337話
「王都エルドラードまで、あとどれくらいですか?」
「三日くらいじゃないですかね?」
リゼの質問に商人が応える。
マゴルチを出立して、エルドラードに向かって何日も経っていた。
その途中で、リゼたちは商人たちの護衛も兼ねて馬車に乗らせてもらう。
建国際に間に合うのか、不安だったのでリゼは承認に感謝していた。
護衛が必要な場所を通ることもないため、商人の善意だとリゼは気付いていたから、その優しさがありがたかった。
リゼはステータスを確認する。
マゴルチを出立してから、メインクエストやサブクエストを幾つか達成した。
万能能力値の振り分けに悩んでいた。
出来るだけ強くなった姿をアンジュとジェイドに見せたいと思っていたので、王都に到着する前に万能能力値を、他の能力値に振り分けようとしていた。
(やっぱり、敏捷かな……)
得意分野を伸ばすことに決定する。
「私、エルドラード行くの初めてなんだよね」
「僕もだよ」
荷台で初めて訪れるエルドラードに胸躍らせる二人。
その声を嬉しそうに聞きながらも、リゼは不安を感じていた。
自分が強くなったという実感がなかったからだ。
エルドラードを旅立つ前より間違いなく強くはなっている自信はある。
だが、ただでさえ実力差のあったアンジュやジェイドたちが、さらに強くなっていたら……後悔がないと言えば噓になるが、やれることはやったと自分を言い聞かせる。
それに……アリスから受け取った物をアンジュに渡すという大事なことも。
「浮かれるのもいいけど、ちゃんと周囲を警戒してね」
「分かっているよ」
シャルルは自分も浮かれていることに気付いていないのか、レティオールを注意する。
「しかし、この時期は本当に人が多いね。まぁ、私たちにとっては稼ぎ時なんだがね」
「そうですか。建国祭ですから仕方がないですよね」
「あんたたちも建国祭目的で、王都に行くんだろう?」
一瞬、回答に迷う。「戻る」という言葉が正解なのか? と考えてしまったからだ。
「私は元々、エルドラードで活動していたので戻るだけです」
「そうなのかい。なんでも天翔旅団のオルビスがSランクになって、天翔旅団を解散したそうじゃないか」
「えっ、そうなんですか?」
「私も人から聞いただけなので、良く知らないが前々からギルマスに後継者としての誘いがあったらしく、Sランクになったので、その誘いを受けたそうだ」
以前にバーナム曲芸団の団長であるバーナムから、その可能性は聞いていた。
リゼにとっては願ってはいなかったことになっていた。
商人は自身が知っている新しい情報をリゼに教えてくれた。
正式には天翔旅団を辞めると伝えた際に、後継者で揉めたことが原因らしい。
オルビスは自ら後継者を指名しなかった。
これからのことは残った冒険者で決めるのが当然だろうという考えだったからだ。
我こそがオルビスの後継者だと名乗りを上げる三人の冒険者がいた同士の派閥争い。
派閥争い以前に「オルビスのいない天翔旅団であれば、いる意味がない」と、早々に天翔旅団を去り、自分たちで新たなクランを立ち上げる者たちもいた。
後継者争いは日を追うごとに激化していく。
仲間同士での争いを見かねたオルビスが天翔旅団というクラン名で揉めるのであれば、それは本意ではないと解散を宣言する。
当然、反対するものもいたが“元天翔旅団”という肩書でも問題ないと感じている者たちは納得して、後継者として名乗りを上げた三人はそれぞれが新たなクランを立ち上げたそうだ。
天翔旅団としての蓄えは、オルビスが辞めると言った時点で所属していたメンバーへ均等に分配された。
オルビス同様にメンバーから信頼の厚い、サブリーダーの冒険者が対応したことで不満などはなかった。
サブリーダーはオルビスからの冒険者ギルドに移ってからもサポート依頼があったので、冒険者としてはオルビス同様に一線を引くそうだ。
問題は元天翔旅団の冒険者たちが立ちあげたクランだった。
クエストの奪い合いや、クラン同士の抗争が以前に比べて激化しているようで、オルビスも苦労しているだろうと、商人が話す。
「王都一のクランは金狼だろうな」
商人の言葉にリゼは納得したが、それは今だけだという思いと「銀翼の名誉を取り戻す!」という目標が揺らぐことはない。
「蒼月って名は聞いたことがあるかい?」
「はい、各地で犯罪を繰り返している集団って聞いています」
「そうなんだよ。私の仲間も何人か襲われたようだし、困ったもんだ」
悪評が広まることは犯罪集団にとって名誉なことなのか? と思いながら話を聞き続ける。
ただ、そのなかでも本当に蒼月の犯行なのか、蒼月だと名乗り金品を奪い取るような輩も大勢いるため、真相は分からないと、ため息交じりに教えてくれた。
「けど、私は国王様のお体のほうが気になっているんですよ」
「国王様は御病気なんですか?」
「公表されていないようだが、私たち商人の間では噂になっているよ。冒険者でも噂を聞いたことのある人は何人かいるだろうね。まぁ、戻ってみれば耳に入るかもしれないよ」
そんな噂は聞いたことがない。
表立って話す内容でもないし、それが本当でも嘘でも反逆罪に問われるかも知れないので、商人たち仲間内の場での話なのだろう。
国王が変われば、少なからず市場にも影響が出る。
不謹慎だが国葬などになれば、建国祭とは比較にならないくらい、多くの人が王都に集まってくる。
どれだけ情報を手に入れられるかで商売の内容が変わってくるからこそ、冒険者以上に普段から情報収集をして、儲けを取りこぼさない努力をしているに違いない……と、リゼは商人の話を聞いていた。
「年々、公の場に出る姿が減ってきているのは事実だしな。エルガレム王国では王子たちによる争いはないだろうが……私と年齢が近い国王様には元気でいて欲しいな」
少し寂しそうな商人の横顔にリゼは気付くが、気付かないふりをして商人の話を聞き続けていた。
商人は建国祭の間、エルドラードに滞在して別の都市に移動するそうだ。
産業都市アンデュスや、フォークオリア法国を巡ると話す。
とくにアンデュスはドラゴンが出現したことで、ドラゴンの素材が市場に出回るという噂があり、多くの者が一時的に治安が悪くなっているそうだ。
商人仲間たちからの情報だと、ドラゴン討伐から時間が経っているにも関わらず、いまだに素材は市場に出回っていない。
市場に出回らないようにアンデュスが国として手を回しているなどの噂が出ていたが、近々にアンデュスで年一回開催されるオークションに出品されると新たな噂で賑わっている。
出品物はドラゴンの爪や鱗が少数だと話す商人は噂の真相を確かめるためにアンデュスへ行くのだと。
フォークオリア法国は内乱の影響で情勢が不安定なので、自分の目で確認をしておきたいそうだ。
商売の基本は、自分に目で見て耳で聞くことだと。
それが出来ない商人は、本当の商人ではないと教えてくれる。
噂を信じずに、自分を信じるということだとリゼは解釈する。
自分を信じるというのは、商人にかかわらず冒険者にも通ずることだと、商人の話を聞き続けた――。
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■リゼの能力値
『体力:四十八』 (一増加)
『魔力:三十三』
『力:三十三』 (一増加)
『防御:二十一』(一増加)
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百四十三』(七増加)
『回避:五十六』
『魅力:三十一』
『運:五十八』
『万能能力値:零』(五減少)
■メインクエスト
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト




