331話
「バンブーロさん。別れ際は機嫌悪かったね」
「うん」
リゼのいない間、普通に会話をしていたレティオールとシャルルは、最後に見たバンブーロの表情を思い出していた。
「多分、私のせいだと思う……ゴメンね」
自分と話をして戻った際に、アリスが虚ろな表情を浮かべていたことは分かっていた。
ここに来てからの三人の生活は知らないが、バンブーロはアリスやクウガを可愛がっていたことだけは分かっていた。
そのアリスを傷つけたと考えれば、自分の顔など見たくもないし、嫌悪感を抱かれるのも当たり前だ。
「アーリンさんとは顔見知りだったんですか?」
バンブーロの工房からの帰り道、元気のないリゼにシャルルが質問をする。
「うん……昔、お世話になった人。まさか、ここで再会するなんて思わなかったけど……」
嘘をつくことに後ろめたさがあったが、口外することはできない。
「ウェルべ村にいることを知らなかった……の?」
「……うん」
回答に一瞬戸惑ったリゼ。
レティオールとシャルルは、このウェルベ村に来た理由がアーリンに会うためだったのだと、なんとなく感じていただけに、リゼの言葉に少しだけだが疑念を抱く。
だが、一瞬の沈黙と目の前の表情から、リゼなりの考えがあるのだと推測したので、リゼの言葉に口を出さずにいた。
バンブーロから、アーリンとクルーガーの二人に関することは何も聞いていない。
世間話や、ウェルベ村の人たちのことを話していたからだ。
意図的にバンブーロが、アーリンとクルーガーの話をしないようにしていたのだと、レティオールとシャルルは気付いていたが、それには理由があるのだと、バンブーロとのと会話している時も深く追及するような真似はしなかった。
多分、それにはリゼが関係していると思っていたからだ。
「……二人に、お願いがあるんだけど」
「なに?」
「僕で出来ることなら言ってよ」
優しく答える二人。
「バンブーロさんの工房のことや、ウェルベ村に来たことは……出来れば忘れて欲しいの。出会った人たちのことも全て――」
真剣な表情で訴えかけるリゼを見て、シャルルとレティオールは顔を見合わせる。
リゼが頼みごとをするということは、それなりの理由があったという思いが確信に変わる。
「うん、いいけど……どうして?」
普通に回答したレティオールだったが、理由を聞いたのは失敗だった……意図せぬ言葉を発したことを後悔する。
「もしかしたら、面倒なことに巻き込んでしまうかもしれないから……」
二人を思っての発言だったが、シャルルとレティオールは各々が別の捉え方をする。
(まだ、信頼関係が築けていなかったのかな……仲間って、そういうことを気にしないものだと思っていたけど――)
(僕が頼りないから――もっと、強くなって心配してもらうようなことがないようにしないと……)
なんでも話し合える仲間だからこそ、変な気遣いは不要だと思っていたシャルルと、自分が弱いためリゼに頼られないと考えるレティオール。
二人の思いにリゼは気付いていない。
「分かったよ。ここでのことは忘れる。シャルルも、それでいいよね?」
「うん。忘れたよ、なんにも覚えていない」
自分を納得させるレティオールはシャルルに、リゼの頼みを承諾する同意を取ると、シャルルは陽気に頷き答えた。
リゼは二人に「ありがとう」と礼を言う。
二人のことを知っているのは自分だけ……あとは、アリスから預かった物をアンジュに、どのような形で渡すかだけだ。
「バンブーロさんに教えてもらったけど、この山沿いに進めば、徐々に強い魔物が出現するそうだよ。昔は多くの冒険者たちが腕を磨くために言言っていたらしいんだけど、僕たちも行ってみない?」
「うん。私も同じことを考えていた」
自分がアリスと話をしている間に、バンブーロから聞いた貴重な情報を教えてくれた。
もちろん、リゼは承諾する。
「でも、どうして今は冒険者たちが行かなくなったの?」
「この辺りの冒険者が減ったことや、クエストでもないのに、わざわざ遠出をする物好きがいないってバンブーロさんは言っていたよ」
「私たちは、物好きってことね」
「たしかに、そうだね」
自分たちの不安を払拭するかのようにおどけるシャルルとレティオール。
表情とは裏腹に、信頼できる関係を築くためや、自分の実力を認めてもらうためなどの考えがあった。
リゼも魔物討伐は多いに越したことはないので、願ったり叶ったりだ。
心配事も当然ある。
ポーションやマジックポーション、毒消し草などは、不測の事態も含めて多めに購入はしている。
だが、もしも手も足も出ないような魔物と出くわしたら……リゼの脳裏に、先程のアリスの話が浮かぶ。
万全の準備をしていた銀翼ですら――。
臆病になっていることに気付くが、それが悪いことではないと分かっている。
「もし、危険だと判断したら逃げるのも有りだよね」
リゼの心を見透かされたかのように、レティオールが心配を取り除くように話す。
「もちろん、その判断はリゼがしてね」
シャルルも、レティオールの言葉に続けてリゼに命運を任せた。
バンブーロの工房でのことで、リゼの考えは分からないが、それはリゼを信用していないということではない。
根底にある信頼関係さえも崩れてしまっては、一緒に旅を続けることはできない。
「じゃぁ、とりあえずは山沿いを伝って、エルガレム王国に入って、王都エルドラードに戻ることでいい?」
「うん、いいよ」
「私も」
王都エルドラードに戻るということを、レティオールとシャルルは改めて自覚する。
銀欲に入るために、最低でもリゼに認めてもらいたいレティオール。
シャルルは、リゼに見捨てられることを心の奥で怯えていた……もし、銀翼に入れず……正確にはレティオールが入れて、自分だけ入れなかった時――。
現実から目を背けるように、その後のことを考えないでした。
だが、徐々にその審判の日は近付いている。
知らず知らずのうちにレティオールは重圧を感じ、シャルルは怯える日々をすごすことになる。
三人は決断した山沿い進み、エルガレム王国の王都エルドラードに戻るため、足を進めた。
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■リゼの能力値
『体力:四十六』
『魔力:三十三』
『力:三十一』
『防御:二十』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百三十五』
『回避:五十六』
『魅力:三十』
『運:五十八』
『万能能力値:五』
■メインクエスト
・魔物の討伐(最低:五十、最大数:百)。期限:三十日
・報酬:討伐数、魔物の種類に応じて変動
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト




