335話
目の前に『メインクエスト達成』が表示された。
続けて『報酬:体力(一増加)、力(一増加)、敏捷(一増加)、魅力(一増加)』
討伐した魔物の種類と数も表示される。
オウルベアが一番上に表示されていたことから、強い順に表示されているのだと、すぐに理解した。
ただ、戦闘した印象と表示された順序に疑問も感じていた。
それは戦闘方法に問題があったのだと思いながら見ていると、表示が消える。
改めてステータスを表示して確認するが、内容については「こんなものだろう」と納得する。
マゴルチから王都エルドラードまで定期的な運航はないので、商人に頼むしかない。
ただ、運の悪いことにエルドラードへ行く商人に同行しようとしたが、全て断られた。
すでに護衛として雇った冒険者もいることや、建国祭に向けて大量に仕入れた荷物を積んでいることもあり、リゼたちを荷台に乗せるスペースはなかった。
「王都に近い町なら、乗せて行って貰えるだろう」
商人が貴重な情報を教えてくれた。
他にも定期運航している近くの大きな町も教えてくれた。
この情報は事前に冒険者ギルドで聞こう情報と同じだ。
町を幾つか経由しながら王都に向かうので、ポーションなどの必要な物を補充する。
「あそこに寄っていい?」
古い店構えに気になったシャルル。
店頭には店彩るかのように植木鉢に花が植えられている。
看板の字も消えかかっているので、何屋かさえ不明だがシャルルには引かれるものがあったようだ。
「何が売っているの?」
「さぁ?」
時折見せるシャルルの天真爛漫さに振り回されるレティオールは、大きなため息をつく。
長い付き合いの二人だから、過去にも同じことが何度もあったのだろう。
「道具屋っぽいよ」
微かに残っている看板の文字を読み取ったリゼが二人に伝えると、シャルルが嬉しそうに先陣をきって店の扉を開けた。
店内は薄暗く、埃っぽい感じがして空気が淀んでいるようにも感じた。
扉についていた鈴が鳴っていたので、客の存在に気付いているはずだが、客を迎え入れるような言葉は無く、奥に座っていっる店員は自分たちに気付いていない。
「すみませ~ん」
入店したはいいが、営業しているのか分からないシャルルは奥の店員に向かって叫んだ。
すると、ビックリした表情でシャルルを見る。
「お客さん?」
「……はい」
店員の言葉に、「もしかしたら店ではなかったのかも……」と、リゼとレティオールは顔を見合わせた。
「もしかして、営業していませんでした?」
シャルルが店員に問い掛ける。
「いいや、営業はしているよ。毎日開店休業だから、お客さんなんて来ないから、驚いただけだよ。あっ、いらっしゃいませ」
店員は自虐なことを言って、笑いながら挨拶をする。
近寄ると店員の顔が良く分かるが、年老いた女性……老婆だった。
なんでも前店主だった夫が亡くなり、店を継いだそうだ。
夫とともに店に出ていたので、一通りのことは出来るみたいだ。
ただ、店といっても商売気はなく、新しく商品は購入しておらず在庫処分としているだけらしい。
「なにもないけど、適当に見ていってね。安くしておくから」
「有難う御座います」
シャルルは早々に物色を始めていた。
狭い店内を三人は別々の行動をする。
埃を被っている商品が、ほとんどなので店内の掃除もしていないのだろう。
値札も書かれているが、看板同様に消えかかっている物もある。
「気になった商品があったら、言っておくれよ。値札は参考の値段だからね」
在庫処分の閉店価格というのは嘘ではないようだ。
(これって、大丈夫なのかな?)
埃の被った回復薬に、魔力回復薬と毒消し薬を手に取り考える。
一応、回復薬……今、販売されているポーションも含めて、薬系には消費期限がある。
一般的に、店頭に並ぶ物は消費期限前に販売し終えるので、そこまで神経質になる必要はない。
購入してしまえば、アイテムバッグに仕舞えば問題無いし、常に商品を入れ替えている店であれば、購入後にアイテムバッグに入れなくても一年程度は問題無い。
だが、今自分が手に取った回復薬の消費期限はいつなのだろう……とリゼは考えていた。
リゼの疑問は、数分後に同じ場所でレティオールも感じることになる。
他の場所も見て回るが、これといって目の止まる商品はなかった。
店主の老婆が「奥にブックやスクロールもあるよ」と教えてくれる。
その声に反応するかのように、三人は合流してブックやスクロールの置いてある棚に移動する。
「これ……」
シャルルは言葉を失っていた。
隣のレティオールも埃を払いながら、ブックを確認している。
リゼも、何冊か並んでいるブックの中に青く光る一冊を発見する。
この青い光は慧眼の力だと直感で分かった……青い光、つまり自分にとって必要なブックだと思い手に取ろうとする。
「すみません!」
シャルルの声で、リゼの手が止まる。
気になる本があったのか、手には二冊のブックを持っていた。
「これはおいくらになりますか?」
「これね……値札を持って来てもらえる?」
「はい」
シャルルは老婆の前にブックを置くと、すぐにブックが置いてあった場所へ行き、値札を取り戻って来た。
「あぁ、この値段ね。二冊買ってくれるなら、一冊分の値段でいいよ」
「えっ、そうなんですか!」
「在庫処分だから、買ってくれるだけで嬉しいからね。お友達もあわせて、他のブックなども購入してくれるなら、もっと安くするよ」
老婆の言葉にシャルルは、リゼとレティオールを見る。
レティオールも気になったものがなかったのか困惑の表情を浮かべる。
リゼは先程のブックの場所に戻り、手に取ってブックを確認すると、そのブックは”ディテクト”だった。
(闇属性魔法?)
