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327話

 山の麓にある小屋の煙突から煙が出ているので、迷うことなくバンブーロの家に到着できた。

 ヴェルべ村の人たちが言っていたように、魔物との遭遇がほとんどない。

 たまに小さな魔物……野生の動物と変わらないものに遭遇するのは、弱すぎて高名な魔術師の結界が聞いていないのだろうと、シャルルが教えてくれた。

 何匹か討伐したが、リゼのなかでは不完全燃焼だった。

 心のどこかで「弱すぎる」と感じていたからだ。

 クエストのこともあるが、強くなるためには自分と同等、もしくはそれ以上の格上の魔物相手でないと意味がない。

 あくまでも強くなることが目的だからだ。

 それはレティオールも同じだった。


「ごめんください」


 リゼが扉を叩いて、家の主人バンブーロを呼ぶ……が、家の中から言葉は返ってこない。


「もしかしたら、あっちの工房かもね?」


 レティオールが煙の出ている隣の建物を見る。

 たしかにレティオールの言う通りかも知れないと思い、三人で煙の出ている場所へと移動する。


「ん?」


 移動していると、スキンヘッドの大男と遭遇する。

 一流の冒険者だと言われても疑う余地のない筋肉。


「誰だ?」


 長い顎鬚を触りながら、怪訝な面持ちでリゼたちを見る。


「バンブーロさんですか?」

「そうだが?」

「ウェルベ村の人たちから、お届け物です」


 リゼは届け物をアイテムバッグからチーズを取り出して、バンブーロに見せる。


「あぁ、そういうことか。疑って悪かったな……で、見た目から新しく来たって感じじゃないな。村に立ち寄った冒険者か?」

「はい、そうです」

「そうか。わざわざ、ありがとうな」


 バンブーロがチーズを受け取り、リゼたちに礼を言う。


「茶でも出すから飲んでいってくれ」


 歯を見せて笑うバンブーロから、先程までの強面のイメージはなかった。

 先ほどの家に戻り、座るように促される。


「おーい」


 バンブーロは奥に向かって叫んだ。


「はーい」


 その声に返事がある。


(えっ!)


 リゼは思わず立ち上がると、レティオールとシャルルが不思議そうにリゼを見た。

 心の中で、「そんなはずはない」と思いながらも、聞き覚えのある声に鼓動が早くなる。


「アーリン、お客だ。茶を頼む」

「はい」


 アーリンと呼ばれた女性が部屋に入って来た。


「アリスさん‼」


 リゼは叫ぶ。


「リゼ……ちゃん」


 自分の名前を呼んだ。

 間違いない。

 死んだと思っていたアリスが目の前にいる。

 その事実を受け入れたリゼの頬に涙が伝う。

 溢れ出る感情を制御できないかのように目の前のアリスを見続ける。

 リゼの様子から、なにかを感じ取ったバンブーロ。

 名前は”アーリン”と”アリス”で異なるが、事情を知っているバンブーロは気にすることなくリゼに話し掛ける。


「知り合いか。なら、アーリンを手伝ってくれるか?」


 気を使って、リゼに手伝うよう促す。

 呆然とした状態のリゼだったが、自然と足はアリスのほうに向いていた。


(過去を知っているってことは……)


 バンブーロは奥の部屋へ行った二人の姿を黙って見ていた。



 リゼは言葉が見つからず、アリスに声を掛けられなかった。

 一方のアリスも同じように言葉が見つからず、二人の間に無言の時間が続く。


「今はアーリンと名乗っているんですね」

「……えぇ」


 思い切って話し掛けたリゼに、戸惑いながらも言葉少な気に返事をする。


「アンジュが銀翼のリーダーを引き継ぎました。ジェイドがサブリーダーです。私も銀翼に入れてもらいました」


 淡々ともてなしの準備をするアリスに現状の銀翼のことを報告すると、アリスの手が止まる。


「その……何があったのかを教えてくれませんか」


 どうしても聞かなければならない。

 聞かなければ後悔すると思い、アリスのことを考えながらも勇気を出して聞いた。

 だが、アリスから言葉が返ってくることはなく、用意をしているアリスの後姿を見ているだけだった。

 あのクエストで、なにがあったのか?

 アルベルトたち他の銀翼のメンバーも生きているのか?

 聞きたいことが山ほどあった……が、今のアリスに聞いても応えてくれる確証はない。いいや、答えてくれないだろう。

 それにラスティアに会おうとしたことも言い出せない……いいや、心のどこかで言うべきではないと考えていたのかも知れない。

 そう、アリスの気持ちを考えれば……リゼは思いとは裏腹に言葉が続かなかった。



「どうぞ」


 結局、会話は出来ずにバンブーロの所に戻る。

 アリスは淡々と感情を殺したかのように、三人の前に用意した茶を置く。


「では、ごゆっくり」

「お前も座れ」

「でも……」


 立ち去ろうとするアリスをバンブーロが引き止める。


「リゼというそうだな。この二人から聞いたよ。バビロニアを救った英雄らしいな」


 横目でアリスを見ながらリゼに話し掛けるが、アリスが表情を変えることはない。


「そんなことないです」


 謙遜するように答えるリゼだったが、アリスのことで頭がいっぱいだった。


「……ろくに話をしていないのか? 何があったのか知らんが、きちんと話をしてこい」


 アリスの態度から何か感じ取ったのか、リゼと会話するように提言する。


「……はい。リゼちゃん、外でもいいかしら?」

「はい」


 アリスはバンブーロの言葉に従い、リゼを外に連れ出そうとする。


「悪いがお前さん方は、俺の話し相手にでもなってくれ」


 レティオールとシャルルに詫びるバンブーロにたいして、二人とも笑顔で答える。

 二人とも事情は知らないが、リゼの様子からも自分たちが聞くべきではないと考えていた。

 今まで見たことがないくらいに動揺しているリゼのことも心配しながら、バンブーロの相手をする。


「師匠……って、来客中でしたか」


 入り口から男性が入って来た男性の姿を見てリゼは固まる。


「クルーガー。お前は工房に戻って仕事していろ!」

「はいはい、お邪魔しました」


 男性は踵を返して、扉から出て行った。


(クウガさん‼ 見間違えるはずがない…でも、私に気付いていない!)


 動揺するリゼをアリスは苦悶の表情で見ていた。

 工房と反対側にテーブルと椅子が用意されていた。

 天気の良い日は、ここで談笑するために作られた物だろうが、今のリゼは楽しく会話ができる心境ではなかった。

 でも、話してくれるとを信じてリゼは椅子に座る。

 対面に座ったアリスは視線を伏せ黙ったままだった。

 言葉を選んでいるのか、話すこと自体を戸惑っているのか……リゼは待つしかなかった。


「――私たちはアルベルトたちに助けられたの」

「どういうことですか?」


 アリスは重い口を開き話し始めた。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十六』

 『魔力:三十三』

 『力:三十一』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十六』

 『魔力耐性:十三』

 『敏捷:百三十五』

 『回避:五十六』

 『魅力:三十』

 『運:五十八』

 『万能能力値:五』(五増加) 

 

■メインクエスト

 ・魔物の討伐(最低:五十、最大数:百)。期限:三十日

 ・報酬:討伐数、魔物の種類に応じて変動


■サブクエスト

 ・ミコトの捜索。期限:一年

 ・報酬:慧眼(けいがん)の強化


■シークレットクエスト

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