354話
――建国祭当日。
賑やかな王都とは裏腹に、事情を知っている者たちの緊張度が高まる。
エルガレム国王が民衆の前に姿を現すのは、昼の一回だけだ。
殺害するのであれば、その時だと考えて警戒を強める。
城内の緊張とは反対に町は賑やかに、建国した日を祝っていた。
だが、その時は刻一刻と迫っていた。
国王と三人の王子は、大広間に集まろうとしていた時、リアムは第二王子であるシアトムと途中で鉢合わせた。
「兄さん、体調は大丈夫なのかい?」
「ありがとう。少し良くなったかな。リアムは変わりないかい?」
「……俺はいつも通りだ。それよりも、あまり無理しないようにしてくれよ」
「大丈夫だよ。リアム」
シアトムは笑顔でリアムを安心させる。
国王とマルクスの許へ向かおうとするシアトムだったが、その進路を塞ぐかのようにクリスパーたちが先回りして立ち塞がった。
「どうかしたのかい。そこを通してくれるかな」
笑顔を崩さずに話すシアトムを無視するかのように、クリスパーたちは動かなかった。
シアトムを護衛する騎士団たちも戸惑っている。
「シアトム兄さん」
「なんだい、リアム」
「兄さんが七歳で、俺が五歳の時……大好きだった王妃が亡くなった時のことを覚えているかい」
「もちろんだよ。忘れるわけないじゃないか」
当時のことを思い出すかのように悲しい口調だ。
「……お前、誰だ?」
リアムが怒気の篭った言葉を吐く。
騎士団たちも、ざわついている。
「誰って、お前の兄のシアトムだよ。なにを言っているんだい、リアム」
「王妃が亡くなったのは俺が七歳の時だ。それに俺とシアトム兄さんは五つ離れている」
「疲れていたのかな。記憶が曖昧だったようだ」
「……それにシアトム兄さんはな。俺のことをリアムとは呼ばないんだよ」
「そ、それは、冒険者の方々もいるから、きちんと――」
「そういう時は、きちんと“リアム第三王子”って、呼ぶんだよ。それ以外……親しい者のいる時は昔から変わらず“リア坊”って呼んでくれるんだよ。この偽物が‼」
そう言うとリアムはシアトムの顔面を殴る。
よけることなくリアムの拳を受けるシアトムだったが、その目は先ほどまでの優しい目ではなかった。
「リアム第三王子が乱心したようだ」
護衛の騎士たちにリアムを拘束するように命令するが、誰も動かない。
それもそのはず、殴られた顔面は戻ることなく、殴られたままの形を維持して明らかに不自然な顔だったからだ。
リアムと視線が重なったクリスパーがシアトムに対して攻撃を始めると、辛うじてよけるが傷口から血が噴き出していない。
(……操られている?)
ユーリが治癒魔法をシアトムに施す。
騎士たちは敵に治癒魔法をかけるユーリに驚くが、クリスパーは気にせず致命傷にならないように攻撃する。
曲がりなりにも目に映っている姿はシアトム第二王子だからだ。
だが、シアトムの傷が回復することがなかった。
もし、アンデッド系の魔物であれば、ダメージを与えることもできるが見た感じでは、それもない。
正装とはいえ、武器を持っていないシアトムは逃げるだけだったが、騎士たちから剣を奪おうとする。
その一瞬を見逃さなかったビスマルクが羽交い絞めにして自由を奪い制圧する。
大男のビスマルクに適わないと観念したシアトムが抵抗を止める。
「ここまでか……うまくいくと思ったんだが。まぁ、仕方がない。国王暗殺は失敗だな」
不敵な笑みを最後に浮かべると、糸が切れた操り人形かのようにビスマルクに体を預けるように脱力状態になる。
誰も警戒して近寄らない。
リアムが足を一歩出そうとした瞬間に、クリスパーが制止する。
シアトムを護衛していた騎士たちにシアトムの安否と拘束を命令する。
「鼓動が聞こえません。心臓が動いていません」
両手を後ろで縛り、両足も縛り上げた状態のシアトムを確認した騎士が叫ぶ。
「偽物野郎が死んだか」
兄に変装していた侵入者に吐き捨てる。
「……リアム」
「どうした?」
「これを」
クリスパーが拘束された侵入者の服を切り背中をリアムに見せると、リアムは言葉を失っていた。
偽物野郎と言った者の背中にある印と火傷の跡。
印は王子である証だが、火傷は幼少期に自分と遊んでいたときのもの――。
リアムにも同じような火傷の跡が今でも残っている。
「本当に……本当にシアトム兄さんなのか」
ここまで巧妙に作り込んで……いいや、このことを知っているのは身近な者だけだ。
第三者が知っているようなことではない。
そして、目の前に拘束されている死体がシアトム第二王子だという確かな証拠。
「うそ……だろ」
リアムの目から光が消える。
「リアム‼」
クリスパーの怒鳴り声が響く。
すると、リアムは自分の立場を理解したのか、数秒間だけ俯く。
顔を上げたリアムには先ほどまでの表情は消えていた。
王子としての責務を果たすようだった。
「行くぞ、国王様に報告せねばなるまい。それとシアトム第二王子の遺体は拘束した状態のままで丁重に扱うように」
指示を出すリアムは悲しみを忘れたかのような堂々とした足取りで、国王たちの待つ部屋へと足を進める。
同行する騎士の中には「リアムがシアトムを殺したのではないか?」と考える者もいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……なんということだ」
「シアトム……」
国王が目頭を押さえ、第一王子のマルコムは拘束されて動かない弟に複雑な感情を抱きながらも拳を強く握っていた。
エルガレム王国が建国された記念日に、シアトム第二王子が亡くなった。
正確には、もっと以前に亡くなっていたかもしれない。
あの状況を見ていた者はシアトムが普通の状態でないことが分かっている。
この場にいる誰もが悲しみにふけていた。
「……シアトムは体調不良ということで、式典では発表する。お前たちもそのように」
「はい」
「承知しました」
エルガレム国王の決定に、マルコムとリアムは従う旨を伝えた。
本人にも殺害される計画があることを伝えてあるので、用心はしているようだったが息子の死に動揺していることは間違いない。
シアトムが操られていた可能性が高いことを、リアムが
「シアトムを操っていた者の正体は?」
「分かりません……ただ、最期に暗殺は失敗したと言っていました」
「では、そいつが我を殺そうとしていた者ということか……失敗したのであれば、これ以上のことは起こるまい」
部屋でエルガレム国王の護衛をしていたリゼは胸騒ぎがしていた。
もし、エルガレム国王殺害が失敗していたのであれば、『クエスト達成』が表示されているはずだ……それが表示されていないということは――。
「まだです。あえて、失敗したと発言して油断させる計画かもしれません」
不届きものだと思われているかもしれないが、護衛として発言した。
「お前がそういうなら、そういうことなんだろう。国王様、この者……リゼの言う通りかもしれません。油断なさらぬように」
「うむ、そうだな。お前たちも……気をつけてくれ」
これ以上、息子を亡くしたくないという気持ちから出た言葉だと、リゼは感じていた。
悲痛な叫びだと――。
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■リゼの能力値
『体力:四十八』
『魔力:三十三』
『力:三十三』
『防御:二十一』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百四十三』
『回避:五十六』
『魅力:三十三』
『運:五十八』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
・エルガレム王国国王の殺害阻止。期限:建国祭終了
・報酬:魅力(五増加)
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト




