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345話

――翌朝。

 アンジュの首には昨日、渡した首飾りが光っていた。

 いつもと変わらない表情で朝の挨拶をするアンジュを見て、リゼは心の中で安心する。

 ジェイドとフィーネは、すでに出かけていたので朝早くから建国際の準備で忙しいようだ。

 レティオールとシャルルとも一緒に朝食を食べたが、今日一日をどのように過ごすかを相談していた。

 銀翼のメンバー以外の食事は各々が用意することになっているので、二人は食事の購入も含めて王都を巡るようなことを話している。

 ライオットの姿も見えないがアンジュは気にしていない。

 同じ師から一緒に修行した仲間だと思うが、希薄な関係がリゼにとっては不思議だった。


 二人で金狼郭に向かう途中にアンジュが独り言を言う。


「この首飾りに……一流の冒険者だと認められたことに恥じないように頑張るわ」


 それはリゼに向けて話しているが、あくまでも独り言だとリゼの顔を見ずにいる。

 確実にアリスの思いはアンジュに伝わっていたと、リゼは嬉しく思う。


「私の……お姉様が師事している方はマーリンって言うのよ」


 本当に小さな声で、しかもリゼにしか聞こえないような声量だった。

 師匠マーリンと、アリスの語った偽名アーリン。

 リゼも「アンジュなら気付く」と言った意味が分かったと同時に、思ったよりも単純な偽名にアリスらしいとも感じていた。

 アンジュはアリスの背中を追いかけている。

 それはジェイドも同じで、ローガンの強さに追いつこうとしている。

 もちろんリゼも――。


 金狼郭に到着すると、昨日とは違う冒険者が門番として立っていた。

 リゼたちの姿を発見すると同時に、中にいるメンバーに連絡をしていた。

 昨日の教訓なのか、改めて教育が徹底されたのか、それとも昨日が特別劣ったメンバーたちだったのか不明だが、昨日のようなことは起きないことだけは確かなようだ。

 ナナオは現れると頭を下げて、足を運んだことに対する礼を言われる。

 クラン同士の話だからこそ、礼節を重んじているのだと、アンジュの隣でリゼは思っていた。

 そのままコウガのいる部屋へと通される。

 普段通りに話すコウガに対して、アンジュはそれなりに敬語を使い話す。

 目上の冒険者に対する敬意を示していた。


「金狼に得があると思えませんが?」

「得ならあるぞ。銀翼の新しいメンバーの実力が分かる。もし、落ちた奴がいるなら俺たちが拾うってことも出来るだろう?」

「それだけの理由ですか?」


 あきらかに本心ではないと思っているアンジュがコウガを追求する。


「ライバル視察ってとこよね」

「いいや、コウガの悪ふざけなだけだ」


 ナナオがコウガをフォローするが、マリックが台無しにする。


「まぁ、そんなところだ。深く考えるな」

「その言葉は本当ですか?」

「当たり前だろう?」


 コウガの言葉を聞くと、アンジュは腰のアイテムバッグに手を掛ける。

 一瞬だが、マリックとナナオの表情が変わる。

 だが、別の意味で二人の表情がさらに変わった。


「これは……真偽の水晶ですか?」

「はい」


 ナナオとマリックは一目でアンジュが取り出したものが”真偽の水晶”だと見抜く。

 二人が驚くのも無理はない。

 アンジュが取り出した真偽の水晶は、簡単に手に入るものではない。

 冒険者ギルドが市場に出回る前に、ほとんどを買い占めている。

 そもそも、真偽の水晶自体が、簡単に製作できるものではない。

 噂では製作できる職人は限られているそうで、それは一部の人間しか知らないと。

 その職人こそが、アリスとアンジュの師匠であるマーリンだということをリゼは知らない。


「なるほどね。あいかわらず、突拍子もない提案をするな。それでこそ、銀翼だ」


 なぜか、コウガは嬉しそうだった。

 自分の思いつかないことを言ってくる。

 思い通りにならないことでなく、自分の想像を超えてくることが楽しかった。

 そして、その代表的な人物……クウガを思い出していた。


(お前たちの後輩たちは、間違いなく銀翼の冒険者だよ)


 リゼとアンジュを、まったく似ていないクウガとアリスに重ねる。


「どうしましたか?」


 コウガの異変に気付いたアンジュは、真偽の水晶に手を触れるのを拒んでいるかように映っていた。


「いいや、なんでもねぇよ」


 アンジュの前に置かれた真偽の水晶まで移動すると、ためらうことなく手を触れる。


「さぁ、質問してみろ!」


 自信があるのか、アンジュを挑発しているようにも思えた。

 アンジュは淡々とコウガに向かって、いくつもの質問をするが、そのすべてが真実だという真偽の水晶が証明する。

 しかし、その次の質問で良くも悪くもコウガの性格が出ていた。


「個人的に別の目的がある」

「もちろん」


 隠すことなく答えるコウガに、アンジュを含めナナオも驚く。

 マリックのみ想定内だったようで、笑顔を浮かべていた。


「だよな」


 その視線はリゼに向けられる。

 コウガは、自分との戦いも同時に行う気でいるようだ。


「いいですよ。戦います」


 リゼの答えに驚く様子もなく、視線をアンジュに戻す。


「それが本心でしたか」


 薄々感じていた。

 リゼと戦いたいというのは本心なんだろうが、自分とジェイドはリゼとの戦いを見ていない。

 そして、フィーネたち三人に王都一のクランリーダーの実力を見せつける。

 同時に、初代銀翼たちと切磋琢磨していた金狼の実力を見せて、自分たちの実力を再認識させるつもりなのだろう。


「分かりました。正式に金狼のお三方に、立ち合いをお願いしたいと思います。どうか、よろしくお願いいたします」


 コウガたちはアンジュの申し出を承諾する。


「コウガとリゼが戦うなら、あなたたちの相手も私たちがしてあげてもいいわよ」


 暗殺者のコウガと忍のリゼ。

 癒闘家(ゆとうか)のマリックと武闘家のジェイド。

 斧術士のナナオと、上級魔術師のアンジュ。

 ナナオの提案で対戦が決まる。

 ナナオとアンジュのみ類似の職業ではない。

 だが、対魔術師戦に長けているナナオのことは耳にしていた。

 アンジュは良い経験になると思い、素直に受け入れた。

 マリックの職業が癒闘家だと知らなかったリゼは驚く。

 武闘家の上位職で、回復魔法が使える武闘家になる。

 レアな職業の一つで、光属性魔法の特性が大きく関係していると噂されている。

 王都でもマリックを含めて数人しかいない。


 とりあえずは建国祭に集中するようにと、ナナオはコウガに忠告する。

 浮かれすぎて、本来の仕事……指名クエストである”王都の警備”を怠るわけにいかないからだ。

 コウガの性格を熟知しているからこその忠告だと、リゼは聞いていた。

 その時、目の前にクエストが表示される。

 メインクエスト『エルガレム王国国王の殺害阻止。期限:建国祭終了まで』『報酬(魅力:五増加)』。

 シークレットクエスト『インペリアルガードへエルガレム王国国王の殺害阻止協力。期限:建国祭終了まで』『報酬(魅力:二増加)』。


(えっ!)


 すべてがエルガレム国王殺害に関係している。

 インペリアルガードとは? 聞きなれない言葉だ。

 しかし、時間がない……。

 ここで、インペリアルガードのことを聞くべきか……。

 いいや、金狼に聞くのは違うと感じていた。

 最初に相談するなら、アンジュとジェイドの二人だと――



――――――――――――――――――――



■リゼの能力値

 『体力:四十八』 

 『魔力:三十三』

 『力:三十三』 

 『防御:二十一』

 『魔法力:二十六』

 『魔力耐性:十三』

 『敏捷:百四十三』

 『回避:五十六』

 『魅力:三十一』

 『運:五十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・エルガレム王国国王の殺害阻止。期限:建国祭終了

 ・報酬:魅力(五増加)


■サブクエスト

 ・ミコトの捜索。期限:一年

 ・報酬:慧眼(けいがん)の強化


■シークレットクエスト

 ・インペリアルガードへエルガレム王国国王の殺害阻止協力。期限:建国祭終了

 ・報酬:魅力(二増加)

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