340話
「それよりも、リゼ。お嬢様って、どういうこと?」
レティオールとシャルルの話が終わると、一番聞きたかったことなのかアンジュがリゼを問い詰める。
「あっ、それはその――」
「話辛いのであれば、無理には聞かないわ。ちょっと興味があっただけだし」
「ううん、大丈夫だよ。別に隠しておきたいわけじゃないから」
そう言ってリゼは自分の生い立ちを話し始める。
母親が、領主だった父親との間に自分を身ごもったこと。
そして、妊娠したことを知った本妻である領主婦人……義母の命令で、屋敷を追い出されたこと。
捨てられた母親は、領地内の村で自分を出産したこと。
その母親も無理がたたり、自分が七歳の時に病死をしたこと。
母親の死後に再び父親に引き取られて、フィーネとともに過ごしたこと。
お嬢様とは名ばかりの奴隷のような生活だったと、フィーネも口を添える。
恥じることなく淡々と話すリゼに、フィーネ以外の誰もが暗い表情になる。
リゼが話し終えると、興味本位で聞く話ではなかった……と、リゼに対して申し訳ない気持ちで一杯だった。
「あれ? 人、増えてるじゃん」
閑散とした空気を壊すかのように突然、見たことのない人物が部屋に入ってきた。
「ライオット!」
「なにを怒っているんです? そんなに怒るとしわが増えますよ、姉御」
怒りを増幅させるように言葉を追加するライオットに、アンジュの怒りは爆発寸前だった。
「そんなにイライラせずに。そうだ、これ食べますか? 美味いですよ」
「ライオット!」
アンジュの怒りが爆発する。
さすがにマズいと感じたライオットは、急いで部屋を飛び出して、そのまま外へと逃亡する。
「ライオット……さんも、アンジュが連れてきた新しいメンバー候補?」
「違うわ。アイツは師匠が勉強がてらってことで、私と一緒に王都に来ただけ。建国祭が終わったら戻るのよ。本当は早く帰って欲しいんだけどね」
うんざりする様子のアンジュを見て、本当に嫌なのだろうと同情する。
「アンジュは姉御って呼ばれているんだ」
「アイツが勝手に呼んでいるだけよ」
アンジュがアリスを“御姉様”と呼んだように、ライオットはアンジュを“姉御”と呼んだ。
同じ師匠であるからこそなのだろうか? と思いながらも、その呼び方には敬う気持ちがあることをリゼは感じていた。
このことを口にしそうになったが、アリスの名を出すべきではないと言葉を飲み込む。
「話を戻すわね。三人の試験は建国祭後でもいいかしら? できれば冒険者ギルドの訓練場を借りて、そこで戦闘をしてもらいたいと考えているの」
「私は大丈夫です」
「僕も問題ありません」
「私もです」
建国祭に向けて冒険者ギルドも忙しいため、訓練場の貸し出しを中止している。
「それと私たちの強さも確認しておきたいわね」
「負けないっスよ」
アンジュの提案にジェイドも乗り気だった。
「三人の中では最弱で、二年前は手も足もでなかったけど、私も強くなったとこを見てもらいたい」
リゼの言葉にレティオールとシャルルは驚く。
自分たちよりも、かなり強いと思っているリゼが最弱だと言っているからだ。
それだけ銀翼のメンバーであるアンジュとジェイドが強いということになる。
「二人の宿は取れたの? 建国祭だから、どこも満室じゃなかった?」
「うん、満室だった」
「ここに泊まればいいわ。ライオットも、ここで寝泊まりしているから」
「私もお世話になっています」
フィーネが緊張しているレティオールとシャルルに優しく声を掛ける。
「ところでリゼ。職業は変えたの?」
先ほどの自己紹介では役職と名前だけだったので、銀翼三人の職業などは伝えていなかった。
「うん、忍に変更した」
「……忍?」
「うん、忍」
博識のアンジュでさえ、忍という職業は聞いたことがない。
相変わらず予想の斜め上をいく……変人だという認識は改める必要がないと思いながら、リゼの話を聞く。
「しかし、ドヴォルク国で名匠の武器まで入手とは……想像以上ね。そういえば、バビロニアはどうだったの?」
「どうって……バビロニアでレティオールとシャルルに出会っただけだよ?」
「違うわよ。聞きたいのは、そういうことじゃなくて、スタンピードが発生して大変だったと聞いたわよ。なんでも宵姫とかいう凄い冒険者がバビロニアを守ったって英雄扱いだったらしいじゃない」
「リゼが、その宵姫ですよ」
「えっ!」
シャルルが宵姫の正体がリゼだと言うと、事情を知らないアンジュたちが固まる。
「リゼがバビロニアの英雄なの⁈」
「英雄じゃ――」
「凄かったんですよ‼」
否定しようとするリゼの言葉を遮って、シャルルがリゼの英雄譚を熱く語り始めた。
それにレティオールも加勢するので、否定しようとするリゼが話を遮ることは出来ずに話は、どんどんと進む。
「なるほどね。これで戦うのが楽しみだわ」
「でも、アンジュだって幽霊少女や紅蓮御前とか、煉獄姫って噂されているんスよね」
「それ……誰に聞いたの? いや、言わなくていいわ。知っているのはアイツだけだから」
「うん、ライオットからっスよ。アンジュがお師匠さんの命令でドラゴン討伐の参加したって、得意気に話していたっス」
「口外していないわよね」
「もちろんス。ライオットから、ここだけの話って言われたので、外では話していないっスよ。どうせならリゼと宵姫と同じで煉獄姫にしたらどうっスか?」
「いや、だから正体がバレたくないのよ」
ジェイドの話で思い出した。
産業都市アンデュスで出現したドラゴンを正体不明の冒険者が火属性魔法で致命傷を与えた。
それが決定打となりドラゴンを討伐出来たという噂……それがアンジュ。
そして、その魔術師の傍で
やはり、アンジュは強いと痛感した。
「一応、報告だけど金狼や、それなりに大きなクランには活動再開する挨拶をしてきたから」
アンジュが銀翼館にいなかった理由が判明する。
とくに活動再開の挨拶などしなくてもいいが、あえて宣言することで自分たちを認識させる目的があったようだ。
「その時に、金狼のコウガからリゼに伝言を頼まれたわ」
「私に?」
「えぇ、金狼郭に必ず顔を出せってね。気に入られているわね」
「王都一のクランリーダーからの誘いだから断れないっスね」
「うん。あとで顔を出してくる」
浮かない表情のリゼ。
恐怖とかではなく、会話が思い浮かばないからだった。
必死でコウガとの共通の話題を考えるが、なにも浮かんでこない。
「アンジュはコウガさんを、コウガって呼ぶようにしたんスね」
「えぇ、クランリーダーなら年上だろうが媚び諂うなって言われたのよ」
「コウガさんらしいっスね」
それからはアンジュが“上級魔術師”に、ジェイドが“武闘家”になっていたことなどを話す。
本格的な話は三人のクラン加入試験後にすることで、今回の話を終えた。
「自分が二人を部屋まで案内するっスから、フィーネはリゼと話をするといいっス」
フィーネがリゼに会いたがっていたことを知っていたジェイドの気遣いに甘えて、フィーネと一緒にリゼの部屋へ向かう。
二年ぶりの部屋だが誇り臭くないので、定期的に換気などをしてくれていたのだとジェイドに感謝する。
だが、実際はフィーネが手伝いをしていたことをリゼは知らない。
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■リゼの能力値
『体力:四十八』
『魔力:三十三』
『力:三十三』
『防御:二十一』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百四十三』
『回避:五十六』
『魅力:三十一』
『運:五十八』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト




