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万象のアルカディア  作者: 藤崎悠貴
天空の魔法都市
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天空の魔法都市 6

  6


 空を渡る船が見つかった。

 正確には、その可能性があるものが発見されたのである。


 ルネはすぐミラに報告したかったが、それを自分の手柄のように言うのは気が咎めたから、仕方なく異世界人四人をあの採掘抗に案内することにした。

 大輔は一度きているが、ほかの三人ははじめてだ。

 ルネは暗い採掘抗の入り口に立ち、ちらと後ろを振り返って、


「なかがどうなってるのかはぼくも知らないから、迷子になっても助けてあげられないぞ」


 年上の女たちにそう言って、ルネは暗闇のなかへと進んだ。

 すぐ後ろから、わいわいきゃいきゃいと声が続く。

 それが狭い採掘抗に反響し、まるで洞窟の先でだれかが騒いでいるように聞こえた。


 木組みのレールに足を取られないよう、慎重に進んでいく。

 暗闇では目が効かない分、ぼんやりと考え事が浮かんでくる。


 空を渡る船。

 ミラが求めていたものが手に入るかもしれない。


 ミラはそれを得て、自分の住んでいた町に戻る。

 きっとそれはミラにとって幸福なことなのだとルネも思った。


 一方で、寂しいような気持ちだけはどうしようもなく膨らんでいく。

 ミラは、このあたりで唯一、ルネと話が合う友だちだった。

 母親では話し相手にならないし、たまにやってくる商人もまたいやに下世話で関わり合いになりたくはない。

 肉体を持たない、意志だけの美しい少女こそ、ルネにとって理想の友人だったのだ。


 もしミラが自分の住んでいた町に帰ると言ったら、自分はそれを止められないだろうとルネは考えた。

 引き止めたいのかさえ、よくわからない。

 引き止めて、どうするというのか。

 この暗い穴蔵の底にミラを閉じ込め、自分はなにを得ようとしているのか。


 坂道が見えてくる。

 その上りきった先は、すでに青白い光が満ちていた。

 ミラがルネの足音や、今日はわいわいと騒がしい声に気づき、目を覚ましているのだ。


 ルネが先頭で坂を登りきる。

 土に半分ほど埋もれた四角い箱で、ミラはいつものようにルネを出迎えた。

 しかしルネのあとから続々と続いてくる人間たちを見て、すこし驚いた顔をする。


「ルネ、今日はお客さんがたくさんいるのね」

「そうなんだ。ちょっときみに話したいことがあってさ」

「……悲しいお話?」


 ルネの表情を見て、ミラはそう言った。

 ルネはぶんぶんと首を振って笑みを作る。


「ちがうよ、きみにとってはうれしい話だと思う」


 振り向くと、一度見ている大輔はともかく、はじめてミラを見る三人の異世界人は、いかにも不思議そうにミラを眺めていた。

 そのうち「これは犬ですか」の燿が、好奇心しか持ち合わせていない犬のような顔で前に出てきて、ミラに近づいた。


 ミラは四角い箱のなかから燿を興味深そうに見ている。

 燿はミラになにか言ったが、異世界の言葉なのか、ルネにはなにもわからない。

 ミラにもよく理解できないらしく、首をかしげて、


「ルネ、いまなんと言ったの?」

「さあ、ぼくにもわからないよ」

「はじめまして、って言ったんだよ」


 と大輔が通訳すると、ミラも納得したようにうなずき、同じようにはじめましてと言葉を返した。

 燿は嬉しそうにうなずき、ミラの前に腰を下ろしてしげしげと眺める。


「ルネ、このひとたちも、もしかして異世界人?」

「そうだよ。四人全員が異世界人らしい。いまうちで世話してるんだけど」

「へえ、そうなの。異世界人にもいろいろなひとがいるのね」


 また燿がなにかを言っている。

 ルネとミラが大輔をじっと見ると、通訳役を承認したらしい大輔はすこし肩をすくめて、


「自己紹介をしてる。こいつが燿で、あっちが紫、いちばんちいさいのが泉だ。よろしくってさ」

「よろしく、みんな」


 ミラはやさしく微笑んだ。

 それから大輔は、ちらとルネを見る。

 ルネはうなずき、話を切り出した。


「ミラ、このあいだ言ってた、空を渡る船の話なんだけど」

「ええ、それがどうかしたの?」

「実は今日、このひとたちに頼んで、このあたりにないか探してもらったんだ。そしたら、この近くの畑の下にそれらしいのが埋まってるらしい」


 箱のなかで、ミラが驚きに目を見開いた。

 その純粋な反応に、ルネは胸がきゅっと痛むのを感じる。


「その埋まってるやつがミラの言う空を渡る船なのかは、まだわからない。でももしかしたらそれを掘り出せるかもしれないんだ。ミラ……きみは、どうする?」

「どうするって――」

「きみがもし、その空を渡る船に乗ってもともと住んでいた場所に帰りたいなら、ぼくががんばって掘り出すよ。でも、その、もし、ここにいたいっていうか、その――」


 ミラは箱のなかから、じっとルネを見つめた。

 ルネは視線を逸らし、半ばやけのような気持ちで言った。


「やっぱり、きみは住んでた町に帰るべきだと思う。だからなんとかしてその船を掘り出すよ。このひとたちが手伝ってくれるみたいだから、簡単にできると思う」

「……ルネ、ありがとう。あの場所へ帰るなんて、もう諦めていたわ」

「いいんだ。きみは大切な友だちだから」


 大切な友だち。

 その言葉がやけに重たく胸の奥へと落ちていった。

 ルネは大輔に視線を向ける。


「おじさん、手伝ってくれる?」

「お兄さんと呼んだら手伝ってやろう。個人的に興味もあるしね。ただ――ルネ、きみはそれでいいのか?」

「それでいいもなにもないよ。ミラを住んでいた町に帰すために、おじさんに――お兄さんに頼んだんだから」

「ふむ、そうか。じゃ、ま、引き受けるとしますか。さっそく掘り返すか?」

「どのくらいかかるかしら?」


 ミラが言った。


「それに、もう長いあいだ使っていないから、ちゃんと動くかどうか」

「それは掘り出してみなきゃわからないけど、掘り出すだけなら今日中にできるよ」

「まあ、本当に?」

「異世界人を舐めちゃいけないぜ。とくにぼくは異世界人のなかでも最上級の天才だからね。船を掘り出すことくらいあっという間さ」


 大輔は腰に手を当て、胸を張る。

 自慢げにすればするだけ、大丈夫かな、という気になるルネだった。


「でも、船を掘り出す前に、きみ自身を掘り出したほうがいいね」


 大輔は言って、ミラが入っている四角い箱を軽く叩いた。


「なかなか重たそうだけど、ま、これだけ人数がいればできるだろう。全員で協力して掘り出そう。ルネ、きみも頼むよ」

「ん、わかった」


 そして、ミラの発掘がはじまった。

 これ以上壁や天井が崩れないように気をつけながら土砂をかき分け、銀色に輝く四角い箱の輪郭をあらわにしていく。

 すでに前半分ほどは土砂から出ていたが、すべての土砂を退け、持ち上げるのに、五人総出で一時間ほどかかった。

 それでようやく、箱の全容が明らかになる。


 その箱はきれいな立方体をしている。

 すべての面がなめらかな銀色をしているが、とても長期間土のなかにあったとは思えないほど艷やかで、汚れを払うとまるでたったいま作り上げたばかりのようにも見えた。

 大きさは、高さも奥行きも幅もすべて約一メートルほど。

 ルネが腕に抱えて持ち上げられるほどの大きさである。


 不思議なのは、六面すべてが同じ銀色をしていて、どこから眺めても同じようにミラの姿が見えることだった。

 箱のなかに小部屋があり、そこに小人のようなミラが暮らしている、という印象を抱いていたルネは、右側から見ても左側から見ても同じように正面からのミラが見えることに驚いた。


 大輔はミラの箱を持ち上げ、真下や真上から観察したあと、首をかしげる。


「不思議な物体だな。どうなってるのか、さっぱりわからん」

「異世界にもこういうものはないの?」

「似たようなものはあるけど、完全に同じものは見たことないね。ミラ、きみはいったい何者なんだ?」

「わたしはわたしよ」


 ミラはからかうわけでもなく、真面目な顔で言った。


「わたしはわたし。それ以上のことは、わたしにもわからないわ」

「そうか、まあ、そうだろうな。じゃ、ミラを外へ運び出そう。このまま外へ出しても大丈夫だよな?」

「たぶん、平気だと思う。だれかに運んでもらわなくちゃいけないけれど」

「それはもちろん」


 大輔はにやりとしてルネを見た。


「ルネ、ひとりで運べるよな?」

「え、ま、まあ、そりゃあ、運べるよ」

「じゃ、ルネはミラを運ぶ係な。落とさないようにしっかり持ってやれよ」


 ただ四角い箱を持ち上げるだけなのだが、そう言われるとなにか特別な意味がこもっているような気がして、ルネは気恥ずかしさを覚えながら箱を抱えた。

 ミラは箱の上部に自分を映し、ルネを見上げる。


「ごめんね、ルネ。重たくない?」

「へ、平気だよ、別に」


 そしてまた、きた道を戻っていく。

 しかし今度はミラのやわらかな発光のおかげで足元が見え、行きよりはずっと楽だった。


 外へ出ると、五人はそろって眩しさに目を細めた。

 ミラだけは空を見て、わあ、と声を洩らす。


「久しぶり――いい天気ね」


 そう呟くミラは嬉しそうで、こんなことならもっと早く掘り出してやるんだったとルネは後悔する。

 自分のそんな気持ちを隠すようにルネは大輔に寄って、


「船を掘り出すって、どうするつもり? 結構深いところにあるんでしょ」

「ふふん、ひとつ派手に掘り返すつもりだよ。ただし、その前にあの畑を掘っていいか聞かないとな。下手したら二度と使えなくなるかもしれないし」


 畑といっても、野生の植物が群生しているだけの広場のようなものだ。

 自らなにを植えているわけでもないし、畑はほかにも無限にある。

 そのひとつを掘り返すくらいはなんということもなく、女将さんの許可もすぐに降り、大輔たちはくだんの畑へ引き返した。


 今度も、まずは大輔がひとりで畑に立つ。

 燿、紫、泉の三人はすこし離れた位置に立ち、ミラを抱えたルネもそこで待った。


「あのひとは、なにをするつもりなのかしら?」


 草に埋もれてなにやらもぞもぞと作業している大輔に、ミラが不思議そうに言った。


「なんか、魔法の準備をしてるらしいよ」

「魔法?」

「異世界人が使える不思議な力のこと。空を飛べたり、なにかに変身したりできるんだってさ。船を見つけたのも、その魔法のおかげなんだ」

「そうなの。異世界人って不思議なのね」


 その準備作業は、一見なにか畑のなかを這いずりまわる害獣のようにも見えて威厳に欠ける。

 やがて大輔は立ち上がり、場所を燿たち三人に譲ってルネのとなりへやってくる。


「いまからやるから、もうちょっと離れたほうがいいぞ。あと、でっかい音が鳴るから、耳も塞いだほうがいい」

「どんな魔法をやるの?」


 後ずさりながらルネが言うと、大輔はにやりと笑った。


「爆破するんだよ」

「ば、爆破?」


 大輔とルネは、畑から数十メートル離れた位置で立ち止まった。

 大輔は畑のなかに立つ三人に手を振って、


「そろそろいいぞ。慎重にやれよ。下じゃなくて、上へ上へ意識するんだ」

「はーい」


 三人が目を閉じ、かすかにうつむくのが見える。

 呪文の声は、そこまでは聞こえてこなかった。


 あたりに魔力が満ちていく。

 魔法使いではないルネにもそれがわかった。

 空気の質感がある場所を境目にぴたりと切り替わるような感覚で、それがぐんぐんと拡大し、ある瞬間、強風を伴って収斂する。


「わっ――」


 三人に向かって落ち込んでいく強風に背中を押され、思わずルネがよろめく。

 畑の草が根こそぎ吹き飛ぶほどの強風である。

 三人はその強風の中央にいて、互いの手を強く握り合っていた。


 地中から低いうなり声が聞こえてくる。

 それは地鳴りだった。

 地面が低く鳴いているのだ。


 不意に、三人が手を離して、慌てたように畑から駆け出した。

 同時にその後ろ、魔術陣の中央が地中からの圧力で膨れ上がり、ぼんと弾ける。

 間欠泉のように小規模な爆発が何度か続いたあと、巨大な爆発がやってきた。


 耳を劈くような爆発音と共に畑の土が何十メートルも吹き飛び、散り散りになった草や土くれが雨となって降り注ぐ。

 ルネたちは慌ててさらに後方へと下がり、なんとか回避したが、最後まで中央部で粘っていた三人は土くれの雨のなかで翻弄されている。


 巨大な爆発は一度きりだった。

 というのも、その一撃で畑のすべてが吹き飛ばされ、なにも残らなかったせいだ。

 空からばらばらと土が降って音を立て、土まみれになった大輔がむすりとした顔で避難を済ませると、ようやくあたりに飛び散った土の欠片も降らなくなった。


「すごい力――」


 ルネの腕のなかで、ミラがぽつりと言った。

 ルネは恐る恐る畑があった場所に近づく。

 そこは黒々とした土が露出し、もはや畑の面影はまったくなかった。


 いまあるのは、深い穴である。

 幅二十メートルほど、深さも同じくらいある穴が、ぽっかりと空いている。


 船を見つけ出した魔法は、見た目になにか現れる魔法ではなかったから、ルネは改めて魔法という力の物凄さを、魔法使いという存在の桁違いの力を思い知らされた気分だった。


「ご苦労、諸君。どうだ、なにか見えるか?」


 ルネの後ろから、大輔がひょいと穴を覗き込んだ。

 ルネはうなずき、穴の底を指さす。


「あそこに、なにか光ってる」

「お、ほんとだ。位置も完璧だったな、さすがぼく。よし、下りてみよう。ロープかなにかあるかな?」

「家にあるよ。持ってくる」


 ミラを大輔に預け、ルネは急いでロープを持ってきた。

 それを地面に打ち、しっかりと固定して、穴のなかへ垂らす。

 大輔が先行して降り、それから三人の女たちが続いて、最後にルネが降りた。


 穴の底は平らに近い。

 位置、深さともにぴたりと合っていて、すこし手で掘ると、すぐに白銀に輝く不思議な物体が現れた。


「あれだけ爆発させて、これも壊れたんじゃないか?」

「大丈夫、ちゃんと真上に向かって爆発させたからね。そのへんのコントロールがむずかしいから、ぼくがやるしかなかったんだよ。へとへとになるからほんとはやりたくないんだけどさ」


 二十分ほどかけ、地中に埋まったものの表面にあった土を退けた。

 大輔の言うとおり、それは傷ひとつつかない恐ろしくなめらかで磨き抜かれた銀色の物体だった。


 大きさは十メートルほどで、細長い形をしている。

 ルネにはそれがなんの目的で作られたものなのか、まったく見当もつかなかった。

 しかしミラにははっきりとわかるらしく、ルネの腕のなかの箱が興奮したように輝く。


「そう、これよ。これが空を渡る船。わたしたちの町にあったもの。こんなところに埋まっていたのね」

「これが、空を飛ぶのか?」


 ルネが聞くと、ミラはこくりとうなずく。


「でも、鳥みたいな羽もないよ。どうやって飛ぶんだ?」

「魔力を動力にして飛ぶの。壊れていなければいいけれど」


 大輔は掘り出した物体の上に屈み込み、耳を押し当ててなかの様子を窺っているようだった。

 それからルネのわからない言葉でなにか言って、ルネを見る。


「ルネ、これはまだ動いてるぞ」

「え、う、動いてる?」


 思わず後ずさったが、いままで何十年、あるいは何百年と地中にあったはずの物体にはなんの変化も起こらなかった。

 その静けさとこの大穴が、ルネに棺桶を連想させる。


「ミラ、どうやって内部へ入ったらいいんだ?」

「わたしを、その上に降ろして」


 言われたとおり、ルネはミラをその物体の上に置いた。

 四角い箱はまるで身震いするように光を放つ。

 すると地中に横たわる物体の表面に、細い帯のような光が走った。


「わっ、な、なんだこれ」


 光は何度も物体の表面を這い、ミラもまたそれと同期するように周期的な光を発していた。

 やがて、がしゃん、と音がした。

 物体の上部、その半分ほどが浮き上がり、蓋のように真上に開いたのだ。


 なにからなにまで、奇妙な幻を見せられているような気分だった。

 蓋が開くと、物体の表面を這っていた光が消える。

 ミラももと通りに姿を映して、


「もういいわ。これでなかに入れる」

「ミラ――これはいったい、なんなんだ?」

「空を渡る船。わたしたちが移動手段として使っていたものよ」


 恐ろしくて近づけないルネをよそに、大輔と燿は我先にとなかを覗き込み、声を上げている。


「こいつはすごいな。なんてよくできた機械なんだろう――なるほど、魔力を動力に考えれば、こんなものも作れるのか。ルネ、これはすごいぞ!」


 興奮したように大輔が叫ぶが、ルネはなんとも言えない気持ちを抱えていた。

 どうやら「空を渡る船」は無事に動作しそうだ。

 それはつまり、ミラとの別れを意味する。

 ルネはその白銀の船に嫉妬していた。


「ミラ、こいつはまだ飛ぶのか?」

「ええ、たぶん。でも、魔力が足りないかもしれないわ」

「ううむ、たしかになあ。どうしたらいいか……」

「あなたたちがいっしょにきてくれると、ありがたいのだけれど。あなたたちなら魔力を供給することができるはずだし」

「なるほど、たしかに。でも、これはどこまで飛んでいくんだ?」

「そう遠くないと思うわ。わたしがもともといた町まで行くだけなら。それに、わたしは町へ戻れればいいから、そのあとこの船はあなたたちが使えばいいし」

「え、く、くれるの? マジで?」

「わたしには必要ないもの」


 ミラはくすくすと笑う。

 ルネはそのミラの気持ちをわかってあげられないことがつらかった。


「これは何人乗りだろう? ぼくたち四人が乗っても平気かな?」

「ちょうど四人乗りだったと思うけれど」

「おお、ぴったり。ぐふふ、こんなものをもらえるとは、新世界も放浪してみるもんだなあ。いやあ、内部構造を調べるのが楽しみだ」


 大輔はいかにも嬉しそうな顔でその物体から這い出し、額を拭った。

 ほかの三人も興味津々な様子で「空を渡る船」を取り囲んでいたが、ルネだけはすこし距離をとっている。

 大輔はそのことに気づき、ふと思いついたように、


「ルネ、きみも行くか?」

「え?」


 ルネは顔を上げた。

 大輔はにっと笑い、ルネの肩を叩く。


「いっしょに、ミラが生まれた町を見に行こうぜ」


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