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336話

 買い物している途中で突然、リゼが一点を見つめて足を止める。

 その視線の先をレティオールとシャルルも見る。

 何人かが店の前で並んでいるので繁盛店だと思いながら、特別珍しい光景でもなかった……が、すぐにリゼが凝視していた理由に表情が固まった。


「えっ、どういうこと?」


 そこは先程、ブック《魔法書》を購入した老婆が店主を務める道具屋のあった場所だ。

 店の前に飾ってあった花はなくなっている……それだけでなく、記憶に残っている古い店構えの面影はなく、明るく他の店と比べても遜色ない綺麗な外観に変わっていた。

 思わず三人が顔を見合わせる。


「……入ってみる?」


 シャルルが恐る恐るリセとレティオールに聞く。

 真相が分からないのは気持ちが悪いリゼは、すぐに頷く。

 一方のレティオールは二の足を踏んでいた。

 面倒なことに首を突っ込まなくても……という思いがあったからだ。

 だが目の前の女性二人が「行く」と言っているのに、男性の自分が怖気づくわけにはいかないと虚勢を張り、店への入店を選択して列の最後尾に並ぶ。


「どうも、お待たせいたしました」


 明るい声でリゼたちを迎える。


「三名様ですか?」

「はい」


 接客の女性は元気な声で、リゼたちを店内に誘導する。

 店内は明るく、道具屋の雰囲気はない。

 当たり前のことだが、飲食店ということは聞くまでもないことだった。

 不思議そうに店内を見るリゼたち三人の表情を見ていた店主に案内された席に座る。


「こちらがメニューになります。注文はあとの方がいいですかね?」

「あっ、はい……その変なことを聞きますが、こちらは旦那さんを亡くされた御婆さんが経営している道具屋ではないですよね?」


 シャルルは自分でも変なことを言っていると思いながらも、聞かずにはいられなかったの。


「あ~、たまに同じことを言われる冒険者の方がいるんです。祖母が道具屋をしていたのは十年以上も前になります。その後、私が店を改築して飲食店として営業しています」


 店主の言葉にシャルルの顔が青ざめていた。

 それはレティオールも同じだった。


「まぁ、私も良く分からないんですが、その祖母の道具屋では珍しい物が手に入るらしく、同じ場所で営業している私の店が関係しているという噂があるようですね。そのおかげで繁盛しているので、祖母のおかげですね」


 笑いながら話す店主だったが、リゼたちの表情は暗い。


「その……私たちと同じようなことを言う冒険者がいるとのことでしたが、頻繁に来店されるのですか?」

「そうですね。年に数組ほどですかね。皆さん、本当に不思議そうな顔をしていますよ」

「そうなんですか」

「祖母のことを話すのは、決まってお客さんたちのように若い冒険者たちですね。祖母のことなど絶対に知らないはずですが、どうしても嘘を言っていると思えません。だって、何の得にもならないじゃないですか。それに、悪戯好きの祖母でしたから、亡くなった今でも若い冒険者を揶揄っているかも知れないですね」


 あっけらかんと話す店主は、リゼたちの言葉を疑うことなどせず信じていた。

 それだけ何度も同じことを言われていたのだろう。

 店主も噂の真相は知らないが、店が繁盛しているという現実。

 それだけで満足なので、噂の真相を突き止めるような野暮なことはしないでした。


「では、ご注文が決まりましたらお呼びください」


 店主は軽く頭を下げて去っていく。


「魔法は習得しているよね?」

「う、うん」

「もしかして……」

「レティオール! それ以上は言わないで」


 シャルルも分かっているが、レティオールが言おうとした言葉が分かっているだけに聞きたくないのか必死で止める。

 ステータスを開いて、魔法を習得しているかをもう一度、確認する……が、魔法は間違いなく習得している。

 苦手な存在に怯えるシャルルと、体験したとはいえ、非現実的な現象を受け入れられないレティオール。

リゼは自分の闇属性が影響しているのかも……と、ありえない現象に納得できる理由を探していた。

 無言の時間が続く。

周囲の楽しそうな会話も気にする余裕もなく、注文を忘れていた。


「ご注文は決まりましたか?」


 見かねた店主が指示したのか、従業員の女性が注文を聞きにきた。

 我に返ったリゼたち三人は焦りながらも決めて注文をする。


「まぁ、貴重なブック(魔法書)を格安で手に入れられたことは間違いないんだし、あのお婆さんの悪戯だと思えばいいんじゃない」

「うん。私たちが強くなるために現れてくれたんだよ」


 いくら考えても答えは出ないことは分かっているので、リゼはレティオールの言葉に同意する。


「お待たせしました」


 注文した飲み物を持ってきてくれたのは従業員でなく店主だった。

 リゼたちの目の前に飲み物を置くと、リゼたちは飲み物の代金を支払う。


「ごゆっくり。それと、祖母の話をされるお客様にお見せしているの。あった人は、この人であっています?」


 人物画の紙をリゼたちに見せる。

 店であった老婆よりも若く感じるが、間違いなく自分たちが出会った老婆だった。


「そうですね。間違いないです」

「そうですか。私も会えるなら会いたいんですよね」


 レティオールの言葉に、少し寂しそうな表情を浮かべる。

 リゼも母親に会えるなら会いたい……もしもう一度、会えるのであれば、いろいろなことを話すだろう。

 冒険者になったことや、その冒険者として出会った人たちのことや、クエストのことなど――。

 所詮は叶わない願いだが、目の前の店主の場合は自分よりも再会できる可能性が高い。


「いつか、再会できるといいですね」


 気が付くと店主に話しかけていた。


「そうね。ありがとう」


 リゼの言葉に笑顔で返す店主は、そのまま席を離れた。

 目の前のシャルルは魂が抜けたかのように呆然としていた――。


「シャルル、大丈夫?」

「う、うん」


 リゼの問い掛けに答えるが元気のないシャルルは、気持ちを落ち着かせるために注文した飲み物を飲もうとして、グラスの冷たさに「温かいのにすればよかった……」と寒気を感じていた体に冷たい飲み物を流し込んだ。


「はぁ……」


 喉を二回ほど鳴らしてグラスを置くと同時に、小さく息を吐く。


「将来有望な私たちを店に呼んでくれたのかな」

「そうだね。もし、そうなら期待に応えないとね」

「僕もそう思うよ」


 不思議な体験だったが、それは悪いことでないかった。

 この世界では、説明ができないことが多く存在している。

 それが嘘か誠か……それは体験した人物しか知らない。 



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十七』

 『魔力:三十三』

 『力:三十二』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十六』

 『魔力耐性:十三』

 『敏捷:百三十六』

 『回避:五十六』

 『魅力:三十一』

 『運:五十八』

 『万能能力値:五』

 

■メインクエスト

 


■サブクエスト

 ・ミコトの捜索。期限:一年

 ・報酬:慧眼(けいがん)の強化


■シークレットクエスト



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