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325話

 四葉騎士団が、闘技大会の優勝者を襲い景品を強奪した!

 世間で、そんな噂が広まっていた。

 通りかかった商人たちの話でアルブレストから騎士団と傭兵が調査に送り込まれる。

 すると、別々の場所で四葉騎士団の死体があったことと、闘技大会の後衛職(攻撃職)の優勝者であるレイセンの死体が見つかる。

 そして、体の傷跡や、刺青などを照合した結果、レイセンという名は偽名で、本当の名前は逃亡中の殺人犯”バンテロ”だった。

 最初の殺人はエルガレム王国で起きたが、国を跨いで逃亡していた。

 逃亡先でも強盗や殺人を重ねて逃げ続けていたが、数年前から消息を絶っていたため、どこかの町で身分を偽り、暮らしているのではないかと噂され、警戒をしていた人物でもある。

 死体を腐敗しないように氷属性魔法で保管しようとすると調査を任されていた騎士が思い出したかのように話す。


「いや、待て。こいつは魔法を無効化すると資料にあったはずだ」

「すでに死亡しています。スキルであれ、習得した魔法であれば大丈夫かと思いますが、試してみますか」

「……そうだな」


 騎士の考えは杞憂に終わる。


「とりあえず、冒険者ギルドへ引き渡す」


 冒険者ギルドに移送後、最初の殺人を犯したエルガレム王国への身柄引き渡しの手続きをする。

 エルガレム王国からの使者が到着するまでの間、当時を知る者を集めて確認作業をするが、各々が年齢を重ねていないかのような容姿に戸惑いを隠せなかった。

 アルドゥルフロスト連邦内でもバンテロは幾つかの殺人を犯している。

 なによりも闘技大会の優勝者が逃亡中の殺人犯だと分かれば、闘技大会に傷を付けることとなる。

 国民には知らせず、レイセンとバンテロは別の人物だと、皇太子からのお達しだった。


 闘技大会優勝者襲撃事件から数日後、付近の町で血だらけで歩いているベニバナの姿があった。

 魔法で町を崩壊し続けていたが、大勢の衛兵で取り囲むと爆破の煙幕を利用して姿を消す。

 町の別の場所ではシャジクが領主の屋敷を襲う事件もあり、ベニバナは囮で本命は領主の命だったと結論付ける。


 当然、アルカントラ法国は事実無根だと声明を出すが、この時を境に四葉の騎士シャジクとベニバナが、各地で暴れる目撃談が増えていく。


「一体どういうことだ‼」


 アルカントラ法王が怒りの表情で集められた者たちに叫ぶ。

 特に二人となった四葉の騎士“オキザリス”と“ムチカ”への当たりは厳しい。

 アーティファクトのブック(魔法書)と聖剣クラウ・ソラスを手に入れられる絶好の機会だったからこそ、四葉の騎士二人を闘技大会に出場させた。

 後衛職(回復職)にも配下の者を数人出場させたが、あまり期待は出来なかった。

優勝できなければシャジクとベニバナで奪えばいいと考えていたからだ。


(……謀反か? いいや、ベニバナは性格に問題があったが、シャジクと同じように信仰心は強い……裏切るとは考えにくい。それよりも神具の”十字剣”と”女神の杖”を回収しなければ――)


 アルカントラ法王は頭を抱える。


「ムチカ‼ 四葉の騎士を名乗る不届き者に神の鉄槌をくらわせ、同時に二人に与えていた神具を回収せよ‼」


 シャジクとベニバナを名乗る偽物が、アルカントラ法国を失墜させようとしているに違いない。

 そんな輩を許すなという思いが、アルカントラ法王に芽生えていた。

 ムチカはアルカントラ法王の命により、すぐさま部隊を率いてシャジクとベニバナの名を語る者の追跡を開始する。

 これでアルカントラ法国にはオキザリスしか残っていない。

 だが、他の四葉の騎士とは実力が違う。

 四葉の騎士が、アルカントラ法国最強と言われているのはオキザリスの存在が大きい。

 名こそ有名だが国民には、ほとんど知られていない。

 国民の目に触れるようなことは、愛嬌の良いシャジクが対応しているからだ。

 そのシャジクが他国で暴れているということは、国民にも動揺を与えている。

 不安を取り除くことが自分の役目だと分かっているアルカントラ法王は連日、その対応に追われることとなる。


 そして、アルカントラ法王の頭を悩ませる問題がまた一つ飛び込んでくる。

 闘技大会の後衛職(回復職)の優勝者が、聖女候補だったケアリーラだと――。


(ケアリーラが生きているはずがない。死体こそあがらなかったが……あの高さから落ちて生きているはずがない)


 聖女候補のケアリーラは、女神ユキノへの信仰についてアルカントラ法王との間で相違があり、何度もぶつかっていた。

 ケアリーラは信仰する神に関係なく、全ての人を救うべきだと考える。

 その一方でアルカントラ法王は、女神ユキノを信仰しない者には施しを与えるべきではないという考えだった。

 二人の考えは平行線を辿る。

 一介の聖女候補が法王である自分に意見すること自体、不快に感じていた。

 だがケアリーラを聖女にしないということは、誰も納得しない。

 もし、ケアリーラが自分の信仰が正しいと考え、自分たちと袂を分けることもある。

 ケアリーラの能力が他国に渡ることがあれば、それは脅威でしかない。

 考え抜いた末の結論は、不慮の事故でケアリーラを亡き者にすることだった。

 信用出来る配下に「ケアリーラが女神ユキノを裏切り、他国への亡命を考えている」と嘘の情報を与え、視察という名目で配下が馬車ごと崖から落とす。

 当然、配下の者も死ぬが信仰心が高ければ、命を落とすことさえ厭わない。

 ケアリーラの訃報に国民たちは嘆き悲しんでいた。

 それがアルカントラ法王の策略だとも知らずに――。

 しかし、そのアルカントラ法王でさえアランチュートに利用されていたことを知らない。

 回復職の体を欲していたアランチュートが、アルカントラ法国に潜入してケアリーラに目星をつけていた。

 ケアリーラ暗殺に忍び込むと計画通り、ケアリーラの体を手に入れることに成功する。

 死体が見つからないことで、アルカントラ法王はケアリーラの影に怯えていた。

 時間とともに忘れようとしていた記憶が呼び覚まされる。


(本当にケアリーラなのか? 生きているなら、どうして戻って来ない……まさか、私への復讐を考えているのか‼)


 再び、ケアリーラの影に怯える日々を過ごすことになる。

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