346話
金狼郭からの帰り道にライオットと出くわす。
あからさまに嫌な顔をするアンジュをライオットは気にすることなく、手に持っている串焼きを食べ続ける。
「姉御たちも買い出し?」
「同じにしないでくれる。ちょっとした用事の帰りよ」
「ふ~ん。それで金狼からの収穫はあった?」
「……どうして、そのことをあんたが知っているのよ」
銀翼館にいなかったライオットが、自分たちの行動を知っていることに驚いた。
「だって、金狼郭に入っていく所を偶然、見たからですよ」
「……」
明らかに怪しいが疑う理由もない。
「早く師匠の所に帰りなさいよ」
「建国祭が終わったら戻りますって。それまでは王都を楽しむって決めているんですから」
楽しそうに話し、串焼きを一口齧り付く。
「ちゃんと師匠から建国祭のゴタゴタを見てから戻るように言われているし……」
「ゴタゴタ?」
「あっ!」
「なにを隠しているのよ」
「な、なにも隠していないですよ。いやだな~、姉御。あっ、用事を思い出した」
去ろうとするライオットを捕まえるアンジュ。
「なにするんです」
「それは、こっちの話よ。さぁ、銀翼館に戻って、きちんと説明してもらうわよ」
必死で抵抗するライオットを引きずって、銀翼館に戻る。
その姿に周囲から笑われていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さぁ、白状しなさい」
アンジュの目の前で正座をさせられ、問い詰められるライオット。
「な、なんのことです……かね」
明らかに目が泳いでいる。
「こ・た・え・な・さ・い」
殺気を込めた言葉を放つと、完全に委縮したライオットは渋々口を開く。
建国祭で大きな事件が起きるから、面白いのできちんと見ておくようにってことだった。
「ったく、師匠は……で、その大きな事件って、なに?」
「それは……」
「国王様を殺そうとする計画がある……とかですか?」
「えぇ~、なんで知っているんですか⁈」
リゼが答えると、いままで口ごもっていたライオットが叫んだ。
「……なんでリゼが知っているの?」
「旅の途中で、小耳に挟んだだけだよ。それが本当かも分からなかったけど、今の話で思い出しただけ」
リゼは、辻褄を合わせるように嘘をつく。
「ふ~ん。まぁ、いいわ。師匠のことだから、私に内緒でなにか企んでいるんでしょ」
「それは――」
「いいなさい!」
アンジュはライオットの頭を叩く。
上下関係のようなものが二人の間ではっきりしているようだった。
「俺が言ったって言わないでくださいよ」
「言うも何も師匠に会う機会がないじゃない」
「あっ、そうか!」
納得したのか、師匠へ告げ口される心配から解放されたのか、今まで口ごもっていたのが嘘のように、ペラペラと話し出す。
「それよりも、なんで二人のお師匠さんは、そんなことが分かるの?」
「あぁ、それは簡単なことよ。師匠は占いで未来が見える時があるのよ」
「そうなんです。産業都市アンデュスのドラゴン出現も当てましたしね」
「討伐出来なかったので、その後に二人でボコボコにされたわ……嫌なことを思い出したくなかったわ」
確かドラゴンに止めを刺したのは別の冒険者で、その冒険者は”ドラゴンスレイヤー”という二つ名で呼ばれているが、活躍したのは別の冒険者だったという話を思い出した。
目の前にいる活躍したと噂されている冒険者二人は、そのボコボコにされたことを思い出したのか、真っ青な顔をしていた。
「……一番、小さいのは、あんたですね?」
「ライオット、その質問意味があるの?」
リゼを侮辱するような発言に、アンジュはライオットを睨んだ。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。お師匠からの伝言ですよ」
「伝言?」
ライオットは素直に伝言を話し始めた。
伝言を伝える相手は、アンジュが親しくしている一番小さい人物。
そして、伝言を伝える時は、アンジュとその人物二人きりの時。
伝言内容は「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいていることを忘れるな」だった。
リゼには意味が分からなかったが、アンジュには思い当たることがあるのか、考えていた。
「リゼは闇属性魔法が主よね?」
「うん。魔法適性が闇属性だったから」
「多分、師匠はそのことを言っているのよ」
光属性の魔法適性を持っている者は、清らかな者が多いとされている。
昔は邪な考えを持つ者に光属性の魔法適性はないとされていた。
今では笑い話だが、昔は本当に信じられており、地域によっては迫害などもあったと聞く。
反対に闇属性は魔法適性者が少なく、その多くが誰もが耳にしたことのある凶悪な犯罪者だと言われていた。
実際に、ここ数年の犯罪集団を指揮していた者は闇属性の魔法適性が高く、闇属性魔法を習得していたことが分かっている。
冒険者ギルドとしても差別になるので、闇属性の魔法適性を持つ者が犯罪者だと決めつけることはしない。
他の魔法適性者でも犯罪を犯す。
単純に魔法適性だけで判断できないくらいに、闇属性の魔法適性者以外の犯罪件数が多いからだ。
「闇属性魔法に魅入られない。取り込まれないと言ったほうが正しいかもしれないわね」
「そんなこと言われても……」
困惑するリゼに、ライオットが追い打ちをかける。
「お師匠の占い的中率は高いですからね。注意してくださいよ」
「ライオット‼」
空気を読まないライオットを怒鳴るアンジュだったが、ライオットの言うことは間違いではないとリゼに伝える。
「それともう一つ」
ライオットは伝言がもう一つあると言う。
「聞きなれない言葉があれば、再会した古き友人に頼ると言いそうです」
古き友人……その言葉を聞いて、最初に頭に浮かんだのはフィーネ。
もちろん、アンジュとジェイドもそうだが――なぜか、フィーネの名前だった。
「分かりました。ありがとうございます」
フィーネに相談する時は、アンジュやジェイドの前でしようと決める。
「私もライオットさんに質問をしていいですか?」
「なんですか?」
「魔術師なのに、杖でなく剣を持っているのはどうしてです?」
ずっと気になっていたことだった。
アリスやアンジュと同じ師匠のもとで修行しているのであれば、職業は魔術師に違いない。
だが、目の前にいるライオットは、背中に剣をかけている。
その風貌は剣士そのものだからだ。
「俺は魔術師でなく、魔法剣士ですからね」
「魔法剣士!」
「そう。ライオットは魔法も剣も使える魔法剣士。私から言わせれば、中途半端な職業よ」
「姉御、酷いっすね。そりゃ、姉御の魔法には適いませんけど……」
「前衛職ってことですか?」
「そうですね。前衛も後衛もできますが、前衛のほうが得意ですね」
「得意も何も……」
「まぁ、いいじゃないですか。俺は剣に魔法を付与して杖の代わりとしているんですよ」
「剣に魔法付与するって……付与魔法も習得しているんですか?」
「それは……」
ライオットは、回答しようとする言葉につまる。
「剣は師匠が用意してくれた物よ。付与できる剣ってのは、それなりに強度がないと無理らしいわ。魔法剣士って職業が流行らないのも、魔法に耐えられる剣が少ないからなのよ。普通の剣では数回の戦闘で駄目になるから、それなりの財力があれば別だけど」
「そうなんですね」
リゼも魔法剣士という職業は知っていたが、そのような事情があることまでは知らなかった。
自分もそうだが、剣や斧などは手入れを怠ると切れ味が落ちるし、防具も綻びなどがないかを定期的に確認する。
魔法剣士の剣は、それ以上に剣の消費が激しいのだと知り、アンジュの言っている意味を理解した。
「まぁ、そもそも剣自体が高価で数が少ないから、魔法剣士になりたい冒険者がいないんですけどね」
ライオットは自身の職業についての見解を述べるが、その表情は少しだけ寂しそうに見えた。
「その子よりも強い俺が銀翼に入れば、姉御も安心できるのにスミマセンね」
その子とはリゼのことだ。
冗談のつもりで言った一言がアンジュの逆鱗に触れる。
「なにを言っているの? あんたなんかよりもリゼのほうが強いわよ」
「いやいや、そんなことないでしょう。姉御、それは笑えない冗談ですよ」
「本当のことよ。ほら、リゼも言ってやりなさいよ」
アンジュとライオットの喧嘩に巻き込まれるリゼだったが、その発端が自分なのは分かっていた。
しかし、アンジュも二年前の自分しか知らないのに、自信を持って「強い」と言ってくれたことが嬉しかった。
「姉御が、そこまで言うなら戦って証明しましょうよ」
「いいわよ! ね、リゼ」
「う、うん」
アンジュの勢いに負けて、思わず返事をしてしまう。
「冒険者ギルド会館は使えないから、王都から出て戦うってことでいいですよね」
「えぇ、いいわよ。私が見届けてあげるから、今から戦いましょう!」
売り言葉に買い言葉……とんとん拍子でリゼとライオットの模擬戦が決定した。
そこにリゼの意見はなく、流されての決定だった。
だが、戦ったことのない魔法剣士と戦える嬉しさがあることも事実だ。
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■リゼの能力値
『体力:四十八』
『魔力:三十三』
『力:三十三』
『防御:二十一』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百四十三』
『回避:五十六』
『魅力:三十一』
『運:五十八』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
・エルガレム王国国王の殺害阻止。期限:建国祭終了
・報酬:魅力(五増加)
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト
・インペリアルガードへエルガレム王国国王の殺害阻止協力。期限:建国祭終了
・報酬:魅力(二増加)




