355話
泣き叫ぶ子供と、逃げ回る大人たち……王都は混乱状態に陥っていた。
その理由は、アルカントラ法国が誇る四葉の騎士ベニバナが現れ、王都を焼き払っていたからだ。
冒険者と騎士団が必死で反撃するが、すばやく移動しながら魔法で王都を業火に包んでいく。
四葉の騎士ベニバナとシャジクが殺戮を繰り返しているという噂は本当だった! と、人々の心は恐怖に蝕まれる。
アルカントラ法国の神具“女神の杖”と四葉の騎士を証明するマントを羽織っているので、間違いない。
「そこまでだ!」
現場に到着したのは巡回していた金狼のアンバーたちだった。
すぐに現状を伝えるように仲間数人を城へ走らせる。
すでに情報を伝えているかとも思ったが、初めて遭遇したことで情報を共有させる必要があると考えていた。
(四葉の騎士ベニバナと言えば、深紅の拷問官と噂される厄介な魔術師のはずだ――)
アンバーはマントに刺繍されている四葉の紋章と、体の特徴からベニバナだと確信する。
まともに相手にできるかわからないが、逃げるわけにはいかない。
コウガやマリックたちに任された任務を放り出すわけにはいかない。
そう、金狼でなく、戦闘クランとしての銀狼として王都警備を任されたことの重みを知っている。
いつでも戦える状態を維持したまま、ベニバナを睨む。
「お前は、そこいらの雑魚とは少し違うようだな」
攻撃の手を止め、表情を一切変えずアンバーに話しかけるが、アンバーが答えることはない。
「コレに勝てるつもりかい?」
言い終わる前に炎が向かってきた。
槍で攻撃を躱し続けるアンバーだったが、実力差が大きく徐々に詰められる。
仲間がベニバナに攻撃をしようとしたが、それに気づいていたため、アンバーへの攻撃を止めて仲間たちへと攻撃の矛先を変える。
それなりの腕自慢たちが、瞬時にベニバナを取り囲む。
冒険者たちの仲間同士の連携に劣ることなく、一人二人と確実に倒していく。
アンバーも攻撃に加わり「大丈夫か?」と声を掛けて命があることが分かると、すぐに怪我人には撤退するよう告げる。
徐々に騎士団や金狼のメンバーたちが集まる。
「そろそろ遊びも終わりの時間ですね」
不利だと感じたのか、ベニバナは足元に煙幕を炊く。
冒険者たちが追撃するのを、嘲笑うかのように姿を消し逃走した。
(これだけのことをしでかして遊びだと! それに時間……)
アンバーは振り向き、城のほうを見る。
国王が姿を見せる時間が近づいていることに気付いた。
金狼が誇る最強の冒険者たちに託した。
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民衆の前に姿を見せるため移動を始める国王たち。
周囲を警戒して進んだ。
(あれ?)
リゼの目の前に廊下の分岐点で赤と青の靄のようなものが見える。
今、進むべき道は赤い。
「こちらの迂回路でお願いできますか?」
先行していたリゼは、国王たちに順路の変更を告げると、リアムは信用してくれたのか、リゼの言うとおりに迂回路を進むよう国王に助言してくれた。
そして、目的の場所まで無事たどり着く。
インペリアルガードや騎士団、オルビスと金狼の三人に引き継いだ。
ここから先は、リゼたちが行くことはないが、一仕事終えた安堵感があった。
来た道を振り返ると、先ほどまで赤い靄だったところが青い靄に変わっていた。
「何か気になる?」
「うん」
リゼの言葉を疑わずに視線の先を警戒すると、アンジュが何かに気付く。
「静かに‼」
耳を澄ますと奥で悲鳴が聞こえた! 同時にリゼたちは走り出す。
リゼたちの近くにいたオルビスとクリスパーが気づいたが、持ち場から離れず視線でコウガたちに知らせた。
廊下の角を曲がるが誰もいない……だが、悲鳴は大きくなっている。
さらに先に進む角を曲がると、目の前に驚く
どこから侵入したのか、マント姿の男が返り血を浴びながら、騎士に剣を刺している現場に遭遇した。
「……あの紋章」
マントに刺繍されている紋章……アルカントラ法国のものだと、アンジュは一瞬で気付く。
そして、四葉の紋章も。
リゼたちに気付くと、新たな標的だと静かに向かってきた。
「アルカントラ法国からの刺客かしら?」
返事はないが、リゼたちに無言の圧をかける。
「四葉の刺繍ってことは四葉の騎士。そして、その武器は十字剣かしら。ということは……、有名な剣士シャジクであっているかしら?」
「ふっ。お前たちは、そこに転がっている奴らとは違うようだな」
横目で倒れている血だらけの騎士たちを見る。
再び視線を戻すが、その先は自分を言い当てたアンジュを見ていた。
「もしかして、待ち構えていた俺を避けるように国王を誘導したのも、お前たちか?」
「さぁ、どうかしら」
「まぁ、いい」
一番厄介な人物として、アンジュを認識したようだ。
それにはアンジュ本人も気付き魔法を放とうとするが、予備動作なく気づくと、アンジュの目の前まで移動していた。
握っている剣の切っ先はアンジュに向けられている。
衝突音とともに、リゼがアンジュとシャジクの間に入り、シャジクの攻撃を忍刀で防いだ。
一瞬の出来事にアンジュとジェイドは反応できないでいた。
「……ほぉ、これに反応するとは」
リゼに標的を変えたのか、興味が湧いたのか話しかけるが、リゼは防ぐだけで精一杯だった。
アンジュは後退して、その前でジェイドが身構える。
「助かったわ。で、リゼ避けて‼」
アンジュがリゼに礼を言い終わると同時にリゼに向かってフレイムバレットを放つ。
リゼの敏捷性を信じての攻撃だ。
アンジュの言葉を聞くと同時に、リゼは振り返ることなく言葉に従い斜め後ろへ飛ぶ。
すぐ横に炎が飛んでいった。
反応が遅れたシャジクにフレイムバレットが直撃するが、何事もなかったかのようにリゼに向かい剣を振り下ろす。
「噓でしょ!」
体が燃えながらも気にすることなく攻撃を続ける姿に、アンジュは絶句する。
衣服が燃え、動くたびに否が応でも目につく腕の縫い目。
いいや、よく見ると首にも同じような縫い目があることに気づく。
「アンジュ! 私に構わず魔法を撃って‼」
「分かったわ」
リゼはアンジュを、アンジュはリゼを互いに信じての発言だ。
シャジクの攻撃を上手くさばきながら、影分身や黒棘で応戦する。
燃えたことによる影響を感じさせない。
普通の人間ではありえない……頭に先ほどのシアトム第二王子が浮かぶ。
「本物のシャジクさんではないですね」
リゼは剣の攻撃を受けながら、シャジクに話しかける。
「本物だよ」
即答するシャジク。
「それは体が……って意味ですか?」
「どうかな」
リゼは確信する。
目の前で戦っているのが、本物のシャジクであれば、自分が太刀打ちできる相手ではない。
レティオールから聞いていたことが頭に浮かんだ。
アルブレスト皇国で開催された闘技大会で決勝に進んだ実力者……準優勝者だからだ。
「体は同じでも技術が拙いですね」
思った言葉を口にしただけだったが、挑発だと受け取ったのか攻撃が荒くなる。
「最高傑作のコレに勝てるつもりか!」
「リゼ!」
シャジクの咆哮と、アンジュの声が被さるがリゼには、しっかりと仲間の声が聞こえていた。
横に大きく飛ぶと、床から炎の針が無数飛び出してシャジクの体を貫く。
腕や足を貫かれても、痛覚がないかのように動こうとするシャジク。
明らかに人間の構造に反していた。
アンジュのファイアニードルに合わせるかのように、アンジュを守っていたジェイドが飛び出して、シャジクに拳を叩きこみ、蹴りで入れる。
つぎはぎの体を繋ぎとめていた糸が炎に燃やされたのか、ジェイドの攻撃が効いたのか不明だが、剣を握っていた右腕は二の腕から地面に落ちる。
続けて、右太もも、左腕と落ち続けた。
ファイアニードルの効果が切れる頃には、まともに立てずにいた。
「くそっ! こんなはずでは‼」
すでに脅威でなくなったシャジクをジェイドが簡単に拘束する。
リゼも落ちている腕から剣を取り、攻撃手段を奪う。
シアトムと同じように、心音はなく骸と化している。
騎士団に返すことも考えたが、安全を考えて式典が終わるまでリゼたちで監視することにした。
だが、リゼのクエストは未だに達成していない。
それは国王を殺害する計画が未だに続いているのだと、リゼだけが知っていることだった。
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■リゼの能力値
『体力:四十八』
『魔力:三十三』
『力:三十三』
『防御:二十一』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百四十三』
『回避:五十六』
『魅力:三十三』
『運:五十八』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
・エルガレム王国国王の殺害阻止。期限:建国祭終了
・報酬:魅力(五増加)
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト
■罰則
・身体的成長速度停止。期限:一生涯
・恋愛感情の欠落。期限:一生涯