聞いたことのない魔法に戸惑うリゼは、魔法に詳しいシャルルに尋ねることにした。
「凄いよ、これ! 支援魔法の一種で、一定の範囲にいる敵や仲間の位置が分かる魔法よ。似たようなスキルで”ソナー”を習得することもあるし、より強力な”サーチ”という魔法もあるよ。これは貴重なブックだよ」
興奮するシャルルを目の前にしながら、リゼは「自分で使用できる魔法なのか?」と考えていた。
闇属性魔法でなく支援系魔法の一種だ。
魔法の意味を理解すると、先程まで光っていなかった場所にあるブックが強い光を放つ。
「シャルル、ちょっとゴメンね」
どうしても気になったリゼは、シャルルの奥にあるブックを手に取る。
そのブックは”マッピング”だった。
「リゼ、それも凄いよ。盗賊が習得する職業スキルと同じ効果がある魔法だね」
博識のシャルルが教えてくれる。
リゼは魔法を理解すると、自然と頭の中で”マッピング”が”地形記憶”という言葉が流れ込んできた。
(これって……)
魔法が忍術に変換されたのだと理解して、このブックこそが自分に必要な物だと判断する。
では、最初に光った”ディテクト”は……。
「そのディテクトだけど、リゼが買わないなら、私に譲ってもらってもいい?」
シャルルが申し訳なさそうに話すが、その表情を見て思う(シャルルが使うために光ったんだ)と。
「うん、いいよ。シャルルが使ったほうがいいよ」
「ありがとう、リゼ」
シャルルは嬉しそうに本を抱えた。
レティオールも”カウンターアタック”というブックを持っていた。
魔法を発動して、一定時間の間に自分が受けたダメージの倍の威力で攻撃出来る魔法らしい。
掘り出し物を見つけられて、レティオールも嬉しそうだった。
結局、リゼが”マッピング”、レティオールが”カウンターアタック”、シャルルが”ディテクト”と最初に見つけていた”リカバリ”と”トゥワイス”の二冊、全員で五冊のブックを購入するため、老婆に購入金額を聞く。
「あらま~、本当に、こんなにたくさん購入してくれるのかい、嬉しいね。この店を見つけてくれただけでも嬉しいのに」
老婆は嬉しそうだった。
リゼたちは購入金額が気になっていた。
「これくらいでどうだい」
老婆が提示した金額は、この五冊を一般的に購入した場合の四分の一程度だった。
「本当に、この金額でいいんですか⁉」
あまりの破格な金額に驚き、詰め寄るシャルル。
「あぁ、問題無いよ」
笑いながら答える老婆。
リゼたちは、それぞれが五等分して一冊の金額を算出した通貨を老婆に支払う。
「じゃあ、準備をしようかね」
ブックの契約作業を進めた。
無事に契約作業を終えると、シャルルが一番嬉しそうだった。
「しかし、よくこんな店に入ろうと思ったね」
「なんとなく、呼ばれている気がして」
シャルルが笑顔を老婆に向ける。
「そうかい。これもなにかのお導きかもしれないね」
老婆も笑顔を返す。
「どうも、ありがとうね」
「こちらこそ、ありがとうございます。店主さんもお元気で」
「……私の心配までしてくれるのかい」
店を出ようとするリゼたちの背中を見ながら老婆は呟いた。
「若き冒険者に幸あれ」
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■リゼの能力値
『体力:四十七』(一増加)
『魔力:三十三』
『力:三十二』(一増加)
『防御:二十』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百三十六』(一増加)
『回避:五十六』
『魅力:三十一』(一増加)
『運:五十八』
『万能能力値:五』
■メインクエスト
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト




