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332話

 周りは暗く、目の前の焚火が闇夜を照らしながら、パチパチと音を鳴らしている。

 遠くのほうでは魔物か動物の遠吠えが聞こえる。

 たまに耳に入ってくる虫の声が、心を落ち着かせてくれる。

 リゼたちは簡単な夕食をとっていた。

 山沿いを進むと決めて、二日目になる。

 それなりに強い魔物とも遭遇するが、危険だと判断するような魔物でもなく順調に進んでいた。

 知能が高く集団で活動する魔物と遭遇していないことも、順調な要因の一つだった。

 統率の取れた集団で襲われれば、簡単に逃げることは出来ない。

 もっとも、そのような魔物の集団がいれば、定期的に調査している冒険者ギルドが把握しているだろう。

 物好きしか来ないようなこんな場所まで正確に調査しているかは分からない……極稀に問題が発生するのは、こういった辺境の場所が多いことも知っている。

 レティオールたちがバンブーロから聞いた話だと、進めば進むほど強い魔物と遭遇するはずだ。

 実際に少しずつ魔物の強さは上がっているから、これからが本番なのかもしれないとリゼたちは会話をしていた。


「……ゼ、リゼ」

「あっ、ゴメン」


 シャルルに名前を呼ばれて、返事をする。


「なにか悩みごと?」

「ううん。大丈夫」


 シャルルに心配を掛けないようにと言葉を返す。

 自然とレティオールに視線を向けるシャルル。

 ウェルベ村……いいや、バンブーロの工房以降、リゼの気持ちが今のように、どこか違うところにあるようなことが何度もあった。

 リゼ本人が話してくれるまで、自分たちが聞いても答えてはくれないと分かっていたので見守ることしかない。

 昼間は魔物討伐に集中しているから、考える時間の多い夜に反動なのかも……とシャルルはリゼを見ていた。


 アリスから話を聞いた時は、その事実に驚く。

 辛そうに話す目の前のアリスを気遣うことに精一杯だった。

 だが、バンブーロの工房を離れて時間の経過とともに、冷静に考えることが多くなる。

 銀翼を裏切ったオプティミスとラスティア。

 考えれば考えるほど、時間が経てば経つほど、オプティミスとラスティアに対して怒りの感情が大きくなっている。

 だが一方で優しくしてもらった記憶もチラつく。

 それを振り払うように頭を左右に振る。


「どうかした?」

「あぁ、ちょっと虫がいたから」


 無意識の動作を必死で誤魔化す。


「僕が見張りをしているから、二人は先に休むといいよ」

「うん、ありがとう。二時間経ったら交代するね」

「じゃあ、私はその後ね」


 レティオールの提案に甘える形で、リゼは木にもたれて体を休める。

 いつものように目を瞑っても、すぐに眠ることは出来ない。

 目を瞑ると、先ほどの続きを考える。

 ラスティアが領主を務めるレトゥーンで会えなかったのは、裏切った事実があったから違いない。

 罪悪感があったかどうかは知らないが、銀翼を裏切ったことで得た領主という地位という事実が覆ることはない。

 では、オプティミスが裏切ったことで得たものは。

 洞窟より生還したという情報もない。

 世間的に生き残っているのは、ラスティア唯一人だからだ。

 意図的に自分のことを隠しているに違いない。

 そのほうがオプティミスにとって、都合が良いのだろう。

 つまり、主犯はオプティミスだと考えるほうが自然だ。

 そして、銀翼を狙った目的。

 考えられるのでは銀翼の壊滅だが――銀翼を目の敵にしているクラン……銀翼のメンバーを恨んでいる者、もしくはその両方……。

 妬み嫉み……考え始めれば、いくらでも理由など浮かんでくる。


(……あっ!)


 重要なことに気付き、瞑っていた目を開ける。


(もしも、銀翼というクランを壊滅することが目的だとしたら、それが自分たち二代目銀翼にも……)


 最初に考えた銀翼の壊滅。

 それはアルベルトたちの初代銀翼という意味ではなく、銀翼というクランだと考えると、自分たちにも見えない脅威が襲い掛かることも、十分な理由になる。

 今は主だった活動をしていないから、見過ごしてもらっているのか……それとも、既にアンジュやジェイドに、その脅威が迫っているのか。

 王都に残っているジェイドは心配ないが、アンジュは――。

 銀翼のクエストを失敗した結末の事実を知っているのは、初代銀翼メンバー以外では自分だけだ。


(大丈夫、大丈夫)


 一人で修行の旅に出ているアンジュの身を案じる。

 レティオールに気付かれないように呼吸を整えて、再び目を瞑った。


(あれ?)


 リゼは違和感に気付く。

 銀翼の壊滅が目的だとしたら、クウガを攻撃したところまでは理解出来る。

 では、どうしてラスティアはクウガに治療を施したのだろうか?

 それにオプティミスがクウガの記憶を奪ったと思われる魔道具を使ったこと……殺す事前提であれば、明らかに変だ。

 クウガのスキルが厄介なら治療はせずに、そのまま魔道具を使えばいい。

 どうして――。

 オプティミスの考えが分からない。

 それに銀翼館で聞いた限り、領主からの指名クエストということは、領主を動かせる存在がいることは間違いない。

 一介の冒険者であるオプティミスに、そのような権力があるとは考え辛い。

 ということは、オプティミスに協力している者がいると考えるほうが普通だ。

 それは自分たちも、その相手と対峙する可能性がある。

 見えない強大な敵に立ち向かえるかと思いながら、アルベルトたちの無念を晴らすためには避けては通れない道であることも分かっていた。


(強くなるしかない)


 分かっていたことだし、自分がすべきことに変わりはない。

 少し目を開けると、シャルルは焚火の火が飛んでこない離れたところで横になり、すでに寝ているようだった。

 レティオールとシャルルの二人には、アンジュとジェイドに認めてもらって銀翼に入って欲しい気持ちはある。

 自分も含めて未熟な三人の旅が何事もなく終えて、王都エルドラードに戻れることを願っていた。

 見張りをしているレティオールを見て、交代の時間もあるので体を休めなければ……と再び木に体を預けて目を瞑る。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十六』

 『魔力:三十三』

 『力:三十一』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十六』

 『魔力耐性:十三』

 『敏捷:百三十五』

 『回避:五十六』

 『魅力:三十』

 『運:五十八』

 『万能能力値:五』

 

■メインクエスト

 ・魔物の討伐(最低:五十、最大数:百)。期限:三十日

 ・報酬:討伐数、魔物の種類に応じて変動


■サブクエスト

 ・ミコトの捜索。期限:一年

 ・報酬:慧眼(けいがん)の強化


■シークレットクエスト


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