしましょう、そうしましょう!」

「そうと決まれば酒場に戻るよ、おまえたち」

「へいっ」


 ベスは黄金の瓶を片手に立ち上がり、まるで畑泥棒のようにこそこそとその場を立ち去った。

 あとには、三人分の哄笑だけが夜空に響いていた。



  *



 東の空に、ちいさな太陽が浮かぶ。

 やがてそれを大きな太陽が追いかけ、ふたつの太陽が東の空を白く染め、あっという間に夜を追い払った。


 双日一日目の朝である。


 まだ草に朝露が残る早朝、大輔たちは次の旅へ向けて出立の準備をはじめていた。

 保存食を分けてもらい、町の場所も教わって、家の外に出る。


 女将さんはすこし名残惜しそうに、しかし明るく四人を見送った。


「またこのあたりにきたら寄っていきなよ。いつでも歓迎するからさ」

「ありがとうございます。それじゃあ、また」

「ルネ、あんたもなにか言ったらどうだい」


 ルネは女将さんの後ろに立ち、なにかもじもじと言いたげな仕草をしていたが、結局なにも言えないまま、家のなかに戻っていった。

 大輔は苦笑いし、もう一度礼を言って、太陽を背に西へ向かって歩き出す。


「それにしても、不思議な体験だったなあ」


 大輔の言葉に、燿はうんうんとうなずいた。


「なんだか、信じられないね。あんな高いところにある町に行ってたなんて」

「しかしあの船が手に入れば移動も楽だったのにな。一応探してみても見つからないってことは、どこか遠くまで飛ばされたのか」

「でも先生的にはそのほうがよかったんじゃないですか?」


 紫はにやりと笑い、大輔を横目で見た。


「あれに乗ると、また高いところに連れていかれますよ」

「うっ……た、たしかに」

「ほんとに先生、高いところが苦手なんですね」


 泉もくすくすと笑った。


「ドラゴンさんの背中の上でもぷるぷるしてたし」

「ねー、ウルトラ級にダサかったよね」

「う、うるさいうるさい。いいか、生物には防衛本能ってもんがあってだな、命の危険を感じると怖いと思うのは当たり前のことなんだぞ。なんとも思わないおまえらのほうがどうかしてる」

「でも普通、あんなには怖がらないですよ」

「そ、そうだ、岡久保、結局どうやってあのドラゴンを呼んだんだ?」

「あ、話題を逸らした」

「どうやってって言われても……」


 泉はちょっと困った顔をして、


「その、このままじゃみんな助からないと思って、祈ってたんです。そしたら声が聞こえて」

「ふうん、意志が通じたってことなのかな。そのへんも不思議だよなあ」


 大輔がぼんやりと言ったとき、後ろから彼らを呼び止める声があった。

 振り返ると、ルネが息を切らして駆けてくる。


「あ、あのさ!」


 ルネは四人の前で立ち止まると、ちょっと恥ずかしそうな顔をした。


「その――あ、ありがと」

「ん? なんか感謝されるようなことしたっけ」

「ミラを、自分の町に帰してやれたから」

「ああ――それはぼくたちっていうより、ルネの意志があったからだけどな」

「でも、ぼくひとりじゃできなかったから。それで、その、ぼく――おれ、もうちょっとこのへんを探してみようと思うんだ」

「このへんを探す?」

「もしかしたら前みたいにミラの端末が見つかるかもしれないから。だから――その、また、このへん通りかかったら、さ、その」


 言いにくそうにもじもじと身体を揺らすルネに、大輔はすこし笑ってうなずいた。


「わかった。またいつか、会いにくるよ」


 ルネも笑顔を浮かべ、じゃあ、と言った。


「また、そのうち」

「うん、またな」


 それだけ言うと、ルネはまた家へ駆け戻っていく。

 そして大輔たちは前を向き、また歩き出した。


「さて、次はどこへ行くかなあ。今度はもう厄介事に巻き込まれなきゃいいけど」

「なんか、無理な相談のような気もしますけどね」


 紫は諦めたようにため息をついた。

 しかし燿は反対に楽しげに笑って、紫の腕を取る。


「次の場所でもまた楽しいことがあるといいね!」

「楽しいこと、ねえ――ま、そう思うほうが幸せか」


 大輔は呟いて、ちいさく笑った。


「たしかに、どうせなら楽しむほうがいい」


 西の空には、まだ夜の名残りがかすかに残っている。

 三人はそれを追いかけて新たな場所へと歩いていくのだった。


   続く

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